泣けなかった。悲しいんだけど涙が出ない。卒業式で泣いたりする人を見て、ずっと〈羨ましいな〉って思ってました
「13歳の夜」を作ることは、けっこう勇気がいりましたか。
「もちろん、エピソードを話すことに抵抗もあったし、これを書いてどう伝えたらいいんだろう?って。聴いてくれる人に悲しい思いになってほしいわけではないし、同情させたいわけでも悲しい自慢をしたいわけでもない。けど、〈大丈夫だよ〉っていうだけでもちょっと違うし。そのバランスが難しくて。過去のこと、メンバーにも軽く喋ってはいましたけど、いざ作った時は〈おおっ……〉ってリアクションでしたし。ただ……自分の歌に力があるんだなって実感した曲でしたね。ライヴで唄っていくと、共感してくれたり泣いてくれたり、頷いてくれたり。そうやって受け止めてくれる人がいたから」
そして今回の「光」。これもやっぱりすぐできたわけではなく。「13歳の夜」から時間は必要でした?
「そうです。なかなか書き出せなかったし、いざ曲作ろうと思っても、ずっと心の引き出しが開かなかったんですよね」
昨年のお正月に能登半島地震があったことは大きいですか。
「それが一番大きくて。自分が『助けて!』って言っていた立場から、今度は大人になって支援ができる側になって。でも最初は何もできてない状況でもあったんですけど、3月に初めて支援に行かせてもらって、被災した学校の様子とかも見て。やっぱり過去の自分と照らし合わせたり、東日本大震災とはここが違うなって思ったり。自分に何ができるのか、すごく見つめ直せる機会があったからこそ書けたんだと思います」
去年の1月、早い段階でブラフマンが金沢に行ったじゃないですか。「共に動く気があるなら繋ぎますよ」って連絡はしたけど、同時に考えたのは、被災地支援バンドみたいなイメージが先に付いてしまうのは危険だなっていうことで。
「そうっすね。〈13歳の夜〉を書いたのは僕だけど、でもメンバーは別に経験もないことだし。プッシュプルポットって、別にサブタイトルで〈震災のバンド〉って言いたいわけでもない。それは違うと思うんです。ちゃんとライヴバンドだし」
うん。そうですよね。
「だから〈13歳の夜〉をやらなかった時期もあったんです。自分の言うことが同じになってきて、なんか芝居打ってるような気もして。でも最近はやれるんですよね。そこは心境の変化だし、あとは〈13歳の夜〉だけじゃないって思える強さも手にしたから。それはやっぱり〈13歳の夜〉からさらに進んだ〈光〉ができたから、自分の中でもやれる理由が見えたんで」
「光」は過去の話として書いてないですよね。〈優しい歌/僕も届けたい〉っていうのは2025年の山口くんの言葉。
「そうです。いろんな人と対バンしてきて、プッシュプルポットってこうだよね、自分の人柄ってこうだよねっていうのがだんだん見えてきた。自分で言うのも変だけど、俺、優しいんですよ。あの時に聴いた優しい音楽と同じことやっていられるのが自分でも嬉しくて。だからこそ書きました」
たとえば一曲目の「雨上がり」。これも、さんざん傷ついてきた誰かに向けての優しいロックンロールで。
「そうですね。今までのライヴってお客さんに『泣くな! 笑えー!』って言ってたんですよ。でも最近は無理に笑う必要もねぇなと思って。もちろん最終地点では笑っていてほしいんですけど、〈泣きたい時に泣いて〉って唄うのも悪くないと思ったし。あとは自分の中でも涙を流せるようになったから、涙を肯定できるようになってきたのかな」
涙を流せなかった?
「……んー、震災からは泣けなかった。お爺ちゃん、お婆ちゃんが亡くなったりしても、悲しいんだけど涙が出てこない。卒業式で泣いたりする人いるじゃないですか。ずっと〈羨ましいな、俺泣けねぇんだよな〉って思ってて」
今思うと、心が固まっていたんでしょうか。
「悔しくて泣くとかはちっちゃい頃からあったんですよ。部活動とかで。でも震災の時って、僕よりも親のほうがキツいだろうなと思って。僕が失うものなんて、言ってしまえば教科書とか部活のラケット、カードゲームとかだけど。でも親は3日後に入居するはずだった新しい家とか、あとお金はどうするんだ、職場は、そして俺ら子供のことはどうするんだ、とかあって。その親が悲しそうな顔をして、それでも泣いてないのを見ると、そこで俺が泣くのはちょっとできなくて。なんか我慢するのが気づいたら当たり前になってたんですよね」
泣けるようになったのは、いつぐらい?
「ん――と……1年前くらいかな? 映画観ててウルッときた。あと人の悲しさとか自分の悲しさに涙を流せるようになりました。それは嬉しかったです。〈あ、俺泣けんじゃん〉って」
13年かかったってことですよね。そういう人が〈泣きたい時は泣いて〉って歌詞を書き、全員でがむしゃらにシンガロングしようとする。これってすごいこと。
「ほんとデカいっす。2番のAメロ、〈人目気にしながら生き抜いてきた/そんなあなたがダメなはずがないだろ〉っていう歌詞も、僕がずっと言われたかったことで。僕にもしヒーローがいたとして、こんな言葉をもらったら嬉しいなって」
あぁ。これは「人目を気にするなんてダメだよ」って言われるのとはまったく違うもんね。
「うん。むしろ人目を気にして、いろんな人に見られてるってわかってるからこそ泣けない人もいる。そうやって気にすることはダメじゃないし、気にするくらい優しい人だから敏感に心が堕ちることもあるだろうし。で、そんな人だったら、ひとりぼっちじゃないって絶対気づいてもいるだろうし」
まさに山口くんにしか書けない言葉です。頑張れって言い続ける応援ソングとは違う説得力がある。
「そういうのもカッコいいと思いますけどね。状況によっていろんな〈頑張れ〉がないと響かなかったりするから。〈頑張らなくていい〉とか〈ひとりで頑張ろうとしなくていいんだよ〉とか、それも〈頑張れ〉の伝え方かなと思いますし。そうやって俺らもいろんな〈頑張れ〉を増やしていきたい」
結局、それを言う人、唄う人が誰なのかって話になっていきますよね。この人の言葉だから響くとか、こいつにだけは言われたくないとか(笑)、絶対にあるわけで。
「うん。それを考えたら俺はまだ人に〈頑張れ〉とか言うほど頑張れてねぇから。去年フェスにいっぱい出させてもらって、先輩たちの背中を見てると、同じギター持ってんのに背景も迫力も全然違うなって何度も思わされたんですね」
何が違うんだと思います?
「やっぱ……人柄。先輩たち、みんな優しいんですよ。ほんと悪い人がいない。たとえばTOSHI-LOWさんって口だけじゃなくて、ちゃんと行動に移してるし、周りから何言われようが筋が通ってる。俺らも時間をかけて見習わなきゃなと思いましたね。だからメンバー間でもちゃんとミーティングして〈どうなりたいか〉を改めて話し合いましたし」
聞きたいです。どんなバンドになりたいですか。
「僕らはやっぱりお客さんと寄り添いたい。メディアを席巻するんじゃなくて、ライヴハウス、フェスで、お客さんと共にいるバンドでありたいなって。じゃあ曲はどうする?ってなった時に、やっぱり人と会うために書くんですよね。最初はひとりぼっちで作って、でもお客さんの顔を想像しながらバンドで作っていって、そこからライヴで〈やっと会えた!〉になる。そういう曲をもっと作りたいと思います。これまで俺の歌詞に付いてきてくれたメンバーがいるからこそ、俺ももっと発言して、引っ張っていかなきゃいけないんだなって。今はそう思ってますね」
文=石井恵梨子
写真=橋本塁

NEW MINI ALBUM
『日々を彩って』
2025.09.24 RELEASE

- 雨上がり
- ゴールドマーチ
- ダイブアライブ
- やってやろうぜ!!
- パレット
- 今を生きるあなたへ
- 光
- 僕らだけのもの
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〈プッシュプルポット 2025-26 描き続けるあなたと未来へ〉
2025年 -対バン編-
10/22(水)千葉 LOOK w/明くる夜の羊 ※SOLD OUT!
10/24(金)新潟 CLUB RIVERST w/Sunny Girl
10/25(土)長野 松本 ALECX w/Sunny Girl
11/06(木)鹿児島 SR HALL w/HERO COMPLEX
11/07(金)熊本 Django w/HERO COMPLEX
11/14(金)茨城 水戸 LIGHT HOUSE w/KALMA
11/18(火)香川 高松 TOONICE w/Organic Call
11/20(木)兵庫 神戸 太陽と虎 w/Organic Call
11/21(金)京都 KYOTO MUSE w/打首獄門同好会
11/23(日)神奈川 F.A.D YOKOHAMA w/3markets[ ]
11/28(金)岡山CRAZYMAMA 2ndroom w/Bye-Bye-Handの方程式
11/29(土)広島 SIX ONE Live STAR w/Bye-Bye-Handの方程式
12/07(日)静岡 UMBER w/POT ※SOLD OUT!
12/12(金)岩手 盛岡 CLUB CHANGE WAVE w/reGretGirl
12/14(日)北海道 札幌 SPIRITUAL LOUNGE w/reGretGirl
2026年 -ワンマン編-
1/11(日)福岡 OPʼs
1/16(金)愛知 名古屋 BOTTOM LINE
1/18(日)宮城 仙台 enn 2nd
1/23(金)大阪 BIGCAT
1/25(日)東京 Zepp Shinjuku
2/01(日)石川 金沢 EIGHT HALL