【LIVE REPORT】
〈フジファブリック HALL LIVE2022 -HALL NEW WORLD-〉
2022.02.10 at 東京・LINE CUBE SHIBUYA
「今日は、今やりたい曲だけをやります」
冒頭、そう告げられて開催されたこの日のライヴは、まるで彼らの13年間の歩みをたどるような時間でもあった。
2月10日に行われたフジファブリックのワンマンライヴ〈フジファブリック HALL LIVE 2022 -HALL NEW WORLD-〉。開催の報せが舞い込んできた当初は、「フジファブリックにとって今年初のワンマン・ホールライヴ」というトピックが強調されていた。新年一発目に彼らがどんな音を鳴らすのか? もちろんそこに対する期待があったが、特筆すべきはLINE CUBE SHIBUYA、つまり渋谷公会堂でのワンマンライヴが13年ぶりということだろう。フジファブリックが渋公のステージに立つのは今回で3回目。これまで2006年、2009年とこの場所でライヴを開催してきたが、3人体制になってからは今日が初めてだった。
開演時間を迎え、ゆったりとした足どりでステージに現れた加藤慎一(ベース)、金澤ダイスケ(キーボード)、山内総一郎(ヴォーカル&ギター)、そしてサポートドラムの伊藤大地。SEの「LOVE YOU」が鳴り止むと、1曲目に披露されたのは「カタチ」だった。〈この目で見えたとしたら/色や形を見る事ができるのなら/ずっと大切にできただろうか/ずっと近くにいれただろうか〉。もう会えない大切な人に対する後悔が滲んだ詞に、初っ端から胸を締め付けられる。それと同時に、普段のワンマンライヴであまり聴く機会のないこの曲が1曲目に選ばれたことで、いつもとは一味違うライヴになるのではないか?と期待してしまった。
その期待を裏切ることなく、「small world」、「シャリー」、「Splash!!」、「GUM」、そして山内自ら「バンドセットでやるのはかなり久々」と話した「ブルー」を筆頭に、この日のセットリストはまさにレア曲の宝庫。しかもよくよく考えれば、彼らが3人体制になってから作られたすべてのオリジナルアルバムから、最低でも1曲は披露されていた。彼らがどんな思いでセットリストを考えたのかはわからないが、これまでのアルバムを思い返さずにはいられない構成に、まるで「13年前から今日までの足取りを一緒にたどろう」と語りかけられているような気分にもなった。
13年前、彼らはフロントマンである志村正彦を突然失った。残された3人でフジファブリックを守ってきたこと、純粋に自分たちが鳴らしたい音を追求しつつも、バンドの可能性を広げようと時には躍起になったこと——そういった、バンドの裏側で起きていたであろうすべてのことを、自分は実際に見てきたわけではない。それでも、さまざまな葛藤を経て今があること、そして彼らがフジファブリックというバンドに対して、いかに愛と心血を注ぎ向き合ってきたのかを、改めて感じずにはいられないほど、いつも以上に色鮮やかな楽曲でこの日のライヴは彩られていた。
その一方で、MCは例によってゆるく、温かなやりとりが交わされていた。前日に誕生日を迎えた金澤を祝福したり、配信ライヴでお決まりの金澤のカメラへの猛アピールが繰り広げられたり、この日降っていた雪について触れたりと、とにかく穏やか。だからこそ、一曲ごとに、当時の彼らに思いを馳せてしまうようなエモーショナルな演奏との緩急が凄まじく、時間があっという間に過ぎていくような感覚にも陥った。
そして迎えたアンコール。ステージ上に現れたのは、アコースティックギターを携えた山内ただ一人だった。3月16日にリリースする初のソロアルバム『歌者 -utamono-』から、リード曲である「白」をこの場で初披露したいという。「白」は、志村への思いが綴られた曲。歌詞に刻まれた志村との思い出を一つずつ振り返るように唄う山内は、途中で感情を抑えきれず涙を零した。何度か中断しながらも必死に唄い上げる姿は、彼の純粋無垢で不器用な人となりがより浮き彫りになっていたようにも思う。
「白」を唄い終えると、加藤、金澤、伊藤がステージ上に戻ってきたが、3人は特に山内の歌唱に触れることなく、それぞれの持ち場につくだけ。堪らず、山内は「みんな何も言ってくれないんですけど……」と照れ臭そうに呟いていたが、あえて何も言わずに(加藤はベースをボロンと鳴らしてくれたが)、ただ寄り添う姿がフジファブリックらしくもあり、このバンドならではの優しさが溢れていた瞬間でもあった。その後、「2024年にフジファブリックは20周年を迎えます」とバンドの今後について言及した山内。「周年を素晴らしい形で迎えるため、これからの2年間を無駄にせず最高を更新してきたい」と新たな決意を誓い、思い出深い場所でのライヴは幕を閉じた。
発売中の『音楽と人』4月号には、山内のソロインタビューを掲載。ソロ活動を始めた理由、その根底にあるバンドへの深い愛、そして楽曲に込めた思いなどを語った濃密なインタビューとなっているので、ぜひ確認していただきたい。
文=宇佐美裕世
写真=佐藤早苗
【SET LIST】
01 カタチ
02 small world
03 はじまりの唄
04 Feverman
05 シャリー
06 Splash!!
07 Water Lily Flower
08 GUM
09 ブルー
10 陽炎
11 若者のすべて
12 東京
13 楽園
14 星降る夜になったら
15 破顔
ENCORE
01 白
02 光あれ
03 SUPER!!