なにわ男子の大西流星を主演に迎え、人気少女コミック『恋を知らない僕たちは』を実写映画化。“本気の恋”に向き合う男女6人の高校生たちのリアルな姿を描き出します。主人公・英二を演じた大西くんをはじめとするキャストの魅力や作品に込めたこだわり、撮影秘話を酒井麻衣監督に聞きました。
(これはQLAP!2024年9月号に掲載された記事です)
本作は、高校生の男女6人のリアルな恋模様や友情、青春を描くラブストーリー。まずは、監督が感じた原作の魅力や実写化する上で大切にしたことを教えてください。
最初に原作を読んだとき、英二(大西流星)の親友である直彦(窪塚愛流)目線から物語が始まり、そこから英二を主人公として6人の高校生の恋模様が描かれるというところに新しさを感じました。不器用な高校生たちの恋愛の切ない部分がしっかりと描かれていて、言葉ではなかなか伝えづらいようなところも、原作の水野美波先生は絵とセリフで繊細に表現されている。また、原作は11巻あるのですが、ストーリー展開が思わぬ方向にいくおもしろさもあるんです。
映画化する上では、キャラクターそれぞれが自分の目の前の恋をとても大切にしているという原作の魅力を大事にしたいと思いましたし、映像でしっかりと伝わるように意識しました。脚本を作るにあたっては、脚本家の大北はるかさんと一緒に構成を考えて、原作の入れたい要素やシーンを6個ぐらいのブロックにまとめて、おいしいところをギュっと詰め込んでいます。絶対に入れたいと思ったのは、優しい言葉を掛けてくれた直彦に心を奪われてアタックする小春(齊藤なぎさ)とそれを邪魔する英二の距離が近づく8巻以降の展開や保健室でのシーン。それから、バンドマンの太一(猪狩蒼弥)の体育館でのライヴシーン。撮影もかなりこだわりました。
高校生の男女6人の恋を通して、目の前にある恋を正面から抱きしめる、という勇気をもらえる作品になっていると思います。見てくださる方にもその想いが伝わるとうれしいです。
主人公・英二は、友情を優先し、好きな人に自分の想いをなかなか伝えられない高校生。演じた大西くんとは、役作りに関してどのようなお話をしましたか? また、大西くんの芝居で印象的だったことはありますか?
大西さんとは、MVなどで何度かお仕事をご一緒させていただいていて、ご本人の魅力もたくさんあるのですが、今作では大西さんと英二の近しいところを探すことはせず、原作の英二に沿って役作りをしていただきました。最初にお伝えしたのは「大西さんは英二の一番の理解者であり、親友となって、英二の隣にいてください」ということ。それから「親友である英二が、こう言ってるけど、心の中では本当は違うことを思っているということを全て理解して、大西さんが英二の変わりになって表現してほしい」とお話しして、原作を大事にお芝居を作っていただきました。
撮影現場での大西さんは、最大瞬間風力を叩き出す調整力がものすごかったですね。全力でお芝居に挑んだとしても、実力が出せるか出せないかは俳優さんによって違ってくるものなのですが、大西さんはいつも全力で、常に120点を叩き出してくるので驚きました。「英二ってこういう表情をするんだ」「こういうトーンで話すんだ」と何度も思わせてくれましたし、カメラが回った瞬間に英二の表情になる大西さんを見ているのは、感動でもありました。
大西くんの他、メインキャストを演じるのは、英二の親友・直彦役の窪塚愛流くん、恋愛迷子系女子・小春役の齊藤なぎささん、英二の幼なじみであり直彦の彼女・泉役の莉子さん、一途で明るいバンドマン・太一役の猪狩蒼弥くん、恋を知りたい文学少女・瑞穂役の志田彩良さん。それぞれ役者としてどんな部分に魅力を感じましたか?
窪塚さんは、純粋にお芝居と向き合われている方。少しでも気になるところがあると、「大丈夫でしたか?」と聞いてくれたり勉強熱心なんです。天然で柔らかな雰囲気を持っており、役に深みをプラスしてくれたと思います。齊藤さんは、常に全力を出し切るタイプ。何度かご一緒しているのですが、いつもフルパワーでこちらの想像を超えてくるので、このエネルギーはどこからくるのだろうと感心させられますね。
莉子さんは、サバサバしていて、肝っ玉が据わっている方。地に足がついているのにピュアな泉を、ステキに演じてくれました。瑞穂に恋をする太一役の猪狩さんは、情熱的で明るい性格が太一にぴったり。バンドマンを演じるにあたって、ギターなど技術的にもすごく努力をしてくださったと思います。英二を意識し始める瑞穂役の志田さんは、ご一緒したかった俳優さんの一人。脚本の読解力もすごいし、現場にたたずんでいるだけでも映画の雰囲気を作り出せる方ですね。
高校生ならではの恋のときめきや葛藤を描く上で、監督が特に意識したこととは? また、見どころとなるシーンやそのシーンに込めたこだわりを教えてください。
本作に登場する高校生6人は恋に不器用なキャラクターが多いので、恋模様が描かれるシーンは目線や呼吸で本心をにおい立たせるということを意識しながら撮影していきました。例えば、英二と瑞穂の図書室での“棚ドン”シーンは、瑞穂が英二を意識する重要なシーンなので、間合いや目のきらめきを大事にしていて。英二は転んだ瑞穂を心配しただけでモテようとしているのではないことが伝わるように、本を落とすタイミングにもこだわって、目や表情で気持ちを表現していただいています。
それから英二と小春の距離が近づく保健室のシーンは、自分の気持ちを言語化できていないのに、行動が先走ってしまったリアルな感覚が出ればいいなと。「ここからは恋愛感情」とはハッキリ決めずに、心の揺らぎは揺らぎのまま、シーンを作り上げていきました。
また前半の見どころでもある夏祭りのシーンは、ほぼ自由芝居。「直彦にアタックする小春を英二が邪魔をする」というお題でお願いしたのですが、大西さんのコミュニケーション能力と表現力で、みんなの芝居を引き出していましたね。
本作では、男同士や幼なじみの友情を描いているシーンも。そういったシーンでは、キャストのアドリブもあったと聞きましたが、本当でしょうか?
はい。原作のキャラクターを大事にするというのは前提で、キャストの皆さんには「アドリブは大歓迎」と伝えていたので、友情シーンなどはアドリブから生まれたやり取りを生かしたりもしています。特にアドリブが多かったのは、太一役の猪狩さん。直彦にラムネを差し入れて「飲もうぜ」と言うシーンも猪狩さんのアドリブだったり、英二や直彦との会話シーンも台本上のお芝居を終えた後にあえてカットをかけずに長回ししたら、3人のやり取りがおもしろかったのでそれもそのまま使っています。
それから、海で英二、直彦、泉がじゃれ合うシーンはだいたいの動きのリハーサルをしてから、実際に海に入って一発撮りで撮影しました。撮影時期は春先で海水がまだ冷たかったこともあり、撮影前には 3人で円陣を組んで「頑張ろうぜー!」と気合を入れていましたね。英二と直彦が衝突した翌朝に廊下で会ってしまうシーンも、話したいのに話せない、そんなもどかしい空気感が目線だけで表現されていてとても良いシーンになっているので、それぞれの友情にも注目しながら見ていただきたいです。
エネルギッシュなライヴシーンも印象的でしたが、バンドマンの太一を演じる猪狩くんの役作りの様子は? また、ライヴシーンの撮影はどんな雰囲気でしたか?
太一の歌でみんなの恋が包まれる、クライマックスの体育館でのライヴシーンは見どころの一つ。猪狩さんは歌に加えてギターの演奏もあり、撮影に入る前から熱心に特訓してくださいました。演奏指導の方は、「この短期間でここまで弾けるようになるとは思ってなかった」と上達ぶりに驚いていましたね。また、歌唱シーンの引きのカットは喉に負担がないようにプレイバック撮影しているのですが、寄りのカットでは実際に歌ってもらって生歌を録音して、映画でもその歌声を使用しています。
ライヴシーンは撮影場所の学校にご協力いただき、600人の生徒さんがエキストラとして参加してくださったのですが、猪狩さんが生徒の皆さんに自ら声を掛けて、士気を高めてくれて。さすがいつもライヴで観客の視線を集めているだけあるなと感じました。 ライヴパフォーマンスもパワフルな猪狩さんの本領が発揮されていて、ご本人の魅力が詰まったシーンになったと思っています。
衣装の制服やヘアスタイルなど、キャラクターのビジュアル作りでのこだわりもありましたら教えてください。
劇中の衣装はほとんど制服姿ですが、英二と小春はやんちゃっぽいスタイル、直彦と泉、瑞穂はきっちりとした雰囲気、太一はロックっぽくするなど、パッと見で6人の個性がわかるようなスタイルになるようにスタッフ陣と心掛けました。
それから、シーンごとに制服の着こなしに変化をつけたのもポイントです。高校生って思っている以上に大人だし、こだわりも持っていると思うんです。なので、今の高校生たちのファッションに対するこだわりというのを大切に表現しました。パターンが多いので、衣装合わせのときはものすごい数の制服を皆さんに着ていただきましたね。ヘアメイクも衣装も原作のイメージを大事に、「それぞれのキャラクターが現実に生きているとしたら」と考えながら作っていったので、ビジュアル面も楽しんでいただけたらと思います。
文=室井瞳子
酒井麻衣監督
さかい・まい/1991年8月22日生まれ、長野県出身。多数のドラマ、映画の演出を手掛ける。近年の作品は、映画『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』、『劇場版 美しい彼〜eternal〜』など。監督・脚本を務めた映画『チャチャ』が10月11日に公開する。
映画『恋を知らない僕たちは』
(松竹配給/8月23日より全国ロードショー)
監督:酒井麻衣
出演:大西流星、窪塚愛流、齊藤なぎさ、 莉子、猪狩蒼弥、志田彩良 ほか
(C)2024「恋を知らない僕たちは」製作委員会
(C)水野美波/集英社