俺は普通のやつだという自負がある。だから自分のために作ったら、結果的に自分と同じようなやつに勝手に響いてくれるだろうな
よく、どうにもならない鬱屈を吐き出したかったとか、そうすることで楽になれた、とか言う人もいますけど。
「いやいやっ! そんな自分で自分を救ってやろうみたいな高尚なことではなくて……そんなカッコいいもんではなく、もっと好きなキャラを下手クソだけどらくがき帳に書いちゃうみたいな感覚ですかね。すみません、カッコいい回答じゃなくて」
なんで謝るんですか(笑)。ちなみに学校に行かないっていう選択はなかったんですか?
「辞めるほどの度胸はなかったです。欠席日数はほんとギリギリだし遅刻も毎日のようにしてましたけど、〈まあ、大学には行かなきゃいけないしな〉みたいな」
真面目です。
「これも普通の感覚ですよ、たぶん(苦笑)。ぶっ飛んでるやつは、学校行かずに遊び呆けるとか、家に引きこもって曲を作り続けてとかなんでしょうけどね」
いろんな人が曲を聴いてくれるような状況になっても、自分のために曲を書いてるっていうのは変わらないですか?
「それは変わらないですね。人のためにって思うものもありますけど、それも自分がその人のために書きたいと思わなきゃ書かないので。だからまったく知らない人のために曲を書いてみようとはならない。そういう意味では自分が書きたいなって思ったこと以外は書いてないと思います」
今回のミニアルバム、慎之介くんとオギノくん(オギノテツ/ベース)の曲がありますけど、慎之介くんの曲のほうが視点が内側を向いてる印象はたしかにあって。
「ああ、そうかもしれないです。オギノも自分のために書いてると思うんですけど、あいつは自分を奮い立たせたり人を奮い立たせたり、そういう目的のために書いていることが多いというか。なんていうか、語尾が違いますよね。〈立て!〉〈何をしているんだおまえは!〉みたいなマインドで、後ろに〈!〉がつくのがオギノの曲だとしたら、〈だよなあ……〉って〈……〉がつくのが俺で。そういう意味では、同じ〈自分のため〉でも眼差しの厳しさが違うというか」
普段の性格的にもそうなんですか?
「オギノは普段から言うこともそうですね。語尾にビックリマークがつくような感じ。で、俺はやっぱり語尾に〈……〉がつくような感じ(苦笑)。強いことも言えないですし……」
今もまさにそうですね(笑)。ヴォーカルとして、メンバーを引っ張らなきゃとか、ついてこい!みたいになりたいって思うことはありません?
「確かに。うーん、でもどうなんですかね? 思ったりしないこともないけど……最近はちょっとしたいなと思うけど……」
けど?
「やっぱり〈……〉なんですよね。できないって思ってるのか、実はあんまりしたくもないのかな……」
はっきりしないな(笑)。
「はははは。そんなに人を引っ張っていくような人間じゃないし、オギノがやってくれてるからいいやっていうのもあるし。でもそれでずっといるのもつまんないよな……ぐらいには思ってるんですけど」
メンバーにめちゃくちゃ厳しく接するフロントマンとかもいるじゃないですか。
「いますね。でも自分はそういうタイプじゃないんで。それも結局はいじめられていたことがつながってくるのかなという。例えば厳しく言った時に相手がヘラヘラ笑っていたとしても、どっかで嫌がっているかもしれないし、傷ついてるかもしれない。その嫌な気持ちがどういうものか、俺はすごくよくわかってるから」
そういう過去の経験があるわけですもんね。
「今は笑ってくれているけど、俺が便所で音楽を聴いたような何かがこいつの中で起こってしまうかもしれない、みたいなことを考えると、そんなこと人にしたくないんですよ」
誰かに優しくしたい、純粋でありたい、みたいな気持ちも曲にすごく出てますね。
「そっちのほうがカッコいいと思ってますね。過去に俺が味わったような気持ちにさせるのはもちろん嫌だし、当時、優しくしてくれたやつらがどんだけカッコよかったかも俺は知ってるから。俺もそうありたい」
優しくしてくれた人もいましたか。
「いましたね。何も言わずに遊んでくれただけなんですけど。いじめられてる俺に『そんなの言い返せばいいじゃん!』とかって言うこともなく、『今日はカラオケ行こうぜ』みたいな感じで、自然と一緒にいて笑っていてくれた。このひと言で済ませるのはあんまり好きじゃないんですけど〈寄り添う〉みたいな。でもそれがなかったら俺は生きてないかもしれないなと思うほどのことだったから、俺もそういう生き方をしたいなっていうのが、ずっと心の真ん中にあるかもしれないです」
「Cakewalk」の〈晴れた日は散歩を雨の日は歌を/眠れないならまだ眠らないで話をしよう〉みたいな。
「あ、そうですね。寝ろ!とは言わないです(笑)」
そういう優しさを感じられるのが、時速や慎之介くんの曲のいいところだなっていう気がします。
「うれしいな。ありがとうございます」
たぶんそれは自分のことを平凡だと思ってて、辛さや痛みをわかってるから、こういう歌が唄えるんだろうし。
「そうかもしれないですね。俺は普通のやつだという自負があるし、自分と同じようなやつはたくさんいるだろうと思ってて。だから自分のために作ったら、結果的に自分と同じようなやつには勝手に響いてくれるだろうなって思うんです。世の中に音楽はいっぱいあるし、音楽じゃなくても、言葉や映像や、人を救うものって本当にたくさんあって。そういう中で、俺がいちいちカメレオンみたいに、自分の立ち位置を変えてまで誰かのために唄おうなんてしなくていい。だって、他にもいっぱいあるし、その立ち位置から唄ってる人の言葉にはどうやっても勝てないから。だったら俺は今のこの立ち位置から唄えることを一生懸命唄う。それが一番強いものになるというか。そう思ってるところはありますね」
だから歌に嘘がないし、慎之介くんと同じようなものを抱えてる人にはめちゃくちゃ深く突き刺さると思います。
「うれしいな。そうでありたいですね」
でもアー写はもう少し顔が見えていいと思いますよ。
「いやぁ……それはもう少し時間ください(苦笑)」
文=竹内陽香
NEW MINI ALBUM
『狂おしいほど透明な日々に』
2023.09.20 RELEASE
01 ブルー
02 かげろう
03 助かる時はいつだって
04 Cakewalk
05 シャイニング
06 stars
07 化石
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〈時速36km pre. コンプレッシドクリーンサスティーンツアー〉
2023.10.6(金)千葉 LOOK
2023.10.22(日)仙台 LIVEHOUSE enn 2nd
2023.11.3(金)広島 4.14
2023.11.27(月)横浜 F.A.D.
2023.12.9(土)新潟 GOLDENPIGS REDSTAGE
2023.12.20(水)京都 MUSE
2024.1.13(土)福岡 INSA
2024.2.2(金)名古屋 CLUB QUATTRO
2024.2.3(土)梅田 CLUB QUATTRO
2024.2.17(土)Zepp Shinjuku