本当にプリミティヴなものってダサいんだよ。それをそのままダサいと思わせる裸の精神が、もっともカッコいいことだと思うんだ
今回のUSツアーでカートの家を訪ねて、自分の音楽の原点を再確認できた。でも、もがいている自分はもう50代間近なわけじゃない?
「気づいたら47になってたね。俺も人間だから老いを感じるし、白髪も生えてくる。それはしょうがないよ。ただ肉体を取り除いたところにある真ん中の精神っていうのは、昔とあんま変わってない気がするんだよな。変わってない限り音楽は聴き続けるし、新しい曲を作りたいって欲求も消えない。それは15歳の時から変わってない気がするんだよ。これはもうしょうがないよね。時が止まっちゃってんだから。死ぬまで変わんない」
でも昔みたいな若さの衝動より、死とか終わりのほうがリアルになってきてない? 今回のツアーの初日のMCでもチバ(ユウスケ)や櫻井(敦司)さんの名前を出してたけど。
「だって続けざまだったからさ。どちらともがっつり対バンはしたことないけど、チバさんとは、〈ARABAKI ROCK FEST.〉の帰りの新幹線が同じ車両だった時があって。挨拶に行ったらチバさんに『タバコ吸いたくね?』って言われたんだけど、東北新幹線って喫煙所ないのよ。だからトイレに2人で入って、いろんな話したよ(笑)。FC東京の話とかさ。スタジアムでもけっこう会ってたから」
サッカー繋がりだね。
「櫻井さんが亡くなった日は、ちょうどツアー中だったから、俺、アコギで〈JUST ONE MORE KISS〉をカヴァーしたんだ。ミッシェルの〈バードメン〉も唄った。でもびっくりするんだけど、あの人たちの曲ってずっと鳴ってるんだよ。コードも歌詞も、見なくて弾けるし唄える。カートと同じ。だから、いなくてもずっといるんだよ、俺の中に。悲しいっていうより、音楽を残してくれてありがとう、っていう気持ちだよね」
周りにいなくなる知り合いも増えてくるし、そういうのが歌詞のリアリティになると思わない?
「思うけど、それをそのまま出したりはしないだろうね。やりたいし、やってその答えを見つけたいのは、やっぱり〈なんで俺はあの時始まっちゃったんだろう?〉ってこと。ただその中に、47歳のリアリティも滲んでくるとは思う。でもやっぱり……普段からよく遊んでる人がいなくなるのはキツいね。イノマーさん(オナニーマシーン。2019年に53歳で永眠)とかさ。でも感覚的には〈そういえばあいついねえな〉みたいな」
考えないようにしてる、とかじゃなくて?
「そんなことはない。ただイノマーさんが当時付き合ってた彼女やオノチンさん(オナニーマシーン/ジェットボーイズ)がイノマーさんの話をすると、部屋の電気が点滅するんだって。あと彼女に銀杏の新譜渡したんだけど、それをイノマーさんの仏壇に置いたら、ライトがパチパチってなったって……そういうの俺、まったくねえんだよな」
周りの人のところには出てきてるのに。
「俺んとこにも来いよ! なんで俺んところだけ来ねえんだよ! 馬鹿野郎、気ぃ遣うな!って思うけどね(笑)。夢でもいいから、お化けでもいいから会いたいよ。で、謝りたい」
何を?
「あんだよいろいろ。あん時ごめんね、みたいなことが」

そういうふうに人がいなくなったり、離れていくことにあまり寂しさとか感じないんですか?
「うーん……わかんない。例えば誰かに騙されるとか、急にいなくなっちゃうとか。そういうことがあっても、許せないとかにはならないかな。それに自分の中でもっと重要なことがあるから」
重要なことって何?
「〈あのレコードもっと安くなんねえかな〉とか」
え、そういうこと?
「そう、マジで! 俺が今狙ってるレコード何枚かあるんだけど、それが見つかんないの。ラモーンズの国内盤7インチで、〈踊ろよベイビー〉ってシングルなんだけど、生産枚数も少ないの。あとそれだけ集まればコンプリートなんだ……ほんとに、それを見つけることにマジで人生懸けてっからさ。あとブラーの〈ゼアズ・ノー・アザー・ウェイ〉(セカンドシングル/1991年作)のリミックス12インチ。あれもほんとないんだよ。あれを見つけないことには浮かばれない。そっちのほうが人生において何よりも大きいからね(笑)」
興味向いてるのがそっちなんだ(笑)。
「人に興味ないもん。恋愛だとかお金だとか、そういうことよりも大事なのは〈ゼアズ・ノー・アザー・ウェイ〉の12インチ!(笑)」
そう言うけど、人一倍人に興味持ってるじゃん。
「知らねえよ。人なんてもうどうだっていいいんだよ。人を見るんだったら、上野動物園行ってカバ見てるほうがいいよ(笑)。あいつら純粋だよ。欲望のままに動いて、嘘もなく。人間はほんとにごまかしてごまかして、騙し騙して……」
でもそんな人間の、そうじゃない瞬間を知ってるから、どうだっていい、なんて言い切れないんじゃない?
「そうだね。だから隠さなきゃいいんだよ。汚いものを隠すんじゃなくて、〈俺、汚ったねえな〉って、まず自分で認めるしかない。今はさ、本当はダサくて下手くそで汚いものでも、いくらでも加工して上手く聴かせたり、見せることができるじゃん」
そうだね。
「ProToolsで声補正したりピッチ合わせたり、AIで顔加工したり。いくらでも加工できるでしょ。でもさ、そうじゃなくて、本当にプリミティヴなものってダサいんだよ。それをそのままダサいと思わせる裸の精神が、もっともカッコいいことだと思うんだ。俺は何歳になってもそういうのをやっていきたいの。じゃないと、ロックを聴く意味がないと思うよ」
AIやChatGPTで、無料で簡単にジャケットとか作れちゃうからね。
「そういう技術はこれからもどんどん進んでいくし、それはそれでいいと思うんだ。でも、その中で日本のロックが価値を示すとしたら、それとはまったく違うことをやんないと意味がないよ。そうじゃないとK-POPにどんどん食われていくだけだから」
つまり日本のロックをやるということは――。
「ズレ、しょぼさ、ダサさ。それを全部出して、いい出汁作って、日本のラーメンをちゃんと作るってことじゃない?(笑)。横書きのアルファベットのロック、そんなんじゃないの。日本語には、句読点ってあるじゃん。あれすごいと思うんだよ。アルファベットのドットとも違う。点とか丸でも感情を表してる。その機微って、世界の人たちが持っているようで持ってない。そういうのをもっと音楽で作っていきたいんだよね。ロックにおける、句読点をね」
文=金光裕史
撮影=是永日和
