怒髪天・増子直純が、人生の兄貴分・先輩方に教えを乞い、ためになるお言葉を頂戴する『音楽と人』の連載「後輩ノススメ!〜オセー・テ・パイセン♥〜」。その〈補講編〉として、誌面に収まりきらなかったパイセン方のありがたいお話をWebにて公開していきます。
第12回のゲストは、THE COLLECTORSのギタリストであり、近年はバンドと並行してソロでもコンスタントに活動を行なっている古市コータロー。昨年還暦を迎えたばかりの彼と、長い付き合いとなる増子との対話をここにお届けします。長年バンドをやってきた者同士のリアルなトークをどうぞ。
付き合いの長いお二方ですが、最初の出会いは、いつ頃になるのでしょうか?
古市「最初に喋ったのは、KENZI&TRIPSとの新宿ロフト(KENZI&TRIPS主催〈クソッたれナイト〉)のライヴ打ち上げだよね。そこから、いろんなところでちょくちょく会うようになって」
増子「そうそう。でも当時、八田さん(八田ケンヂ/KENZI&TRIPS)とコレクターズが繋がってるのが、不思議だったんだけど」
古市「八田くんとは同い歳なんですよ。ただ彼と知り合ったのは、ピロウズがきっかけで。ピロウズと対バンやった時、八田が観にきたんだけど、もうすべて終わっててさ(笑)」
打ち上げすらも(笑)。
古市「そうそう(笑)。で、気の毒だから『ちょっと呑みいくか』つって、一緒に呑んだのが始まり。そのあと当時コレクターズもケントリもテイチク所属でレーベルメイトだったんだよね。〈テイチクナイト〉みたいなのが中野サンプラザであって。そこで一緒になったりもして」
どんなメンツだったですか?
古市「SIONとケントリとコレクターズ。あとKATZEがいたかなぁ?」
増子「おお、KATZE!」
古市「しかも打ち上げはディスコ貸し切りですからね。いい時代ですよ(笑)」

そのテイチクに、今、怒髪天が所属してるというのも、何か縁を感じますね。今回、増子さんが、コータローさんに聞いてみたいことはありますか?
増子「そうねえ……月並みだけど、健康のためにやってることとかあります?」
古市「うーん……何にもないかな。ジムに行ってるけど、これはだいぶ昔からだし」
いつ頃から通いだしたんですか?
古市「33歳からかな」
増子「早い!」
古市「途中、ボクシングも10年間やってたかな。あの頃はアスリートなのかミュージシャンなのかわかんない時期だったよね(笑)」
増子「あははは。じゃあ、もはやジム通いはルーティンワークみたいなもんだ」
古市「そうそう。昔からギタリストのシルエットっていうものを大事にしているんですよ。これだけは自分の中では譲れないなっていうところで」
増子「それはもう絶対大事」
古市「ベーシストとかだとね、太っててもカッコいんだよ。でもギターはダメだね。もし太るならB.B.キングぐらいまでいかないと」
お腹に乗っけるぐらいじゃないとダメだと(笑)。
増子「やっぱ、コータローさんと加藤さん(加藤ひさし/THE COLLECTORS)に俺が望んでんのは、変に好々爺っていうか、どんな後輩にも優しい先輩になってほしくない、ってことでさ。まあ、絶対ならないとも思うんだけど(笑)」
くくくくく。
増子「ちょっと嫌な感じの先輩でいてほしいんだよなぁ。〈なんかあの人、めんどくさいな〉みたいな(笑)。そういうポジションってすごい大事だと思うし、カッコいいと思うんだよ」
古市「いやいや、それは加藤さんに任せるわ(笑)」
増子「あははははは! あとコータローさんは、新しい道、新しいパターンを示してくれる先輩でさ。それこそ息子と一緒にバンドやって、それでツアー廻るなんて、海外だとけっこうありそうだけど、日本ではあんまりないじゃない。それに父親側はよくても、息子がそれをよしとすることってあんまりないと思うのよ。〈親父とやりたくねぇよ〉ってなりそうじゃん。でもそうならず、しかもすごく楽しそうにやってるのを見ると〈ほんといい親子の関係だな〉って思うし、理想的だよね」
古市「いやまぁ、俺は10歳から親父がいなかったからさ。いわゆる父親としての在り方みたいなことがわからないわけですよ。だから、ただひたすら可愛がってきただけで、どう怒ればいいかもわかんなかったし、褒め方もよくわかんない。そういった意味じゃ、親らしい教育とか何もやってないんだよね。毎年、お年玉をあげるぐらいで(笑)」
増子「それ、親戚のおじさんもやるから(笑)」
古市「だからまぁ、俺が心配しなくても、子供は勝手に育つんだなと思ったね。もちろん母親含めて、周りの人たちがいろいろやってくれたおかげでもあるんだろうけど」
それを今、感じてるところもあるわけですね。いまやコレクターズは、メンバーの3/4が60代になるわけですが、まだまだ現役バリバリのライヴバンドでもあって。
増子「そう考えると、恐ろしいな(笑)。でもコレクターズは、ずっと音楽に真摯でさ。やっぱり長年やればやるほど温くなったり、鈍っていくのが常だけど、コレクターズは毎回新曲がいいし、チャレンジが多い。そこも含めて本当にいいんだよな」

コータローさんは、コレクターズと並行してソロでも活動もされていますよね。それこそ50歳の時に20年ぶりにソロアルバムを出されて以降、コンスタントにソロ作品を発表されていて。
増子「またソロアルバムが、毎回いいんだよなぁ。我々の世代が思う〈バンドのギタリストのソロアルバム〉なのよ。やっぱりこうじゃなきゃなっていうのがある」
古市「今増子が言った、〈我々の世代〉っていうところがひとつポイントだよね。だからすごい和モノロックというかさ、そういうものも今は素直に出せるし。やっぱりコレクターズ初期の頃はさ、〈日本のロックなんか知りません〉みたいな顔してやってたところがあったわけよ(笑)。けど、もう歳も歳だし、しかもソロだからさ、自分のルーツを露骨に出してもいいんじゃないかと思ってね」
増子「バンドよりも制限がないというかね。そういう感じがソロにはあって、そこもすごく面白い」
古市「最初に出したソロアルバムとかはさ、まだ若かったし、〈こう見られたい〉とか、〈こういう立ち位置になりたい〉みたいな気持ちが勝っちゃってたところがあったんだけど」
それは『The many moods of KOTARO』(1992年作)の頃ですか。
古市「そうね。でも今は、そこもどうでもよくなっちゃう。投げやりな意味じゃなくてね。どう見られようが全然関係ない」
増子「やりたいことが優先」
古市「そうそう。あとこれは、コレクターズの作品に関しても言えるんだけど、〈このアルバムが最後かもしれない〉っていう気持ちを持って作ってるところがあって。いつまでもメジャーで出せるかわからないじゃない。それにアルバムっていう時代じゃなくなってる気もするしね。そういう意味でも、最後かもしれないなっていう気持ちでやろうというのは前作くらいからありますよね」
だからこそ、やりたいことを形にして悔いのないようにしたい。そういう気持ちがより強くなってきた感じがある。
古市「うん、ほんとそうだね」
増子「それは俺らもすごく思うところであって、いろいろ考えることはあるよね。でもこうやって先に歩いている人がいるから、あとに続く我々としてはやりやすいところはあるよね」
すぐ近くで背中を見せてくれる先輩がいると。
増子「あとコレクターズにしても、コータローさんにしても、ちゃんと今の時代の流れっていうのも気にしてるからね。そうやって先を歩いている姿を見てて思うのは、やっぱりいい先輩だなってことでさ」
古市「自分で言うのも何だけどさ、真面目に生きてるんだよね」
増子「そう、真面目じゃないとやってられないし、バンドも続かないよね」
古市「ほんとそうだと思うよ。この世界そんなに甘くないから」
不摂生な生活であったり、破天荒であるほうがバンドマンとしてカッコいい、みたいな時代もありましたけど、長く続けることができたのは、バンドや音楽に対して真摯に、真面目に向き合ってきたからこそであると。
古市「そうだよ。だから結局思うのは、長くバンドをやってる人間は、根が真面目なんだよ。それに破天荒な生活を続けてたら、身体がもたないからね」
増子「そう、身体がキツくて絶対に続けられない。あと、破天荒なことはやり尽くすというか、飽きる。こんな疲れるのはもういいやって思っちゃうもんね。何も生み出さないし」
古市「うん、飽きるし、意外とすぐにやり尽くしちゃう」
ちなみにアンチエイジングじゃないですけど、年齢を重ねることに抗いたい、という感覚はありますか?
古市「ないね。若ぶるつもりもないし、妙に年寄りぶるつもりもないし」
増子「加速させる必要もないけど、抗う必要もない。あとたぶん若ぶるヤツっていうのは、ちゃんと歳を重ねられなかったからなのかなって思うのよ。だからそういうヤツ見ると、なんかちょっと哀れだなって感じるというかね」
古市「そうだね。あと呑み屋とかジムに行くとさ、文句ばっかり言ってるじいさんがいるんだよ。あれも嫌だね。カッコ悪い。やっぱりいろんな経験を積んできて、その経験を活かして〈余裕よ〉って感じで人に優しい、むしろ腰が低いじいさんのほうがカッコいいなって思うよ」
増子「物腰の柔らかい感じというかね」
古市「でも実際歳とって思うのは、若い頃だったら〈んだよっ!〉って怒ってたことでも、〈いやいや、大丈夫〉ってなれるのって、たぶん余裕半分、どうでもいいも半分なんだよね」
増子「そう、なんかどうでもよくなるというかね。それは俺もすごい感じてて。若い頃だったら絶対許せなかったことも、まあまあ〈人は人かな〉って思えるように少しはなったもんな。まあそれでも俺の場合、怒りの沸点はまだ低いかもしれないんだけど(笑)」
古市「やっぱ歳とる良さとして、心のキャパシティが広がるっていうのはあると思うんだよ。だから、歳とることはすごく好きなことではあるんだけど、ただ60って数字を見ちゃうと、ちょっと重いなとは思うんだけどね。だからさ、70の時は、もっと来るものがあるんだろうなとは思うよね」
増子「でもやっぱコータローさんを見てると、今の60歳って若いなって思うよね」
古市「でも若々しくしてて、長生きした人が亡くなっちゃった時、病院の人に話聞くとね『やっぱ、中身は歳相応だったよ』って(笑)」
増子「ははははは! それはしょうがないわ。エンジンが新しいわけじゃないから」
古市「そうそう。でもやっぱり嬉しいですよ。60歳まで生きたし、今もバンドができていて、それこそメジャーからリリースもできてるのは、ここまで頑張ってきてよかったなって思うことだし、感謝しかありませんよ。それは本当に素直に思いますね」
増子「いい話。ただやっぱりそう思えるのは、〈こういうふうにしたい〉とか〈こういうふうになりたい〉って、自分のやりたいことにキチンと向き合い続けて、それを実現してきたからこそなんだよね。ほんと素晴らしいことだよ」
古市「だからまぁそうね……一旦ここで成功とさせてくださいよ(笑)」
増子「あははは!」
古市「もちろんこの先も目指しますけどね。一旦、ここで成功と言っても罰は当たらないかなって。そういう気持ちはありますね、今」

文=平林道子
古市コータロー INFORMATION
LIVE ALBUM
『君がいた丸の内のブルース LIVE AT COTTON CLUB』
2025.05.30 RELEASE
※VINYL ONLY/オフィシャルサイト・ライヴ会場で販売

【SIDE-A】
- Oh My Dear!
- Heartbreaker
- Song Like You
- Tonight
- ホンキートンクタウン
【SIDE-B】
- 子供たちの子供たちの子供たちへ
- ROCK 'N' ROLL IS MY LIFE
- モノクロームガール
- 涙はいつも遠くに光る
- Mountain Top
- Yesterday Today & Tomorrow(Closing)
〈古市コータロー・ソロバンド・ライヴ「根岸Stray Cat Blues」〉
8月23日(土)東京キネマ倶楽部
怒髪天 INFORMATION
NEW ALBUM
『残心』
2025.04.23 RELEASE

- 決意の朝に
- エリア1020
- 銃刀法違反
- ロックスターロック
- 先細りのブルーズ
- yallow magic orchestra(野郎魔術楽団)
TOWER RECORDSで購入
Amazonで購入
HMVで購入
〈子供ばんど "おかげさまで45周年 ~祝!生存確認スペシャル~"
『弱きを助け強きを挫く』心強き後輩たちに支えられ(涙)〉
7月19日(土)名古屋Electric Lady Land
7月20日(日)心斎橋Music Club JANUS
ACT:子供ばんど / フラワーカンパニーズ / 怒髪天
〈怒髪天 presents BAKA CLASICO 2025
"昭和100年男呼唄 ~横浜編~"〉
8月22日(金)F.A.D YOKOHAMA(ワンマン)
8月23日(土)F.A.D YOKOHAMA(w/ 柳家睦とラットボーンズ)
〈怒髪天 presents 中京イズバーニング 2025
"昭和100年男呼唄 ~池下編~"〉
9月27日(土)名古屋CLUB UPSET(w/馬渕太成&TACTIX)
9月28日(日)名古屋CLUB UPSET(ワンマン)
〈エリア1020 TOUR〉
6月14日(土)郡山HIP SHOT JAPAN
6月15日(日)石巻BLUE RESISTANCE
6月21日(土)松本ALECX
6月26日(木)京都MUSE
6月28日(土)広島セカンド・クラッチ
6月29日(日)岡山ペパーランド
7月5日(土)金沢vanvan V4
7月6日(日)岐阜ants
7月12日(土)水戸LIGHT HOUSE
10月29日(水)千葉LOOK
11月1日(土)高松DIME
11月3日(月/祝)福岡LIVEHOUSE CB
11月5日(水)四日市CLUB CHAOS
11月8日(土)新潟GOLDEN PIGS BLACK
11月9日(日)高崎Club JAMMER'S
11月23日(日)仙台Rensa
11月28日(金)、29日(土)札幌cube garden
2026年
1月24日(土)、25日(日)名古屋CLUB QUATTRO
1月31日(土)、2月1日(日)梅田CLUB QUATTRO
2月10日(火)、11日(水/祝)渋谷Spotify O-EAST