ライヴの瞬間だけは誰にも気を遣わない。音楽をやってる時だけ自分らしくいられる……俺、カッコいいな(笑)
そしてこの旅行のメインイベントである、温泉街の呑み歩き。適当に探して入った一軒目で熱海の地ビールを呑み、焼き鳥が自慢の二軒目では酒が進んでだんだん会話がヒートアップしていく中、これ以上酔っ払うと会話が誌面にできない内容になると思い、慌ててレコーダーを回した。
まずアルバムの感想だけど……特にないかな(笑)。
「あははは!」
ていうかトリビュート盤が良かった。柴田の曲って、他の人がやるとさらにポテンシャルを引き上げてくれるんだなって。
「そうなんだ」
どれも曲に愛情を感じるし、それで自分たちらしさもあるし、最後にえっちゃん(橋本絵莉子)の歌が聴けるぞってワクワクしてたら、いきなり柴田の声が邪魔して(笑)。
「うるせー!(笑)。だって一緒に唄いたかったんだもん」
「CからはじまるABC」は聴く人のことを――。
「無視してる。自分のやりたいようにやったから。あれ、オリジナルはサビ前に梅津くんが『ああ―――!』って叫んでるんですよ。それを今回タイチ(タイチサンダー/サポートドラム)にやってもらったんだけど、そのあとえっちゃんの声が入ってくると、シャウトが邪魔だと思って、あとから消しちゃった」
あははははは! 酷い!
「タイチ、せっかくスケジュールをこじ開けてやってくれたのに。しかもまだ謝ってない(笑)。ごめん、タイチ」
それはいいとして、全部通して聴いて思ったのは、どこにも作為が感じられないアルバムだなと。
「最近、歌詞を書くのがめっちゃ早くなったんですよ。考えても無駄っていうか、本当に思ったことを捻らずに書いてるだけ」
逆に言うと、今までは作為があった?
「あった。でも今回は本質だけで勝負したいと思った。あと、世の中のマナーとか常識とか、あるいは今の人間関係において、これを言うとマズいと思うことを怯まず書いたの。例えば〈悲しみよ歌になれ〉は、フェスに呼ばれないことを歌にしてて」
そういえば愚痴ってたよな。若手じゃなくなって各地の夏フェスから声がかからなくなったって。
「〈フェスティバルの音 飲み屋の喧騒/そのどれからもはぐれひとり歌っている〉っていうのはそういうことで。本当は歯向かってはいけない対象だと思うけど、どうしても〈なんも分かってねえな〉ってそいつらに言いたかった」
つまり、自分の痛みを晒け出してる。でも、そこに不思議と押し付けがましさがないんだよ。
「そうかもね」
で、そのなかでも俺が一番共感したのはやっぱり「音楽と人」で。これ、他の曲とは違うと思う。
「違う歌だと思う。だってあの歌詞のモチーフって、樋口さんと揉めた呑み屋での出来事だから。2番のAメロなんてもろそうじゃん。〈傷を晒して痛めつけ合う〉ってところ」
傷つけ合ったっけ?(笑)。
「あったよ! あの曲って俺が『音楽と人』のイベントに出ることになって、樋口さんから『社歌を書け』って言われて書いたんだけど、〈音楽と人〉っていうタイトルである以上、その雑誌にまつわることしか書いちゃダメだと思って。で、2人で呑んでああなったことを書こうと思って」
あの曲を聴いて〈ここまで来たら、柴田とは徹底的に付き合うしかないな〉って思った。仲違いするか、マジで友達になるか。その二択しかないなって。
「で、友達になるのを選んでくれたんだ。でもなんでそれが旅行って企画になるの?(笑)」
記事にする名目だったら経費で落とせるでしょ(笑)。
「あはははは!」
2人で旅に出たら自然と距離も近くなるじゃん。さっきも普段だったら話さないようなことを自分から話してたし。
「海見てたら急に話したくなったからね。あの時の俺、確かに友達と話してる感覚だった」
俺もそう。あと、それをすごく感じたのが〈ツレ伝フェス2023〉だったの。あれは本当にすごかった。
「最初からお客さんもずっといてくれてね」
柴田が呼んだ出演者のステージに、誠実さと熱量の高さでずっと向き合ってて。でも立ちっぱなしで辛いはずじゃない?
「辛いと思うし、たぶんお客さんも俺と同じようにもがいてる。俺も大変だったけど、あの人たちも絶対に大変だったと思う」
あのステージとフロアの関係性に、俺は友情を感じたの。
「そっか、どっかのバンドの仮想恋愛ではなく、俺らは友情なのか。でも……これを読んだ人に気を悪くさせるつもりはないんだけど、友達が作りたいとかお客さんと仲良くなりたくてやってるつもりは1ミリもないんだよね」
それもわかる。でも、あそこにいる全員がお前のことを好きなのは確かじゃないですか。
「……でも、肝心の自分が自分のことを好きになれないんですよ。だからライヴをやってる時だけは、自己肯定感が爆上がりするんだけど、翌日にはもうないから……あ、あの瞬間だけは誰にも気を遣わないでいられるってことだから、友達なのかもね。それ、カッコいいな。音楽をやってる時だけ自分らしくいられる俺(笑)」
自分で言うな(笑)。
この旅行を企画した時、柴田から出てきたたった一つの要望が〈温泉街のスナックに行くこと〉だった。ハシゴ酒ですでに酔いが回ってきたが、宿の二軒隣りのスナックの扉を開けると、そこには絵に描いたような昔ながらのスナックワールドがあった。彼が心酔している格闘家兼ユーチューバー、朝倉未来が試合に敗退&引退をほのめかしたことへの誹謗中傷に怒りをぶつける彼に「それはお前の身勝手な正義感だろう」と反論すると「じゃあ見て見ぬ振りをしろってこと? 俺が愛する未来が傷ついてるのに!」と激昂する。やっぱり柴田とはこういう展開になってしまうんだなと思いつつ、母性の塊のようなママと度量のデカい常連客の仲裁により、ケンカにはならず、宿に無事帰還。ビールを持ったまま畳の上で沈没する彼を尻目に、1日を振り返った。この旅を、彼はどう思ってるんだろう?と。