INTERVIEW②
文=金光裕史
いいアルバムですね。「知らぬ存ぜぬ」のハードコアっぷりとか最高です。
「今回はさ、ミッドテンポな曲とかは始めからやるつもりなくて。もちろん、やろうと思えばできんだけど、なんかブラフマンでやんなくていいかなって思った。〈今夜〉みたいな曲とか作っといてなんだけど(笑)」
ははははは! BUNTAIライヴ後のインタビューで、今回はデモを作ってバンドに持っていったと話してましたね。
「いつもは、〈こんな感じ〉って口頭で伝えて、みんなに1から10まで試してもらって、思い描く肌触りを探っていってたの。だから〈もっとハードなのに〉〈もっともっとソフトなのにな〉ってなったら、『違う。もっとドーンと』とか『もう少し遅く、柔らかく』っていちいち言ってたわけよ。でもさ、みんな歳とってるから疲れるじゃん。早く帰りたいだろうし(笑)」
わははははは!
「だからある程度、下書きを作っていこうと思って。千本ノックは相手が必要だけど、素振りだったらひとりでできるわけじゃん。でもその素振り段階のことをやらずに、メンバーに頼ってたから、ちょっと恥ずかしいなって思ったのもあるかな」
でも昔は、メンバーに頼ることで生まれてくるものを大事にしてたじゃないですか。
「それは今もあるよ。〈最初に自分が思い描いてたのってなんだっけ……まあ、これもいいか〉って感じで、頼る中で生まれてくる〈誤算〉が楽しかったし、自分が思いもしなかったものになるのも面白い。ただまあ……たぶん音楽が多少できる人になったんだよ。ちょっとおこがましいけどさ」
間違いないよ。でもなんで今回は、あらかじめデモを作って持っていくことにしたの?
「頭の中にある下書きを、もうちょっとクリアに出すためにはそれしかなかったんだよね。ただ、俺は自分の才能を信じてないから、自分で作り出したものを客観的に判断できないのよ。で、曲を一番始めに持っていく相手はメンバーじゃん。そのメンバーから『これ、どうしようもねえな』って言われたらボツにしようと思ったけど。でもそうじゃなかったから、〈あ、思ったよりはできてんじゃん〉って、多少自信にはなったよね。30年バンドやってて、50になってようやくそれかよって話だけど(笑)」
あと曲のテーマなり音の方向性が、デモから見えてるから、メンバーもガシガシ変えていこうってならなかったんじゃない。
「うん。言葉にするとなんだろう……〈物悲しさ〉っていうのがテーマとしてあるのかな。単純に悲しい曲をやろう、じゃなくてね。物悲しい理由があるから、そこに向かってみんなで絵を描くってことだったのかもしれない、今回は」
〈物悲しさ〉もそうだけど、このバンドやTOSHI-LOWがそもそも持ってる根っこの部分は変わらないまま、その捉え方や表現の仕方が変わってきたなと、あらためて感じますね。
「俺さ、よく『いつ死んでもいい』って言ってきたじゃん。でも、10年後のことをつねに考えてるのよ。そういう自分の中の矛盾もずっと言ってきたけど、30代の時に『40歳になったらこうするべき』、40になったら『50歳にやるべき10のこと』みたいな、10年先に備えるような本を読んでんの」
啓発本だ(笑)。
「そうそう(笑)。でもそうすると、今から何が起きるのかってことだけは、なんとなくわかるわけよ。〈あ、本に書いてあったのは、これのことか〉って。そうやってだんだんと気づくことで、物事に対する捉え方とか対処の仕方も変わってくるんだよね」
TOSHI-LOWの場合、一貫して己の死生観をもとに〈生と死〉を書いているわけですけど、その角度が少しずつ変化しているのは、今回のアルバムからも感じます。
「別にそのことばっかり唄おうとも思ってなかったけど、選択肢がいくつかあったとしても、結局はそっちのほうに行っちゃうんだよね。あと、俺は〈言葉を紡ぐ人〉じゃなくて、〈言葉を選んでる人〉なんだっていうことがわかっちゃったんだよね」
選んでる人?
「そう。〈クリエイター〉じゃなくて〈セレクター〉なんだよ。誰かが書いた本や詩、何かでたまたま目にした言葉でハッと思うことを、頭の中でピックアップしてる。自分で作れないっていうある種のコンプレックス的なものもあるけど、それなら俺しかできないブレンドをするべきじゃないかって思ってて」

そのセレクターが今回選んだ言葉たちが、いわゆる〈死〉に繋がっているものが多くなったのは、やっぱりツネちゃん(恒岡章/Hi-STANDARD)やチバ(ユウスケ/The Birthday)といった、身近な存在の〈死〉に対して、いろいろと感じたことがあったとは思いますか?
「なんだろ、俺はたぶん弱いから、さっきの10年後の啓発本じゃないけど、ずっと準備してんのよ(笑)。だから、平然としてるように見えるんだろうけど、そりゃ歴が違うもん」
ずっと〈死〉に直面した時のことを準備してきてるんだ、と。
「ずーーーっと準備してるから。いつか突然失う時が来ても、〈それは仕方がないものだ〉って思える、自分の中の理論がちゃんとあるんだよ。だからこそ、次の日も生きていられるというか」
怖いから準備するんだよね。ただ昔の曲には、〈死に対するヒロイズム〉みたいなものがあったと思うんですよ。
「カタルシス的なものというかね」
〈こういう死に方はカッコいいよな〉っていう憧れと、〈いつかこういうことが来るんだろうか〉という恐れが、つねに同居していたというか。でも今回は、〈死〉というものがより身近になったがゆえの感情が出ていますよね。
「あーそうかもね。自分自身の〈生と死〉に対しては、カッコいいか、カッコよくないかだけで考えるところがあるけど、他の人における〈生と死〉には、カッコいい/カッコよくないじゃなくて、ある種の〈慈しみ〉みたいなものが入ってくるね。〈この人はよく生きたんじゃないか〉って思う部分のほうが大きい。あと、50歳になったのもデカいんだろうね。たぶん40ぐらいまでは、ゴールが体感的にもうちょっと先にあったんだよ。でも〈50歳〉ってなると、よりリアリティがデカくなってくる」
昔の自分だったら、いつか来るであろう〈死〉や〈現実〉に対して、抗っていた?
「いや、もっとわかると思ってたの」
わかる?
「理解できると思ってた、生きる目的とかが。でもそうじゃなかった。バンドマンだけじゃなく、いろんな人が目の前で死んでいく中で、ひとつとして同じ死はないし、生きていく目的もいまだにわかんない。そのことがわかった。今は、周りの人間の死に対して〈俺はなんでこの人と付き合ったのか?〉って意味を反芻するし、むしろ会えないからこその愛おしさがものすごいあるんだよね。だからさっき言った、〈慈しみ〉って感情のほうがデカくあるんだよね」
アルバムのタイトルは、今話してくれたことを表すような言葉ですよね。
「宗教用語を使って歌詞を書いてた頃は、漠然ともっと大きな答えが欲しかったんだろうね。例えば〈涅槃〉とかいった類いのさ。そういうもので〈死〉を理解したほうが、わかりやすかったんだよ」

過去のインタビューでは、歌詞に出てくる宗教用語の意味や、その理由について問うことがよくありましたけど、今回は、そういった表現があまりないですよね。
「そうね。昔はさ、〈俺の言いたいことはこれじゃないかな?〉と思って、宗教用語とか化学用語とか使ってたんだろうし、いろんなところから知恵を借りてたんだと思うよ。でもそれが間違ってたとは思わなくて。そん時は、それによって自分の言いたいことを言えたんだろうし。でも今は、わかんないから答えは求めず、できるだけ簡単に言う。だから、話し言葉がほとんどだと思うよ」
ああ、確かに。
「なんかもう、自分の中で本質を突いてること以外は言わなくていいんじゃいかなって思ってて。それを書き出していくと、難しい表現ではなくなっていくし、そこで選ぶ言葉が死生観にも繋がっていったってことなんじゃないかな」
今思うと、昔の自分ってどう見えてるもの? 例えば『A FORLORN HOPE』や『THE MIDDLE WAY』の頃の自分は、今の歳のTOSHI-LOWから見て、どんなヤツだったと思います?
「どうだろうね? あの頃を知ってる人たちにしばらく振りに会って話すと『本当に嫌なヤツだった』って聞くから、〈ごめんなさい〉って思うことが多い(笑)。『そうしなかったら生きてこれなかったんで。すみません、ちょっと目をつぶってやってください』って言ってる(笑)」
あはははは。
「やっぱり『A FORLORN HOPE』のあたりは、自分のコントロールが効かなかった。〈人に知られる〉ことに対する慣れがないから、拒絶することしかできなかったね。それをどうすれば拒絶できるか考えたら、〈これはしない。あれもしない〉ってことを決めて、自分の周りを固めなきゃいけなかった。でも今となってわかったことだけど、自分は本来、いろんなことをしたいんだよ。いろんなことに興味があるし、いろんな人と仲よくしたいし、喋りたい。だけどあの頃は、〈俺はこうなんだ、ああなんだ〉って思い込んでやんなきゃ、耐えられなかったんだと思う」
確かにあの頃はいろんなことを拒絶してましたよね。当時のレコード会社の宣伝スタッフから、「すみません。撮影は5分以内で、って本人が言ってます」とか言われたりしたけど(笑)、それは〈撮影時間、5分しかないけど、それでもお前はやる?〉という投げかけでもあったわけですよね。
「たぶん、いろんなことが信用できなかったんだろうね」
そうなんだろうね。
「でもさ、30年もやってると、過去に失敗したことが糧になって次に繋がったり、自分ではどん底だと思ってた時期も、あの時に底を見たから今這い上がったんだなって思えるのよ。さっきの『昔の自分を見てどう思いますか?』って質問もそうだけど、今だから言えるわけじゃん。俺たちはあとから〈こういうことだったのか〉って理解するだけで、進んでる最中ってのは、絶対何もわかんないよ。経済学者が『こうしたら儲かる』って正解を言えてたら、みんな儲かっちゃうじゃん。頭のいい人たちがどんだけ政治に参加してもいい国になんないってことは、みんなわかったふりしてるだけで、現在進行形では何もわかんないんだよ」
わからないからこそ、もがきながら生きていく。ラスト2曲、「笛吹かぬとも踊る」「WASTE」は、まさにそういう曲ですよね。
「まあ、ずっともがいてるからね。たださ、もがいて溺れたら終わるじゃん。もがいていても、なんとか浮かんで息ができてればよくて。だからもがきながら生きるにしても技術がいるわけでさ。その技術はかなりついたとは思うよ(笑)」
もがいて、なんとか沈まないように生きていくために、死を見つめ続ける。そうやって30年バンドをやっていくうちに、さっき言ってた、人が好きで、いろんなものに興味のある、本来の自分になれたというか。
「チバもそうだけどさ、みんな50手前ぐらいから朗らかになったりするじゃん。それって、自分が作り上げてしまった何かではなくて、本来その人が持ってるキャラクターが出てくるんじゃないかと思うのよ。『あの時はあんなに尖がってたのに、変わったね』って言われる人って、変わったんじゃなくて、小学校入る前あたりの無邪気だった本来の姿に、だんだん戻ってるんじゃないの?って、ちょっと思った。だって、生まれつき人嫌いの人もいるし、そういう人は一貫してずっと変わんないわけじゃん」
そういう意味でも、TOSHI-LOWの30年史が、このアルバムに繋がっているような気もしますね。
「大人になったし、社会的なことも嫌いじゃないから、それをうまく入れ込めた音楽を作れればいいなと思ってたけど、でも自分の中で起きる〈心象〉とか〈内省〉みたいなところで物語を作るほうが、やっぱり好きなんだよね。それは、今回あらためてわかったね」

撮影=島田大介
ヘアメイク=亀田雅
スタイリスト=喜多條 由佑_VIRGOwearworks
NEW ALBUM
『viraha』
2025.02.26 RELEASE

- 順風満帆
- 恒星天
- 春を待つ人
- charon
- SURVIVOR'S GUILT
- Slow Dance
- Ace Of Spades
- 知らぬ存ぜぬ
- 最後の少年
- 笛吹かぬとも踊る
- WASTE
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〈BRAHMAN tour viraha〉
3月18日(火)川崎 CLUB CITTA' w/ ANGER FLARES
3月23日(日)NIIGATA LOTS w/ サンキュー
3月25日(火)金沢 EIGHT HALL w/ アダムとイヴ
3月29日(土)青森 Quarter w/ kallaqri
3月30日(日)盛岡 CLUB CHANGE WAVE w/ locofrank
4月5日(土)仙台 Rensa w/ GREAT INVADERS
4月11日(金)京都 磔磔 w/ KiM
4月13日(日)神戸 Harbor Studio w/ EGG BRAIN
4月15日(火)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM w/ HAWAIIAN6
4月17日(木)島根 出雲 APOLLO w/ A.S.S.
4月19日(土)高松 MONSTER w/ The Dahlia
4月20日(日)愛媛 松山 WstudioRED w/ LEARNER BOYS
4月22日(火)岐阜 CLUB ROOTS w/ DUB 4 REASON
5月22日(木)名古屋 DIAMOND HALL w/ 九狼吽
5月24日(土)なんばHatch w/ bacho
5月25日(日)広島 CLUB QUATTRO w/ キュウソネコカミ
5月28日(水)旭川 CASINO DRIVE w/ SLANG
5月30日(金)札幌 PENNY LANE 24 w/ THE KNOCKERS
5月31日(土)小樽 GOLDSTONE w/ 花男
6月5日(木)福岡 DRUM LOGOS w/ 惡AI意
6月7日(土)熊本 B.9 V1 w/ BUILD
6月8日(日)鹿児島 CAPARVO HALL w/ THE FOREVER YOUNG
6月12日(木)Zepp Haneda (TOKYO) w/ HAT TRICKERS
6月19日(木)宇都宮 HEAVEN'S ROCK VJ-2 w/ SHADOWS
6月21日(土)福島 郡山 HIPSHOT JAPAN w/ The BONEZ
6月27日(金)LiveHouse 浜松窓枠 w/ BEYOND HATE
7月4日(金)山梨 甲府CONVICTION w/ LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS
7月12日(土)沖縄 桜坂セントラル w/ かりゆし58
BRAHMAN 30th Anniversary〈尽未来祭 2025〉
11月22日(土)、23日(日)、24日(月・振休)幕張メッセ国際展示場9-11ホール
尽未来祭 2025 オフィシャルサイト