ここ最近、ライヴハウスでロックンロールバンドによく出会う。荒削りだし、器用じゃないけど、ただその衝動だけが暴走しているようなバンドたち。大好きで、愛おしくなる。そして彼らが鳴らす音に、ちょくちょく脳裏をよぎったのがhotspringだ。デビューは2010年だから、もう15年目。ベテランと言ってもおかしくない。売れてるわけでもないが、そのロックンロールへの姿勢と憧れ、そして衝動が、若いバンドマンに支持され始めている。最新の楽曲「BIG KISS IN THE SATURDAY NIGHT」と「十二小節」は、バンドにやる気が漲っているのがよくわかる2曲。そんな彼らの現在地を、ヴォーカルのイノクチタカヒロに聞いた。
会うの久々だね。
「マジで久しぶりっすよ。だって最後にインタビューしたの、俺が怪我した時でしょ?(2017年5月。電車との接触事故で重体だった)」
8年か! その間も若いロックバンドがいっぱい出てきたけど、最近ライヴ観てると、hotspringっぽい曲やってるバンドがいっぱいいるんだよね。
「俺もマジでそれ思ってんですよ。売れたことないのに、バンドマンからの支持だけはある(笑)。一昨日かな。俺らの企画にアンジーモーテルが出てくれて。〈ハロルド〉をカヴァーしてくれて嬉しかったな」
あの事故のあと、活動再開したけどベースが辞めて、同じ頃に事務所も離れたじゃん。
「離れたというか、売れないから、あとは勝手にやれ、って放り出されたようなもんです(笑)」
あの頃のライヴがひどくてさ。もうそのうちバンド解散して、イノクチは荷物まとめて地元の大分に帰るだろうな、って思ってた。
「あの頃は地獄でしたね。ベースはツアーの3本目で飛んじゃうし、マネージャーからは見捨てられる。ヤケクソになって、酒呑んでベロベロでステージ出てって、グダグダなライヴしてた。どういうバンドでいたいとか、そんなのどうでもよくなって、ただ東京にいるだけのダメ男でしたよ」
だから、どうなっていくんだろうって思ってたわけですよ。
「さらにそのあと、コロナ禍になってライヴもできない。ベースをサポートしてくれてたやつも、これ以上は無理ですって辞めちゃった。確かに、もう潮時かなあ……と思ってましたよ」

なのにまだバンドを続けているわけで。
「まず、バンドの友達に『絶対辞めるな』ってずっと励まされてたんですよ。『でもベースいないし』って弱気にしてたら『一般公募しろよ。hotspringで弾きたいヤツ、いっぱいいるよ』って言われて。それでSNSで募集してみたら、意外と募集がきて、10歳下の近藤(紀親)が仙台から上京してきて。まずそれが俺を踏みとどらせましたね」
でもコロナ禍だよね?
「ライヴが全然できないから、最初の1年は悶々としてました。歳も30代になってたし、配信で、お客さんがいないガラガラな会場で〈ロックンロール!〉ってカメラに向かって叫んでんの、全然面白くない。なんか必死こいてんのが見苦しいなと思っちゃって、曲も歌モノっぽい感じにしてみたけど、こんなのやりたくねえな、と思った」
迷走気味でしたね。
「そうしてるうちにコロナ禍が明けて、徐々にお客さん入れたライヴができるようになってきたんですよ。そしたら若手のバンドと対バンする機会が増えて、そいつらがよく、俺らのことを好きでした、聴いてましたって言うわけですよ。YAPOOLとか、あすなろ白昼夢とか。そいつらは若さも手伝って、衝動や熱狂がすごいんですよ。上手いとか下手関係なく。それ観てたら、大人になって歌モノやろうとしてた自分が恥ずかしくなっちゃって。めちゃくちゃショック受けたんです。このままじゃ絶対勝てねえ、って。そんな時、YAPOOLからスプリットツアーに誘われたんですよね」
それが2024年だから、1年前か。
「でも当時のテンションでやったら絶対に勝てない。だからメンバーと話し合って、これで納得できなかったらもういいや、ってくらい腹を括って、そのツアーをやったんです。EPも出したんですけど、歌モノやってた反動でめちゃくちゃハードコアに振り切れちゃって、80秒の曲とかできた(笑)。それに手応えを感じて、バンドにも自信がついて今に至る感じですね」
新陳代謝ができた?
「それもあるし、俺たちはこうなんだなって。大人になんてなりきれないわけですよ。そりゃ表現する人だから、歳重ねれば重ねるほど語彙は増えるし、経験も増えるから見方も変わる。そういう表現も楽しいけど、それを懐に忍ばせて、もっと単純な感情や衝動みたいなものと向き合って、頭じゃなく肉体的なところでバンドやりてえな、と思った。そこからまた始まりましたね」
何歳になったんだっけ?
「37っす」
でしょ? ぶっちゃけめちゃくちゃ売れてるわけじゃないし、もう歳も若くない。若いバンドに支持されるようになったとはいえ、動員がめちゃくちゃ増えたわけでもない。
「うるさいな(笑)」
それでもロックンロールバンドをやり続けようとする、イノクチの根幹はどこにあるのか、と思ったんですよ。
「なんでしょうねえ。でも俺、さっき話したみたいに、メンバー抜けて、マネージャーからも見捨てられて、〈うわあ、もうどうしよう〉ってヤケになってた時に思ったことがあって。そしたら逆に、音楽に関してはもっとえげつないことをやりたくなった。嘘吐きたくないと思った。遠慮なんてしない。あいつバカだな、と思われていいから、憧れたものに手を伸ばし続けよう、って。それだけでいいなって」
イノクチの書く、ちょっと生活感のある歌詞もいいんだけどね。
「フォークも俺好きだからね。でもそういうんじゃなくてさ、音楽が生活の続きって感じじゃなくなってきたのかもしれない。中学生の頃、最初に聴いたロックンロールって、違う世界にぶっ飛べる感じだったじゃん。それしかやりたくなくなった。そしてそれは絶対、自分には出せると思ってて。〈僕はこうなんです〉って詞を書きたいとは思わなくなった。そいつのバックボーンがどうこうじゃなくて、ただただそこにロックンロールが現れた、って感じ。だから、それにぶん投げられるだけでいいんです」
そうやって自分が変わったことについてどう思う?
「どうだろ。でも俺、絶対に昔よりいい人間になったよ」
お前は昔からいいヤツだよ。
「いやいやいや。昔はやっぱ、自分のこと全然好きじゃなかったから」
下北でベロベロになって、千鳥足で歩いてた頃とは違うと(笑)。
「あの頃は辛かった。俺、異常なくらい東京っていう街に対して疑心暗鬼というか、緊張してたんで」

でも、そこがよかったんじゃん。緊張してて、敵対視してて、〈負けんぞ、俺は〉みたいな感じで。
「それ、マジでなくなりましたね。今はもう、〈東京は俺の街だぜ〉って思ってる(笑)」
なんでなくなったんだろう?
「やっぱ信じれる人がいたからかな。もう辞めようと思った時に、俺よりも俺のこと信じて『辞めんなよ』って言う人がいたら、もう1回やってみるか、ってなりますよ」
それがなかったら、もういいよってやさぐれてたかもね。
「そうそう。拗ねてた。そうじゃなくて、ちゃんと地に足をつけて、その現在地っていうのを見つめるようになった。だから、バンドやってる感は、今が一番あるっすね」
でも、自分も37までやってるとは思ってなかったでしょ。
「ていうかそもそも37まで生きてると思ってなかった(笑)。でも、オーバーグラウンドに行くことはないと思うけど、視野だけはもう少し広げておきたいかな」
どういう意味?
「なんかね、歳をとればととるほど、どんどん目的地が低くなっていくの。子供の頃、孫悟空になりたかったけど、それがイギー・ポップになって、チバユウスケになって、でもそれにはなれないんだなってわかって。自分の小ささや能力の低さも知ることになるけど、でも、広がった視野で見える自分の現在地、ってのが大事なんだなって」
じゃあ、自分はこういうふうにやってくんだって、腹も括れたってことだよね。
「そうですね。カッコいいことやれてるっていう自覚があるうちはやりたいですね。体力的に。ただもう37歳で、まだ何もしてねえじゃん俺……って(笑)」
でもその背中を見て、若いバンドが憧れるようになってて。
「マジでその若い子たち、それだけが俺の誇りっすね。種をまいたんだって。大分の後輩、SIX LOUNGEだって野音まで行ったし」
でもさ、YAPOOLもアンジーモーテルも、hotspringっぽい曲を唄ってるけど、それ、イノクチが唄うからいいんだよな、って思うけどね。
「ありがとうございます。マジで今ライヴいいですよ。めっちゃ自信あります。逆に思うのは、今みんな品行方正ですね。なんかやらかしそうなヤツらを排除して、めっちゃつまんない。これダメなんじゃね? この人大丈夫?って人が出てこないんですよ」
イノクチはそういうタイプの人だと思ってますが。
「だからけっこう嫌われます(笑)」
ははははは!
「正しさの押し付けみたいなものをすげぇ感じるんですよね」
わかる。
「そうだ、あとなんか、俺、やり続けてるって感覚があんまりないんだわ。毎回毎回ファーストアルバム作ってる感じ。そしたらここに行き着いた」
今回の2曲って、唄ってることは変わらないんだなって思うけど、そういうふうな曲を目指したところはあるの?
「いや、この2曲は前作〈ANTHEM VOLT〉の続きなんですよ。そのフェーズを1回終わらせたくて。新しいアルバムにこの2曲を持ち込むのはないなって思ったから、先に出しちゃおうって」
ここから先はどういうふうにしたいの?
「歌詞はわかんないですけど、パンク、ハードコアの季節は1回終わらせて、もうちょっとボトム低めっちゅーか、重心が低い感じのズッシリしたものをやりたいなって。どうなるかはわかんない。でも、この2曲を次に持って行きたくはなかった」
俺、このベクトルでやっていくのもいい気がするけどね。やってる人がいないから。
「確かにそう思ったけど、できないんですよね……試行錯誤して時間が経って、やっぱこれだ!ってやるかもしれないけど(笑)。俺の人生はけっこうそうっす」
はははは。でも、つねにファーストアルバムを作りたいっていう衝動があるので、それがいいんだと思うけどね。
「俺、芸人の永野さんがめっちゃ好きなんですよ。あの人の代表作って〈ゴッホより普通にラッセンが好き〉ってやつですけど、あれ、売れなくて腐ってた自分を変えたくて作った、って聞いたことがあって。回り回ってああいうシンプルなギャグを、いい歳のオッさんが全力でやりきる。それまでどうしようどうしようって考えてたことも全部捨てて、シンプルで、全力で振り切っちゃう。そういうのが好きだし、俺もそうありたいって思うんですよね」
文=金光裕史

NEW DIGITAL SINGLE
「BIG KISS IN THE SATURDAY NIGHT」
「十二小節」
2025.06.06 RELEASE
〈YAPOOL pre. Battle Series「 KICK THE BRAIN 」〉
7月18日(金)新代田FEVER
〈武蔵野音楽祭 19th ANNIVERSARY「蓮の音カーニバルプレミアム」〉
8月2日(土)吉祥寺SHUFFLE
〈ロックンロールサーカス東京2025〉
8月4日(月)荻窪TOP BEAT CLUB
〈小林聖太企画「超スーパー大フェスティバル大会Vol.3」〉
8月8日(金)下北沢THREE & BASEMENT BAR
〈red cloth 22nd ANNIVERSARY〉
8月16日(土)新宿red cloth
〈ザ・ルーディー15周年「しくじるなよ、ルーディー!2MAN LIVE!!」〉
9月14日(日)新宿red cloth
〈SIN ALLEY ROCK vol.19 x FELLOWS〉
9月21日(日)名古屋・上前津Club Zion