怒髪天・増子直純が、人生の兄貴分・先輩方に教えを乞い、ためになるお言葉を頂戴する『音楽と人』の連載「後輩ノススメ！〜オセー・テ・パイセン♥〜」。その〈補講編〉として、誌面に収まりきらなかったパイセン方のありがたいお話をWebにて公開していきます。
第3回のゲストは、亜無亜危異のコンポーザー／ギタリストの藤沼伸一。今年3月に初監督作品となる映画『GOLDFISH』が公開されるなど、音楽だけに留まらず、様々な表現活動に積極的に取り組む先輩との熱い対話となった今回。ここでは、増子も出演している映画『GOLDFISH』にまつわる話を中心にお届けします。
監督としての藤沼さんの印象はいかがでしたか。
増子「変に細かいこと言わず、こちらに任せるところは任せてくれるし、たぶんみんなもやりやすかったんじゃないかな。頭の中にある程度完成図があって、それに向けてどう着地させていくか。そういう感じでやってくれてるんだなっていうか。まあ、それはバンドマンならではの感覚なのかもしれないけど」
曲やアルバム制作に近い感覚といいますか。
増子「そうだね。監督によっては、思いつきでどんどん演出が変わったりして。で、結局そのシーンが全部カットになったり、みたいな人もいるのよ。でも藤沼さんは、簡潔に無駄なくきちんと制作を進める概念があるというかね。そういう絶対的な安心感がやってる側にはあったよ」
藤沼さんの中で、映画撮影と、曲作りやアルバムのレコーディングは、作業的に近いものがありましたか？
藤沼「俺にとっては、まるっきり同じだったかな。例えば、曲作る時に、〈イントロのここから歌に入るとカッコいい〉とか、〈ここで転調したら面白いぞ〉とか考えながらデモテープ作るわけじゃない。で、実際にバンドで合わせた時に、ここで転調してもいまいちハマんねえなってなったらカットしたり、アレンジし直すのとまるで一緒。それによってデモの段階のイメージとまんま一緒じゃなくても、結果的に〈カッケェ！〉ってなればいいわけだし。その変化も俺としてはすっげえ面白いことでもあるからね」
3分間の音楽と1時間半の映画。ひとつの作品を作るという意味では一緒だったと。
藤沼「そうね。たださっき『ある程度完成図が見えてる』って増子が言ってたけど、そのために脚本は練りに練った感じではあったけど」
増子「完成したものを観た時、想像以上に映画としてすげぇしっかり作られていて、びっくりして」
藤沼「それよく言われる。ミュージシャンが作る映画ってさ……だいたいコケてるじゃない。だからそう思われるんだろうな、と俺自身も思ってたけど、意外にね（笑）」
増子「本業・ミュージシャンって人が、バンドとか音楽をテーマにした映画作ると、どうしても人間って自分の得意なほうに持っていこうとするから、演奏シーンの比重が大きくなってくることが多くて。でもそうじゃなくて、ストーリーの部分、人間ドラマのほうに90％ぐらい重きを置いて作ってあるから、すごい〈映画観てるんだな〉って気持ちになったよね」
確かに。観るまでは、バンドをテーマにした、いわゆる青春映画的な作品なのかなと思ってたんですけど、人間ドラマが主軸になってて。物語が進むにつれ、やるせなさとか人生の悲哀とか、いろんなものが見えてくるんですよね。
増子「札幌の後輩から、映画を観に行く前に『これから観ます！ 楽しみです』ってメール送られてきたけど、そのあとの感想メールが『ちょっと言葉がない感じです……いろいろ考えさせられました』ってトーンが変わっちゃってたもん（笑）」
藤沼「まあ、ただのバンド映画って、バンド好きな奴は楽しめるだろうけど、例えばバンド好きじゃない彼女を連れて行った時に『何これ』ってなっちゃう作品が多い気がしたの。それは絶対に嫌だなと思ったから、『GOLDFISH』っていうタイトルにして」
GOLDFISH＝金魚、ですよね。
藤沼「そう。金魚ってさ、観賞用のために作られた魚じゃない。だから芸能・エンターテインメント、スポーツ界っていう水槽があって、それを眺めて〈つまんねえ〉とか〈こっちの金魚鉢のほうが面白い〉っていう大衆がいる。しかもその水槽は、お金を出して支配をしてる誰かがいて、その中で泳がされてる人間がいるっていう構造の中にバンドを入れた物語にしたいなって。そういうやりとりを脚本家と何度もしたんだよね」
ちなみに、増子さんをメインキャストのひとりに選んだのは、なぜか聞いてもいいですか？ アナーキーをモチーフにしたバンド、ガンズが物語の主軸になるわけですが、他のメンバー役は俳優の方が演じてる中、寺岡信芳さん（亜無亜危異、ベース／劇中の役名は、テラ）を増子さんが演じているわけですが。
藤沼「増子以外にも何人か、友達のミュージシャンを出したいと思っていて。で、増子が演技上手いのはなんとなく聞いて知ってたし、プロデューサーとか脚本家といろいろ話す中で、増子はガンズのバンドメンバーでいいんじゃない？ってことになったのかな」
なるほど。それによって、〈楽器を持つ増子直純〉を観ることができたわけですね（笑）。
増子「うちのお客さんは、〈楽器弾けないのに、ベース持ってる！〉ってザワザワしたんじゃないかな？（笑）。でもいちおう研究したんだよ」
藤沼「ちゃんとフレットも押さえられてたよね。音は映像を見ながら俺があとでつけたけど、けっこう様になっててさ。だから『なんだよ、おまえのそのアクションはよ～』って」
増子「もっとダサく動いてくれ、って（笑）」
あ、そっちですか（笑）。
藤沼「寺岡って、ベース弾く時、足曲げて変な格好するんだよ」
増子「そのアクションするたびに罰金1000円とってるって話ですよね？（笑）」
藤沼「そうそう。でもその変な動きが、けっこう寺岡のイメージでもあるから、そうしてくれって言ってね。まあ、小さいギャグみたいなことだけど（笑）。あと増子に注文したのは、怒るシーンが後半であるんだけど、『もっとおまえの本気で怒っていい』ってことぐらいかな。こいつ、もともと悪い奴でしょ」
増子「いやいやいや（苦笑）」
あははははは。
藤沼「札幌の不良なんだから、ちゃんと怒ったことがあるはずなんだよ。それをもっと出してくれって」
増子「『思いっきりやってくれ』って言われてね（笑）」
藤沼「『わかりました！』って、カメラ回し始めたら目つきがブワって変わってさ！ 周りのスタッフに『増子、絶対すごい顔するから。ちゃんと撮って』って言ったもん（笑）」
増子「はははははは」
増子さんをよく知ってるからこそ、引き出せた演技だったんですね。
藤沼「しかも増子は、永瀬（正敏）さんとかとキーくん（渋川清彦）とか役者としてずっとやってきた人たちと一緒になっても全然物怖じしないんだよね。同じようなキャリアの役者さんみたいな余裕があってさ。すげーなと思ったよ」
増子「まあ、ここ最近わりと役者仕事もやらせてもらってますから（笑）。でもやっぱ役者さんはすごい。芝居してても、永瀬くんは、藤沼さんに見えるし、キーくんは茂さん（仲野茂／亜無亜危異、ヴォーカル）、あと北村さん（北村有起哉）は、もうマリさん（逸見泰成／亜無亜危異、ギター）にしか見えなくなるっていうね」
藤沼「北村さん、パパ友に『今度バンドマンの役やられるんですか？』って聞かれて、『はい、パンクバンドでアナーキー……』って言った瞬間、『え！ 誰の役ですか？ マリさん役じゃないですよね？』って返されたらしくて。『マリさんの役です』って答えたら、そのあとパパ友にとくとくと語られたらしいよ（笑）」
増子「ははははは。マリさんについて語りたい人間は多いですからね。でも俺、今回の映画を通して思ったのは、メンバーとは幼馴染から始まってるのに、なぁなぁにならないっていうのは藤沼さんのカッコいいところだなって。やっぱりアナーキーというバンドの舵取りをしてる人なんだって思った。もし茂さんが監督をやったとしたら、『よーし、みんな一緒に出ようぜ！』って絶対になると思う（笑）。でもそうじゃなくて、ちゃんと考えてやってるし、そのあたりの線引きもちゃんとしてるんだなって」
藤沼「まあ、茂に監督なんて絶対無理でしょ」
増子「ええっと……そう言われて俺は『うん』とは言えないですよ（笑）」
後輩ですからね（笑）。
藤沼「俺思うんだけどさ、役者も含めて何かを表現する人間は、いくつになっても、好奇心にしろ、思考にしろ、アップデートしていてさ。それこそ日々の悩み――家族とうまくいかねえとか、彼氏・彼女とうまくいかねえでも、世の中おかしいとか、なんでもいいんだけど、何かしら思ってることや気になることがあるわけでしょ。だからこそ芝居ができるし、ステージに立てるし、歌詞も書けるんだろうと思うんだよね」
増子「確かに、いまだに世の中に対する怒りはなくなってないですからねえ」
藤沼「だからそれが止まっちゃってるヤツのことを、俺は老害って呼ぶんだと思うのよ」
増子「守りに入るというか、守るほどでもないものにしがみついたり」
藤沼「そうそう。もちろんそういう人たちがいてもいいし、それが間違ってるとは思わないけど、少なくともクリエイティヴじゃないじゃんって、俺は思うんだよね」
還暦すぎても、自身の思考や好奇心をどんどんアップデートし続けていくのが大事であると。では、今現在の藤沼さんが興味あることはなんでしょうか？
藤沼「いろんなこと全部。ただまあ、映画はちょっと向いてるっぽいぞ、とは思ったかな……って自分で言うのも生意気だけど（笑）。やっぱり物を作ることが楽しくしょうがないんだと思う。物を作るとやっぱりドーパミンみたいなの出てくるから、脳も活性するしね。それに、ほんと好奇心が尽きない。知らないことがわんさかあるんだよ、いまだに。小さい頃、好奇心ってあったじゃん。それをどんどんアップデートさせていくというか。そのほうが生きてて、絶対楽しいと思うからね」
増子「柴山さん（柴山俊之／前回ゲスト）も言ってたけど、還暦がどうこうっていうのは周りが言うことであって、どうあるべきかは自分で決めることだっていうことなんだろうね。藤沼さんみたいに、いくつになってもやりたいことをやってる先輩がいると、なんか希望があるね！」
文＝平林道子
映画『GOLDFISH』オフィシャルサイト（全国順次公開中）
亜無亜危異 LIVE INFORMATION
〈新宿LOFT×ニューロティカ PRESENTS 10ヶ月連続企画「Big Wednesday」 Vol.9〉
9月13日（木）新宿LOFT
〈山人音楽祭 2023〉
9月23日（土・祝）、24日（日）日本トータグリーンドーム前橋
※亜無亜危異は、9/24に出演
〈シネマジェットフェス・ヤマタノオロチライジング 2023〉
10月7日（土）古墳の丘古會志公園
高円寺P.I.G.studio20周年記念イベント〈GOD SAVE the P.I.G. FESTIVAL〉
11月3日（金・祝）、4日（土）、5日（日）高円寺HIGH
※亜無亜危異は、11/5に出演
SAVE THE VOICE presents 第2章・闘志の魂 Aggressive Dogs aka UZI-ONE 2023 -〈THE COMEBACK STORY 2〉
11月19日（日）恵比寿リキッドルーム
怒髪天 LIVE INFORMATION
〈B.M. I LOVE YOU 2023〉
w/the pillows
9月6日（水）大阪・心斎橋 BIGCAT
9月7日（木）名古屋 Electric Lady Land
9月13日（水）渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
〈ジャンピング乾杯TOUR 2023～西にはあるんだ 夢の国ンニキニ～〉
w/フラワーカンパニーズ
10月6日（金）広島セカンド・クラッチ
10月8日（日）熊本NAVARO
10月9日（月・祝）福岡BEAT STATION
10月11日（水）高松DIME
10月13日（金）大阪・梅田Lateral〈OYZのしゃべりBar〉※トークイベント
ドハツの日（10・20）特別公演〈祝！10周年 なんだかんだでとおまわり〉
10月20日（金）札幌ペニーレーン24 ～おもひでましまし～
10月21日（土）小樽GOLDSTONE ～小樽詰次郎記念館竣工予定記念式典(大仮)～
〈怒髪天 presents 中京イズバーニング〉
11月18日（土）、19日（日） 名古屋CLUB UPSET
※詳細は後日発表
