KEYTALKがリリースした8枚目のフルアルバム『DANCEJILLION』(ダンスジリオン)。今作は2年ぶりのアルバムだが、その2年間は思うようにライヴができなかったり、ライヴを開催できても声が出せない状況下で悩むこともあったのではないかと思う。極端に言えば、その間にKEYTALKの目指す方向性が変わってもおかしくなかったはずだ。しかし蓋を開けてみれば、〈聴く人を踊らせる〉ことに重きを置くいつも通りの彼らがいた。メジャーデビューから10年目を迎えた今もなお、ブレることなくKEYTALKが存在し続ける理由は何なのか。その思いを紐解くべく、小野武正(ギター&MC&コーラス)に話を聞いた。バンドの発起人でもある彼が、今のKEYTALKに対して、そして自身の活動に対して思うこととは? 人一倍おちゃらけているように見えて、実は誰よりも俯瞰して冷静にバンドを見つめていて、優しい。そんな彼がいるからこそ、KEYTALKはKEYTALKで在り続けるのだろう。そう思えた、初のリーダー単独インタビューをどうぞ。
アルバム聴きましたが、KEYTALKらしさ全開ですね。でも、過去作に比べるとどこか落ち着いた部分もあって。
「サウンド的にですか?」
そうです。昔、「B型」って曲をリリースされたじゃないですか。血液型シリーズとして、そのあと「A型」とかも誕生しましたけど。
「相当前ですよね。懐かしいな」
2013年リリースみたいです。ちょうど10年前ですね。血液型のパブリックイメージに対する鬱憤を唄っていた頃の尖り具合と比べると、いい意味でKEYTALKも熟してきたなと。
「ははははは。まあ、バンドのモードだったり、いろんなものが違いますからね。あの時とは」
ご自身の中で変わったなって思う部分はありますか?
「いろいろありますけど、それこそ10年前はバンドサウンドだけで曲を作りたいって思ってましたね。メジャーに行くにあたって、メンバーそれぞれが曲作るようになって、シーケンスの音とかシンセの音とかを入れることはちょいちょいあったんですけど、当時はあくまで添え物程度で。あとは、ライヴで同期を使うのも僕は反対してたんです。最終的には作った人の意思を尊重するってところに落ち着いたんですけど……僕はバンドサウンドに特化してるものが好きだったし、そういうものをやりたかったので」
バンドサウンドにこだわっていた理由は何だったんですか?
「自分がバンドを組む前、好きになったのがバンドサウンドを大事にしていたバンドで。そこに影響を受けてたから憧れも強かったし、自分もそうなりたいって気持ちが強かったんです」
でも、徐々にアレンジに対しても寛容になっていったというか。
「そうですね。バンドサウンドを貫くっていうのは、自分にとって一個のアイデンティティでもあって。でも、他のメンバーにも好みがあるわけで。それぞれがどこを妥協して受け入れているのか、僕には計り知れないところがあると思うんですけど、やっぱバンドとして不特定多数の人たちとやっていく上で、いろんな意見があることで科学反応を生んだり、そうじゃないと面白みが出ないってことを知れたし。結局、バンドって自分だけのものではないので。自分が携わっているものであり、他の人たちのアイデンティティが入って、バンドっていう一個の人格ができる感覚というか。その他の人たちっていうのは、もちろんメンバーもそうだし、聴いてくれるファンのみんなもそう。〈KEYTALKはこうだよね〉〈こういうKEYTALKが好きだよね〉〈このKEYTALKは違うね〉っていろんな人が思うことによって、KEYTALKの人格がどんどん確立されていくものだと思うし。だから独りよがりにはなりたくないですね」
今回のアルバムって、まさに〈KEYTALKはこうだよね〉〈こういうKEYTALKが好きだよね〉って聴き手がいの一番に感じる作品になってると思うんです。
「そうですね。僕としては、なんか吹っ切れたアルバムになってるのかなって」
吹っ切れた?
「コロナ禍で混沌とした時に思い描いたものだったり、コロナ禍で活動をどうやればいいんだろうって模索したことだったり、そういうものがこのアルバムには詰め込まれていて。前作の『ACTION!』もそういう節はあったんですけど、今作はコロナ禍でライヴができたり、やっと声出しできるぞ!って状況下でも制作していたんです。その期間で自分たちがやるべきことを見つめ直せたけど、そこに至るまでは葛藤もあって。でも、迷いはなくなりましたね」
どんな葛藤があったんですか?
「僕らは2019年にビクターからユニバーサルに移籍したんですね。で、移籍後にいろんなプロデューサーの方を迎えてアルバムを作って、今までのKEYTALKとはまた違ったスタイルを確立しようとしている最中にコロナ禍になって。バンドだけじゃなくて、世間的にも個人的にも混沌としていて……なんですかね、別に今は全然そんなこと思わないですけど、当時はもう音楽をやらなくてもいいかなって思うくらいどん詰まってました」
意外です。武正さんはコロナ禍に「わしつなぎ」と題して、KEYTALKの曲のギターを弾いては動画を上げて、っていうのをコンスタントにされていたので。
「まあ、音楽をやらなくてもいいかなって思ったことは、悲観的な意味じゃないんですけどね。当時はライヴもできなくて、お客さんとのコミュニケーションもなかなかとれないし、僕らだけじゃなくて社会全体でインターネットの比重が高くなってくると、音楽以外のことにも興味が湧いたりして。それこそ、ネット発信の音楽っていうのかな。すごいクオリティの高い曲や才能を目の当たりにしすぎると、自分が音楽をやる必要はないというか、自分の音楽的な価値はどこにあるんだろう?って思ったり。もともとはバンドサウンドに重点を置いていたのも原因だと思うんですけど、モチベーションがめちゃくちゃ下がってました。ライヴができない、お客さんの前に立てないとか、そういうのが積み重なると、自分じゃ計り知れないぐらいいろいろ思うことがあったのかなと。いろんなやりたいことがあったはずなんですよ、音楽的にも。でも、そういうものに全部蓋がされた感じで。音楽が嫌いになったとか、バンドが嫌いになったとか、そういうわけじゃない。ただ、時代的な雰囲気にけっこう影響受けてましたね」
そこからどうやって気持ちがまた音楽に向かっていったんですか?
「友達とキャンプに行ったり、バンドが忙しかった時にできなかったことをしたらリフレッシュできたんですよ。で、いざ音楽活動をちょっとずつ再開していくと、自然とまた音楽への熱量も高まっていって。その一個として、さっきの〈わしつなぎ〉がありましたね。結局、承認欲求が足りてなかったっていうのもあると思う。発信すれば〈いいですね〉とか反応が来て、それで自分はギター弾いてていいんだ、音楽やってていいんだって思えたというか。なんか、大人になればなるほど褒めてくれる存在って少なくなってくるじゃないですか」
確かに。
「褒めることって、大人にとってもけっこう大事かなと僕は思ってて。大人って、いいところがあっても褒めなくて、悪いところを見つけたらすぐ食いついたり攻撃する風潮があるけど、それは良くない。周りの人を見てても、いいところはいっぱいあるんですよ。だから僕はメンバーに対しても『ここいいね』とか『あれカッコいいね』って言うようにしてます。まあ、それが『嘘くさい』って言われることもあるんですけど(笑)。でも、やっぱり人の粗を探すよりは、いいところを探して褒めていきたい。ギブアンドテイクにしたいわけじゃないんですよ。もちろん褒めてもらえたら嬉しいけど、別に褒め言葉が自分に返ってこなくてもまったく問題なくて」
武正さんは見返りを求めてるわけじゃないですよね。単純に、自分がされて嬉しいことを人にしたいってだけの話であって。しかも、その言葉は相手を持ち上げるためのものじゃなくて、〈この人のこういうところは素敵だな〉って本当に感じたことですよね。
「そう。特に人前で何かを表現する人たちって、ネットで手軽に発信できるぶん、すぐに反応をもらうことができるじゃないですか。でも、心ない言葉に直面する瞬間のほうが多く目につくんですよ。それによって苦しむ人たちって本当にたくさんいるから、自分はせめてプラスの言葉を伝えたいんです」
武正さんってやっぱり優しいですね。誰かをディスるようなことをしない人だし、むしろ場を盛り上げようと、ムードメーカーとしての役割を全うしている印象があって。人を傷つける姿が想像つかない人というか……お話を聞いて改めて思いました。
「ありがとうございます。自分では優しいと思わないんですけど(笑)。でも、やっぱりみんなに楽しんでもらえたほうが嬉しいので、自分が楽しいと思えることを自然にやってるだけですよ」
その〈楽しいことをやっていたい〉って思いは、Alaska Jamというバンド、要はKEYTALKと違うアウトプットができる場を持っていることにも繋がりますか? Alaska Jamはそれこそバンドサウンドにこだわっていて、表現するものが違うとやっぱり刺激になりますよね。
「そうですね。全然違うアウトプット先があることによって、自分の音楽的欲求も一個満たされますし」
最近はベースを担当されていた石井浩平さんの脱退、新体制での活動を発表されましたね。
「はい。コロナ禍の僕じゃないですけど、まあ、浩平自身、Alaska Jamの活動に対するモチベーションが下がってきて。僕らはモチベーションがまた湧いてくるまで待つつもりではあったんですけど、浩平はそれに申し訳なさを感じていて。そう思わせるくらいなら、浩平の意思を尊重したいって思ったんです。やっぱりバンドって、それぞれの人生が詰まってて、一つの人格でもあるので。これはバンドだけの話じゃなくて、会社とかもそうだと思うんですけど、どうしてもずっと同じメンバーではいられないじゃないですか。でも、バンドなり会社が存在し続けて、先に進み続けることができれば、きっとどこかのタイミングで新しく出会ってくれたり好きになってくれる人が現れると思うんですよ。そういう可能性が少しでもあるんだったら、メンバーが抜けてまた新たに進んでいくっていうのは大変な選択だけど、やっぱり足を止めたくないなって。僕らにとっても浩平にとってもAlaska Jamは大切なものだし」
大切だからこそ、もっとたくさんの人に愛してもらいたいですよね。
「そうですね。それもあるし、Alaska Jamに関しては絶対止めないぞ!って気持ちよりは、止まることができないって感じですかね。Alaska Jamでこれやったら面白そう、これもやりたい、あれもやりたいって好奇心が原動力になってる気がします。僕、これからは人に音楽を教えることも始めようと思ってて」
どういうことですか?
「高校の時に通ってたMICHI音楽学院っていう音楽教室が埼玉県の志木市にあるんですけど、そこで先生をやるんです。前も特別講師としてレクチャーする機会があったんですけどね。母校の昭和音楽大学っていう大学でも、特別講師をやらせてもらったことはあったんです。でも、OBとして呼んでもらったからやるんじゃなくて、自分の立場で教えられることがあれば教えたいって思って」
どんなことを教えたいんですか?
「ライヴとかレコーディングにどう向き合うかとか、そういう心理的な部分って、ググっても出てこない情報がいっぱいあると思うんですよ。ミスに対してどう捉えるかが重要なのに、大体の人は『ミスんないように練習しろ!』としか言わない。人間なんだから絶対ミスするじゃないですか。まったくミスしないのなんて無理なんですよ。だったら、ミスに対してどう向き合うのかとか、レコーディングに関しても、今ってパソコンひとつで曲を作れちゃう時代ですけど、そうじゃなくて誰かと一緒に演奏して、バンドをやって、音楽を作ることの楽しさを教えたい。歌のピッチ一つにしても正解は一つじゃないこととか、リズムのヨレとかに関しても、誰かが走ってるけど、それによって面白い雰囲気になるとか、そういう部分って生で体感してこないとわからないと思うんです。パソコンだけで曲を作ってるとどうしても機械的になったり、表現技法が狭まっていくと思うんですけど、正解は一つじゃないよってことを教える人がいたほうがいいと思って。今もいると思うんですよ、そういうことを教えてくれる先生方っていうのは。でも、バンドをやってる身として伝えられることがきっとあるんじゃないかなって」
いい話ですね。一時は音楽に対してのモチベーションが下がっていたけど、今は音楽の楽しさを伝えていきたいって思えてる。人だから気持ちの上がり下がりはあると思いますけど、武正さんはバンドというものを生涯かけて追求していく人なんだろうなって思いました。
「ははははは。そうかもしれないですね。特にKEYTALKに関しては、KEYTALKっていうものを喜んでくれる人がいて、それが自分たちにとってもかなり支えになってるので。KEYTALKは絶対的なものとして守っていきたいし、自分たちの曲を聴いてくれる人たちが楽しいって思えるような活動をしていきたいです。KEYTALKは4人だけのものじゃなくて、KEYTALKを好きでいてくれる人たちにとっても大切なものだから」
文=宇佐美裕世
写真=木村泰之(LIVE)
NEW ALBUM『DANCEJILLION』
2023.8.30 RELEASE
01 ハコワレサマー
02 狂騒パラノーマル
03 Puzzle
04 MAKUAKE
05 君とサマー
06 ワッショイ!
07 夜の蝶
08 Supernova
09 九天の花
10 未来の音
11 MY LIFE
12 shall we dance?
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