【LIVE REPORT】
〈怒髪天 presents YOKOHAMA オトコまえ 2023〉
2023.08.18 at F.A.D YOKOHAMA
ライヴでお馴染みの第一声「よく来たぁ!」は、最後まで飛び出すことがなかった。それどころか締めのMC「また生きて会おうな!」も聞こえてこなかった。怒髪天っぽくない、というのなら、この日ステージに立っていた4人組はそもそも怒髪天というバンド名でもなかったのかもしれない。いつになく壮大なシンフォニーをSEに登場したヴォーカルは、開口一番このように叫んだのだ。
「We Are……OUT老GUY―――――Z!」
結成39年目の最新作『more-AA-janaica』のアーティスト写真が、細部まで完璧に仕上げたフラットバッカー(厳密には、渡米してE・Z・Oに改名した時期)のオマージュであることは、ごく一部の好事家をずいぶんと喜ばせた。撮影だけで終わらせるのはもったいないと、一夜限りで用意されたのが今回の横浜F.A.D、怒髪天史上初のフルメイクGIGである。お盆やフェスで忙しい真夏の週末に、おじさんたちは何をやっているのだろうと真顔で思う。キャパ400に満たないフロアは一瞬でソールドアウト。みんな本当に何をやっているのか。「よく来たぁ! ……よくこんなもの見に来たな、おい」とか言って、双方ドッカーンと大爆笑になるのだと思っていた。
それぞれの装いも最高だ。カツラの上にバンダナ、目の下に太いラインを入れた坂詰克彦。金髪と茶髪をそれぞれ派手に立たせた清水泰次と上原子友康。トゲトゲのレザーバングルやチョーカーを身につけた黒装束の増子直純。出てくるだけで「ひょお〜」と変な歓声が上がるが、本人たちに照れる様子はまったくない。むしろ積極的にメロイックサインを掲げ、邪悪な笑み、もしくは不敵な睨みをアピール。そうなると1曲目「ヤケっぱち数え歌」もなんだか悪魔的メタルソングに聴こえてくるのだから、視覚効果とは恐ろしいものである。
よくこんなもの見に来たな。その爆笑タイミングがいつ来るかと最初は期待した。しかし、2曲目がフラットバッカーのカヴァー、3曲目も本当に久々の凶暴ハードコア・パンク・ナンバー「トーキョーサイコ」、さらに「地獄の底まで付き合ってもらうからな」とMCが続く頃には認識も変わってくる。ホラーな語りに始まり「……お前も蝋人形にしてやろうか」の決め台詞が登場する聖飢魔IIのカヴァーまでが飛び出してくると、もう気づかざるを得ない。本気なのだ。本気でやりきるのだ。デーモン小暮閣下の美声を丁寧になぞってみせたあと、増子直純主演ミュージカル楽曲「愛のおとしまえ」に続くのも、これ以外ありえない選曲だった。
フリですよ、パロディですよとみずから種明かしをすれば、その場で笑いは生まれるが、そのまま全部が〈こんなもの〉になってしまう。憧れたフラットバッカーのサウンドや衣装、ジャパニーズメタルやハードコアの先輩たちの大奮闘が、ただのネタとなり流されてしまう。それは怒髪天の本意ではなく、むしろ絶対にやってはいけないことなのだろう。これまた久々のハードコア「不惑 in LIFE」から44MAGNUMのカヴァー「I’m on Fire」に続くのは、本気と書いてマジと読む、怒髪天なりの80’sロッカーズへの愛のおとしまえである。
時系列は前後するが、最後、せっかくだからと始まったメンバー紹介も秀逸だった。「オン・ギター、ROSE!」と紹介された上原子友康は、いつもの笑みをなるべく控え「ROSEです。会えて嬉しいよ」とクールに挨拶。「オン・ベース、D.D!」と紹介された清水泰次も「サンキュー、エブリバディ」と、おそらく本人初の英語MCで返す。「オン・ドラムス、JOE!」と呼ばれた坂詰克彦はなんと本日が誕生日だそうで、ファン全員が即座に〈Happy Birthday Dear JOE〜〉を唱和。いつものオチや失笑は不要だった。最後に増子直純はみずからを「オン・ヴォーカル、HELICOBACTER!」と名乗りあげる。ちなみにこれはピロリ菌(Helicobacter pylori)の正式名称。おそらく巷では〈暴れん坊ヘリさん〉とか〈発狂魔人ヘリさん〉なんてニックネームで知られているであろうHELICOBACTERの決め台詞は、「お前も胃潰瘍にしてやろうか」であった。もう、細部まで完璧すぎる。
本題に戻そう。後半も本気と書いてマジなギグが続いた。ハイライトのひとつはコロナ禍に生まれたアルバム『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』から「SADAMETIC 20/20」。どこまでもプログレッシヴに大風呂敷を広げていく6分超えのナンバーは、この日のためにあったのかと思えるくらい流れにハマっている。サビでは雄々しく〈人間たちよ〉と連呼され、この日初の大合唱が湧き起こるが、人間たちというか、ここまで真剣にこれをやりあっているこの人たちが特別に面白い。怒髪天+界隈だからこんなに面白いのだ。
次なるハイライトがX JAPAN「ENDLESS RAIN」のカヴァー。元総理さえ知っている有名曲である。最初こそ何かの前フリかとフロアはざわめきまくったが、演奏はあくまで真剣。そして、多くの人が挫折するサビのハイトーンも、増子は難なく、本家以上のエモーションで唄い上げるのだ。まったく、お見事。コミックバンドと間違われもするが、茶化す、という行為が彼らにはない。誰も真似できない(したくない)方向に全力で突き進む。やるなら恥も外聞もなく本気を出す。そんな生き様が、いつだって怒髪天をオリジナルたらしめている。
ラストナンバー、真のハイライトは最新作から「OUT老GUYS」。フラットバッカーの血を引く特濃のメタルナンバーで、ただでさえ熱苦しいのに途中謎のラテン・フレイバーが導入され、アウトロには上原子……もといROSEの狂おしい泣きのソロがプラスされる構成。徹頭徹尾「なんちゃって」を持ち込まない本気度に何度も震えが走った。なんだか感動さえしていた。最後までデンジャーかつイーヴィルに完全燃焼した初のフルメイクGIG。これ、年に一度くらいのシリーズ化を求む。だってみんな、またヘリさんに会いたいよなぁ?
文=石井恵梨子
【SET LIST】
01 ヤケっぱち数え歌
02 HARD BLOW(フラットバッカー)
03 トーキョーサイコ
04 ゴミ集積所ノ破落戸
05 蝋人形の館(聖飢魔II)
06 愛のおとしまえ
07 不惑 in LIFE
08 I’m on Fire(44MAGNUM)
09 1999GT-O
10 シン・ジダイ
11 俺ときどき・・・
12 ソーシャル・スペクター・ブルーズ
13 SADAMETIC 20/20
14 ENDLESS RAIN(X JAPAN)
15 夏の扉
16 OUT老GUYS
〈B.M. I LOVE YOU 2023〉
w/the pillows
9月6日(水)大阪・心斎橋 BIGCAT
9月7日(木)名古屋 Electric Lady Land
9月13日(水)渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
〈ジャンピング乾杯TOUR 2023~西にはあるんだ 夢の国ンニキニ~〉
w/フラワーカンパニーズ
10月6日(金)広島セカンド・クラッチ
10月8日(日)熊本NAVARO
10月9日(月・祝)福岡BEAT STATION
10月11日(水)高松DIME
10月13日(金)大阪・梅田Lateral〈OYZのしゃべりBar〉※トークイベント
ドハツの日(10・20)特別公演〈祝!10周年 なんだかんだでとおまわり〉
10月20日(金)札幌ペニーレーン24 ~おもひでましまし~
10月21日(土)小樽GOLDSTONE ~小樽詰次郎記念館竣工予定記念式典(大仮)~
〈怒髪天 presents 中京イズバーニング〉
11月18日(土)、19日(日) 名古屋CLUB UPSET
※詳細は後日発表