前に比べて自分の気持ちや実体験について、あんまり唄わなくなったかもしれない
なるほどね。ツアーの話に戻ると、そもそもなぜアメリカツアーをやることになったんですか?
「アメリカに住んでるファンたちからメールが来たんですよ。『いつかこっちでライヴやってね』って。その中にオリバーくんって人がいて。彼はけっこう日本にも来てて、俺が東京案内したり一緒に遊んだりしたことがあって。彼の親がグランジ世代で、ニルヴァーナともよく対バンしてた人だったから、向こうのバンドシーンの人たちとも繋がってて。で、実は20年前、銀杏で1回アメリカ行ってるんだよ(註:2006年6月。当時のマネージャーの結婚式でハワイに行き、その足でアメリカ本土へ行った)。あの時はサンフランシスコのヤツらと遊んで、そいつらが最近オリバーと繋がって、それで一緒に銀杏のツアーを企画することになったの」
サンフランシスコの友達とオリバーくんで?
「そう。で、俺以外のメンバーはアメリカが今回初めてでさ。2週間毎日移動とライヴの繰り返しで鍛えられたと思うよ。だいぶ違ったもん、出す音とかステージでの佇まいとか」
アメリカツアーやって、あまりの過酷さにバンドが嫌になって解散していく人たちも多いけどね。
「わかるよ、その気持ち。銀杏BOYZは2003年結成だから、今のメンバーはある程度、バンドが地位を確立したあとに参加してるわけじゃん。だからこのバンドでの下積み経験がないんだよね。でもアメリカツアーは合宿みたいな感じだったから、鍛えられてバンド感は強くなった気がするし」

当たり前だけど、今のメンバーは結成メンバーとは違うわけじゃん。でも前の銀杏が持ってたバンドの空気感や、一緒の経験をして、ひとつになっていく過程が欲しかったのかな?
「今のメンバーにさ、『アビちゃん(安孫子真哉/元ベース)のようにやって』とか『チンくん(チン中村/元ギター)、もっとこんなだったよ』って言うのは簡単よ。でもそれを俺は強要したくないわけ。今のメンバーが身をもって、銀杏BOYZのライヴやレコーディングを繰り返すことで、そういうふうになっていくのが理想というかね。でもなによりも(山本)幹宗くんも、(岡山)健二くんも、ピーちゃん(加藤綾太)も、(藤原)寛も、その人それぞれに合った個性を気兼ねなく出せれば、一番それがいい形だと思うかな」
バンドに求めるものが、前とは違うのかな?
「どうだろう。2007年ぐらいまでの銀杏BOYZは、もう先はないなって、どこかで感じながらやってたから。あの時はその刹那を体現しようとしてた気がする。でも今は、自分が何歳になっても銀杏BOYZをずっとやっていきたいと思っていて。あの時の短距離走ではできないことをやってる。それは自分でもわかってるつもりだけどね」
その変化は歳をとったからなの?
「うーん……歳をとるっていうよりは、なんだろう……あの時の感じはありつつ、あの時には絶対できなかったことをやりたいんだよね。だから自分にとっては自然なんですよ。あの時はあの時だもん。恋愛の仕方もさ、俺、20代だったら彼女とよくケンカとかしたと思うけど、今はあんまりそういうのがないもん。なるべく穏やかに(笑)」
こっちは怒らずに話を聞く、みたいな。
「もう、キーキーキーキー言い合うとか、そういう恋愛じゃなくて、お互い認めるところは認めていくみたいな」
今彼女いるの?
「今いない。それに今は誰かから言い寄られても『ちょっとごめんなさい』って言っちゃうかもしれないな。『今、新曲を作ってます。ごめんなさい』みたいな(笑)」
これまで結婚したいとか思ったことなかったの?
「今まで何回かありましたけどね。〈ああ、この人と結婚するのかな〉みたいなのは。でも逃しちゃったね。そういう時に限ってさ、向こうはそういうモードじゃなかったり、向こうが結婚したいって気持ちの時に、俺は大きい仕事があって、『ごめん、会えない』とか。だから別に結婚したくないわけじゃ……つうか、なんちゅう話させてんのよ(笑)」
結婚願望はある、と。
「あるあるある。全然あるね。子供も欲しい。ただ今子供産まれても、成人式の時はもう70近いわけでしょ。だから、不倫した旦那に愛想つかして別れたシングルマザー狙ってくわ」
マッチングアプリやったら?
「やるわけないじゃん(笑)。でも前に『登録しようかな』って言ったら、マネージャーに『顔出し、本名でできるわけないだろ!』って怒られた」
かつてライヴでみずから個人情報を晒した峯田和伸こそやるべきかもしれないと思うけど(笑)。
「いやあ……もうそういうのは、今さらやらねえかな。だってマッチングアプリで出会ったとするじゃん。でも、俺がその人に会えたってことはさ、その人は俺以外の人とも会える機会がいっぱいあるし、逆に俺もそうじゃん。そんな中で、信頼関係を築けていけるのかって話だよ」
出会いがそれだと、〈他の男とも会ってんじゃねえか?〉って疑いはつねに晴れませんよね。
「『じゃあふたりでアプリ削除しよう』って〈せーの〉で消してもさ、そんなのいくらでも再登録できるじゃん。そんな疑心暗鬼の毎日に、俺は耐えられないと思うけどね」

ただ君の場合、結婚して誰かとずっと一緒に生活するの、難しそうだけどね。
「なんでよ!(笑)」
だって、否が応でも家族と共有しなきゃいけなことが増えてくるわけよ。
「ああ、それなら俺の場合、真面目に言うことと、適当なことをサービスで言うこと、虚実入り乱れた話のバランスがうまいから大丈夫じゃないかな。付き合ってる人とか家族、とくにうちの母ちゃんとか、俺が何を言っても、『また和伸が適当なこと言ってるよ~』で済むし(笑)」
その虚実は今もずっと続いてるわけですか?
「うん、自分ではうまくやれてると思ってる」
自分の歌についてもそんな感じ?
「あ、歌はちょっとそのバランスが違うかな。昔は実体験が7で妄想が3とかだったけど、今はそれが6対4ぐらいになってきた。前に比べて自分の気持ちや実体験について、あんまり言わなくなったかもしれない」
峯田和伸って存在を、自分の中で作ってる感じなのかな?
「そうかもね。今は前ほど裸を出してない気はする。ただ、その濃度は濃くしたいから、そこを磨いてる感じかな」
濃くするっていうのは表現を磨くってこと?
「ファンタジーとリアリティで言ったら、今はファンタジー部分が多めだけど、リアリティのところを少し尖らせてる」