【LIVE REPORT】
怒髪天〈「TOKYO 2021 ~地獄から生放送!~ 」from 神田明神ホール〉
2021.01.17 無観客生配信ライヴ
東名阪を廻る新春ツアーから景気良く2021年をスタートさせるはずだった怒髪天。しかし、1月7日夕方に再び緊急事態宣言の発出されることが正式にアナウンスされたことを受け、いち早く新春ツアーを延期することを発表。その翌日に更新された増子によるブログに、「詳細も分からん状態から三日後の大阪~名古屋公演なんて博打は流石に打てるワケない」とあるが、1都3県(その後、追加され11都府県)を対象とした今回の緊急事態宣言に関しては、発出時期や内容に関する事前情報が錯綜していたこともあり、延期の決断は、致し方ないものであった。バンドとしては、新年早々、出鼻を挫かれた感もあったわけだが、転んでもタダでは起きないのが怒髪天。急遽、無観客生配信ライヴ〈TOKYO 2021 ~地獄から生放送!~〉を行うことを決定し、ツアーの東京公演と同日・同会場から、全世界に向けて新年の挨拶をかましたのであった。
開演予定時刻の15分前、Yシャツ&ネクタイにエプロン姿の増子直純が、画面に登場。テレビショッピング風のツアーグッズ紹介映像(その昔、包丁の実演販売をやっていただけあり、セールストークもお見事!)を経て、18時すぎ、この日の会場である、江戸の守り神・神田明神の境内に立つホールのロビーに横並びで座布団の上に正座する、恭しい佇まいの4人が映し出される。
お正月の定番「春の海」の怒髪天ヴァージョン(尺八パートが、メンバーの混声合唱)が流れるなか、ドラムの坂詰が打つ拍子木を合図に、新年の口上をバシッと決める増子――となるはずだったのだが、地獄からの生放送ゆえか(笑)、音声状態も悪く(アーカイヴでは、音声トラブルは解消)、さらに自治体の防災無線による感染防止対策を促すアナウンスが丸かぶりと、これまた出鼻を挫かれた感のあるオープニング。防災無線に「なんだよ、おい!」と悪態をつく増子の横で、苦笑いを堪え、神妙な面持ちを必死に保とうとするメンバーという、(意図してなかったとはいえ)まるでコントのごときズッコケな幕開けもまた怒髪天らしいといえようか。
その後、いつものSE「男祭」をバックに4人はステージへと移動。〈このスキモノどもが!〉と、怒髪天を愛する〈俺たち界隈=ファン〉への愛情たっぷりのナンバー「スキモノマニア」から、数多ある怒髪天の酒ナンバーの中でもひときわアルコールへの欲求を煽る「酒燃料爆進曲」と続け、2021年最初のライヴを景気良くスタートさせた。そしてコロナ禍以降、〈ロックバンドが本気で信じてないでどうする/こんな腐った世界を/いつかきっと 変えられると〉というフレーズが、ひときわ胸を鷲掴みにする「HONKAI」、ロカビリー調の新曲「や・め・と・き・な」へと繋いでいく。
ライヴ初披露となった「や・め・と・き・な」をはじめ、10月にリリースされたニューアルバム『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』からの楽曲を中心に構成されたこの日のセットリストは、新春ツアーのために用意されたもの。本来なら、これらの楽曲を直接届け、目の前にいる各地の〈俺たち界隈〉とともに「今年こそは、良い年にするぞ!」と確認しあうはずだった。そのための準備をしてきたなかでのツアー延期という決断の裏には、かなり悔しい思いもあったはずだ。観に来てくれる人たちの安全を考え、慎重に慎重を重ね、徐々に段階を踏みながら有観客ライヴの機会を作ってきた昨年の彼らの動きを見てきたから、なおさらそう思う。しかしそこで、苛立ちを露わにしたり、憤りを撒き散らすようなことはせず、「なんとかなるよ、笑ってりゃ」と軽やかに言ってのけるのが、怒髪天というバンドなのである。
愛すべきドラマーが主人公の「ヘイ!Mr.ジョーク」からの「実録!コントライフ」、さらにMCを挟んでの「濁声交響曲」、ライヴ初披露ゆえにやや緊張の面持ちで息を合わせていくメンバーの表情もまた良かった「駄反抗王」といった、明るくコミカルなナンバーを畳みかけていったライヴ中盤の流れも、まさにそんなバンドの姿勢がみえてくるものだった。もちろん、「楽しけりゃなんだって良いんだよ」という逆ギレでも、楽観的思考回路ということではない。〈変なおじさん〉の振りを交え、偉大なるコメディアンへのリスペクトを込めてプレイされた「実録!コントライフ」のラストのフレーズにひっかけて、「今年も同じだ。笑って、笑ってまた明日!」と言い放った増子。喜劇と呼ばれるものには、必ず人生の悲哀といったものが下敷きあるように、こんな時代だからこそ、これまで同様に人生のペーソスを歌にしながら、面白おかしく音楽を届けていこうじゃないか。そんな怒髪天というバンドの矜恃、〈ロック界のお楽しみ係〉である自負を強く感じたこの日。それゆえに、全力全開の演奏と〈頑張れ〉と渾身の力を込めて唄い放たれた「孤独のエール」が、殊更強く胸に響いてきたのだった。
「孤独のエール」で心震え、久しぶりにライヴで聴く「つきあかり」に滲む優しさにグッときたのも束の間。メンバーそれぞれの新年の抱負から、どんどん話が脱線していった(途中、コロナ禍に対する雑誌『ムー』的視点の持論を熱く語る増子に向かって、上原子が「いろんなこと考えて生きてるんだなぁ」と言ったくだりは最高だった)緩さ全開のMCコーナーという落差もまた、怒髪天らしい展開か(笑)。ただ、そんなたわいもない会話をワイワイと楽しむおじさんたちの姿、そして演奏中の彼らの表情からは、〈この4人でバンドをやることが楽しくて仕方がない〉ということがひしひしと伝わってくるのも、また確かだ。
話が止まらなくなりそうな様子を見兼ねたスタッフから〈そろそろ演奏してくれ〉という指示が飛び(笑)、突入した終盤戦。怒髪天得意の〈酒ナンバー〉に新たに加わった「ポポポ!」から、もはやバンドのテーマ曲ともいえる「オトナノススメ」、そしてラテン風の軽快なリズムからサビで〈ゴージャスな人生を!〉と朗々と唄い上げる「タイムリッチマン」と、陽気なお祭りナンバーを続けざまにプレイ。そして、ラストの「H.M.A.」で〈傷つかないココロ〉〈決して折れぬココロ〉というメッセージを届け、いつものように「生きてまた会おうぜ!」という言葉を残し、ライヴは幕を閉じたのだった。
いまだ先行きは見えない、如何ともしがたい状況は続いている。しかも、ここまで長くこの状況が続くと、誰だってやんわりとした閉塞感を感じていることだろう。そんな日々に、ちょっとしたユーモアや楽しい時間があるだけで、ずいぶんと心は軽くなる。最初のMCで「すべて前向きに捉えるはバカの最大の特徴だから」と言いながら、「おもしろくなき世をおもしろく」という幕末の志士、高杉晋作の名言を引用し、面白くない世の中をどう面白くしていくか、と話していた増子。そのために、まずは自分たちが心の底からバンドを楽しみながら、〈ロック界のお楽しみ係〉としての役割をまっとうしていく。それが2021年の怒髪天の在り方なんだと、この日のライヴは雄弁に伝えていた。
2月16日からは、全国18箇所を廻るツアーが始まる。〈ロック界のお楽しみ係〉としての面目躍如といった彼らの姿を、今度は画面越しでなく、直接ライヴハウスで確認したい。おもしろくなき世をおもしろくするために。
文=平林道子
【SET LIST】
01 スキモノマニア
02 酒燃料爆進曲
03 HONKAI
04 や・め・と・き・な
05 シン・ジダイ
06 俺達は明日を撃つ!
07 はじまりのブーツ
08 SADAMETIC 20/20
09 憎まれっ子のブーガルー
10 マン・イズ・ヘヴィ
11 ヘイ!Mr ジョーク
12 実録!コントライフ
13 濁声交響曲
14 孤独のエール
15 駄反抗王
16 つきあかり
17 ポポポ!
18 オトナノススメ
19 H.M.A.
ヘヴィ・メンタル・アティテュードツアー 2021 ~Mr.ジョーク参上~
2月16日(火)千葉LOOK
2月23日(火)南相馬BACK BEAT
3月06日(土)HEAVEN'S ROCK 熊谷 VJ-1
3月07日(日)松本LIVEHOUSE ALECX
3月27日(土)HEAVEN'S ROCK 宇都宮 VJ-2
3月28日(日)仙台Rensa
4月01日(木)神戸 太陽と虎
4月03日(土)福岡Livehouse CB
4月04日(日)小倉FUSE
4月06日(火)滋賀U☆STONE
4月17日(土)金沢AZ
4月18日(日)新潟GOLDEN PIG RED STAGE
5月07日(金)札幌ペニーレーン24
5月08日(土)札幌ペニーレーン24
5月14日(金)広島CLUB QUATTRO
5月16日(日)高松DIME
5月22日(土)大阪 umeda TRAD
5月23日(日)名古屋CLUB QUATTRO
5月29日(土)恵比寿LIQUIDROOM
1月27日(水)23:59まで、千葉、南相馬、熊谷、松本公演のHP先行受付中!
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チケット一般発売 2月6日(土)
※3月27日以降の公演に関する詳細は、後日発表
〈先行予約に関する注意事項〉
*お一人様2枚まで
*新型コロナウイルス感染拡大防止策の都合、受付画面の注意事項にご了承いただいた上で、チケットのお申込み、並びにご来場をお願いいたします。
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*本先行は先着順ではなく抽選でチケットを確保する受付ですので、受付期間内であればいつでもお申し込みができます。
*チケット代金の他に、各種手数料が加算されます。その他当落確認方法、支払・受取方法も含め、詳細は受付ページにてご確認ください。
*システムメンテナンスの為、第1・第3木曜日AM2:00~8:00は申込み・支払手続きができません。
NEW ALBUM『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』
2020.11.11 RELEASE
01 SADAMETIC 20/20(サダメティック トゥエンティ/トゥエンティ)
02 駄反抗王(ダハンコキング)
03 孤独のエール
04 ポポポ!
05 スキモノマニア
06 や・め・と・き・な
07 憎まれっ子のブーガルー
08 ヘイ!Mr.ジョーク
09 タイムリッチマン
10 H.M.A.(エイチ エム エー)
Live&Document DVD『怒髪天 必要至急特別公演キャプテン野音2020 ~1/2の神話(キャパ)~』
2020.12.11 RELEASE(通販限定)
2020年9月6日に日比谷野外大音楽堂で行われたライヴ〈怒髪天 必要至急特別公演キャプテン野音2020 ~1/2の神話(キャパ)~〉の全曲分と貴重なメンバーのインタビューやドキュメント映像を収録した2枚組DVD。
怒髪天 オフィシャルサイト http://dohatsuten.jp/index2.html