半ば信じがたいことであるが、結成25周年イヤーの今、ART-SCHOOLは完全に無双状態、バンドとしてひとつのピークを迎えている。木下理樹(ヴォーカル&ギター)の復帰作となった2022年の「Just Kids .ep」以降、作品もライヴも目に見えて精度が上がっていったのは、偶然ではなく意識改革の賜物。さらにフロアの空気がアッパーになり、若者を中心に動員まで増え続けているのは、8月に出たトリビュートアルバム『Dreams Never End』のおかげかもしれない。オルタナティヴやギターロック、もしくは鬱ロックなんて言葉で呼ばれてきたバンドへの愛の結晶が生まれたことで、何かがひとつ弾けたのだ。なお、本作品から派生したトリビュートライヴの第一弾では、PEDRO、さらにはギタリスト戸高賢史が参加するMONOEYESが登場。ステージで見た戸高の笑顔は、長らく木下を支える健気な伴侶のそれではなかった。かくして今回は、木下理樹と戸高賢史、それぞれ個人ミュージシャンとしての対談を企画。ともに内向的だった2人のバンドマンが、今これだけフレッシュに、前向きに輝いている理由がここに。
(これは音楽と人2025年12月号に掲載された記事です)
先月のトリビュートライヴ第一弾、アートとMONOEYESの初対バンでした。感想からお願いします。
戸高賢史「なんだろう。まさか対バンすることになるとはって感じでしたね。正直交わることがない、違う畑くらいの感覚でやってたから。でも面白かったですよ」
木下理樹「俺も観てましたけど〈これって……俺らの主催ライヴだよな?〉と思ってた。それくらいの盛り上がり。あの一体感はすごいよね。あれで憲太郎さん(中尾憲太郎/ベース)、スイッチ入ったって言ってましたけど」
戸高「ふふふ。MONOEYESは毎回、ほんと全員巻き込んで、みたいな空気感になるので。でも俺も、そういう意味ではアートの時にまた別のスイッチ入れて、MONOEYESより絶対カッコいいライヴをやろうって気持ちでしたけどね」
こういう企画ができたのは夏に出たトリビュートアルバムのおかげで。もう本当に素晴らしかった。こんなにもいい曲だったのか!って全15曲で思いました。
木下&戸高「はははははは」
……あ、これ本人たちには褒め言葉じゃないかもですね。
木下「いや大丈夫ですよ。僕もそう思ったね(笑)」
戸高「大丈夫です。みんなそう思ってる。メンバーも(笑)」
ふふふ。MONOEYESで「BOY MEETS GIRL」をやるって決めたのは?
戸高「これは僕ですね。ART-SCHOOLの曲をパンクっぽく、最初はツービートでメロコアっぽくやろうかなと思ったんですけど。結局は、爽快でメロディがよくて、あと唄ってもらう細美(武士)さんが映えそうなものってところで。それで〈BOY MEETS GIRL〉を選んだんですね」
木下「キラキラしたカヴァーだった。僕は80年代のキラキラした感じを思い出したかな。でっかいアリーナの感じ。この曲ってそういうのも合うんだなって思った」
ダイナミックさが違いますよね。2つバンドを続けることで、トディは人格もちょっと変わったような。
戸高「それはあるかもしれない。もともと引っ込み思案だし、あんまり俺が俺がって言えるタイプでもないし。でもMONOEYESをやってると、どうしても自分の判断力、決断力にスピーディーさが求められるし。〈今言わなきゃいけない〉っていう時に言葉が出てこないことがあって。肝心なところで周りの空気を読んで、何も言えないでいる、この感じよくないなと思ったりして。あとMONOEYESって、モンスターみたいな人の横でやってるバンドだから、殻に閉じこもったままだと自分が受け入れてもらえる気がしなかった」

木下「あぁ……うん、アートでもよく話すようにはなったよね、MONOEYESやり始めてから」
戸高「うん、昔はもっと絡まっちゃってた感じだった。だから、一回リッキーがちょっとリタイアして、アートが再び構築していくタイミングでも僕はMONOEYESでガンガンやってたし。たぶんそっちでインプットしたエネルギーをなんとかポジティヴにアートスクールに活かしたいというか、〈俺が立て直すんだ!〉ぐらいの気持ちがあって。そこから自分がイニシアチヴを取っていった部分はありますね」
木下「頼もしいこと。それは全然悪いことじゃなくて」
戸高「アートに何が足りなくて、何が必要なのか、けっこうMONOEYESの活動の中で見えた部分もあって。ちょっとキツいこと言ったりもするから、ほんとリッキーは頑張ってくれたなと思いますね。俺が回転させようとするんですよ。『こんなんじゃダメだよ。このままじゃよくない』ってことを全員に言うし、『向こうではそんなやり方はせんぞ』ぐらいのことも言うんです。そんなん知ったこっちゃねぇよ、っていう気持ちもたぶんみんなあると思うけど、あまりに俺が言うもんだから根負けしてくれたところもあるだろうし」
実際どうです? 正直「うるせぇな」とか思ったり?
木下「………うるせぇな、は別にないけど(笑)。かかってんなぁ、っていう時はあるよね」
戸高「ふふふふっ」
木下「トディめっちゃかかってんじゃん、みたいな。今、トディと憲太郎さんは特にバチバチやってる」
戸高「うん、当たり前のようにモメますね。それぞれ長いことやってるから〈アートで新しいこととか、もう別にいいんじゃね?〉みたいなムードもあるんですよ。ただ、そういう時はリッキーが意外と芯の強いひと言を言ってくれたりする」
木下「いやっ…………え? どんなこと言ったっけ?」
戸高「わりといつもこのテンションなんで(笑)。俺と憲太郎さんがヒートアップしてる時も、この感じでボソッと『いや……こっちのほうがいいと思うよ』みたいに言われると、2人とも『……あ、そうね』みたいに我に返る(笑)」
今の話、けっこう意外です。これまでずっとアートスクール=木下理樹だった。これは揺るぎない事実だし、変わりたくても変われない人間性も含めてバンドの魅力があった。その一番の理解者がトディでもあって。
戸高「うん」
だからメンバー同士が今から変わろうとしてバチバチやってるだなんて、ちょっと想像したことがなかった。
戸高「あぁ。過去より劣ったものになりたくないし、廃れていきたくないので。そういう意味でのやり取りが今は多いかな」
リッキーも同じ気持ちですか。
木下「うーん………あんまり俺はわかんないけど」
戸高「もう俺は『リッキーは別にわかんないでもいいから!』くらいの感じ(笑)。自分のことって実は本人が一番気づきづらかったりするから。こっちがコントロールするわ、くらいの気持ちでやってます」
