【LIVE REPORT】
The Novembers Tour2023〈かなしみがかわいたら〉
2023.04.11,12 at 恵比寿LIQUIDROOM
The Novembersにとって約一年ぶりとなるツアー〈かなしみがかわいたら〉。このタイトルは4月7日に配信された久々のシングル曲の名前であり、シンプルなピアノから始まるそれは、一言でいえばロマンチックな歌もの。ノイズやシーケンスの入らない、柔らかくてどこか懐かしい質感である。
東京2DAYS、初日11日。始まりはいきなり「かなしみがかわいたら」だ。柔らかなピアノの同期から始まるところは同じでも、いかにもシューゲイザーっぽく浮遊する間奏部分は、ケンゴマツモト(ギター)のエフェクト使いにより凄まじい膨張を見せる。暴力的と言ってもいい轟音だ。まずは、先に書いた〈どこか懐かしい〉を自分の脳内で削除した。うっとりする歌ものであっても、ナイーブな線の細さ、曖昧模糊とした誤魔化しがまったくない。一語一句を意識的に届ける小林祐介(ヴォーカル&ギター)の唱法も堂に入ったものだ。
曲ごとに、どよめき、もしくは小さな悲鳴が頻発する。事前のリクエストを6割ほど汲んだセットリストは、「sea’s sweep」「再生の朝」「アマレット」など懐かしいものが多数。まだ全員が俯いて演奏していた初期のギターロックだ。パフォーマンスが大きく進化した現在、この時代の曲はどうしたって視覚的印象が地味になってくる。画としては〈直立して演奏している4人バンド〉以上でも以下でもないから、深い思い入れがない聴き手であれば、そこまでの緊張感を保つのは難しいかもしれない。
しかし、ずっと目を離せなかった。どこまでも深く引き込まれてしまった。そこにあったのは、高い集中力、誤魔化しを許さない丁寧な演奏、さらにはどの曲も正確に唄うといった真摯な取り組みである。いわば基礎中の基礎だが、基礎もここまで徹底させれば、それは他人に真似できないホンモノになるというお手本を見た気分だ。4人がステージに立つだけで完璧なロックショウが立ち上がる。派手な動きやカラフルな衣装や気の利いたMCなしでも、演奏だけで無敵状態が成立する。もちろん音響技師の力量もあるし、照明が毎回ドラマティックな演出を魅せるところも大きい。4人の呼吸だけでなく、チーム全体でThe Novembersの美を作っていく。曲が懐かしければ懐かしいほど、デビューから15年の歳月をかけて手にした貫禄が浮き彫りになるのだった。
高松浩史(ベース)が不穏な単音をループさせ、吉木諒祐(ドラム)がエフェクトシンバルで硬質な音を加えていく後半の「永遠の複製」、ここからは一気に狂い咲く熱狂へ。「1000年」「こわれる」など意識を吹き飛ばす爆音が続き、ラスト「Xeno」でフィードバックノイズが大爆発。クラクラする余韻の中で考える。とはいえこの日、小林は最後までギターを手放さなかった。よりフィジカルに、ダンサブルに進化していく直前までが、おそらく初日に見せたかったテーマなのだろう。
と、思ったら、全然違っていた。翌12日も小林は半分以上の曲でギターを持ち続ける。「Harem」や「chernobyl」など懐かしい曲は多々あり、2014年発表の「ブルックリン最終出口」に至っては連日でプレイ。時系列の進化がテーマではないなら、では、彼らは何を見せているのだろう。
4曲目「Rainbow」、中盤の「消失点」や「薔薇と子供」など、最新アルバムの曲はシーケンスが同期するためメンバーの負担が増える。ギターの演奏自体は減るし、全身で飛び跳ねる小林は解き放たれたかのようだが、実際はこちらのほうが大変なのだろう。幾多の音が並走する中で自分のポジションを見失わず、同期とズレることなく息を合わせ、かといって生バンドの生ライヴである意味もちゃんと見せなくてはいけない。特に目を惹くのは吉木のプレイで、曲が新しいほど彼の動きは複雑かつ神経質なものになっていく。ハンドマイクで煽る小林も、豪快に叫びつつ、掲げる腕の高さやその指の先端に至るまで、驚くほど意識を集中させているのがわかるのだ。
なるほど、近年のThe Novembersは過去を振り切って進化したように見えるが、それは結局のところ、高い集中力だとか、誤魔化しを許さない丁寧な演奏だとか、そういった基礎の見直しだったのではないか。アグレッシヴなダンスビートの中、もげるほど首を振りながら、初めてそんなことに気づく。
「Blood Music.1985」や「BAD DREAM」で恍惚に達するラスト手前、ごく初期の曲「para」がそっと挟み込まれていたのが印象的だった。これまたアンニュイでメランコリックなギターロック。ただ、何度も書くように線の細さは完全に払拭されている。そうして、本編ラストは響いたのが二夜連続の「かなしみがかわいたら」。一聴すると「para」と同じニュアンスで響く歌ものだが、メランコリーがどこにもないのが2023年仕様である。
コロナ禍の停滞からようやく生まれたというこの新曲は、よく聴けば前しか見ていないし、音楽に喜びや希望しか見出していない。演奏だけで無敵状態に達している今のThe Novembers。こんなにもタフになったし、小林はカリスマ的なパフォーマンスも身につけた。そのうえで、もう一度過去を全部抱きしめる。バンドを支持してくれる人たちの声を丁寧に掬い上げていく。そういうツアーを小林はこう呼んだ。新しいはじまり、と。
文=石井恵梨子
写真=鳥居洋介
【SET LIST】
■DAY1/04.11
01 かなしみがかわいたら
02 Hallelujah
03 ブルックリン最終出口
04 きれいな海へ
05 sea's sweep
06 236745981
07 再生の朝
08 アマレット
09 Rhapsody in beauty
10 永遠の複製
11 彼岸で散る青
12 1000年
13 こわれる
14 dogma
15 Xeno
ENCORE
01 GIFT
■DAY2/04.12
01 Harem
02 Romancé
03 Flower of life
04 Rainbow
05 chernobyl
06 ブルックリン最終出口
07 Misstopia
08 消失点
09 薔薇と子供
10 New York
11 para
12 Ghost Rider(Suicide cover)
13 Blood Music.1985
14 BAD DREAM
15 かなしみがかわいたら
ENCORE
01 いこうよ
The Novembers Tour2023“かなしみがかわいたら”
2023年4月19日(水)Umeda CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
チケットぴあ(Pコード) 231-263
ローソン(Lコード)56231
eプラス
2023年4月20日(木)Nagoya CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00