心を揺さぶられたり、座右の銘となっている漫画、映画、小説などの1フレーズが誰しもあるはず。自身の中で名言となっている言葉をもとに、その作品について熱く語ってもらう連載コラム『言の葉クローバー』。ニューEP「あっ!」をリリースしたDOGADOGA江沼郁弥(ヴォーカル&ギター)が、アカデミー賞で2部門を獲得した映画のセリフについて語ります。
(これは音楽と人2025年10月号に掲載した記事です)
『リトル・ミス・サンシャイン』
負け犬の意味を知ってるか?
負けるのが怖くて挑戦しない奴らのことだ
作品紹介
『リトル・ミス・サンシャイン』 監督:ヴァレリー・ファリス、 ジョナサン・デイトン
全米美少女コンテストで地区代表に選ばれた9歳のオリーヴ。家族と共にミニバスで会場を目指すが、その道中でさまざまな問題が起こる――。2006年上映の、アカデミー賞4部門にノミネートされたロードムービー。
この映画は、ヒロインの子が美少女コンテストに出ることが決まって、家族全員でミニバスに乗って会場を目指すロードムービーです。この家族が全員難ありで道中でいろんな問題が起きるんですけど。今回選んだのは、コンテストに出るのが怖くなったヒロインの女の子におじいちゃんが言ったセリフ。最初に観た時にすごく響いたかっていうとそうではなくて、今の自分の状況とか時代とかも含めて、あらためていいセリフだなって思いますね。
やっぱり歳を重ねると挑戦しづらくなってくるんですよ。僕も負けるのが怖くて挑戦しないっていうのはとてもよくわかる。plentyが解散したあとはやること全部がダメなような気がしたり、自分の話で誰も笑ってない気がしたり、それが事実かどうかじゃなくて、それぐらい自信がなくなっちゃう時があって。時代的にも人目を気にしないといけないけど、そうするとチャンスも減っていくし、勝つことも負けることもできない。そういうことを考える年齢になって、このおじいちゃんは言うことが違うなってよりわかるようになりましたね。
それにこのおじいちゃんがぶっ飛んでる人なんですよ。もともとヤク中で、老人ホームでヘロインをやって追い出されちゃうような人で。ちゃんとネクタイ締めた人が言ってるんじゃなくて、そういうぶっ飛んでて、ちゃらんぽらんな人が言うからこそ妙に説得力があるっていうか。周りのことなんか関係ねえじゃん、みたいに言えちゃう人に憧れがあるんですよ。自分がまったくそういうタイプじゃないから羨ましいし、こういう強い気持ちを持っていたい自分がどこかにいるんですよね。
でも自分がこれを言ってもたぶん違う角度で人に届くんですよ。言うだけなら簡単だけど、このおじいちゃんみたいな角度では人には刺さらない。どういう人格で、どういうストーリーを持ってる人が、その言葉を言っているかってことが重要で。僕も時には言葉に重みが出たり、重い話題でも軽やかに人に届いたり、そういうことができる大人になりたいなって思いますね。
この映画って、家族はバラバラだし、おじさんは自殺未遂してたり、おじいちゃんは途中でまたクスリをやって死んじゃったり、描き方によってはすっごい暗いストーリーにもなるんですよ。でもクスクス笑えるような仕上がりになっている。そういうタッチは今回DOGADOGAのEPを作る時に、すごく参考にしましたね。実は重たくて暗いテーマなんだけどそう受け取られないようにするっていう。なんかシリアスに聴こえて嫌だなとか、ここはちょっと軽すぎてほんとに中身がないって思われちゃいそうだなって思ったら、わざと違和感のあるコードや歌詞にしてみたり。シリアスな作品も好きですけど、DOGADOGAでやりたいことはそういうものじゃないから。どうやったら深刻なことを鼻で笑ってる感じにできるか。この映画を観て研究した成果がEPには表れてるんじゃないかなと思います。
NEW EP
「あっ!」
2025.08.20 RELEASE

- 消せない!
- マイハウス
- ハイティーン・ストップ
- いふゆーわなだい
- ニュージェントルマン
- フェイクファー