最初はすごくバカにされましたけど、絶対にこのメンバーとならすごいバンドになるって信じてました
でも、ライヴ自体はすごく前向きだったと思います。
「バンドを結成したのが焼き鳥屋さんだったんですけど、ライヴの前日に3人で焼き鳥屋さんに行って、『明日頑張ろうね』って。今の私たちの姿をちゃんと見てもらおうと思って、4人でステージに立ちました」
すぅさんはライヴの最中に涙を流してる場面もありましたけど、あの時はどんな気持ちでしたか?
「この4人でステージに立つことはないんだなって思うと、すごい悲しかったです。始まる前から〈あと3時間後には終わってるのか〉って考えて、寂しくなったり。11年重ねてきた感情がその時いっぺんに出てきたんで、けっこうしんどかったですね」
だからって悲しさだけで終わるようなライヴではなくて。むしろ今回の活動休止の発表もそうですけど、これからもバンドが前に向かって進んでいく強さみたいなものを感じました。
「自分にとって音楽ってそういう存在だったんです、ずっと前から。悲しいこととか辛いこととか、自分の身に起こったマイナスな感情もすべて音楽にして、それで前向きになれるというか」
音楽がそういう存在なんだって自覚したのはいつ頃ですか?
「自覚したのは…………わりと最近かもしれない」
そうなんですか?
「そう(笑)。昔はまだスマホがなかったんで、自分に何かあるとノートに書くクセがずっとあったんですけど、歌詞を書くのもその延長線上でしかなくて。だから〈私にとって音楽とは……?〉みたいなことを考えて書いてきたわけじゃなくて、それをやるのが当たり前だったんですね。けど、前のアルバムの〈she〉っていう曲は、音楽が好きなのに音楽のことですごく悩んでる自分がいて、そういう自分をそのまま書いたんですけど」
その時のインタビューでも言ってましたね。サイサイのすぅというよりも、吉田菫の自分を書いたと。
「はい。結局〈she〉っていう曲にすることで、自分の悩みを解消してることに気づいて。その時〈私ってやっぱり音楽に生かされてるんだな〉って」
それぐらいバンドをやることに無我夢中だったってことなんじゃないかと思いますけど。
「うん、無我夢中……ではあったけど、思ったことを言葉にしたり音楽にするのは自分にとってナチュラルな行為ではあって。しかも私の場合、何かノートに書き留めるのって、自分が落ち込むようなことがあった時なんですね。素材がネガというか」
そうですね。サイサイってポップなイメージのわりに暗い歌詞を唄うバンドなんだなって思ってました。
「そこは当時から葛藤してましたね。最初はマイナーな曲ばかりやってて、それじゃダメだって事務所に言われたりして、私も反抗したりしてたんですよ。自分の声に合ってる曲調とか、ルックスに合った衣装とか、そういうものを提示されることに対して。けど、自分の暗い部分とか内面ばっかり唄うんじゃなくて、もっとみんなをハッピーにさせるような曲も書けるようになったことで、今のサイサイが確立されたと思っていて」
もし自分のやりたいようにやってたら、どうなってたと思います?
「たぶん10年も続いてなかったと思う。当時は私もすっごい尖ってて(笑)、よく社長とケンカしてたし、『そんなの無理』ってなってたけど、そこで私のことをいつも支えてくれたのがメンバーで。だからみんなのおかげでここまで続けてこれたっていう思いがあって。当時ってメンバーそれぞれ自分が持っているものを捨ててバンドに人生をかけてくれたんですよ。みんなちょっとバンドの経験があるだけのただの音楽好きで、知識もテクニックもまったくなくて。それでもバンドに人生をかけたメンバーのことが、すごく誇りだったんです。だから演奏が下手でも、知識が足りなくても、このメンバーだったらどこまでも行けるような気がして。最初はすごくバカにされましたけど、絶対にこのメンバーとならすごいバンドになるって信じてました」
はい。で、今日の取材をする前に、前回のアルバムインタビューを読み返してみたんですけど、まさかあんなアルバムを出したバンドが止まるとは……って思ってしまいました。
「そうですよね。私もこんな形になることは想像もしていなかったけど、人の感情は時間と共に変化していくんだろうなと思っていました。もちろんあのアルバムで出した答えに偽りはないです。〈今はこの答えだ〉っていう気持ちで作ったし、それをその時のインタビューでお話ししたんですけど」
「Answer」って曲がまさにそういう歌でしたね。
「でも、世の中がこういうふうに変わってしまって、私たち一人一人が感じることとか考えることも変わっただろうし、このまま変わらずにいられるわけではないなっていうのは思ってて」
バンドが止まってしまうのではないかと?
「そこまで明確に活休とか脱退とかをイメージするようなことではなかったけど、バンドが続いていくことって奇跡だなって思ってて。だからこそ、いつ止まってもおかしくないし、誰かが辞めることになっても不思議じゃないってことはずっと前からわかってたから。10年続けてきて得たものもたくさんあるけど、それで失うものもあるかもしれないって」
そうだったんですね。でも、そう思いながらバンドを続けるのは、しんどかったんじゃないですか?
「しんどかったです」
ましてやライヴもできないし。
「だから……すごくもがいてました。それでもみんなバンドを大事にしてきたし、守ろうとしてきた。今でもみんなバンドがめっちゃ好きなんですよ。けど、一旦ここで動きを止めないと、もう前には進めなくなっちゃったんです。だからすごい悔しいし、腹が立つ。でも、今は準備期間をいただくことで、SILENT SIRENという私たちの大事な家を守りたいっていうか」
大事な家を守るために、今は活動を止める。そういうことなんですね。
「はい。こないだ野音で久しぶりにライヴやって、自分にとってどれだけバンドが大事な場所かっていうのを改めて実感したんです。SILENT SIRENがない人生はやっぱりあり得ないなって。だからその日の夜、メンバーにその気持ちを伝えたら『いいと思う』って言ってくれて。だから、一旦バンドから離れてしまうし次に向けて準備する時間をいただくことになるけど、またみんなに会える場所を用意したいです」