2024年に結成20周年を迎えた9mm Parabellum Bullet。彼らの記念すべき節目にあたり、〈9mm Parabellum Bullet 20th × 音楽と人〉と題し、これまでに発表されたアルバムに関する記事を順次公開していく特別企画。その第8弾となる今回は、危機的状況を乗り越え、現在につながる新たなバンドのスタイルを掴め始めた中で生み出された8thアルバム『DEEP BLUE』リリース時のインタビューをお届けします。


(これは『音楽と人』2019年10月号に掲載された記事です)
9mm Parabellum Bullet、結成15周年を記念し、2019.9.9にリリースされる8枚目のアルバムである。7枚目のアルバム『BABEL』時には、ギタリスト・滝 善充の左腕の不調に伴いライヴ活動を一時休養……という状況説明も、もはや過去の話。彼らは滝の状況を受け入れ、サポート・メンバーと作り上げるライヴステージをポジティヴなものに変換し、コンポーザーとしての滝を尊重することで、いよいよ新しい境地を手に入れたようだ。先行シングル「名もなきヒーロー」から菅原卓郎は自分の言葉で唄い出したと語ってくれたが、今回はメンバーや音楽に対する愛をぶちまけたような、あるいは9mmを絶対に終わらせないと宣言するような、ひたすらストレートな願いを全曲に綴っている。そこに悲痛なニュアンスがないことに一番びっくりする。青のまま、さらなる青を塗り足す今。簡単に枯れていかない自信があるのだ。『DEEP BLUE』と名付けた作品から、パンドのその先が見えてきた。
今回、ものすごくストレートな一枚になりましたね。
「そう。ストレートにしたくて。誤解がないように。聴いて一発でわかるもの。歌詞は特にそうしたいなと思ってましたね」
だから……聴いてて途中から照れましたね。
「今までを知ってくださっているとそうですよね!」
これはもう、9mmへ、あるいは滝さんへ向けた渾身のラヴレターなんじゃないかと思えてきちゃって。
「もちろんそう取ることもできるし。あと単にひとつのスタンダード・ソングというか、J-POPの名曲ぐらいのものを目指そうっていうのはアレンジ詰めてる時に話してて。いわゆる王道感、たとえば僕ら以外の人がこの曲を唄ったとしても、すごく力があるメロディ、力が損なわれないような言葉とか。そういうものになったらいいなと思ってましたね」
J-POPのイメージって、どういうものですか。
「一曲っていうんじゃないけど、まず夏の歌があって、卒業ソングがあって。あと〈いつまでも〉っていう曲は友達の結婚式でも唄えるような曲にしようと。GLAYの〈HOWEVER〉を唄う、あの時の感動みたいな曲を作ろうって(笑)」
ここは笑うところ? それとも真面目に言ってる?
「いや、両方ですね。でもイメージ的にはそれぐらいがいいよねって半分笑いながら滝と言ってました。だからとにかく爽やかに、アコースティック・ギターとかガット・ギターも使って、いつもの9mm・サウンドとは違うものにしていったし」
そういう方向に向かった理由、思い当たりますか。
「うーん……ポップスを目指した、っていうわけでもないんですね。自分たちが影響を受けたもの、たとえば歌謡曲もそうだし、オルタナっぽいハードコア、あとはハイスタとかブラフマン世代のパンクとか。もちろん真似するわけじゃないけど、好きなものに対して忠実っていうか、隠さなくていいよな、っていうのはあったんですね。ちょっと童心に帰るというか。〈この曲はあの感じだよね? 楽しい!〉っていう感覚を突き詰めたいとは思ってましたね。作り方も昔の感じなんですよ。滝と二人でアレンジして曲を完成させていって。ほんとにインディの……インディより前か、アマチュアの頃の曲作り。滝の住んでるアパート行って、MTRポンと置いて、二人でギター弾いて、みたいな」
だから、歌詞の内容に比べて、聴き心地は苦しいものじゃない。悲壮感が全然ないというか。
「そうですね。そこまで悲壮な感じもないなぁと思ってて」
逆に言うと、なんでこれだけ終わりを見つめている言葉ばっかり出てきたんだろうなって思います。
「あ、そんな感じ、しました?」
しますよ。ざっと見ても「Mantra」はいきなり〈終わってたまるか〉だし。他にも〈終わらせるだなんてできない〉〈あっけなく終わりにしたくない〉……どんどん出てくる。
「あぁ……確かにそうですね」
ていうか、全曲のテーマはほとんど一緒でしょ?
「そうですね。同じこと唄ってるんだけど違う服着せてるっていう。ちょっとずつ違うように見せてるんだけど……バレるところではバレますね(笑)。でも〈Mantra〉に関して言うと、そのメッセージとか、たとえば前のアルバムに入ってたら痛々しすぎて聴けなかったと思うんですね」
えぇ、わかります。
「でもこの曲だと、まぁ、ヌンチャクみたいな感じだし」
わははは。10年ぶりぐらいにそのパンド名聞いた!
「ほんとにそう言ってた(笑)。歌詞もどうでもいいこと唄おうっていうイメージで。これ『BABEL』の時だったらあまりにも真に迫りすぎてて唄えなかったと思うんだけど、このアルバムの中に入れるんだったらちょうどいい。半分ギャグにも聴こえるし、自分たちを茶化すこともできるというか」
〈なんとかなんのか〉のあと〈なんとかなるのさ〉で締めるのかと思ったら、フォローしないまま終わるしね。
「そうです。そのまま。〈そういうことってあるよね?〉って言えるくらいに相対化できたのかなと思うんですけどね。このぐらいでいい、無理に前向きにしなくていいやって」
なぜそういう境地になれるんでしょう。滝さんが完全復活して、そのあと今の話になるならわかるんだけど。
「はい。でも完全復活っていう言葉……どう捉えればいいんだろうなって思うんですね。滝がステージに戻ってきて、4人だけでライヴをする――そのことが完全復活なのか?っていうふうに今の僕は思うから。それだけじゃなくて、やっぱりこういうアルバムを作ることが必要だったし、もちろんこれで終わりじゃなくて、また次の作品を作っていくし。9mmとしての音楽があればいいかなって思うんですよ。で、時々休む人がいてもいいんじゃないかなって今は思う。続けるんだったら」
あぁ。なるほど。
「この何年かで考えたら、最初は〈当たり前にいた滝がステージにいない〉ってファンのみんなも動揺しただろうし〈いつ完全復活するんだ?〉って思うのは当然なんだけど。今、ステージにもいるし。もちろんライヴ休養明けには滝が出てきただけで泣いちゃう人たちもいたんだけど、今はそんなこともないから。まぁ焦らずに、というか」
実際、作曲でこれだけフルに貢献してるからね。ステージはまた別と考えれば、そこまで問題じゃない。
「そうですね。それよりも滝が楽しくギター弾いてるほうがいいな。そのことでクリエイティヴなパワーを発揮できるなら。世間で言う完全復活の状態じゃないとしても、そうじゃないところでやれてるんだから。だって結局バンド辞めないって思ってるんだから、そこ(=ライヴ)に固執してもなぁって思うようになった。不調はあるけど一緒にバンドやろうぜって思ってる人と、バンドをやることのほうが大事。だから、完全復活説を唱えることには懐疑的ですね、俺は」
そういうふうに言える今だから聞きますけど、3年前の日比谷野音、正直どんなことを考えましたか?
「3年前は……まぁいろんな混乱ですよね。それまでも滝の調子がどんどん落ちていって〈一体どうしたらいいんだろう?〉って思ってたのが〈あぁここで爆発しちゃったんだな〉っていう日ではあったから。今思えばだけど、それまでどうすればいいのか答えがなかったのが、ここから先は〈もう治すしかない〉っていう答えがわかった、ほんとに向き合うしかないんだってわかった日だった。だから……必要な日だったかなと思いますね。もちろん当日は大慌てだったけど」
うん。なんでこれ聞いたかって、ライヴDVDが出たじゃないですか。野音三部作。これ、ほんとに今も苦しい状態なら世の中に出せない映像だったと思うんですよね。
「まぁ正直な気持ちは……出したくはなかったけど(苦笑)。積極的には観たくはないなっていうか。でも、みんなと『今出さないと、一生出せないね』っていう話になってました」
しかも今年の野音は、卓郎さんの表情がまったく違う。
「そうですね。それは自分でもわかります。その時々でバンドの好不調はもちろんあるし。でもなんか、それと俺が楽しいと感じてることは意外と別で(笑)。ステージ出たらもう嬉しくなっちゃうんですよね。ライヴできることが嬉しい。キツネツキなりソロなり、弾き語りライヴなりいろいろやるけど、9mmは9mmでステージに立った時にしか吐き出せない気持ち、そのステージにいる時にしかならない気持ちっていうのがあるから。〈またその時間が来たんだな〉〈ライヴしていいんだ〉って思えることがすごく嬉しい」
それはきっと、9周年の頃にはなかった感情ですよね。
「9周年の時はそこまで考えてなかったですよね。ほんと〈9が並んで嬉しいな〉っていうくらい(笑)。あと、昔はもっと闘うようにやってた気がしますね」
今は、もっと素直に楽しむことができている。
「や………いい演奏をする?」
疑問形で言うなよ(笑)。
「いや、音はもちろん消えてっちゃうじゃないですか。出した端から。よく建築みたいだなと思うんですけど、『今日もいい音を建設するように、いい音出して、そこにいい音を存在させて帰るようにしよう』ってみんなに言うんですよね。やっぱり音楽じゃないと元気になっていかない人だから、みんな。それをステージで共有して、観てくれる人たちにも感じてもらって、ちゃんとステージ降りようぜ、っていう感じかなぁ」
音楽を存在させる。いい言葉ですね。
「ライヴではきっとわかると思う。ほんとにあるんだって」
ですね。あと興味深いのがタイトルにもなった「DEEP BLUE」。これはまさに9mmのことを唄っているように聴こえます。〈青春〉というキーワードも含めて。
「そうですね。でもやっぱりパンドを続けるってそういうことですよね? 10代とか20代で初めて組んだパンドっていうのは、どうやっても青春を過ごした時期が根っこにあるから。で、若い時は怒りとか鬱屈した気持ちがあるんだけど、それを大人になっても青春として続けるには、どう折り合いをつけたらいいんだろうって思ったんですね。それはつまり、ブルーをたくさん塗っていくことだよなって。桜が咲くようなピンク色の青春じゃなくて、ただブルーをたくさん塗っていって、油絵で言ったらどんどん分厚くなっていくような」
ただただ、青を重ねていくようなイメージ?
「そう。どんどん濃くなって、いろんな青が混ざって深くなっていく。だけど黒に近づくんじゃない、それでも青だ、っていうイメージはありましたね、僕の中で」
あと〈ひとりじゃ何もできなくなりました/君と出会ったばかりに〉っていう二行、これがメンバーのことだと考えたら、まさに気恥ずかしいくらいの告白になりますよね。
「そうですね。でも、それよりも音楽そのもの、バンドをやることっていうか。僕のイメージはそこなんだけど……まぁでもそこにメンバーも含まれてますから、結局ね。気恥ずかしいといえばそうなんだけど、あんまり衒いはないですね」
こういうの、本人が照れてると余計カッコ悪いし。
「そうなんですよ。聴いた人が赤面するくらいでちょうどいい。俺の中にも〈9mmの菅原さんがやるなら、これじゃない?〉っていう感覚があって。その線引きはできてきたなと思う。〈このぐらい唄うでしょう、9mmの真ん中で唄ってる人は!〉ぐらいのことを自分に書いて、自分で唄ってるかな」
そのイメージ像って言葉になります? 9mmの菅原さんはリスナーに何をしてくれる人なのか。
「あぁ……ほんとにこういう歌を唄ってくれる人。今回『DEEP BLUE』の中で唄ってるようなことを、そのまま照れずに投げられる人っていう感じかな。〈名もなきヒーロー〉の時の取材で、誰か特定の登場人物を設定するんじゃなくて、自分自身の言葉で唄ってるっていう話をしたと思うんですけど、偶像として何かを作るんじゃなくて。だから、俺がそうなりたいなっていう願望もあるかもしれないですね」
うん。頼もしいです。このアルパム聴いたあとに「9mm、大丈夫かしら」って思う人はいないと思う。
「そうですね。今は気が楽っていうか。決めたら、それをやるだけだなって思ってます。ゴールを決めたんじゃなくて、出発することを決めたっていう感じだと思うんだけど。とりあえず行こうぜ、いい方法探そうぜ、っていうことをはっきり決められたのが、自分にとってもすごく良かったかな」
文=石井恵梨子
撮影=神藤剛
NEW ALBUM
『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』
2024.10.23 RELEASE

- Baby, Please Burn Out
- 叫び -The Freedom You Need-
- Mr. Foolの末路
- カタルシス -Album ver.-
- 幻の光
- Fuel On The Fire!!
- それは魔法
- Domino Domino
- 新月になれば
- 朝影 -The Future We Choose-
- Brand New Day -Album ver.-
BEST ALBUM
『THE ULTIMATE COLLECTION -20Years, 20Bullets-』
2024.07.31 RELEASE

- 太陽が欲しいだけ
- Black Market Blues
- The Revolutionary
- キャンドルの灯を
- Punishment
- Talking Machine
- Discommunication
- 光の雨が降る夜に
- 黒い森の旅人
- ハートに火をつけて
- ロング・グッドバイ
- Supernova
- 名もなきヒーロー
- Scenes
- スタンドバイミー
- ガラスの街のアリス
- 生命のワルツ
- Mr.Suicide
- Brand New Day
- One More Time
〈9mm Parabellum Bullet Tour 2024-2025
「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」〉
3/1(土)[愛知] Zepp Nagoya
3/2(日)[大阪] Zepp Osaka Bayside
〈「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」Extra〜カオスの百年vol.21〜〉
3/17(月)[神奈川] KT Zepp Yokohama