(以下、音楽と人2022年12月号に掲載された記事です)
素晴らしい武道館公演でした。
長谷川プリティ敬祐(ベース)「2回目とはいえ、めっちゃ緊張してました。だから不安もありましたけど、何よりバニラズ7(註:井上惇志、手島宏夢、ファンファンを含めた7名)でやれたことが本当によかった。フジロックで進太郎(柳沢進太郎/ギター)が出れなかった(註:発熱のため出演を見合わせ)その悔しさを、武道館という舞台で昇華できたことも本当にうれしかったです」
バニラズ7でやることにこだわってた?
プリティ「そうですね。まず〈My Favorite Things〉ってタイトルをライヴに冠したのも、本当に自分たちが大切に思ってる人たちと音を鳴らしたい、ってことだったから。ゲストミュージシャンというより、共同体とも言えるような特別な仲間だったし、ニューアルバムの『FLOWERS』にも携わっていただいて。このメンバーで武道館をやることは、とても大きな意味があったんです。ライヴで牧も言ってたけど、手島さんは海外に活動の拠点を移すので、しばらく一緒にできないことがわかってたし」
牧達弥(ヴォーカル&ギター)「イメージしてたものより、何倍もいいライヴになりました。いろんな意見があったけど、この7人でやりたいと思って、そのエゴを貫き通してあの場所に立ったから、圧倒的なものを見せないとやった意味がなかったし。だってほとんどのお客さんは、バニラズの4人が織りなす何かに期待してる人たちなんだから。〈My Favorite Things〉ってタイトルもそうだけど、自分の好きなことを貫き通すなら本気で向き合わないと、いいねって思ってもらえないじゃないですか」
そうですね。
牧「だから僕は、皆さんが思ってる以上に覚悟してましたよ。絶対すごいライヴを観たって思わせてやる、って。ライヴというより7人の生き様みたいなものかもしれない。それをやりきったから、自分の人となりみたいなものが、あの日、武道館を埋めた人たちに、しっかり伝わった気がしてます。他のバンドやエンタメじゃなく、なんでバニラズのライヴに足を運ぶのか。その理由を、お客さんの記憶に残せたんじゃないかな」
柳沢「それ、よくわかる。映像を何度も見返してるけど、メンバーそれぞれの気持ちが音に出てた。7人のそれがひとつになって、バニラズとしてお客さんに届いてる。集中力を切らすことなく、期待に応えることができたと思います」
ジェットセイヤ(ドラム)「それも含めて、ただただ感謝ですよ。コロナ禍で無事開催できたことも、平日なのにステージ見切れるところまでチケットが売り切れたこともそう。7人でこの日にやるために、みんなが動いてくれた。だから感謝しかない」
ただ2回目の武道館をやる、ってだけじゃなかったですね。
牧「1回目って、音楽以外のところにも付加価値があるじゃないですか。ドラマチックだし、そこにたどり着いたことに夢があるから、お客さんもそれだけである意味満足してくれる。でももう、武道館に立つことが目的じゃない。どんなバンドよりも音楽ってものを、そしてそれを共に鳴らす素晴らしさを、みんなに観せたかったんで」
あと、ステージが客席をいい意味でコントロールできてた。お客さんとの一体感に価値を求めるバンドが多いけど、それだけじゃなく、ちゃんと音楽でねじ伏せてるというか。
牧「だから自信つきましたね。今までは、お客さんが求めてることとか、音楽シーンとか、そういうことを意識して曲を作ったり、ライヴの構成を考える部分も多かったけど、自分が最高だなと思って、楽しさや未来を感じられる音楽をとことんまで突き詰めて行動すれば、新たな風を吹かせることができる。固定観念を取っ払うことで、バンドにいい作用が起きて、成長に繋がるんだなって」
柳沢「こっちがそうやって自信持って提示したものを、お客さんが楽しんでくれる。それをさらにこっちがブーストさせて、今まで経験したことのない場所へ、一緒に登りつめていく。それがすごく楽しかったし、次への糸口というか、イメージを掴んだ気がしました」
セイヤ「〈LIFE IS BEAUTIFUL〉からいろいろ始まった物語でしたね。俺、ほんとにこのバンドがあらためて好きになった。7人で曲を形にして、最初はよそよそしかったのがめちゃくちゃ心開いて。横浜アリーナやって、また手応え感じて。今年のフジロックは進太郎が出れんくなったけど、そのことが余計に、7人でステージ立ちたい、って気持ちを強くした。そしたら手島さんが海外行くことになって、この7人でやるのはあと2回しかない。そういう状況が、めちゃエモい気持ちにさせて。絶対この7人のバニラズを記憶に残したかった」
なるほど。
セイヤ「だからセトリもこれまでずっとやってきた、バニラズにとっておなじみの曲は少なくなった。それは、7人のバニラズが生み出してきたものを見せるためだったけど、俺たちが次のステージに行くためにも必要だったというか。新しいバニラズに繋がっていく感じ」
牧「バンドを長く続けていく中で、昔からずっとやってる曲って、作り手からするとどんどん褪せていくんですよ。それが、2年前にブルーノートでやった時もそうだったけど、アレンジを変えて披露したら、白黒に見えてた昔の曲に、新しい色がついた感覚があって。曲も喜んでる気がして。それを感じた時、今すべきことはこれだと。もともと自分が好きなルーツミュージック的なアレンジを加えて、バンドサウンドではない新たなものを描き出す。そのアプローチが〈LIFE IS BEAUTIFUL〉を形にした」
そうでしたね。
牧「それを横浜アリーナで披露した時、僕、この曲に出てる感情も表情も、どこにも嘘がないなと思ったんです。それがはっきりわかったから『FLOWERS』ができたし、ライヴもアレンジも、あの3人に限定したんですよ」
違う人を入れて、今の嘘がない、ピュアに音楽に向き合おうとする姿を崩したくなかった?
牧「そう。その中で、お互いを理解しようとする気持ちが強くなっていった。鍵盤のあっちゃん(井上惇志)がよく言うんですけど、普通、サポートのレコーディングに、メンバー全員がいる現場なんてないから、そこに感動したって。一緒に音楽を作っている相手なのにそりゃないよなと思ったし、俺らはそこを大事にしようと思った。今年の集大成であると同時に、この7人でステージに立つことがしばらくないかもしれないから、日本武道館と大阪城ホールのライヴに懸けてたんです。メンバーもゲストプレイヤーも、ライヴ終わったあと、感情が爆発してましたよ(笑)。〈お疲れさまでしたー〉じゃなくて〈やったな!〉って言いながら抱き合ってて。その姿がすごくよくて。めちゃくちゃいい瞬間を共にしてるのをみんなわかってた」
じゃあ、このあとはバニラズというバンドをどうやっていきたいですか?
牧「またこの7人でやる時はくると思いますよ。でもそれを決め事にはしたくないから、やれる時にやりたくなったらやればいい。ここまで音楽を高め合えたのは最高だったけど、これからずっと7人でやろう、とは考えてなかったし。でも、7人でやることを重視した2年間を通して、俺たちは、いろんな勝負ができるなと思った。豪華なゲスト呼んでやるんじゃなくて、音楽で結ばれれば何でもできて、楽しめる。4人でガチガチにめちゃくちゃロックンロールしてもいいし、あっちゃんのピアノが入ってより幅の広い感情が渦巻いてもいい。祝福的なイメージが強くなれば、このメンバーをまた呼ぶだろうし。そういう自然な流れで音楽、バンドをやりたいです」
プリティ「ブレることがなさそうですからね」
牧「あとお客さんが、そういう変化を許容してくれたのがデカい。ほんとに広い心の持ち主だと思う(笑)。極論言うと、お前らが幸せならそれでいい、って思ってくれてる人が多い気がしてて。だから僕らも自由に羽ばたけるし、お客さんと心でキャッチボールできてる気がする」
プリティ「勝手な想像かもしれないけど、みんな優しい人たちなんだろうなって。バニラズへの愛や優しさを感じるよね」
柳沢「この2年でそれを実感して、そもそも他より音楽の幅が広かったバンドが、さらに花開いていった感覚はあるかな」
あと最後に牧くんが言った「次は武道館2デイズで!」って言葉もよかったよね。
プリティ「そうだった。牧が、帰りたくねぇ……明日もやりてぇ……じゃあ2デイズ、って、ほんとに自然に出た感じで」
牧「もともと言おうと思ってたことじゃなかったから、ほんと自然と出たんですよね。明日もやりたいし、明日もいたい。だってしばらくこの7人じゃできないし、お客さんともこのままいたいし。じゃあ次は2デイズだねって、自然にそう思ったし」
そして12月にリリースされるアルバム『FLOWERS』は、今まで引き出しにあった幅広い音楽性を、この経験の中で消化した、素晴らしいアルバムになりました。
牧「〈LIFE IS BEAUTIFUL〉を7人で作って、ここまで地続きなんですよ。で、わかったんです。俺、音楽っていうより、もっと人を見せたいんです。アートじゃなくて、見せたい俺の感情を書いた。曲も、自分の耳で確認して、いいと思った音を積み重ねて。自分から出てきたものを全部信じたっていうか、まったくこねくりまわしてない。どこにもない、go!go!vanillasの音楽。そういう自信の持てるアルバムになりました」
文=金光裕史(メンバーインタビュー)
写真=渡邉一生(ゲストプレイヤー)、西槇太一(go!go!vanillas)
Blu-ray / DVD『LIVE FILM -My Favorite Things-』
2023.03.22 RELEASE
■完全限定生産盤(Blu-ray or 2DVD+2CD+PHOTO BOOK+GOODS)
■通常盤(Blu-ray or DVD)
〈収録内容〉 ※完全限定生産盤、通常盤 共通
●ライブ本編【日本武道館公演 全21曲】(148min)
日本武道館公演のライブ映像を全編完全収録&メンバーによるオーディオコメンタリーも副音声として収録
●セレクトライブ映像【大阪城ホール公演 全6曲】 (29min)
大阪城ホール公演の厳選ライブを収録
●ドキュメント映像「DOCUMENTARY FILM -My Favorite Things-」(41min)
東西アリーナワンマン「My Favorite Things」当日に至るまでの舞台裏や、
貴重なリハーサル等を完全密着したドキュメント映像を収録
●LIVE演出映像集 「MFT STAGE CLIPS」(17min)
go!go!vanillasのライブを華やかに彩る、オープニング映像や演出映像をクリップ集として収録
go!go!vanillas オフィシャルサイト
『LIVE FILM -My Favorite Things-』特設サイト