【LIVE REPORT】
〈RIHO SAYASHI 1st LIVE TOUR 2022 Reflection〉
2022.01.15 at 中野サンプラザ
「今この瞬間、皆さんが集まってくれて……私は、踊って唄ってるんですね」。感慨深げに、柔和な笑みを浮かべて呟く彼女を見て、今日が本当のスタートなのだと思った。
鞘師里保が開催したファーストツアー〈RIHO SAYASHI 1st LIVE TOUR 2022 Reflection〉。このツアーで、東京、大阪、そして彼女の故郷・広島の3ヵ所を廻ってきたが、今回は初日である1月15日の東京・昼公演について綴ることにした。なぜなら、会場である中野サンプラザは2011年に彼女がモーニング娘。に加入後初めて立ったステージであり、6年前の活動休止前のラストステージの場所でもあるから。思い入れのある場所で彼女は何を思うのか、どのように今の自分を表現するのか、そのすべてを記録しておきたかった。
開演時間を迎えステージ上に現れたのは、大きな鏡と思わしきセットを前にして踊るダンサー。ではなく、実は鏡のように見えるセットを挟んで踊っているという仕組み。その息の合った動きに初っ端から引き込まれたが、よくよく見るとそのうちの1人は鞘師。あまりにしなやかな動きに、歌だけでなくダンスも彼女の強みなのだと再確認した。グループ卒業後に吸収したすべてをここで解き放つ。そんな気迫が伝わってくるようなダンスと共に、「Go-by」で幕を開けた。2曲目に披露された「BUTAI」は、〈上がる心拍数/大丈夫 自分に言い聞かすの〉〈挑戦なんてカッコつけて/飛び込んだらいいんだから〉という、自分で自分を奮い立たせる様や剥き出しの闘志が刻まれている。しかし、ステージ上で唄う彼女はそのストイックさから解放されており、〈この一瞬を この輝きを/全て集めて I make it on my own/光と音に包み込まれて今が永遠になる〉という曲中の一節のように、挑戦を楽しんでいるポジティヴなエネルギーだけが満ち溢れていた。
「こんにちはー! こうしてライヴができていることの実感が湧かなくて、夢みたい……!」。弾んだ声で観客に語りかける彼女は、無邪気一色。先ほどまで圧巻のダンスと歌唱力が一体化した世界観を堂々と創り上げていた人物とは別人のようだが、彼女が喜びを露わにしているのには理由があった。今回は満を持してのファーストツアーである上に、有観客でライヴを行うのは、昨年8月のソロ活動始動後に開催されたファーストライヴ以降、初めてだったのだ。あまりに幸せそうな姿に、ついこちらまで嬉しくなってしまう。しかしグループ卒業後、アーティストとして生きていくことを選んだのであれば、こういった無邪気な一面は封印して、徹底的に歌とダンスだけで魅せるやり方もあるだろう。だが、鞘師里保はきっとそれを許さない人だ。好きな人には「好き」と、感謝の気持ちがあるならば「ありがとう」と伝えて向き合う人。そんな彼女の真っ直ぐな性格を、この公演のMCの豊富さ(90分の中でアンコールを含めると計5回)が表していたように思う。
ダンスパートでは、彼女の一挙手一投足が衝撃的だった。ダンサー4名と共に息の合ったパフォーマンスを繰り広げる彼女は、クールでありながらもとにかく優美。その上、一つ一つの動きに感情が乗っており、言葉はなくともまるでこちらに語りかけているようだった。彼女の場合、思いを伝える術は歌だけじゃない。そう思うほど魅力的なパフォーマンスで、気がつけば、以前、彼女がインタビュー中に語っていた「自分が表現するものを通じて心を通わせたい」という言葉を反芻している自分がいた。ちなみに、このダンスパートはもともと鞘師が衣装チェンジを行う間に設けられた時間で、彼女が出演する予定はなかったが、本人の意向で踊ることにしたという。そんな提案からも、少しでも多く今の自分を見てもらいたい、といった前向きな思いが伝わってきた。
「時間をたっぷりかけて、初めて作詞した曲です」。この日の中盤、そう呟いたのちに披露されたのはCD未収録の「あの日約束したから」。〈始まった 名前のない/新たな日々/積み上げてきたもの 探してる意味/ああ 時に揺らいでも 折れる事なく/認めて生きたいよ 過去の全てを〉。グループから卒業し、1人の人間として生きていくことを決意した当時の感情を丁寧に唄い上げる姿に、思わず胸を打たれた。ソロアーティストとして生きていくことを、ただの夢物語で終わらせなかったことを改めて実感したからだ。きっと、この曲を唄いながら彼女は当時の自分と対峙していたのだろう。思い描いていた自分になれているのか? 私のゴールはここじゃない、まだまだ歩みを止めたくない。と、まるで一つ一つ気持ちを確かめながら唄っているようだった。そして、本編ラストに唄われたのは「Winding Road」。鞘師は思い入れのあるステージで、〈一人になって/突きつけられた 寂しさを/味わった僕だから/もう手は離さない/歩き続けていくよ/Walking my way〉という曲中の一節にも似た、新たな誓いを立てた。
「ここは私が初めてステージに立った場所なんですけど……すごいですよね。ここにたどり着けたことが本当に不思議で、しかも皆さんが目の前にいてくれてるじゃないですか。私は今自分に対してすごく素直で、その自分で皆さんの前に立てているのが嬉しいし、皆さんがそれを受け止めてくれてありがたいと思ってます。まだまだ進化していけると思うので、その道筋を一緒にたどっていきたいです」
大切な人にこそ本当の自分で向き合いたいし、成長した姿を見てもらいたい。そもそも、成長した姿を見てもらうまで、スタートを切れた実感が湧かなかったのではないか。そんな彼女の誠実な思いが滲んでいた言葉だった。そして「皆さんと一緒に」という言葉のとおり、彼女はきっとファンを誰1人置いていくつもりはないし、成長するたび、弾けるような笑顔と共に、パフォーマンスを見せに我々のところへ戻ってきてくれるのだろう。例えば大切な人が新たな挑戦をする時、応援しながらも少し寂しくなる瞬間がある。自分のことを忘れて遠くへ行ってしまうのではないか? そういった独りよがりな感情が顔を出し、素直に応援できなくなる時もある。でも鞘師が挑戦し続けることに関しては、そういった寂しさを感じない。鞘師とファンは互いに補完し合っていて、この先もその関係性は変わるはずないから。そう確信できた時間であり、素晴らしいスタートを切れた初日だったと思う。
そして、ファイナルの広島公演。彼女は大切な故郷で開催できた喜びを露わにしながら、「今までの何かひとつ欠けても、ここに立てていないと思う」と、改めてこれまでの歩みを振り返った。これからも彼女はいくつもの選択を重ねて、自ら道を切り拓いていくのだろう。そんな鞘師に言葉を贈るとするなら、何も臆することなく前だけを見て進んでほしい、そして辛いことがあればいつでも立ち止まったり、戻ってきていいんだよ、ということ。中野サンプラザのような思い入れのあるステージだろうと、どんな場所でも、あなたを愛する人は、いつでも「おかえり」と言葉をかける準備はできているから。
文=宇佐美裕世
写真=大塚素久(SYASYA)
【SETLIST】
01 Go-by
02 BUTAI
03 Find Me Out
04 Simply Me
05 Take a Breath
06 Melt
07 あの日約束したから
08 Baby Me
09 Puzzle
10 LAZER
11 Winding Road
ENCORE
01 Take a Breath