【LIVE REPORT】
〈MAN WITH A MISSION World Tour 2023 〜WOLVES ON PARADE〜〉
2023.12.16 at さいたまスーパーアリーナ
見かけは野獣だけれども、そこらの人間以上に熱いハートを持つオオカミたち。そんなマンウィズの健在ぶりをあらためて感じることができた、いいライヴだった。
12月16日、土曜日。ワールドツアーの最終地点である、さいたまスーパーアリーナ。コロナ禍があったため、僕にとってはひさしぶりに足を踏み入れるマンウィズのライヴである。その会場に入る前から、非常に印象深い光景が見られた。
まず入場ゲートまでのスペースを、小学校低学年とおぼしき女の子が、お父さんと手をつないで一緒に歩いていた。彼女は背負ったリュックにオオカミのキーホルダーを下げていて、スキップするような足取りで進んでいる。よっぽど楽しみにしてたんだな……と思っていたらそのそばを、今度はさらに小さい子供たち3人がダッシュで駆け抜けていく。彼らは全員が頭にオオカミの形をした帽子を装着。後ろを親御さんが追いかけるように歩いていく。こんなふうに、親子連れが多いのだ。以前、今日の開演時間を確認するためにネットで公演のページを開いた時、そこにチケットの情報も載っていて、子供と参加する人にはファミリー席の購入が希望できたことを思い出した。
今はこうしたファミリー席、家族席の類を準備するアーティストはロック系でも珍しくない。当然それは小さな子たちがコンサートに行きたいと思うようなバンドで、マンウィズだってテレビなどの一般メディアに出るようになってずいぶん経っているし、その客層は2019年の「Remember Me」の大ヒット以降さらに広がっている。何たって今年の大晦日には『紅白』に出演するのだ。とっくにお茶の間レベルの人気なのである。
「バンドヲヤッテルト、何ガ起コルカ分カリマセン。私達、今度、『紅白』ニ出テシマイマス!」
ライヴ中にジャン・ケン・ジョニー(ギター)はそんなニュアンスのMCをした。しかしその次には「デモ、コウシテ皆サンノ前デライヴガ出来ル事ノ方ガ嬉シイカナ」と話し、観客から大きな拍手をもらっていた。
何気ない流れではあったが、この言葉にはライヴ・バンドとしての矜持を感じた。なにしろライヴに明け暮れる日々を送っていたオオカミたちがこうしてやっとツアー生活に戻れたのは、およそ4年ぶりのこと。2023年は3月からずっとライヴの連続で、海外ツアーも含むその総数は66本に及んだ。ジャン・ケンは「今年ハ本当ニライヴバカリヤッテタ1年デシタネ」と語った。
そのせいかセットリストは、新しめの楽曲たちを中心にしながらも、ファンの前に対して自由に演奏できなかった何年かのぶんを取り返そうとするような熱量がのぞいていた。たとえば「database」は、オリジナルはもう10年も前に10-FEETのTAKUMAをフィーチャーしていた楽曲で、これをオープニングに置いたことには今年大ヒットを放ったあのバンドをリスペクトする気持ちがあったのではと感じたし。Dragon Ashの「FANTASISTA」をカヴァーしたことには、彼らへのエールの意も含んでいるのではと推察する。
ライヴは、基本的には彼ららしい轟音が響き続ける内容でありながら、アコースティックバージョンの「Dive」ではジャン・ケンが繊細な歌を聴かせるなど、押し引きが絶妙。アリーナならではの巨大なヴィジョンを使ったスペクタクルな演出は以前よりスケールアップしていて(奥行き感が秀逸)、その映像がさらに活きたのは中盤以降だった。コロナ禍に苦しみながらも前向きに、力強く生きようとする人たちの姿を活写した映像が映った「yoake」。恋人や友人同士、親子や家族といった身近の大切な人々が心を通わせる姿を映し出した末にたどり着いた「Remember Me」。こんなふうに強いあたたかみを感じさせる瞬間には、濃厚な人間味……いや、オオカミ味?があふれ出している。語義矛盾と言われたっていい。こんなに人間くささにあふれたオオカミなんて、ほかに、どこにもいやしない。
本編ラストの「FLY AGAIN -Hero’s Anthem-」では、まさしくアンセムだけに大会場が一体になる高揚感でブチ上がり、エンディングではヴォーカルのトーキョー・タナカ(通称タナパイ)が自分の胸に左手をそっと当て、その姿がヴィジョンに大映しにされることでオーディエンスに思いが伝えられる場面があった。ほんの一瞬だが、あれはいい光景だったと思う。さらにそのタナパイが中盤の「Raise your flag」の前に、会場中をどよめかせるようなアクシデントを起こしたのもいい思い出だ。
このほかに、恒例の映像コーナーではドラムスのスペア・リブが断食に挑戦する企画が流されたり、ライヴのクライマックスに差しかかるところではmiletが登場して「絆ノ奇跡」と「コイコガレ」がパフォーマンスされるスペシャルな流れがあったり。miletとのライヴの場での共演は今夜が初だったらしいが、マンウィズのラウドな音の塊に負けることのない強靭さを持つ彼女のヴォーカルは本当に素晴らしかった。すでに人気アーティストとして認知されているmiletだが、ゆくゆくはもっと大化けするのではないかと僕は期待している。
心が震えるポイント多数のこのライヴを観て、あらためて思った。マンウィズは、愚直だ。愚かしいほどまっすぐで、バカバカしいほど熱い。しかし彼らはその基本姿勢を変えることなく、ここまでやって来たのである。
実は今夜、つい記憶をたどり直していたのは、自分がオオカミたちを渋谷eggmanで初めて観た夜のことだった。あれは彼らが登場した年、まだデビュー前のことで、当時のレコード会社のスタッフに声をかけてもらい、僕は会場を訪れたのだった。eggmanの階段を下りてドアを開けると、とくに名が知られるバンドがいない企画で、それも早い時間だったためか、そこにいた客の数は15人程度だったと思う。彼らの風貌のためなのか、曲間では、スカスカのフロアから笑い声も上がった。それでも5匹はその場で全力でプレイし、その場に爆音という名の爪痕を残していった。こいつらパンクだな、と思ったものだ。確かめてみたところ、このライヴを観たのは13年前のことだった。
そこからオオカミたちはメジャーデビューを果たし、幾多のハードルを超えていった。各地のライヴハウスを席巻し、フェスの出番ではステージを満杯にした。奇異の目で見られることが多かったテレビの歌番組でも、今では最高の音楽を鳴らすバンドとしておなじみになっている。このほかに、災害被災地への支援活動も、損害を出しそうな音楽フェスへの応援も、世界レベルのリリースに加えて海外ツアーも、国外アーティストとの共演も、そしてタイアップによる大ヒットもあった。不可能を可能に変え、嘲笑を大歓声に変えていった彼らの歩み。あの13年前の15人の客のうち、このオオカミたちが甲子園球場でのワンマンを実現させるとか紅白に出るようなバンドになるなんて、誰ひとりとして想像しなかっただろう。本当に申し訳ないが、それは僕だってそうだ。
バンドとしては大成功のはずだけど、しかし青くさい理想主義で駆けてきたマンウィズの歩みはまだまだ途上なのだろうと思う。このバンドは、つねにすべてを叶えようと尽力する。たとえばライヴの空間でも、ダイナミックな演出と、繊細な心をそっと唄う楽曲のパーソナルな感覚、この両立。商業的なものが絡むタイアップにも挑むけど、ずっと大切にしている心と心の結びつきこそ保つべきもの。それに、昔からの仲間たちとの絆は、決してないがしろにしない。時には歌番組にも出るけれど、それ以上に大事にするのはあちこちで生きているオーディエンスたちとの交歓をくり返すツアーの日々。それも日本の小さなライヴハウスから海外の大会場まで、だ。そして老若男女の大観衆を呑み込んだ今日のライヴ空間。
本当にドラマチックな、だけどそれをひけらかすことなどせず、黙々と……いや、ガゥガゥと(←かつてのジャン・ケンがよく口にしていた唸り声)次の目的に向かい、走り続ける。彼らはあの頃からもちろん成長しているが、愚直な基本姿勢は変わらないままなのだ。まったく、見上げたケモノたちだと思う。
ライヴが終わり、帰りの駅に向かう人混みの中、両親のあとを歩く小さな男の子の手には、クライマックスでステージから放たれた銀のテープがしっかりと握られていた。それを見て、また胸が熱くなった。マンウィズの野望は、理想主義は、こういう子たちのところにも届いているのだ。
オオカミたちの、愚かしいほどまっすぐで熱い、エモーショナルな旅は続いていく。きっと、まだまだ、これから先も。
文=青木優
【SET LIST】
- database
- Get Off of My Way
- Fantasista
- Merry-Go-Round
- Take Me Under
- More Than Words
- Raise your flag
- INTO THE DEEP
- Dive -Acoustic Ver.-
- yoake
- Emotions
- Change the world
- 絆ノ奇跡
- コイコガレ
- FLY AGAIN -Hero's Anthem-
ENCORE
- Between fiction and friction Ⅰ
- Dead End in Tokyo
- Remember Me
DVD/Blu-ray
『Wolf Complete Works Ⅸ~WOLVES ON PARADE~World Tour 2023』
2024.03.06 RELEASE
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〈311 x MAN WITH A MISSION〉
2024年1月22日(月)、 23日(火)Zepp Haneda(TOKYO)
open 18:00 / start 19:00
2024年1月25日(木)Zepp Osaka Bayside
open 18:00 / start 19:00
〈FUN WITH A MISSION TOUR 2024〉
3月5日(火)神奈川・KT Zepp Yokohama
3月6日(水)神奈川・KT Zepp Yokohama
3月19日(火)宮城・SENDAI GIGS
3月20日(水・祝)宮城・SENDAI GIGS
4月8日(月)大阪・Zepp Osaka Bayside
4月10日(水)大阪・Zepp Osaka Bayside
4月15日(月)愛知・Zepp Nagoya
4月16日(火)愛知・Zepp Nagoya
4月22日(月)香川・レクザムホール(香川県県民ホール)
4月23日(火)香川・レクザムホール(香川県県民ホール)
5月8日(水)広島・広島文化学園HBGホール
5月9日(木)広島・広島文化学園HBGホール
5月14日(火)東京・Zepp Haneda(TOKYO)
5月15日(水)東京・Zepp Haneda(TOKYO)
5月20日(月)北海道・Zepp Sapporo
5月22日(水)北海道・Zepp Sapporo
5月28日(火)新潟・新潟県民会館 大ホール
5月29日(水)新潟・新潟県民会館 大ホール
6月3日(月)福岡・Zepp Fukuoka
6月4日(火)福岡・Zepp Fukuoka