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  • #ライヴレポート

スピッツの本質を捉えたドキュメンタリー。現在公開中のオンライン上映会について

text by 樋口靖幸

【LIVE REPORT】
スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ”
2020.11.26 at 東京ガーデンシアター(オンライン上映)



人の心に寄り添うことで、自分が何者であるかを知る。そんなバンドのドキュメンタリーを目の当たりにした。2020年11月26日に開催された一夜限りの特別公演、〈スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ”〉。その貴重なライヴをオンライン上映という形で公開中(1月31日で公開終了)の映像作品のことである。


彼らのライヴを最後に観たのは2019年12月下旬、最新アルバム『見っけ』を携えたツアー、その横浜アリーナでの公演だ。最新アルバムをリリース後は、全国のコンサート会場をくまなく廻るのがバンドのルーティンだが、その行程にアリーナ規模の公演が含まれるようになったのは2009年頃から。とはいえアリーナ公演だからと言ってステージの4人に大きな変化はない。演出やセットがアリーナ仕様にスケールアップするものの、演奏もステージングもグダグダなMCも通常運転のまま。そんな4人からいつも感じるのは、バンドとしての揺るぎない矜持だ。どんなに大きな会場だろうが、目の前に万単位の聴衆がいようが、スピッツは変わらない。当日の横アリ公演もその矜持を強く感じさせる内容だった。いつでもどこでもスピッツは不変のバンド。そのことにこだわり続ける彼らがそこにいたと記憶している。


そんな彼らのツアーもコロナの影響で延期された中で開催を決めたのが、今回のスペシャルコンサートだ。もちろんいつもどおりにやるわけにはいかない。感染防止対策が講じられた会場は、おそらくいつもと違う空気が張り詰めていたことだろう。そういう特殊な状況の中、彼らはお馴染みの佇まい――メンバーの衣装が白と黒で統一されていたのを除けば――でステージに姿を現し、「恋のはじまり」でコンサートをスタートさせた。緊張している様子が画面越しにも窺えるものの、4人の演奏に以前との違いは見られない。そんな中、ロングトーンを響かせる草野の声がいつもとは違うシリアスな表情を湛えている。ゆったりとしたメロディを唄うその声には、どこか厳かな雰囲気があるのだ。やはり、この時期にコンサートを行うこと、あるいは音楽を目の前の人たちに届けることに、彼らも特別な思いを持っている、ということなのだろう。画面は草野のアップから客席後方よりステージを捉えたカメラに切り替わると、そこにはガーデンシアターが想像以上に大きな会場であることを映し出す景色が広がっていた。この時期、これだけの規模でコンサートを開催することに、きっと大きな覚悟や決意があったに違いない。そう思わされる光景だった。


3曲を終え、いつもどおり最初のMCで一息つく流れ。草野が「1月の大阪公演以来のライヴでいろんなこと忘れちゃって」と自虐ネタで場を和ませようとするも、いつもより反応の薄い客席に「あれ、クスクスも禁止なの?」とツッコミを入れる。そこに田村や三輪が加わって、どこまで何がOKなのかと確かめあっている。そのグダグダないつものやりとりが、いつもと違ってお客さんに対する思いやりのように見えた。不安や戸惑いを取り除くための、ささやかな心遣い。いつもどおりにやりたいから、いつもと違うことをやる。ツートーンの衣装、着席でも楽しめるように配慮されたセットリスト、そしてオンライン上映の収録。そのどれもが新しい試みというよりも、すべてはスピッツの音楽を聴いてくれる人たちへ寄せられた思いを強く感じた。


コンサートはオーディエンスや視聴者のそんな思いを優しく掬い上げるようなセットリストで進行していく。「ハートが帰らない」を始め、ライヴでやるのが久しぶりだという曲も披露される。そして次のMCで、草野がステイホーム期間中にバンドマンとしてのアイデンティティを失いかけたことを告白した。いつもの彼ならそのアイデンティティを取り戻そうと、このステージで躍起になっていたことだろう。彼らはどんな場所でどんな相手でも、自分らしさを失わずに〈ロックバンド〉であり続けてきたのだ。でも、この日はやっぱりいつもと違っていた。世の中がこんな状況で、スピッツが誰かのためにできること。それが何よりも優先されていた。


そんな4人の様子に変化が見られたのは、コンサート終盤の頃だ。曲を披露するたびに、彼らのプレイが熱を帯びたものへとシフトしていく。それぞれの感情や欲望が音や演奏にジワジワと浸み出してくるような、それはあたかも彼らがバンドマンとしてのアイデンティティを取り戻すドキュメントを見てるようだった。「僕のギター」で三輪が感情を刻みつけるように弾いたギターソロ。「楓」のサビを唄い上げるところで気持ちが入りすぎて掠れ声になる草野。﨑山の前のめりなビートに気持ちの高ぶりを感じる「魔法のコトバ」。「正夢」で唄うように奏でる田村の流麗なベースライン。彼らは自分たちのために音楽を鳴らしていた。いつもとは違う景色も、たくさんのカメラも、少しも気にならない。バンドマンとしての自分を取り戻すことができた、と言わんばかりの彼らの独壇場の音楽がそこにはあった。人の心に寄り添うように音楽を届けた先にあったケミストリー。やはりスピッツはロックバンドなのだ。


「楽しかったというよりも嬉しかった」――アンコールのメンバー紹介で、田村が思いを噛みしめるような口調で今日の感想を漏らしていた。もちろん久しぶりにライヴができたことの喜びを、彼は思わず言葉にしただけかもしれない。でも、その言葉には噛みしめるような確かに重みがあった。バンドが積み重ねてきた30年以上という時間。4人の繋がり、そして自分たちを求めてくれる人たちの存在。それらすべてを久しぶりのステージで改めて実感した。そういうことなのだ。


スピッツがどんなバンドなのか、彼らの本質はどこにあるのか。それを誰かに説明するのに、このライヴ映像を超える作品はないだろう。2020年の生々しい彼らを捉えた、記録映像。いつかコンサート会場で彼らと再会する日まで、しっかりと脳裏に焼き付けておきたい。



文=樋口靖幸
写真=中野敬久

【SET LIST】
01 恋のはじまり
02 ルキンフォー
03 空も飛べるはず
04 あじさい通り
05 スカーレット
06 小さな生き物
07 魚
08 ハートが帰らない
09 猫になりたい
10 君だけを
11 僕のギター
12 猫ちぐら
13 フェイクファー
14 楓
15 みなと
16 魔法のコトバ
17 正夢

ENCORE
01 初恋クレイジー
02 ウサギのバイク
03 ハネモノ


〈スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ”〉オンライン上映

各上映メディアにてオンライン上映中
<料金>1,500円(税込)
※上映メディア、上映スケジュールなどは特設サイトをご確認ください。

映画『スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ”』特設サイト https://spitz-web.com/concert2020/movie/
スピッツ オフィシャルサイト https://spitz-web.com/

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