【LIVE REPORT】
THE YELLOW MONKEY〈TOUR 2024/25 ~Sparkleの惑星X~〉FINAL BLOCK
2025.06.13 at 神奈川・Kアリーナ横浜
彼らの現在と、29年前と、そしてこれからの像。今夜のライヴはこの3つのイメージが目の前で入れ替わりながら現れるかのようで、そのたびに心を激しく揺さぶられた。その意味で、とても印象深い夜になった。
まずは現在のことから書こう。
「THE YELLOW MONKEYの本編は始まったばかりです!」
これはライヴ本編の最後に置かれた「ホテルニュートリノ」のパフォーマンスの前に、吉井和哉が叫んだひとことである。普通に考えれば、そんなことはありえない。だって彼らの結成はもう37年も前で、この長い時間の中には休止と解散によって活動自体が消失していた15年間もある。そんなバンドの本編がこれからだなんてことは、現実的ではない。

しかし、それでも吉井がさっきのセリフを口にしたのには、重要な背景がある。この言葉は「ホテルニュートリノ」の歌詞に起因しているからだ。
〈人生の7割は予告編で/残りの命 数えた時に本編が始まる〉
吉井はこの曲を、自分の喉の病気が発覚したあとに作っている。リリースされたのは1年半近く前だが、今夜あらためて本人が強調した事実を思うと、彼は自分が書いたこの言葉の意味を今あらためて、身をもって強く感じているのだろう。本編が始まったばかり。それにこの歌詞を当てれば、つまり吉井は現実に〈残りの命〉を〈数えた〉のである。病はそれだけ逼迫したもので、その深刻さは去年の東京ドーム公演の後半に流されたドキュメンタリー映像でも明らかにされていた。
それだけ近年の吉井は、この病に向かい合いながら生きてきた。これと関係していることが、さっきの「本編はこれからです」の前のMCにある。
「自分はよく知らなかったんですけど、目に見えないものとか祈り、願い、そういうものの周波数があるとわかりまして。その周波数って、われわれがやっている音楽には付きものの言葉で。しかも、もしかしたら昔から言われている神がかり的なこと、神様的なことが、科学的なことと一致するんじゃないかなと思いながら、アルバムの制作に取りかかりました」


そうした思いを持ちながら、吉井は(いずれもこの日は演奏されなかったが)「SHINE ON」や「復活の日」のように、テーマ性に精神性や念のようなものを内包した楽曲を書き、これらを昨年のアルバム『Sparkle X』に結晶させた。本作には、年齢と経験を重ね、文字通り、酸いも甘いもくぐり抜けてきた彼らだからこそ鳴らせるロックの形がある。それによってTHE YELLOW MONKEYは、根本の部分はこれまでと変わらないながらも、思考や動きのひとつずつが、まさしく生きること、そして生命が燃え続けるさまを表現するバンドになったように思う。
「ニュートリノというワードが、ちょっとホテルみたいだなと思いました。〈人間の魂はこの身体に宿す〉と言うように、この肉体は魂のホテルなんじゃないかなと思っています。それが廃墟みたいに汚いホテルになるか、一流のホテルになるか、すごく癒されるホテルになるか。それは棲む魂次第なのかなと思いました。そんなことを考えながら歌詞を書いてるうちに、これってTHE YELLOW MONKEYが結成して以来ずっと唄いたかった、神様、祈り、魂、そういうものに通じるな、と。身をもってその世界をのぞかせていただくことができたと思います。そんな気持ちで作った楽曲です」
やや抽象的で、精神性につながるような話ではある。ただ、吉井は本当にこうした力に動かされ、助けられ、支えられていることを実感しながら生き、このツアーに挑んできたのだろうと、僕は考える。
アンコールでヒーセは吉井を紹介する際に「完全復活!」と言って讃えた。その通りだと思う。僕自身は昨春のファンミーティングから前述の東京ドーム、その後のフェスを経て、秋からのこのツアーと、計7回ほど彼らのライヴを見てきたが、この間の吉井は本当に少しずつ少しずつ状態を高めてきた。ただ、おそらくは楽観できない部分も多いはずだ。吉井は、そしてメンバーたち、スタッフたちは、目に見えないところで大変な思いに襲われながら、このツアーを続けてきたはずだと推察する。


続いて、29年前のことについて。
昨年10月からの本ツアー〈Sparkleの惑星X〉は、全体のBLOCKを1から3に分け、それぞれの何公演かごとに構成を刷新してきた。そこではリリースから30周年を迎えた各オリジナルアルバム『jaguar hard pain 1944〜1994』『smile』『FOUR SEASONS』の楽曲をピックアップし、その各々において当時のバンドが目指していた表現が今の解釈で、再び提示される感覚があった。
しかしこのFINAL BLOCKでフィーチャーされたのはアルバムという単位でなく、1996年の全国ツアー〈野性の証明〉だった。背景にはこのFINAL BLOCKの開催がツアー開始後の秋以降に決まったこと(吉井の状態を見極めての判断だったはず)があり、ただ、先ほどの流れでは次作となる6作目『SICKS』の30周年にはタイミング的にまだ早い。であればそれまでの間にかつての彼らが行ったツアー〈野性の証明〉に焦点を当てよう、という運びになったと考えられる。そのためこの夜は、1996年の〈野性の証明〉のセットリストを構成した楽曲たちが引き入れられていた。なにしろオープニングが、いまだにレコーディング音源が未リリースのままの「アヴェ・マリア」なのだ。それから「Spark」のイントロになだれ込み、吉井が客席に「ようこそ!」と叫ぶ流れは、まさに〈野性の証明〉の再現。おかげでこの日のステージには、野望に燃えさかっていた29年前の4人の像が何度もダブって見えたのである。
もちろんあの頃を思うと4人のパフォーマンスはうんと成熟している。〈野性の証明〉は映像作品としても残っているので関心がある方はぜひ見てみてほしいのだが、この違いをどう感じるのかは人それぞれだろう。〈今でもカッコいいな〉かもしれないし、〈さすがに歳をとったな〉かもしれない。〈踏ん張ってるな〉かもしれないし、〈演奏が昔と違ってる〉かもしれない。さまざま、あると思う。
僕個人は今夜、まずは当時のバンドにあった切れそうな鋭さやギラついた感触が薄いことを感じた。だけどそのかわりに、真摯に、それこそ命を打ち鳴らすかのようにパフォーマンスする姿に、何度も何度もグッと来た。おかげで涙がこぼれそうだった。いつか喉が壊れるかもしれなくても、仮に身体がボロボロになるかもしれなくても、この場に立ち、音を鳴らし続ける4人の覚悟。観ていて、心のどこかで〈ムリすんなよ〉と、〈そこまでやらんでも〉とも思ってしまう。しかし彼らは、やや余裕のあるスケジュールだったとは言え、このツアーをひとつもキャンセルすることなく、ここまでやり切った。そこにはライヴバンドとしての矜持があるはずだ。

最後に、これからについて。さっきまでの話の続きになるが……ステージ上で、時に発声が難しそうになりながらも唄い続ける吉井をこの1年あまり見続けてきて、それでも彼らは、このまま走り続けるしかないと腹をくくっているのだろうな、と思う。吉井の喉のことだけではなく、メンバーそれぞれのコンディションもあるだろう。そもそも4人中2人が還暦を超えているのだ。それでハードなライヴを続けているわけで、その中でハイレベルの演奏を行っていくこと自体が、とっくに並大抵ではない。
なのにこのバンドは、お互いが笑顔でいることを、茶化し合うことを忘れない。吉井はエマが曲間でちょっとしたことでも話そうものなら「あ、しゃべった!」と間髪入れずにツッコみを入れ、それに対してドラムセットに座るアニーは大笑いしている。「MOONLIGHT DRIVE」の演奏中のなごんだやり取り(横浜の第三京浜の話など)はあまりに自然体で、もう最高だった。そして……こうしたことのひとつずつが、この男たちが肩を寄せ合いながら、少しでも前へ進んでいこうと力を振り絞っているシルエットそのものに見えた。たぶんこのバンドはこうして先へ行くつもりなのだろう。吉井の言葉になぞらえて言うと、こちらとしては本当に願うしか、祈るしかない。少しでも彼らの音が鳴らされ続けていくことを。THE YELLOW MONKEYの本編。それはつまり、このバンドが命懸けでロックを鳴らしていく、そこで自分たちの真価を見せ続ける。そういうことではないかと思う。
そういえば「ホテルニュートリノ」の時、吉井はこちらに向かって、こう叫んだ。
「横浜! 魂、響かせて!」
この国、日本だからこそ生まれたロックバンド、THE YELLOW MONKEYの行く末。この先の彼らに何が待っているのか。魂を共鳴させながら、見つめていきたい。
文=青木優
写真=横山マサト

【SET LIST】
- アヴェ・マリア
- SPARK
- Chelsea Girl
- 罠
- Tactics
- VERMILION HANDS
- This Is For You
- Beaver
- Over
- 天国旅行
- Four Seasons
- ソナタの暗闇
- MOONLIGHT DRIVE
- ラプソディ
- ホテルニュートリノ
ENCORE
- CAT CITY
- SUCK OF LIFE
- JAM
FINAL BLOCK プレイリスト
https://tym.lnk.to/sparkle_final
NEW SINGLE「CAT CITY」
2025.07.09 RELEASE
■通常盤

- CAT CITY
- CAT CITY(Anime Size)
- CAT CITY(Instrumental)
■初回生産限定盤

- CAT CITY
【LIVE TRACKS】( TOUR 2024/25〜Sparkleの惑星X〜より) - SHINE ON -福岡サンパレスホテル&ホール- (2025.2.14)
- 罠 -広島文化学園HBGホール- (2024.11.7)
- ホテルニュートリノ -神奈川県民ホール 大ホール- (2024.10.15)
- Exhaust -やまぎん県民ホール 大ホール- (2025.4.13)
- ドライフルーツ -熊本城ホール メインホール- (2025.3.7)
- Beaver -愛知県芸術劇場 大ホール- (2025.4.22)
- Kozu -けんしん郡山文化センター 大ホール- (2025.2.11)
- ソナタの暗闇 -札幌文化芸術劇場hitaru- (2024.12.1)
- ラプソディ -フェスティバルホール- (2025.3.17)
- Make Over -倉敷市民会館- (2025.2.23)
- 復活の日 -大宮ソニックシティ 大ホール- (2025.1.24)
通常盤/初回生産限定盤 予約サイト
https://tym.lnk.to/26th_Sg
■BELIEVER.盤(FC盤)
●BELIEVER.盤-BLOCK.1 Edition- ※ファンクラブ限定商品(20,000枚限定)

- CAT CITY
【LIVE TRACKS】(TOUR 2024/25〜Sparkleの惑星X〜<BLOCK.1>より) - 薔薇娼婦麗奈 -神奈川県民ホール 大ホール- (2024.10.15)
- FINE FINE FINE -川商ホール(鹿児島市民文化ホール)第1ホール- (2024.12.13)
- A HENな飴玉 -札幌文化芸術劇場hitaru- (2024.12.1)
- ROCK STAR -仙台サンプラザホール- (202411.21)
- 遥かな世界 -名古屋国際会議場 センチュリーホール- (2024.11.1)
- 赤裸々GO!GO!GO! -広島文化学園HBGホール- (2024.11.7)
- 街の灯 -福岡サンパレスホテル&ホール- (2024.11.15)
- 悲しきASIAN BOY -愛媛県県民文化会館 メインホール- (2024.10.20)
- MERRY X’MAS -日本武道館- (2024.12.28)
●BELIEVER.盤-BLOCK.2 Edition- ※ファンクラブ限定商品(20,000枚限定)

- CAT CITY
【LIVE TRACKS】(TOUR 2024/25〜Sparkleの惑星X〜<BLOCK.2>より) - See-Saw Girl -東京ガーデンシアター- (2025.2.7)
- 嘆くなり我が夜のFantasy -福岡サンパレスホテル&ホール- (2025.2.14)
- イエ・イエ・コスメティック・ラヴ -名古屋国際会議場 センチュリーホール- (2025.1.8)
- ヴィーナスの花 -けんしん郡山文化センター 大ホール- (2025.2.11)
- サイケデリック・ブルー -仙台サンプラザホール- (2025.1.19)
- 争いの街 -大宮ソニックシティ 大ホール- (2025.1.24)
- 熱帯夜 -倉敷市民会館- (2025.2.23)
- Love Communication -大阪城ホール- (2025.1.15)
●BELIEVER.盤-BLOCK.3 Edition- ※ファンクラブ限定商品(20,000枚限定)

- CAT CITY
【LIVE TRACKS】(TOUR 2024/25〜Sparkleの惑星X〜<BLOCK.3>より) - Sweet & Sweet -仙台サンプラザホール- (2025.3.20)
- I Love You Baby -福岡サンパレスホテル&ホール- (2025.4.4)
- ピリオドの雨 -NHKホール- (2025.4.30)
- Love Sauce -フェスティバルホール- (2025.3.17)
- 月の歌 -レクザムホール 大ホール(香川県県民ホール)- (2025.3.27)
- 太陽が燃えている -レクザムホール 大ホール(香川県県民ホール)- (2025.3.27)
- Father -愛知県芸術劇場 大ホール- (2025.4.22)
- 空の青と本当の気持ち -やまぎん県民ホール 大ホール- (2025.4.13
- 追憶のマーメイド -オーバード・ホール 大ホール- (2025.3.14)
ファンクラブ限定『BELIEVER.盤』 予約サイト
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