怒髪天・増子直純が、人生の兄貴分・先輩方に教えを乞い、ためになるお言葉を頂戴する『音楽と人』の連載「後輩ノススメ!〜オセー・テ・パイセン♥〜」。その〈補講編〉として、誌面に収まりきらなかったパイセン方のありがたいお話をWebにて公開していきます。
第11回のゲストは、日本を代表する俳優であり、歌手としても数々の名曲を世に送り出してきた梶芽衣子。昨年アナログ&配信のみでリリースしたアルバム『7(セッテ)』に、新曲と追加トラックを加えた『7 rosso (セッテロッソ)』を3月26日にCDでリリースするなど、70代に入り音楽活動を活発化させている大先輩と語りあう〈うたの魅力〉。そして今年芸能生活60周年を迎えた梶さんの貴重なエピソードも合わせてお届けします!
梶さんは、70代に入られてから音楽活動を活発化されていますが、改めて歌というものに向き合うきっかけが何かあったのでしょうか?
梶「ちょうど『鬼平犯科帳』シリーズが終わったタイミングで、『7-セッテ-』をプロデュースしてくれた鈴木慎一郎くんが突然私のところに来たの。彼は、私が東映から離れてしばらくした時に出したアルバムのプロデューサーだった鈴木正勝さんの息子さんでね。『僕、芽衣子さんの曲をこれだけ作りました』って曲を持ってきたのよ。しかも『父がプロデュースした作品を聴いて、〈もし僕だったら絶対あんな形にはしない〉ってずっと思ってた』なんて生意気なことを言ってね(笑)。それで持ってきた曲のほとんどがロックだったんだけど、聴いてみたらどれも良くてね。それでまず〈凛〉っていう作品を録って」
シングル「凛」を出されたのが、2017年。ちょうど70歳になられるタイミングですね。その翌年には、43年ぶりのオリジナルアルバム『追憶』もリリースされて。
梶「そう。私ね、ずっと新人の頃から、10年毎にどうありたいかってことを考えることにしてるんですよ。それで70歳になって、〈さてこの先の10年どうしようかな?〉って思っていたところに、赤ちゃんの頃から知ってる子が、私に曲をプレゼントしてくれてね」
増子「そういう縁ってありますよね」
梶「ほんとそう思います。今もこうやってまたアルバムを出せて、コンサートもさせていただいてるわけだから、ほんと感謝しかないです」

ちなみに還暦を迎えた際は、どんな10年にしたいと思われたのでしょうか?
梶「60の時は、役者を、とくに時代劇をまっとうしようという思いでしましたね。というのも、『鬼平〜』の〈おまさ〉は自分がやりたくてやらせていただいた仕事なんですね。ある日の朝刊を開いたら、〈中村吉右衛門、鬼平クランクイン〉って書いてあって。〈え! 吉右衛門さんが出られる時代劇なら、どんな役でもいいからご一緒したい!〉って思って、これはもう完全にルール違反なんだけど、ドラマの制作会社の方にお願いしたのよ。ただ、レギュラー陣はもう決まってる状態で、池波正太郎先生の遺言で、『原作に出てない役は出すな』というのがあったのね」
クランクインしてるということは、大方キャスティングも決まっているわけですもんね。
梶「だからレギュラーなんか絶対に無理だと思ってたんだけど、原作に出てくる、でもドラマだと5話ぐらいからしか出てこない〈おまさ〉の役は、その時点でまだキャストが決まってなかったのよ」
増子「梶さん、持ってますね!」
梶「ええ、わたし持ってました(笑)。本当に運命を感じましたよ。それもあって、とにかく〈おまさ〉をまっとうするしかないって。しかも自分がお願いする形でやらせていただいたわけですからね。でも話は前後しちゃいますけど、一番時代劇にどっぷりだった時期に増子さんから、ゲストに出てもらえないか?というお話をいただいて」
それが2009年ですね。怒髪天の結成25周年記念イベント(〈オールスター男呼唄 秋の大感謝祭 -愛されたくて…四半世紀-〉@SHIBUYA-AX)にゲスト出演されて、梶さんが怒髪天の「うたのうた」を唄われました。
梶「そう。どうしてもドラマや映画の場合、数週間とか長い時間が取られてしまうじゃないですか。その頃は、基本的に京都で撮影してたので、作品の掛け持ちがなかなか難しくて」
時代劇は、ほぼ京都の撮影所での撮影になりますもんね。
梶「でもライヴの場合、練習時間はさておき、本番は1日だけじゃないですか。だからせっかくのお話ですし、おこがましくも出させていただいてね。図々しくも唄っちゃったの」
増子「いやいやいや。もう最高でしたよ! そのあとにも、俺らのライヴで〈唐獅子牡丹〉を唄っていただいたりして。それもほんと素晴らしくてね。『野良猫ロック』や『女囚さそり』の頃から変わらないというか、やっぱり歳重ねてもカッコいいっていう人は――」
梶「その〈カッコいい〉なんだけど、私は意識したことないんですよ」
増子「だからカッコいいんじゃないですか。やっぱカッコよさって、その人が背負ってるもの、纏っているものから感じるものだと思いますし」
梶「そうなのね」

『野良猫ロック』とか『女囚さそり』に出られていた当時、梶さんみたいな雰囲気をもった女優さんは、珍しかったかと思うのですが。
梶「そうかもしれませんね。というのも私がデビューした時にいた日活という会社は、石原さん(石原裕次郎)や小林さん(小林旭)がいて、石原さんだったら浅丘さん(浅丘ルリ子)というふうに、みなさん相手が決まっちゃっていて、自分が入っていく余地はどこにもない状態だったんですよ。それで、私と渡くんが同期なんですけど」
増子「渡くん!!(笑)」
渡哲也さん、のことですよね??
梶「ええ。ふたりとも新人だから、イベントとかがあると一緒に呼ばれて、どこへ行くにもセットだったの。でも渡くんは、〈第二の石原さん〉や〈第二の小林さん〉を会社が探してる中で、絶好のキャラが入ってきた感じだったから、すごく力を入れてもらえているのよね。だけど私は、そんな感じではなかったから、自分自身で自分をプロデュースしないと置いてかれるなっていう気持ちがすごく強くあってね」
新人時代に、すでに自己プロデュースを意識されたんですね。
梶「だってどんどんすごい差がつくんだもん! それは考えますよ。やっぱり同期だし、すごく悔しくて。それで考えたの。〈この会社には清楚な女優さんは多いけど、非行少女がいない。じゃあそのイメージを自分で売り込んでみたらどうだろう?〉って。それでまず形から、外見からやってみたの」
どんなスタイルをされたんですか?
梶「その頃って、紺のスカートに清楚なブラウス着て、みたいな、作り上げられた〈女優像〉があったんだけど、ジーンズを履いて白いYシャツ着て撮影所に行くようにしてね。『あなた、女優さんなんだから、もっとそれらしい格好しなきゃいけないよ』って所長さんに言われたりしたんだけど、それでもそのスタイルを通してたら、『野良猫ロック』の話が来たりして。そこから始まったんです」
増子「梶さん発信だったんですね! 『野良猫ロック』、『女囚さそり』シリーズって、サブカル好きは間違いなく通る映画だけども、劇中のファッションとか音楽は、当時の先端をいってたんじゃないですか?」
梶「ええ。でもちょっと時代的に早すぎちゃったところが、悲劇だったかなって思うわ。のちのち、タランティーノ(クエンティン・タランティーノ)によって再評価されたところもあるけど、当時は、メジャーになりきれない、そんな作品になってしまいましたよね」
それこそクエンティン・タランティーノが監督した映画『キル・ビル』の劇中歌とエンディングナンバーは、梶さんの曲ですよね。
増子「〈修羅の花〉と〈恨み節〉ね」
梶「ただね、当時は主題歌にしても挿入歌にしても、撮影がすべて終了したあとに作るんですよ。それで〈恨み節〉も、シリーズの1本目(『女囚さそり 701号怨み節』)を全部撮り終えた時に、監督に『これを唄いましょうね』って言われてね」
えっ!? クランクアップしたあとにいきなり「唄って」って言われたんですか?
梶「そうよ。しかも『セリフがないほうがいい』って私が言ったアイディアが採用されて、劇中でひとことも喋らない役柄だったのに、最後に唄いましょうって言われてもねぇ。どんな顔して唄えばいいのよと思って、『できない』って言ったの。そしたらすでに曲ができてるわけですよ。もう、揉めた揉めた(笑)」
増子「あはははは!」
梶「結局は、やることにしたんだけど、渡された曲が演歌調で。〈このメロディ、テンポの歌を私はどうやって唄えばいいの?〉って思ってたら、映画の音楽も担当されていた菊池さん(菊池俊輔/作曲家)が『芽衣子ちゃん、4ヵ月間演じていた松島ナミさんが唄うと思ってくれればいいよ』って言ってくれたの。私それでホッとしたんですよ」

メロディを気にせず、役を演じるように唄ってくれればいいと。
梶「だから本当にナミさんの心境で唄いました。『女囚さそり』は4本やりましたけど、いつも毎回最後に〈恨み節〉を録っていて」
増子「へぇ~、毎回録音されてたんですね」
梶「ええ。そしたら、シリーズ4本観たというあるファンの方が、〈怨み節〉が毎回違うって言うんです。そこに気づいたってことにも驚いたんだけど、確かに私は4本ともナミさんで唄ってるから、作品によって心情は変わりますよね。私自身、作品ごとに唄い方を変えようだなんて意識してないのだけど、ナミさんで唄ってるから、作品ごとの気持ちが歌にも出てたみたいなのよ」
増子「やっぱ歌って、その人が内包してるものが出てくるものだからね。何ヵ月もやってた役柄が歌にも出てくるんだろうな」
梶「だから私、いまだに〈怨み節〉が、いつ何時どこで唄っても、絶対に同じものがないと思っていて」
増子「でも歌って、究極それなんですよね。同じ歌、同じ歌い手であっても、その時々で聴こえ方、届き方が変わるもので」
梶「ほんとそう。でも楽しいわよね、歌って」
増子「楽しいですね」
梶「増子さんに初めて呼んでいただいて唄わせてもらった時に、新鮮な快感と解放感を味わったんですよ。そして今こうやって歌をやらせていただいて、お芝居とは違う、新たな楽しさを感じられているのは、ほんと嬉しいですね」
増子「あの、歳を重ねることによって、いろいろできなくなったという話はよく聞きますけど、逆に、今だからできるようになったことって何かありますか?」
梶「私、〈不足不満は不幸を呼ぶ。感謝と寛容は幸せを呼ぶ〉というのをモットーにしてるんだけど、初めて感謝と寛容を感じたのは、『鬼平〜』を始めてからなのね。それまではそれどころじゃなかった。私、27歳の時に結婚を失敗してるし、もうひとりで生きなきゃなんない、誰も助けてくれないっていう思いでがむしゃらにやってきて、感謝と寛容なんてことを感じている余裕がなかったんです(笑)。むしろ不足不満のほうが多いわけですよ」
増子「若い頃は、だれしも不足不満が多いものですしね」
梶「そう。だから歳を重ねることによって、できるようになったことは、感謝と寛容ってことかしら。それはほんとよかったなと思ってます」
増子「〈不足不満は不幸を呼ぶ。感謝と寛容は幸せを呼ぶ〉。いやぁ、いい言葉だ!」
梶「役のイメージはさておき、私は全然パーフェクトな人間なんかじゃないし、マイナスの部分のほうがたぶん多いと思うんです。だからこそ、寛容になる、許すっていう気持ちはとっても大事だと思うのね。あとできるようになったことは……健康に気を使えるようになったことかしらね」
増子「確かに、健康じゃないと何事もできないですからね」
梶「そうなんですよ。しかも元気じゃないと楽しくないじゃない。昔は、ほんとに軟弱だったんだけど、まさかここまで生きちゃうなんて自分でも信じられないですよ。私の母は、77で亡くなったんだけど、その年齢になりましたから」
そうなると、ここから未知の世界ですね。
梶「未知の世界だけど、あと10年は生きたいわ」
増子「絶対に大丈夫だと思いますよ」
梶「増子さんの保証付き?(笑)」
増子「ええ、保証させていただきます!」

文=平林道子
梶芽衣子 INFORMATION
NEW ALBUM
『7 rosso (セッテロッソ)』
2025.03.26 RELEASE

- 真ッ紅な道
- 心焦がして
- 上等じゃない
- 愛の剣
- 恋は刺青
- 女…
- 虫けらたちの数え唄
- 星空ロック
- とばり
- それだけで…
- 修羅の花
- 凛
- 追憶
- ゆれる
- 役者
- 怨み節
- き・せ・つ
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怒髪天 INFORMATION
NEW ALBUM
『残心』
2025.04.23 RELEASE

- 決意の朝に
- エリア1020
- 銃刀法違反
- ロックスターロック
- 先細りのブルーズ
- yallow magic orchestra(野郎魔術楽団)
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〈子供ばんど "おかげさまで45周年 ~祝!生存確認スペシャル~"
『弱きを助け強きを挫く』心強き後輩たちに支えられ(涙)〉
7月19日(土)名古屋Electric Lady Land
7月20日(日)心斎橋Music Club JANUS
ACT:子供ばんど / フラワーカンパニーズ / 怒髪天
〈芸歴30周年記念『モリマンフェス』〉
6月6日(金)北海道・Zepp Sapporo
詳しくはこちら→ https://sapporo.yoshimoto.co.jp/moriman-fes/
〈エリア1020 TOUR〉
6月1日(日)熊本NAVARO
6月3日(火)神戸VARIT.
6月14日(土)郡山HIP SHOT JAPAN
6月15日(日)石巻BLUE RESISTANCE
6月21日(土)松本ALECX
6月26日(木)京都MUSE
6月28日(土)広島セカンド・クラッチ
6月29日(日)岡山ペパーランド
7月5日(土)金沢vanvan V4
7月6日(日)岐阜ants
7月12日(土)水戸LIGHT HOUSE
10月29日(水)千葉LOOK
11月1日(土)高松DIME
11月3日(月/祝)福岡LIVEHOUSE CB
11月5日(水)四日市CLUB CHAOS
11月8日(土)新潟GOLDEN PIGS BLACK
11月9日(日)高崎Club JAMMER'S
11月23日(日)仙台Rensa
11月28日(金)、29日(土)札幌cube garden
2026年
1月24日(土)、25日(日)名古屋CLUB QUATTRO
1月31日(土)、2月1日(日)梅田CLUB QUATTRO
2月10日(火)、11日(水/祝)渋谷Spotify O-EAST