【LIVE REPORT】
Chevon〈Zepp ONE MAN TOUR .25『DUA・RHYTHM』〉
2025.06.30 at Zepp Haneda(TOKYO)
人の本能に訴えかけるライヴや楽曲を武器に、北海道から全国へと名を轟かせている3人組バンド、Chevon。2024年3月に行った『音楽と人』初のインタビューで3人は、バンド結成時からずっとZeppツアーの開催を第一の目標に掲げていると語っていたのだが、今年5月から6月にかけて行われたツアー〈Zepp ONE MAN TOUR .25『DUA・RHYTHM』〉でその目標を達成した。しかも全7公演がソールドアウトという盛況ぶりである。

ツアーファイナルのZepp Haneda(TOKYO)公演にも、多くのファンが駆けつけた。しかしChevonが観客とともに作り上げたのは、〈ついに夢の場所に辿り着いた〉という感慨の滲むライヴではない。Zepp完全掌握――それどころか、もっと大きな会場すら想像させる頼もしいステージング。こんなライヴを見せられたら、「うちらは春が来たら夏が来るように、夏が来たら秋が来るように、秋が来たら冬が来るように売れます」という不敵な発言にも頷くほかない。そして3人は、バンドが大きくなっても忘れたくない原点をここに刻もうという誠実さも覗かせたのだった。だからChevonは信頼できる。観客も、興奮を抑えきれない様子で、終演後もフロアに残ってBGMに合わせて唄ったり、帰り道で歩くスピードを緩めながら友達と感想を語り合ったりと、名残惜しそうな姿を見せていたのも印象的だった。

私がChevonのワンマンライヴを観たのは約1年ぶり。ライヴの冒頭、荘厳なSEと照明を背負って、順にお立ち台に上がった谷絹茉優(ヴォーカル)、Ktjm(ギター)、オオノタツヤ(ベース)の立ち姿は見違えるほど堂々としていて、バンドの進化を早くも感じた。魅惑的な野性味を持つ谷絹のヴォーカルは、ますます磨きがかかり、バトルするように楽器を掻き鳴らすKtjmとオオノのプレイも力強くなっている。1曲目の「革命的ステップの夜」から、喜ぶ観客のジャンプによってフロアが大きく揺れた。続く「ボクらの夏休み戦争」では谷絹の高音ロングトーンに観客が沸き、Ktjmとオオノが前に出ていくと、その方角から歓声が上がる。3曲目の「ノックブーツ」では、Ktjmがワウを効かせたユニークな音色でフレーズを奏でると、オオノが怒涛のスラップベースで魅せ、メンバーのプレイにノッた谷絹がフェイクを入れまくっていた。この1年で全国各地のフェスやイベントに出演し、いろいろなバンドと対バンをしていたChevon。様々な環境でのライヴを経験し、ライヴバンドと呼ばれる猛者たちと対峙したことが、メンバーやバンドのパワーアップに繋がったのだろう。随所からバンドの好調ぶりが伝わってきたのだった。

彼らは今回のZeppツアーを〈第2章〉の始まりと位置づけていた。ライヴの序盤、約3000人キャパのZepp Hanedaが国内最大級のライヴハウスであることに言及した谷絹は、「みんなの顔を見ながら、一人ひとりと対バンするように(ライヴを)やっていきたい」と噛みしめた。すでにアリーナやドームを見据えているからこそ、観客一人ひとりの顔をしっかり見てライヴできる機会を大事にしたいと思っているのだろう。またライヴの中盤では、2022年の初ワンマンの前に谷絹が忘れたくない気持ちを記した「薄明光線」を披露。バンドの原点を確かめるように、〈あなたと話がしたいんだ/細く枯れた喉の発した声に/真っ先に気付いてあげられるように〉と唄うこの曲から伝わってきたのは、演者と観客ではなく、心の隣人として、これからもあなたと向き合っていこうというバンドの意思だ。

後半のMCでは、オオノが「会場の規模は大きくなってきているけど、お客さんとどんどんコミュニケーションができるようになってきてる」と実感を語り、谷絹も「目に見える距離がすべてじゃない。心の距離が変わらなければ」と同調する。そして谷絹は、dualism(二元論)をもじったツアータイトル〈DUA・RHYTHM〉について説明。Chevonは善悪、美醜、光と影を唄ってきたと前置きしつつ、「会場が大きくなれば、一番後ろの人から見た私たちはどんどん小さくなるけど、それを超えるくらいバンドとして大きくなる」と宣言した。そんな谷絹の言葉から垣間見えたのは弁証法的なプロセスだ。


〈物理的な距離の遠さ〉と〈精神的な距離の近さ〉という対立する要素を統合することで、二元的な葛藤を超越した、より高次な存在へとバンドを昇華する。これからのChevonは、音楽をリスナーに提供するだけでなく、聴く人の新しい感情や思考を触発する存在になっていく。また、強烈な反応を引き起こすことで愛憎両方が生まれる可能性を引き受けつつも、個人の深い感情に訴えかけながら、社会的な現象を生み出すフェーズへ突入するということだろう。思えば、初インタビューの時にも、同調圧力にNOを示す姿勢や、一人ひとりを内から変えていきたいという意識を語ってくれた。そのための動きが、これから本格的に始まろうとしているのかもしれない。ツアーと同名の新曲「DUA・RHYTHM」は、演者がファイティングポーズを崩すことを一瞬も許さないような、激しいアッパーチューンだ。バンドのエネルギッシュな演奏からは、ここからまだまだ進もうという3人の覚悟が伝わってきた。

そして谷絹が観客に「ファイナルを伝説にするのは、あなただからな! 共依存でいこう」と伝え、ラストスパートをかけていく。谷絹が上着を脱ぐと同時に、バンドと観客の熱量がもう一段階上がった。第2形態への変身を思わせる強烈な光景、音像からも、Chevonの物語はまだ始まったばかりだと誰もが確信したはずだ。次に3人はどんな景色を見せてくれるのだろうか。その時私たちリスナーは、どんな新しい感情と出会うのか。期待はさらに膨らむばかりだ。
文=蜂須賀ちなみ
写真=タカギユウスケ

【SET LIST】
- 革命的ステップの夜
- ボクらの夏休み戦争
- ノックブーツ
- マイペース
- 愛の轍
- No.4
- 薄明光線
- ハルキゲニア
- さよならになりました
- サクラループ
- 大行侵
- DUA・RHYTHM
- ですとらくしょん!!
- 銃電中
- Banquet
- 冥冥
- 光ってろ正義
- セメテモノダンス
ENCORE
- アイシティ
- antlion
- ダンス・デカダンス

〈Chevon pre. よしなに 〜全国編〜〉
10月7日(火)Zepp Sapporo w/UNISON SQUARE GARDEN
10月19日(日)仙台GIGS w/フレデリック
11月3日(月)Zepp Osaka Bayside w/THE ORAL CIGARETTES
11月6日(木)Zepp Fukuoka w/須田景凪
11月11日(火)Zepp Nagoya w/indigo la End
11月15日(土)Zepp Haneda(ワンマン公演)