kyoちゃんとCIPHERとSEELAが、ステージで輝いていたらそれでいい。その風景をまだ見ていられるなら、何だってやりますよ
それでも〈やっぱあの2人だからな、すげえな。しょうがねえな〉って思わせる人なんですよ。そんなロックスター気質だった人が、エクセルの表計算するとか、借金の返済とか、物販のロット数と原価とか、そういうことをやらなきゃいけない。そのことについてはどう思ってたんですか?
「ちょっと話が飛ぶかもしれないですけど、僕、今53歳なんですよ。『BASILISK』でデビューしたのが20歳だから、33年この世界にいて。いろんな時代を経験したけど、15年前、D’ERLANGERを再結成した時に、これが最後のバンドだろうな、もうやり直すことはないな、という覚悟みたいなものがあったわけですよ」
はい。
「で、CRAZEの頃から、趣味が高じて、自分でデザインもやるようになって。アルバムやグッズのデザインとか自分で手掛けてたんですよ。外注でデザインも発注されるようになり、頻繁に海外にも行くようになり、いろんな会社の社長さんとも会ったり、それまでドラムしか興味なかった自分が、それ以外のことも勉強するようになった。そしたら11年前、いきなり借金抱えて、社長やれって言われたでしょ。その時、デザインを自分でやるようになったのも、それまでの道のりすべてがこの日のために勉強させられてたのかな、って思ったんです」
だから腹はくくれてた、ってことですね。でも社長って、現実を直視しなきゃいけないじゃないですか。それ、辛くないですか?
「基本は辛くないです。だって、これで最後だと思ったバンドを続けるために必要なんだから。そのためなら、プライドは捨てないけど、横に置いといて、地べたを這ってもやりますよ。確かに現実的な数字を目の前に突きつけられて、うーん……ってなることもありますけど、kyoちゃんとCIPHERとSEELAが、ステージで輝いていたら、それでいいんですよ。どんな苦痛も苛立ちも、それで解消される。その風景をまだ見ていられるなら、何だってやりますよ」
Tetsuさんらしいですね。
「あと、さっきの首都高が事故渋滞で遅刻とか、ふざけた話じゃないですか。どう考えても俺が嘘ついてますけど(笑)。あの頃、そういうことを気にもとめてなかったんですよ。マネージャー、メディア、ローディ、プロモーター、俺たちが食わしてやってんだから、これくらい当然だ、って。まず、遅れることがカッコいいと思ってたかも(笑)。でも経験を積んで、こうも歳を重ね、こうやって現場のいろんなことを知ると、感謝しかなくなってくるんですよ。ライヴに来てくれるファンはもちろん、昔からの知り合いが、金も払ってないのに助けてくれる。うちのライヴ制作担当者は、自分の仕事でもないのに、マネージャーみたいなこともやってくれる。みんなに助けられてるわけですよ。それを知ると、ロックスターでございなんて振る舞いなんてできないし、したくもない。ただ、3人にはそうであってほしい。そういうことは気にせず、輝いててほしいんですよね。わがまま言えってわけじゃないけど(笑)」
なるほど。D’ERLANGERにそういうロックバンドの理想像みたいなものがあるから、このコロナ禍でも、細かく全国廻って、ツアーをやろうとするんですね。
「コロナ禍となった2020年も、20本以上やってたのかな。まあロックバンドは、全国こまめにツアーで廻ってナンボでしょ、という意識はありますよ。でも、こんなに長びくとは思わなかった。そこは甘かったですね。数字的にツアーはなかなか厳しいです」
どのバンドもライヴの動員は減っていますからね。
「でもどっかで、なんとかなると思ってる自分がいるのかな。なんかそれは、CIPHERとバンドを始めてから、ずっと感じてることと似てるんですよね。コイツとなら大丈夫だろう、っていう、根拠のない自信。それに、やっぱり楽しいですから。エクセルを開いて、物販の売り上げやチケットの売れ行きを気にしつつ、ツアー、地方をもう少し外したほうが利益は上がるかも……でもなあ……なんて、考えたくなんかないですよ。でもやんなきゃ続けられないし、こうやってコロナ禍でもライヴに参加して、応援してくれる人やスタッフがいるから頑張れるんです」
ですよね。
「それを感じれば、過去もプライドも変わりますよ。だって、首都高が事故渋滞だ、なんて嘘ついて、3時間遅刻しても平気だった自分が、今日は取材の15分前、もう編集部の周りをウロウロしてたんですよ(笑)」
そうでしたね(笑)。
「カッコいい、と思う行動が変わってきたんですよ。あの頃は、それくらいのことをするのがロックスターだって思ってた。でも90年代後半に、ひょんなことでレッチリのドラムのチャド(チャド・スミス)と仲良くなって。LAや日本で遊んでもらうようになったんですよ。でもあの人、約束の時間に1分たりとも遅れないんです。来日した時に、集合時間にホテルのロビーで待ってたら、チャドが10分経っても現れない時があったんですよ。そしたら他のメンバーが『チャドが10分遅れるなんて絶対におかしい。何かあったんじゃないか?』って心配しだして。その時は奥さんと電話で話してて遅れたんだけど、みんなに時間を守ることが定着してるのがすげえカッコよくて」
なるほど(笑)。
「変わることも悪くないです。でも逆に、ここだけは変わらないでいてほしい、と思うことも、より強くなってくるんですよね」
さっき話に出てきた、ロックバンドとしての佇まい、というか。
「そう。メンバー、特にCIPHERにはそうあってほしくて。そういう気持ちがはっきりして、やっと、俺は彼と本当の意味でバンドやってる気がしますよ。これまで当たり前だったから、今はそうあることの大切さがわかる。アーティストでいてほしい。俺は社長として嫌われてナンボだから。あと、アニキに最初言われたように、メンバーを守るのが仕事だから。この間、お前はいつまで社長やってんだ、って言われましたけど(笑)」
あはは。それ、どう思いますか。
「ドラマーに集中してやりたい気持ちがないわけじゃないけど、今のままがいいかな。それはこの状況もそうだけど、なんか、バンドが階段をもう1段昇れてない。この状況をなんとかしたいと思うので、それを今の立場でもう少し考えたいというか」
なるほど。
「ずっと同じ階段の踊り場に立ったままな気がして。それはコロナのせいだけではなくて。もう一段上がるのに、このままじゃダメなんだなって半分わかっているんです。イライラするんですけど、でもこれが、今の立場じゃなかったら、周りのせいにしてたと思うんです。あいつが悪いとか、状況が良くないとか。アーティストが使える言い訳なんて山ほどありますからね(笑)。今は自分たちが何かをやらないと、打破できないってことがわかっているので」
バンドマンとしての自分と、バンドをマネジメントする自分のバランスを取ってるのがすごいと思いますけどね。
「取れてるかどうか、自分じゃわからないですけどね。でも、決算で締め切りが迫ってるとか、ライヴ終わったらあの書類作らないといけないとか、そういう時にライヴでドラム叩くと、非常にスッキリするんですよ。でも、そういうストレスのはけ口でドラムやっちゃいけないって言い聞かせてます。ドラマーとしてのTetsuと、社長の顔してる菊地哲は、ちゃんと分けないとな、って」
だからコロナ禍でも、毎年全国ツアーをほぼ20本以上行うわけでしょう? 何度も言いますけど、経営だけ考えたら、こういうツアーの切り方しないですよ。
「企業努力してますから(笑)。東名阪3ヵ所廻るだけじゃ、ツアーとは呼べないんですよ。最低7大都市は廻らないと。あと、この年齢になってくると、逆に回数を増やしたほうがいいんです。Shibuya Veatsのマンスリーを月2回やれても、3ヵ月で6回じゃないですか。でもツアーを組めば、同じ3ヵ月で20ヵ所近くできる。ライヴをやることでバンドは成長しますから。それに、自分たちにも言い聞かせることができるんですよ。まだこんなにできるじゃん、って(笑)。勘も鈍らないし。これを社長としての頭だけで考えて、経営のためだからってツアーを東名阪だけで2回にするとか、東京の大きめな会場で何回もやるとか、そういうことを始めちゃうと、もう、階段を1歩上がって、バンドが今以上になることもなくなっちゃうと思うんですよ」
ファンと築いた過去の遺産を食いつぶしていくだけになりますよね。
「それはしたくないんですよ。ちゃんと4人で行きたい場所、見たい景色もあるので」
それはなんですか?
「言葉にするのは安っぽいし、メンバーとちゃんと話してるわけでもないけど、また日本武道館に、この4人だけで立つのは夢ですよ。再結成した直後にやりましたけど、15年経って、いろんな経験した今やるのは、また違う自分たちを見せることができると思うし、俺たちも違う気持ちになれると思うので」
そうでしょうね。
「そんな話、メンバーと話したりはしないんですけど、たぶんみんな、もう1段上に上がりたいって思ってるんですよ。それはなんとなく感じてる。そのためにどんな準備して、何をやればいいか、そのお膳立てするのが俺の仕事なんで(笑)。3人はロックスターとして、バンドマンとして、どっしり構えててくれればいいんです。でステージに立って、最高のパフォーマンスをしてくれれば」
Tetsuさん自身も。
「もちろんですよ。経営とか、知らなくてもいいことを知りすぎてはいますけど、プレイヤーとしての自信は当然あるので。それに、こうやって自分たちで運営してると、そうそう簡単に投げ出せない(笑)」
はははは、確かに。
「嫌になって、もうやーめた……ってことが過去には何回かありましたけど(笑)、みんな、今は責任も抱えてる。それがいい影響を与えてるのかもしれませんね。だからバンド、楽しいんですよ。今、いちばんそう思えてるかもしれないです」
文=金光裕史
D’ERLANGER REUNION 15th ANNIVERSARY TOUR
3月25日(土)名古屋Electric Lady Land(open17:30/start18:00)
【info】サンデーフォークプロモーション TEL: 052-320-9100
3月26日(日)梅田クラブクアトロ(open16:30/start17:00)
【info】キョードーインフォメーション TEL: 0570-200-888
4月8日(土)京都FANJ(open17:30/start18:00)
【info】キョードーインフォメーション TEL: 0570-200-888
4月9日(日)京都FANJ(open16:30/start17:00)
【info】キョードーインフォメーション TEL: 0570-200-888
4月22日(土)豊洲PIT(open16:00/start17:00)
【info】SOGO TOKYO TEL: 03-3405-9999
■イープラス・プレオーダー
受付期間:2023年1月20日(金)12:00 ~ 2023年1月31日(火)21:00
受付URL:https://eplus.jp/derlanger2023/
■チケット一般発売
2023年2月25日(土)