フィクションでも何も悪いことはない。バンドマン、アーティストだけが赤裸々な真実を唄う必要はない
どうせならドラマティックに、ヒロイックに。それは昔からずっとある感覚?
「そうですね。メタリカの歌詞とか、きっとこんぐらいの感じなんじゃないかと思う。〈バッテリー!〉とか唄ってるけど、あれは〈キ・ズ・ナ!〉って言ってるようなもんだから」
ははははははは!
「そのぐらいでいいんじゃないかなって。なんか深刻になりそうになった時に、ロックンロールだからいいはずだって思うようにしてる。だからダークな表現でも大丈夫」
それが、卓郎くんがロックに求めてるもの?
「俺、音楽聴いててどういうものが好きなのかって、去年くらいにはっきりわかったんですよね。とにかく勇気が出ることを言ってほしい、やってほしい、っていうことで。だから表現の内容は問わなくて、これを聴いてるとなんか励まされたように感じるものが好き。それがロックンロールだなって思うし、表現として好きなんだなって思いますね」
そのためには、舞台が悲劇的なのもアリ。
「うん。曲の中の人には酷い目に遭ってもらう。それを聴いた人には元気になってほしいってことです。ははは!」
今どき珍しいですよ。ロックバンドでも、生身の自分とか日常のリアリティを大切にする人が今は多いから。
「はいはい。でも俺が参照にするのって古いものばっかりだから。チャック・ベリーとか、ローリング・ストーンズ、あと阿久悠の歌詞とか。曲に対する世界観がちゃんとあるもの。9mmと全然関係なさそうだけど実はそこから来てるんだよ、とも思ってる。ブルースの歌詞とか〈奥さんに逃げられた〉〈ほんと酷い目に遭っててやってらんないぜ〉みたいなものばっかりだし、みんなそれ聴いて踊ってたわけだから。でもそれでいいじゃんって思いますね」
今はその思考にブレが一切なくて。「タイトロープ」の歌詞とか、もはや貫禄すら感じますよ。
「もうほとんど『カイジ』ですよね(笑)。登場人物は半分自分を嘲笑してて〈いや、こうやるしかないんだから! 放っとけよ!〉みたいな。後ろ向きに前向きっていうか」
9mmの歌にも聴こえるし、そこに一切悲壮感がない。
「そうですね。〈タイトロープ〉も〈煙の街〉もそうだけど、こういう楽曲でこういう歌詞を乗せることがプラスに働くバンドって、きっといないだろうなって思う。〈煙の街〉なんて、他のバンドがやったらもう絶対前向きな表現には聴こえないと思います。プラスにならない」
これ、木下理樹(ART-SCHOOL)が唄ったらシャレにならないよね。
「唄いながら崩れていっちゃいそうですよね。……あー、それはそれでちょっと良さそうですけど。ふふふっ」
でも菅原卓郎ならこれを堂々と唄えるし、プラスの勇気を与えられるっていう確信が、自分でもある?
「うん。〈ねえ 明日が来ないなら それでいいのに〉とか、完全に演歌みたいな歌詞もありますけど、でも9mmならロックンロールな演歌にできる。ほんのちょっとだけ前向きなところを掬い上げて、聴いた人の心に残るものにできるなって思ってた。滝も最初から『もうコンビナートがあって、四畳半に夕日が差し込んでるイメージ』って言ってて」
ふっ。昭和だなぁ。
「もうそのまんま書こうと思って。『じゃあ〈煙の街〉ってタイトルにしようか』って言ったら『……それです!』って。ほんと歌謡曲マナーというか、それこそ阿久悠とかの形式だから、9mmのファンは知らないうちに刷り込まれてると思うんだけど。こういう舞台でこういう曲を用意して、そこで9mmが演奏するんじゃなくて、自分ではもう、前川清さんみたいな人がマイク一本持って出てきて朗々と唄ってくれる、そんなイメージなんですね。自分でもまずそういうのが思い浮かんじゃう。で、そこまでイメージ的に固めてるから、ただ暗い、ネガティヴなものにもならないと思うし」
なんで悲劇的な世界に惹かれるのか、と同じ意味で質問しますけど、なんで昭和歌謡にそこまで惹かれるんですか。
「ただ単に育ちに正直ってことだと思いますよ」
ド真ん中の世代ではないでしょ?
「えっとね、自分でも検証したんですけど、俺たちが小学生くらいの時に『速報!歌の大辞テン!!』って番組があったんですよね。今週のランキングと昭和のランキングを比べてて」
あぁ、ありましたね。そういう番組。
「あとは親が聴いてたりしたんだろうけど。でもいろんな歌謡曲を覚えたりしたのは、そういう番組に刷り込まれたからだと思う。あと、昭和歌謡ってちゃんと作家が、先生が書いてるじゃないですか。世界観にブレがないし、シャキッとしてるから好きになったのもあると思う。自分の気持ちよさで書いてない。自分の考えは入ってるかもしれないけど、それを表現するためじゃなくて、この人に唄ってもらうならこういうテーマにする、これを唄わせよう、っていうのが先にあるから」
極端に言うと、阿木燿子と宇崎竜童が〈山口百恵に唄わせるならどんなものか?〉って考えて、そこで「プレイバックPart 2」みたいなすごい曲が生まれたような。
「そうそう。そういう昭和の手法をやってるんですね、俺は。自分の気持ちを表現したいっていう始まりではなくて、〈9mmのヴォーカルの人が唄うんだったらこんぐらいやってもらわないと困りますよ〉って思いながら書くんで」
ただ、そうなると普段の自分との乖離が出てきてしまうから、照れも生じますよね。
「や、逆にそのほうがスッキリ曲に入り込めるかな。やっぱ、恥ずかしがってるともったいないこと、音楽を作って演奏する時にはたくさんあるから。照れから逃げないように〈お前はこれを唄いなさい〉って。ちゃんと自分に受け取ってもらうためにも、あえてこの手法を取ってる感じです」
さっき言ったリアリティ重視のバンドが多いっていう話も、結局は照れの問題だと思うんですよね。大きなことは唄えない、僕そんな人間じゃないですって言いながら、心のままを唄う。それは別に否定することではないんだけど。
「あぁ、そうですよね。でも心のままに唄うほうが照れるな、俺は。それよりは、大怪獣!のほうがいいじゃないですか。はははは! やっぱ、せっかく聴いてもらうなら、登場人物がうーんと酷い目に遭うほうが唄う甲斐もあるんだと思う。あと、出発はものすごく日常的なことだとしても、それをでっかく膨らまして唄うわけだから、一回も感じたことがないものは書いてないんですね。舞台装置はハリウッド式なんだけど(笑)、入ってることは自分がちゃんと感じたことがあるもの」
まるっきりフィクションを作ってるわけじゃない。
「そう。でも絶対体験したことないのに、みんな『ハリーポッター』にも『ミッション:インポッシブル』にも感動するわけじゃないですか。だから、外側っていうか、舞台装置はなんであれ、その中に出てくるひと言のセリフが響いたらいいわけで。ちゃんと響くなら、どんな舞台装置でもみんな納得する。そう考えたら9mmの音楽ってほんと大掛かりな、ダイナミックなステージばっかりですよね。曲から歌詞を書いてると、そうなるのも必然なのかなとも思いますし」
うん。そういうことを客観視しながら語れるのも、やっぱりこれだけの経験を重ねてきたからでしょうね。
「そうですね。……なんだろうな? 自分の人生と9mmはもちろん切っても切り離せないものなんだけど。でも劇作家の人たちが舞台の本を書くことと、自分たちで曲を作って作品を出していくこと。それって大きな箱の中で考えたら同じことだよなって。映画とかもそう。フィクションでも何も悪いことないじゃんって。バンドマンだけ、アーティストだけが自分の赤裸々な真実を唄わなきゃいけないわけじゃないから」
確かに。その通りだと思う。
「結局、ロックンロール・バンドですよ、ってことだと思うんですね。ロックンロールって、ジャンルのことだけじゃないと思ってる。聴いたら何か勇気づけられる表現。よく英語圏のバンド、メタラーでもパンクの人でも『ロックンロールするぞ!』って言うじゃないですか。俺もそういうことなんだろうなって思うようになってきた。最近は、〈あぁ今やってることがロックンロールなんだな〉って言える感じですね」
文=石井恵梨子
撮影=伊藤元気_symphonic
NEW ALBUM
『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』
2024.10.23 RELEASE

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- 叫び -The Freedom You Need-
- Mr. Foolの末路
- カタルシス -Album ver.-
- 幻の光
- Fuel On The Fire!!
- それは魔法
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- 新月になれば
- 朝影 -The Future We Choose-
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BEST ALBUM
『THE ULTIMATE COLLECTION -20Years, 20Bullets-』
2024.07.31 RELEASE

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- 光の雨が降る夜に
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「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」Extra〜カオスの百年vol.21〜〉
3/17(月)[神奈川] KT Zepp Yokohama