俺の中での大分の景色ってセピア色なの。色鮮やかじゃなかった。でもああいうライヴができて、ちょっと色がついた感じがした
いろんな出来事を経て自信がついたことも大きいですよね。ここ数年、飾らずにステージに立てるようになってきたって話はよくしてたけど、ありのままの自分でいても頼もしいって思ってもらえる自信がついたというか。
「そうかもね。自分を過小評価しなくなったというか。これを言ったところで誰が聴くんだ? 誰に響くんだろう?とか考えながらMCしてた時期もあって。MCは事前に考えないし出たとこ勝負だから、感情がノリにノってて言葉が溢れ出てくる時もあるし、やっぱりあんまり出ない時もあるわけよ。そうなった時に、焦っていいこと言わなきゃってなっちゃうと、だいたいよくない。でも自分を過小評価しなくなったら、素直な気持ちでライヴできるようになって。精神的にも健康というか。とくにあの日はいつも以上に嘘をつきたくなかったし、思ったことをそのまま話してたら、大分をディスるみたいな流れになっちゃって(笑)。でも、それくらいフラットな感情で接したいなっていうのがあったんだよね」
牧くんが大分の自虐っぽいことを言って「こんなこと言っちゃいかん!」って訂正したあと、配信ライヴの映像が一瞬客席に切り替わるんだけど。そこで、たぶん牧くんが言った「元気のない大分」を感じてる地元のファンみたいな方が、すごく共感してる様子が映って。これって地元じゃないと生まれない共通の感情だなって、思ったんですよね。
「あのMCについては、来てた友達もみんな言ってくれた。俺は言い過ぎたなって思ったけど(笑)、よく言ってくれた!みたいな。やっぱりみんな大分が元気なくなってるのを感じてて。でも今回のライヴを観たり、俺のMCを聞いて『バニラズが大分を元気にする姿がすごく想像できた』『みんなで集まって何か楽しいことをやる未来が見えたわ!』みたいなことを言ってくれて。俺もライヴしながら、みんなが心から楽しんでくれてるのを見て、少なからずそのエネルギーを今後何かに活かしてもらえるんじゃないかなって」
そうですね。
「大分に住んでる人やったら、〈バニラズが言ってたように俺らも大分を活気づけるために頑張ろう〉って思う人も増えたやろうし、地方から観に来た人は自分の街に対してそういう気持ちになった人も絶対いるやろうからさ。あの日のライヴがちょっとした気づきになって、みんなで一緒に楽しく元気に何かできたらいいよね」
そういうエネルギーが漲ってたし、地元への思いやこれからの決意を伝えたあとの「アメイジングレース」は素晴らしかったです。〈僕らの未来に賭けてみよう〉のフレーズに、これまで以上の力強さや説得力があって。
「〈アメイジングレース〉の頭のコードを弾きながら喋りはじめた時に、本当にいろんなことが一瞬でバァーってよぎったのね。コロナのことも考えたし、プリティ(長谷川プリティ敬祐/ベース)の事故もあったけど、こうして地元のグランシアタで横であいつがベース弾いてることも、あらためてグッときちゃって。あとはやっぱり母親かな。今回本当に一生懸命いろいろ準備してくれて。マジで利益とか何も考えずにやってくれる人やから、それがヒシヒシと伝わり過ぎて……こんなに愛があるイベントってそうないよなって思っちゃって。対価よりも何かできることがあればやるよって言ってくれる人が大分にはいっぱいいてさ。運動会でお弁当をたくさん作って隣の家の子にもあげるみたいな(笑)。でも、それってなかなかできんなと思ってたんですよ。ビジネスとしてはそれだけじゃダメなこともあるやん。でもそういう思いは俺らも絶対持っておくべきやし、スタッフとも共有していないと、いいイベントって成立せんなっていうのをあらためて感じたから」
いろんな人がくれた思いをちゃんと背負って演奏してるのが伝わってきたし、その思いを抱えて次の未来に向かっていくんだろうなって、ワクワクする感じもあって。
「本当にそう思ってたからね。いろんな人の顔が思い浮かびながらやってた。わかりやすく言うと、これまでは時間が止まってた感じなんだよね。俺の中での大分の景色ってセピア色なの。色鮮やかじゃなかった。でもああいうライヴができて、いろんな人が喜んでくれて、セピア色の景色にちょっと色がついた感じがした。だからもっと先に行けるし行きたいし」
変な言い方だけど、愛情をたくさん与えてもらって今に至ってるんだなって思いました。お母さんのこともそうだし、ファンの人もそうだし。
「それは間違いないね。だからシンプルにみんな幸せになってほしいっていう思いが一番強いんだよね、今は。ライヴでお客さんたちの表情を見てると、信頼できるような表情をする人たちが多くて。幸せになってほしいからこそ、カッコよくもいなきゃいけないし、自慢できる人でいなきゃいけないと思うし。やっぱりその人に〈よし、私も頑張ろう!〉ってなってもらえるような自分でいなきゃいけないから」
この前のライヴはまさにそういう姿があったし、これからも人からもらった愛情や思いをライヴで返して、バニラズは前に進んでいくんでしょうね。
「経験ってすぐ積めないじゃん。絆も積み重ねで生まれてくるものだし。どちらも時間がかかるぶん、確固たる証拠になるというか。大分と東京で過ごした時間、経験してきたこと、出会ってきた人すべてが今に繋がってる。俺らは、ここだっていうタイミングでよくも悪くもいろんなチャンスをもらえて、ひとつずつ乗り越えながらやってきてるバンドだから。次は大阪城ホールと武道館だけど、また感じたことをライヴで伝えて、思いっきり自分たちの好きなものを表現できるんやろうなって、わくわくしてるね」
アンコールで発表した大阪城ホールと武道館のライヴは、〈My Favorite Things〉っていうタイトルがついてます。
「自分の好きなものを俺は仕事にしてて、日常生活でも好きなものをできるだけ身の周りに置くようになったんだけど。短い人生なりにいろいろ経験して思う処世術というか、自分との向き合い方として、辛くなった時に自分の周りに好きなものがあると安心できるというか。そういうのがないと人間ってどこかで壊れちゃうから」
そうですね。
「本当に自分が好きじゃないものでも、世間的には必要だからって置いてしまったりするじゃん。例えば、30代40代になって結婚してないと周りからとやかく言われるから無理に相手を見つけようとしたり。でもそれって今の自分に本当に必要なのか?って。俺は出会いは必然だと思ってるし、そういう生き方をしてたら本当に出会いたい人には一生出会えないと思ってるようなタイプだから。自分の好きなものや人に対して正直に生きてたら、困難が起きた時でも、その周りにいる人たちは紛れもなくあなたの味方だと思うし。そういう世界にしたいって思いが強くて……ちょっとデカいこと言ってるんだけど(笑)」
いや、すごくわかりますよ。
「ライヴにおいても、俺ら4人がそれぞれ好きなものを表現したいなと思ってて。曲はもちろんだけど、当日の演出にしても、この瞬間好きだわっていうのをなるべく増やしたい。正直、やりづらい環境とかもあるのよ。でも好きだって瞬間が増えれば、気持ちもパフォーマンスも変わってくる。どこでもカッコいいライヴしろよ!って言われたらそれまでだけど、今後の時代にはそれがすごく大事だと思ってて。無理する必要ないというか、嫌なら嫌って言えばいい。その代わり自分たちの責任で、ベストを尽くすために環境を作ったり、関わるいろんな人たちをちゃんと吟味して、同志を限りなく増やしたいのね。グランシアタを通して思ったのは、やっぱり愛がないと素晴らしいイベントにはならないってことで。それを勉強させられたから、〈My Favorite Things〉は心から信頼できる人たちとたくさん意見を交えながら、グランシアタを超える愛が詰まった日にしたいなって思いますね」
文=竹内陽香
写真=西槇太一
go!go!vanillas 大阪&東京 2大アリーナワンマン公演
〈My Favorite Things〉
9月24日(土)大阪城ホール OPEN 17:00/START 18:00
9月30日(金)日本武道館 OPEN 17:30/START 18:30
オフィシャル先行 受付中!
5月19日(木)20:00〜5月29日(日)23:59