【LIVE REPORT】
BUCK-TICK〈ナイショの薔薇の下〉
2024.12.29 at 日本武道館
ヤガミ・トールが後方でどっしり構えているのは変わらない。ただ、隣の樋口豊からは「かわい子ちゃん担当」のキャラが消えていた。星野英彦はもう「飄々の人」ではなかったし、今井寿もすでに「極彩色の道化師」ではなかった。ステージを駆け回る3人の弦楽器隊は、みなバチバチに滾っていた。なんだか若返っているのではないか、と思うほどに。
どうなるかわからないと前置きしつつ、メンバーそれぞれが続投の覚悟を語ったのが一年前の武道館公演だ。私も含めてファンは泣きに泣いたと思うが、あれからたった一年、世界観はここまで一新できるのかと驚いた。いや、一新と言いつつバンド名は同じまま、メンバー5人の物語は今も続いている。にもかかわらず、しんみりした喪失感がまるでないことに愕然としたのだ。
セットリストは基本ニューアルバムに沿って進む。「百万那由多ノ塵」から「スブロサ SUBROSA」、そして「夢遊猫 SLEEP WALK」へ。ただ、アルバム到着時の印象と違うのは、表情の硬さがすっかり抜け落ちていること、それどころかフロントの2人が当たり前でしょと言わんばかりにステージを掌握していることだった。象徴的なのは2曲目の「スブロサ SUBROSA」で、ギターを置いた星野は高々とスティックを掲げてハンマービートを鳴らし続け、今井はハンドマイクでステージの端から端を駆け回る。ギターを持たない2人というものを初めて見た。この展開は考えていなかった。と書いてから、私自身がまだ、BUCK-TICK=フロントマンと両翼のギタリスト、という絶対の様式に固執していたことに気づかされるのだ。
そうじゃない。絶対などないのだから思い切って叩き壊せ。ギターすら手放し新しい舞台に君臨するパフォーマー二人は、全力で今のポジションを楽しんでいるのだろう。途中からは樋口も積極的にステージ前方に飛び出してくる。頼もしくも逞しい4人の笑顔。どこにも不安要素が見当たらないから、「夢遊猫 SLEEP WALK」でスクリーンに映る黒猫がとてもかわいかった。どこか痛ましい悲壮感が滲んでいれば、あれはもっと悲しい迷い猫に見えたことだろう。櫻井の過去映像が一度も使われなかったことも、この夜の特筆すべき点である。
「神経質な階段」「ストレリチア」などのインスト楽曲も、手にした新しさのひとつ。重要になってくるのは映像で、ロシア・アヴァンギャルドにも似たスクリーン演出は、過去のそれよりも格段クールになっていた。これもまた、映像=歌詞世界の背景、という枠組みからの解放なのだ。より自由に、奔放に、挑戦的に。照明や衣装にも同様のブラッシュアップがあったはずである。
要するに、今井と星野の歌唱に限った話ではなく、舞台演出を含めたスタッフ総力全体がアップデートされているのだ。どこまでも強気な新体制。その極みは今のところアフロビートの「冥王星で死ね」だろう。ひとりメンバーを失ったバンドが作る新曲とは思えないタイトル。だがこれを出してくるのが今井であり、タイトルをバーンとスクリーンに映し出すのが今の映像チームなのだ。エッジィにも程がある。バンドの勢い、無尽蔵なエネルギーに飲まれながら、途中からは笑いながら変なことばかり考えていた。ごめん櫻井さん、あなたがいないとBUCK-TICKじゃないと頑なに思っていたし、一年前は「慈しむ会は何度あったっていい」と書いたけれど、もうなんか、このBUCK-TICKもめちゃくちゃ格好いい!と。
もちろん故人の面影はたっぷり残っている。ただ「絶望という名の君へ」が生々しい悲しみとは違う、普遍的な温もりとして響いていたのは救いのひとつ。また、よくぞこの曲を引っ張り出してきたなと思うリメイク楽曲「SANE -type II-」が存外よかったのだ。前半の今井歌唱以外ヴォーカルは入らず、脳内でメロディを鳴らすファンの両手が主役となって動き続ける。決して退かずに歩んでいく意思と、何ひとつ置き去りにはしない愛情が、たまらなく今のBUCK-TICKだった。極めつけは本編ラスト「薔薇色の日々」で、星野が唄うロマンティックなメロディに会場中がとろけていく。過去と現在が混ざり合うこの瞬間、〈夢が夢じゃない気がする〉という歌詞ほど相応しいものはなかったと思う。
そしてアンコール。前述したように基本はニューアルバムに沿った流れだから、締めは「黄昏のハウリング」で決まりだと思っていた。しかし、始まるのは「ラララ、でいいからみんなで唄ってくれ」と客席を主役にした「LOVE ME」、さらには星野が唄う「狂気のデッドヒート」、そして櫻井パートも今井が引き継いでの「Villain」なのである。ここに来て「Villain」なのか。呪いの歌だと前置きした、この不埒きわまりないナンバーを選ぶのか。どこかレクイエムに近い、少しだけホロッと泣けるエンディングを想像していた、その安直なイメージがズパーン!と断ち切られる。これがBUCK-TICKか。
さらなるトドメが「ICONOCLASM」。ごく初期からバンドの先鋭性を象徴し、何度も改良されてきた楽曲が、今もまた新バージョンとなって4人の未来を切り拓く。終演後には怒涛の2025年スケジュールが発表されたが、不安要素など何もないと高笑いしたい気分である。ギリギリで櫻井の不在を乗り越えた満身創痍の4人一一なんていうのは安っぽい脚本に過ぎない。いつだって想像の遥か先を行く奇跡のバンド。それがこの夜の、現実のBUCK-TICKなのだった。
文=石井恵梨子
写真=田中聖太郎
【SET LIST】
01.百万那由多ノ塵SCUM
02.スブロサ SUBROSA
03.夢遊猫 SLEEP WALK
04.PINOA ICCHIO-躍るアトム-
05.Les Enfants Terribles
06.From Now On
07.神経質な階段
08.雷神 風神 - レゾナンス #rising
09.冥王星で死ね
10.paradeno mori
11.ストレリチア
12.絶望という名の君へ
13.Madman Blues -ミナシ児ノ憂鬱-
14.TIKI TIKI BOOM
15.SANE -typeⅡ-
16.薔薇色の日々
ENCORE
01.LOVE ME
02..狂気のデッドヒート
03.Villain
04.ICONOCLASM
NEW LIVE Blu-ray&DVD
『劇場版BUCK-TICK バクチク現象 - New World -』
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・スペシャルパッケージ仕様
・2023年9月18日に群馬音楽センターにて行われた「BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA- FINALO」のライヴ映像作品を収録した映像ディスクを付属
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〈通常盤収録内容(2枚組)〉
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〈BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA〉
4/12 (土)宮城・仙台GIGS
4/13 (日)新潟・新潟LOTS
4/19 (土)大阪・Zepp Osaka Bayside
4/20 (日)愛知県・Zepp Nagoya
4/26 (土)広島・広島CLUB QUATTRO
4/27 (日)福岡・Zepp Fukuoka
4/29 (火)香川県・高松festhalle
5/11 (日)北海道・Zepp Sapporo
5/16 (金)東京・Zepp Haneda
5/17 (土)東京・Zepp Haneda
5/24 (土)東京・豊洲PIT
5/25 (日)東京・豊洲PIT
〈BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA〉追加公演
6/7 (土)群馬・群馬音楽センター
6/8 (日)群馬・群馬音楽センター
6/14 (土)大阪・NHK 大阪ホール
6/15 (日)大阪・NHK 大阪ホール
6/19 (木)東京・LINE CUBE SHIBUYA
6/20 (金)東京・LINE CUBE SHIBUYA
7/2 (水)東京・LINE CUBE SHIBUYA
7/3 (木)東京・LINE CUBE SHIBUYA
7/8 (火)東京・LINE CUBE SHIBUYA
7/9 (水)東京・LINE CUBE SHIBUYA
『劇場版BUCK-TICK バクチク現象 - New World - 』
2/21 (金)~ 劇場版 BUCK-TICK バクチク現象 - New World - Ⅰ
2/28 (金)~ 劇場版 BUCK-TICK バクチク現象 - New World - Ⅱ
全国限定ロードショー
出演:BUCK-TICK [櫻井敦司/今井寿/星野英彦/樋口豊/ヤガミ・トール]ほか
https://bt-movie.love
〈BUCK-TICK展2025〉
開催日程: 2月21日(金)~3月9日(日)
場所:新宿シアターマーキュリー(新宿マルイ本館8階)
開館時間: 11:30~21:05(最終入館20:15)
https://buck-tick.com/feature/ss_exhibition_2025