昨年10月、結成12年目にしてメジャーデビューを果たした2ピースバンド、鈴木実貴子ズ。彼女たちは今年に入り、〈トーキョーギタージャンボリー〉や〈FUJI ROCK FESTIVAL〉、そして今月開催の〈New Acoustic Camp〉やスピッツ主催の〈豊洲サンセット〉と大きなステージに立つ機会に恵まれてきた。アコギをかき鳴らし、全力の声で唄う鈴木実貴子と、力強くエモーショナルなビートで彼女を支える〈ズ〉こと高橋イサミの2人が鳴らす剥き出しの歌が、より多くの人の心に刺さっていくのではないか。そんな期待が高まるなか届けられるのが、ミニアルバム『瞬間的備忘録』だ。現在のライヴでも欠かせない、インディーズ時代のナンバー5曲を再レコーディングした1枚。古くは結成当初の楽曲もあるというが、なぜこの曲たちが生き残ってきたのか。まずはその理由から2人に話を聞いてみた。
(これは音楽と人2025年10月号に掲載した記事です)
資料に「色褪せなかった、ボロボロの勇者みたいな5曲」とありますが、今回再録音した曲は、ずっとライヴでやり続けてきた、いわば生き残ってきた楽曲たちということでしょうか。
高橋イサミ「まさにおっしゃる通りですね。鈴木自身、自分が唄う新鮮さみたいなものが失われると、しばらく唄わなくなったりするんですけど。この5曲はずっと唄っていますよね」
鈴木実貴子「そうだね。磨いてきたというか、勝手に生き残ってくれた人たちという感じです」
では、この5曲が生き残ったのは、なぜだと思いますか?
鈴木「たぶん、自分たちのなかで普遍的な心理の曲たちなのかもしれないです。それと、単純にライヴでやっていてお客さんの反応がいいなっていうのもあるかも。〈この曲、こんなに喜んでもらえるんや〉っていうメンツでもあるし、このなかだと〈都心環状線〉が一番古くて、廃盤になってしまったCDに収録されてたりもするから。ちゃんともう一度形にしたい、っていう感じですかね」
今回の5曲もそうですが、鈴木さんの歌には、夜の街を歩いている描写が多いですよね。
鈴木「完全に夜型の人間なので、〈どうしよう……〉ってなったら、フラフラ散歩に行ったりもするし。考える、集中する、向き合う時間帯が夜なんだと思います」
ご自身のなかで夜のほうが頭の中を整理しやすいというのもありますか? いろんなものを遮断できる感じがあるというか。
鈴木「そうだと思います。いろんなものが遮断されて、悲しくなったり寂しくなったりするんだと思います」
あ、いろんなものが遮断されて落ち着ける、ということではなく。
高橋「この人、意外と感情に瞬発力がないんですよ。すぐさま〈ムカつく!〉ってなったり、瞬間的に悲しくてポロポロ泣くみたいなことがあんまりなくて。例えば、日中に嫌なことやムカつくことがあったとしたら、夜になって、ふと〈はぁ……めっちゃムカつく!〉って言い出すみたいな(笑)」
かなり時差があるんですね(笑)。逆にいえば、普段は気を張ってるところもありますか?
鈴木「それもあるかもしれない。気持ちを外向きにしてるから、家に帰って晩御飯作って食べてたら涙が出る、みたいな(笑)。スイッチがオフになるみたいな感覚。オフになった時に、〈あれ? 傷ついてたんや〉って気づくみたいな」
高橋「時差がすごいから、結果的に夜にその感情を思い返して曲を作るっていうことなんじゃない?」
鈴木「確かにそうかも。今回ここにいる曲たちは、ほぼそうですね。普段から感情をすぐに出せたら、もっと楽なのになって思いますけど」
でも音楽には、自分の感情を素直に出せるわけですよね。
鈴木「音楽にしか出せないんだと思う。だって音楽は怒らないし注意もしてこないから(笑)、甘えやすいし、素直になりやすい。答えをくれるわけじゃないけど、ヒントはもらえる気がするし」
1曲目の「坂」は、〈他人の歌を素直に聴けなくなっていた/いいメロディーもいい言葉もその表情にさえ下心を感じた〉という正直なフレーズしかり、個人的な感情が、そのまま吐露されたような歌ですよね。
鈴木「それこそ〈坂〉は、最初ソロ名義の音源に入ってたもので。自分の中からポロポロと出てくる言葉をそのまま曲にした感じで、音楽的じゃなかったっていうか。要はバンドとして採用されない、そういう曲ではあったんですよ」
前回のインタビューで、まず曲を作ったら高橋さんに聴かせて、2人でやるべき曲なのかどうかをジャッジしてもらうと言ってましたよね。
高橋「そうです。曲によっては、〈俺、そんな感情持ち合わせてないよ!〉みたいなのもありますし(笑)。やっぱ2人だからこそ、気持ちが統一されてないと音楽にすらならないと思うんで」
鈴木「そう。変な話、4人組バンドならできるんですよ。すごくパーソナルな歌でも、4人の音によって音楽にしてくれるんで。でも2人だと、片方が曲に気持ちが乗ってないと音楽として成立しないというか。なんかすごく難しいんですよね」
高橋「最初、この曲も何度か2人でもやってみたんですよ。その上で『これはできねぇな』ってなったんですけど」
鈴木「でも、今のレコード会社のスタッフチームから、『〈坂〉っていい曲だよね。あれ2人でやったらいいのに』って言われて。それで試しにライヴでやってみたら、意外とよくて。作った当初は、2人でやってもよくなかったのに」
高橋「なんでか、音楽としてできるようになった。不思議だね」
鈴木「なんなんやろうね? 合わせてみたら、なぜかできたっていう感じで」
〈日々は止まらず流れ 気付けばもう大人さ/このままでいいのだろうか 風は何も語らず〉ともありますけど、「坂」は、〈大人になるってなんだろう?〉という鈴木さんのなかにつねにあるテーマが、すごくはっきり出ている曲ですが――。
鈴木「その気持ちが、やっとわかった?(笑)」
高橋「やっとって言うなー!(笑)。でもこれはずっと言ってるけど、俺、昔から〈ライクアローリングストーン ふざけんなよ転がり続けてこのザマさ〉ってところはいいなって思ってるの」
鈴木「でもなんで、バンドでは採用されなかったんですかね?」
高橋「そこ以外の歌詞が、愚痴すぎたんだろうね」
鈴木「愚痴って! ソロで録った時、最後のところは〈ころころ転がってどこへ向かうのか 答えは無いと聞く〉って歌詞だったんですよ」
今回の音源では、〈答えは無いと知る〉となってますよね。
鈴木「やっぱあの頃よりは、少し大人になっちゃった感はあるんで、〈知りました〉のほうが合ってるなって。でも変えたのはここだけで、それ以外は、ほぼ変わっとらんじゃん」
高橋「確かにそうなんだけど……うん、そうやな。タイミング的には、事務所に所属したり、メジャーデビューってことがあった時期に、またやるようになったから。その時期に俺が、〈坂〉の気持ちに近づいたんかな?」
今ならお互い一緒の感覚でやれるなと思えたと。
鈴木「そうなのかもしれないですね。それで今回光があたって。私はもともと好きだったし、この曲が、こんないい形で日の目を見るとは思ってなかったから、めちゃ嬉しいです」
高橋さんのように、環境が変わったり、時間が経つことで、最初にステージで唄った時と今では、自分の中での感覚であったり、曲の捉え方が変わっていくこともありますか。
鈴木「うん。例えば〈あきらめていこうぜ〉だったら、今は〈ぶっ壊していこうぜ〉ってニコニコしながら唄えるんですよ。ちょっと楽しい曲になってる。昔は、〈ウギィィィィ! 壊さなあかんでぇぇぇ!〉って感じだったけど、今は〈いてまえ、いてまえ! 壊してしまえー〉みたいな。あと〈正々堂々、死亡〉も、作った頃は、〈自分は正々堂々死ぬ。もうそれでええんや〉って自分だけの気持ちとして吐き出してたけど、今は聴いてくれる人、ライヴに来てくれてる人に対して、〈あなたたちもそうだよね〉って感じで、伝えるような気持ちで唄えてるかな」
個人的な感情から生まれた歌だけど、ステージの前にいる人、自分たちの音楽を聴いてる人に対して、〈あなたもこの感情わかるよね〉っていう感覚が、唄っていくなかで芽生えた。
鈴木「そう、芽生えた。よくライヴに来てくれるお客さんの顔を認識するようになったし、こんなに来てくれてる=実貴子ズの音楽が好き、うちの考えに共感してくれてるんだって。仲間が増えたというか、ひとりぼっちじゃなくなった感じ。その事実が、もっと前に歌を飛ばすようにしてくれたし、そう感じられた曲が、生き残ってきたのかも」
そしてまもなくデビュー1周年となりますね。この1年はどんな時間でしたか?
高橋「ようやく1年経つんだね」
鈴木「ほんと、いろんなこといっぱいあったな」
高橋「このあいだのフジロックもだし、春に出させてもらったギタージャンボリーとか、大きなイベントやフェスに出させてもらう機会が多くて……濃密な日々ではあるなというのは感じてます」
この先も、〈New Acoustic Camp〉や、スピッツ主催の〈豊洲サンセット〉への出演が控えてますね。
2人「そうなんですよ!」
高橋「めちゃくちゃ嬉しいんですけど……胃が痛い(苦笑)」
鈴木「身の丈に合ってないことをやるからなのか、削れる部分が多い」
高橋「もちろん実際ステージに立つと楽しいし、終わるとむちゃくちゃ気持ちいいんですけどね」
鈴木「そうだね。なんか麻薬みたい(笑)。興奮って怖いわ」
そういったステージでの経験が、自分たちの糧になっているという感覚はありますか?
鈴木「いや、まだなってない。糧じゃなくて、むしろカロリー消費しとる(笑)」
今は、ハードなトレーニングの真っ最中なんですね(笑)。もう少ししたら「筋肉ついた!」となるかもしれませんね。
鈴木「そうかもしれないし、複雑骨折しとるかもしれないし。そのどっちかじゃないですかね(笑)」
高橋「まあ普通に一生慣れないとは思うけどなぁ。でも慣れないからいいんだとも思うけど」
鈴木「いや、ちょっとぐらいは慣れたいよ。骨折しないレベルの筋肉が欲しい。うちは複雑骨折を恐れてるんで!」

文=平林道子
撮影=Ryohey Nakayama
NEW MINI ALBUM
『瞬間的備忘録』
2025.09.24 RELEASE

[CD]
- 坂
- 都心環状線
- 夕やけ
- 正々堂々、死亡
- あきらめていこうぜ
[DVD]
「あばら」リリースツアー
Live at 下北沢SHELTER 2025.06.28
- 音楽やめたい
- 生きてしぬ
- 夕やけ
- 暁
- かかってこいよバッドエンド
- 違和感と窮屈
- チャイム
- 都心環状線
- 壊してしまいたい
- ベイベー
- ががが
- アンダーグラウンドでまってる
- 正々堂々、死亡
- ファッキンミュージック
- 坂
〈鈴木実貴子ズ ワンマンライブ「危機一発」〉
12月13日(土)東京・鶯谷 ダンスホール新世紀