【LIVE REPORT】
kurayamisaka tte, doko? #6 〈くらやみざかより愛を込めてツアー〉
2025.11.09 at CLUB CITTA'
本編15曲、全部で75分。映画に置き換えてもずいぶん短いほうだが、そもそもファーストフルアルバムを出したばかりのバンドだ。1300人を収容する川崎クラブチッタがソールドアウトする事実に驚くべきだろう。ただ、本人たちはプレッシャーに潰されるでもなく、これが当然と驕るでもなく、ただ「私たちを見つけてくれてどうもありがとう」と何度も謝辞を述べていた。だから、もっとも感嘆すべきは、邪念もエゴも希薄な現在のピュアネスなのかもしれない。


ファーストアルバム『kurayamisaka yori ai wo komete』にあるのは、作詞作曲を手がける清水 正太郎(ギター)がイメージした、市井の人生の群像集だ。〈夏の終わり〉とか〈喪失の予感〉といった、誰もがそこから自分の話を始められそうな汎用性は特筆すべきだろう。また唄うのは清水本人ではなく内藤さち(ヴォーカル&ギター)で、感情を込めすぎない唱法、確実に胸をキュンとさせる甘酸っぱい声質は、もうズルいというか何というか、嫌いになれるわけがない求心力を誇っている。入り口はどこまでも広い。ポップスとしての透明感で言うなら、かつての原田知世、今なら上白石萌音に近いかもしれない。


かくして、誰でもホイホイみたいな間口を用意したkurayamisakaは、そのうえでライヴとなると、ギターロック/オルタナティヴ・バンドへの愛を大爆発させるのだ。もっともわかりやすいのはbloodthirsty butchersへの憧憬(清水はこのバンドTシャツをステージ正装としている)。とにかくばかでかいフィードバックノイズ。そこまでやるかというトリプルギターの轟音。〈俺のギターを聴け!〉というエゴも少しあるかもしれない。ただ、間奏ソロのたびにギターを頭上に掲げ、これ見てこれ見て!とアピールする清水とフクダリュウジ(ギター)は、とどのつまり「ギターって、バンドってカッコよくない?」と言っているようにしか見えない。俺、ではなく、憧れてきたロックバンドが主語。だからこそ無邪気。思わず頬が緩んでしまうシーンがこの日も多々あった。

バックドロップもない質素なステージ。SEもなく登場した5人は、フロアに深く一礼した後、堀田庸輔(ドラム)の元に集まって拳を突き合わせ「オイッ!」と声を出す。部活動の儀式みたいなものだろう。自分の足元を見るだけの内向性はなく、3曲目「sunday driver」ではフクダと阿左美倫平(ベース)がジャンプしながら左足を蹴り上げるポーズを楽しそうに決めている。モロにニルヴァーナ風コードで進む後半の「sekisei inko」になると、フクダと阿左美がそろってヘッドバンキング、いっぽう清水と内藤はそろってぴょこぴょこ飛び跳ねており、ポカリスエットが似合いそうな青春チーム感には思わず「交ぜて!」と言いたくなってしまった。キュートにそろっているのだから突発的な動きではない。憧れたこのポーズやってみたかった。やってみたらやっぱり楽しかった! そんな感覚だと思う。アマチュアっぽいと言えばその通りだし、しかし楽曲クオリティはすでにトップクラスに突き抜けている。今後動員はさらに伸びるだろうし、となると何を見せるのか、何を語るべきか、プロとしての自覚は否応なく芽生えていく。今だけ、今だからこそのピュアネスが、ステージでまばゆいほど弾けていた。そして、その理由が、後半の清水のMCで語られていたのだ。



「街に出たら、まだkurayamisakaなんてひとりも知らないバンドです。クラスにひとり、職場にひとり、くらいだと思う。そういう人たちが今日ここに集まってくれたことを、本当に大切に思っています」
そうだった。普段からロックバンドとばかり接していると忘れそうになるが、基本、世の中で広く聴かれているのはこんな轟音ではないし、そもそも歪んだギターの音ですらないのだった。そういう常識人としての感覚で、オルタナ奥の細道みたいなバンドの軌跡を照らしていく。名前こそkurayamisaka=暗闇坂だが、このバンドはギターヒーローが埋もれている今の時代だから現れた、あまりにもまっすぐな光源となるのかもしれない。

基本はアルバム『kurayamisaka yori ai wo komete』に忠実なセットリスト。すべて曲順通りに進み、途中過去EP曲を3曲挟むだけ。アンコールで特別にASIAN KUNG-FU GENERATIONの「十二進法の夕景」カヴァーが披露されたことも、ルーツをまったく隠さない素直さが表れていて好ましかった。同時に発表されたのは来年のツアー第2弾共演者たちで、NOT WONK、toddle、ART-SCHOOL、The Novembers、長瀬有花……というメンツには首がもげるほど頷くばかり。憧れとの距離をぐいぐいと縮めていく現在のkurayamisaka。快進撃はまだ始まったばかりである。
文=石井恵梨子
写真=タカギタツヒト

【SETLIST】
- kurayamisaka yori ai wo komete
- metro
- sunday driver
- modify Youth
- curtain call
- seasons
- nameless
- evergreen
- farewell
- sekisei inko
- weather lore
- ハイウェイ
- theme (kurayamisaka yori ai wo komete)
- jitensha
- あなたが生まれた日に
ENCORE
- 十二進法の夕景(ASIAN KUNG-FU GENERATIONカヴァー)
- theme (kimi wo omotte iru)
- cinema paradiso
kurayamisaka tte, doko? #7
〈くらやみざかより愛を込めてツアー2〉
2026.5.9(sat) sapporo chikamatsu w/NOT WONK
2026.5.30(sat) fukuoka LIVE HOUSE CB w/toddle
2026.6.13(sat) nagoya JAMMIN’ w/ART-SCHOOL
2026.6.14(sun) osaka Yogibo META VALLEY w/The Novembers
2026.6.25(thu) tokyo LIQUIDROOM w/T.B.A
2026.7.11(sat) sendai MACANA w/⻑瀬有花
