心を揺さぶられたり、座右の銘となっている漫画、映画、小説などの1フレーズが誰しもあるはず。自身の中で名言となっている言葉をもとに、その作品について熱く語ってもらう連載コラム『言の葉クローバー』。今回、映画好きの木下理樹が紹介してくれたのはノスタルジックな青春作品。しかもセリフではなく、映画のキャッチコピーを選んだ、その理由とは。
映画『君がいた夏』
誰にでも、一生忘れられない人がいる。
作品紹介
『君がいた夏』
監督:スティーブン・カンプマン&ウィル・アルディス
1989年公開の青春映画。
プロ野球選手としてうだつの上がらない日々を過ごしているビリーのもとに、従姉のケイティーが自殺したという訃報が入る。彼は失意の中、彼女とともに過ごした故郷へと向かう。その中でビリーは自身が一番輝いていた青春の日々に立ち返ることになる。
(これは『音楽と人』2023年12月号に掲載された記事です)
『君がいた夏』は、高校の時にレンタルビデオ屋さんで借りて観たんですけど、人生の中で5本の指に入るぐらい何度も観返してるし、本当に大好きな映画。ちょっとセンチメンタルで、青春映画の傑作だと思います。
主人公のビリーはちょっと大人びた従姉のケイティに憧れていて、異性として意識していく様子が描かれてるんだけど、そのケイティを演じるジョディ・フォスターの演技がすごくいい。存在感もあって、年上の女性に淡い恋心を抱くストーリーもグッとくる。すべてがあまりにも儚くて美しいんだよね。特に印象に残ってるのは、お父さんが亡くなって落ち込んでるビリーを、ケイティがドライブに誘ってプールに連れていくシーン。「プールの底にタッチしたらなんかいいことあるかもよ」ってケイティが言って、2人でダイヴしてプールの底にタッチするんだけど、映像がスローモーションになってすごくきれいな音楽が流れるんですよ。それがとても美しくて、感動して何度も繰り返し観たね。
今回選んだのは、ストーリーの中で出てくるセリフじゃなくて、実は映画のキャッチコピーなんですけど。本編を観る前に「誰にでも、一生忘れられない人がいる。」っていうのを観た時は、〈そんなことあるのかな? いや、ないだろうな〉って思ってた。でも観終わったあと、この言葉を体感したというか。映画の中のケイティというか、ジョディ・フォスターの透明感がすさまじく焼きついて、僕はこの人のことを一生忘れないだろうなって本当に思った。それくらい自分が観てきた美しさの中でもかなり上位だったし、映画を通して、こんな気持ちになるんだってびっくりしました。今でも鮮明に蘇ってくるところがあるくらい。
ART-SCHOOLの曲でも女の人がよく歌詞に出てくるけど、その人と何かがあるわけではなくて、手の届かない存在としての憧れだったり、こっちが一方的に思いを馳せていたりっていうものが多くて。そういう女性への憧れや、美しさや純粋さの描き方っていうのは、『君がいた夏』で感じたものと繋がってる部分かもしれないですね。
大人になって改めてこの言葉を見ると、失ってしまったものへの憧憬みたいなものもある気がして。〈一生忘れられない〉ような出来事って、いろんな経験を積むと、だんだんなくなっていくんですよ。大人になったからこそ、この言葉の瑞々しさが、より理解できるようになったところもあると思う。
めちゃくちゃロマンティックで、ちょっと顔が赤くなるような言葉だけど、ここにこの映画のすべてが集約されているし、僕にとって美しい記憶として一生忘れられずに焼きついてる作品ですね。
ART-SCHOOL ACOUSTIC TOUR 2023 「NOSTALGIE」
12月19日(火) 愛知 TOKUZO
12月23日(土) 神奈川 F.A.D YOKOHAMA
12月24日(日) 東京 YUKUIDO工房
※終了分は割愛