『音楽と人』の編集部員がリレー形式で、自由に発信していくコーナー。エッセイ、コラム、オモシロ企画など、編集部スタッフが日々感じたもの、見たものなどを、それぞれの視点でお届けしていきます。今回は昨年悩みがちだった若手編集者が見つけた、気分転換の方法とそこでの気づきを綴ります。
気分転換するのがずっと苦手だった。去年からリモートワークが導入されたことで自宅にいる時間が増え、誰かと話すこともなく、パソコンと向かい合う日々。画面上での仕事のやりとりとなると、当然だが相手の顔も見えないし、細やかなニュアンスがつかみにくい。自分なりに相手の立場を想像するなど、できることに努めたものの、あまりにも考えすぎて心が疲弊してしまうなんてことも(笑)。そんな時は、一人暮らしという状況も相まって、本当にひとり暗闇の中にポツンと取り残されたような感覚に陥ることもあった。そこでこのままじゃいけないと気づいて、自発的に気分転換をしよう、であったり、ちょっと人に相談してみるか、となれたらよかったのだけれど、気づけばその発想も生まれないほど、自分はかなり追い詰められていた気がする。
家にいるとわけもなく辛くなり、よく涙が流れる。何もする気が起きず、夜中までただただボーっとしている。そんな状況が続くようになり、〈困ったな。辛すぎる。どうにかならないものか〉と思ったので、去年の冬から今年の春にかけては漢方薬を飲みながら、どうにかこうにか綱を渡るような感覚で生活をしていた。その後、少しずつ自然と心が明るくなるというかいい方向に向かっているな、という実感が自分の中に生まれて今に至る。去年を振り返ると、自分は周りと私自身を冷静に客観視しようと必死だった。でも実際の私にはそういう余裕があまりなかったし、いろんなことを耐えようとしたばかりに抱え込みすぎていたのかもしれない。何を我慢すべきで、気にしていくべきか。そのさじ加減もわかっていないから、いろんなことに戸惑い不安を抱えていた。でも今は、そのバランスが少しずつとれるようになってきたし、そういう意味では心が少し楽になったというか、余裕が生まれた気がしているのだ。
そのせいなのかわからないけれど、元気になってきた春以降、化粧をちゃんとするようになった。学生の頃は化粧をするのがけっこう好きで、ドラッグストアの化粧品売り場を徘徊しては、安く買えるものをいろいろ試して楽しんでいた。でも今の仕事を始めてから、忙しいを言い訳にしてサボることが増えたし、化粧=楽しい、よりも、面倒くさい!が勝るようになってしまったのだ。去年なんかは、そもそも朝起きるだけで精一杯、何をするにも億劫だったので、化粧まで到達する気力なんてほぼ皆無に等しい状態。ただ、今はまたあの頃みたいに、楽しめるようになってきたのだ。それはさっきも言ったとおり、少しだけ心の余裕ができたからだと思う。
化粧をする時のこだわりはとくにないのだけれど(笑)、やり方をネットで調べて、いいと思ったものは参考にして実践することもあるし、K-POPのアイドルのメイクにハッとする機会もあったので、〈あの人がやってた白マスカラ、私も試したいな……〉と思い出し、真似してみることも。あとは、自分の肌に合う色は何か分析して、それに合わせてアイシャドウであったりアイテムを選んでみる、といったこともしている。加えて、コスメオタクの友人がいろんなメーカーの化粧品を教えてくれたのも大きい。今までドラッグストアで買えるものしか知らなかったけれど、いろいろな種類や選択肢がある、と知れたことが刺激になった。どのアイテムを使うのか、そしてそれをどう活用し、実際に肌にのせていくのか。化粧といえど、奥深いものだなと最近実感している(笑)。
でも難しく考える必要はなくて、私はただ、化粧する行為が楽しいのである。化粧している時は鏡を見ながらとにかく集中しているし、とくにマスカラを塗る時は、いちばん神経をとがらせている(笑)。ビューラーでまつ毛をカールさせたあと、マスカラを実際に塗っていく時は〈ああ、液がダマにならないよう気を付けなくちゃ〉といった感じで繊細な作業だから。それが面倒に感じる時もあるけれど(笑)、今は楽しさのほうが勝っている。それに、他のいろんな物事を忘れられる時間だとも気づき、〈これが私の気分転換なのかも〉と次第に思うようになった。あとは単純に化粧がうまくいけば嬉しいし(笑)、その日鏡に映る自分を見ても顔色がいいだけでなく、例えば〈このカラーマスカラの色、とてもきれいだな!〉みたいに気づくことがあって、その瞬間に少しだけ心の温度が上がるし、前向きな気持ちにもなれる。数年前にネットか雑誌の記事で〈見た目は心に効く〉という言葉を見かけたが、そのとおりなのかもしれない。
自分が少しでも何かに没頭できて楽しいと感じられる瞬間は、心にいい作用を及ぼすんだとあらためて気づいた。それさえひとつあれば毎日が少しだけ彩られるのだとも。最近は校了作業に追われていて余裕がなく、さすがに化粧はサボっていたけれど(笑)、落ち着いてきたらまた少しずつやってみようと思う。無理なく、自分が楽しいと思える範囲で。
文=青木里紗