【LIVE REPORT】
BUCK-TICK〈ABRACADABRA THE DAY IN QUESTION 2020〉
2020.12.29 at 日本武道館
約束する、ということ。
その約束を信じ、そしてそれを果たすこと。それが希望の光となっていた。
BUCK-TICKにとって21回目の12月29日だった。去年は改装のため、会場が国立代々木競技場第一体育館になったが、2000年からずっと、この日は日本武道館でライヴを行ってきた。通常であれば、9月にリリースされたアルバム『ABRACADABRA』のツアーで全国を廻り、そのファイナルとして行われるはずだった。しかしコロナウイルス感染症拡大の影響で、ツアーは〈TOUR2020 ABRACADABRA ON SCREEN〉としてフィルムコンサートとなり、この日の開催が発表されたのも1ヵ月前。ギリギリなところで折衝や対策を練っていることが伺えたが、客席をキャパの半分に減らし、様々な対策を講じた上で、有観客で開催されることとなった。
アリーナの席の配置や、スタンドの様子を伺うと、かなり客席を減らし、ソーシャルディスタンスに気を遣っているように感じられる。そしていつもなら関係者や友人が多く訪れるこの日だが、ゲストによる招待は一切なし。少しでもファンが観れる機会を増やしたい、その思いが感じられる。
ライヴ本編は〈ABRACADABRA ON SCREEN〉のセットリストを踏襲していた。「Luna Park」のみ、本編ラストではなくアンコールに披露されたが、曲順も変わらず衣装もまったく同じ。そこには、この日のライヴが『ABRACADABRA』というアルバムのツアーの一環にあり、いつものツアーファイナルである、という意志が感じられた。特別じゃない、普通のこととして行うことが、今、最大の抵抗なのかもしれない。そしてその姿勢は、全国23ヵ所26公演を行った〈ABRACADABRA ON SCREEN〉に来場したファンの思いも引き連れて行こうとしていた。
アルバムをリリースし、ツアーを重ね、ファンの反応を感じながら、ファイナルに向けてその世界観を作り上げていく。それがバンドの正統なスタイルだが、今はライヴ自体が正常な形ではできない。ほとんどが単発の、コロナ禍における特別なもの、だ。それをツアーという日常に取り戻そうとしているように思えた。皮肉にもタイトルは『ABRACADABRA』という呪文。コロナによる不安、客席は半分以下での開催、それすらも危ぶまれた状況。開催していいのか、観に来ていいのか。やるほうも観るほうも、心のどこかで葛藤を抱えていた中で、そのタイトルとライヴへの向き合い方は、その不安を解放する強さがあった。曲間で客席から起こるやまない拍手は、声も上げることができない状況で、その思いが現れていた。
また、観客を前にすることで、『ABRACADABRA』というアルバムの本質が顕になった。はっきりとしたテーマはなく、自由で、何物にもとらわれないサウンドが鳴る。今井は〈逸脱〉と表現していたが、ある種のフォーマットからあえて外れ、オルタナであることを目指している。しかしどんなにアバンギャルドであろうとも、櫻井のヴォーカルとその世界観が、否応なく人間味を与える。見えないカメラの向こうだけではなく、客席への意識が、その表現をより高めていく。
だからこそ、今井がアルバムで唯一、コロナ禍である今を意識し、この状況に腹を立て、スカッとする曲を書こうとして生まれた「ユリイカ」には、この日、圧倒的な破壊力があった。この暗い空気を希望に塗り替えようとする思いがひとつになっていた。客席に〈PEACE!〉サインが揺れる。きっとこの光景を、レコーディングの時から想像し、待ち望んでいたに違いない。笑顔が溢れていた。怒りや憎しみ、絶望だけでは何も生まれてこないことを、このバンドはよくわかっている。
そして本編ラストの「忘却」。決してピースフルなだけではなく、どんな時でもこういう拭えない感情がどこかにある。それもちゃんと存在している。そのことを唄うから、彼らの楽曲はリアルなのだ。完璧なものはこの世にはなく、すべてはいびつでヒビがある。そしてそこから光は指してくる。だから愛おしい。
アンコールの曲目は、〈ABRACADABRA ON SCREEN〉からは何曲か入れ替わった。そのほとんどは、未来への光を照らすような、希望を分かち合うような、そんな楽曲が並んでいる。そんな中で櫻井はこう告げる。
「次の曲は、自分を大切にすると、大事な人をも大切にできるという、そんなお話です。医療関係者の方に捧げたいと思います」
その言葉には、感染症というデリケートな事案に対するメッセージが含まれている。しかし同時に、あれだけ自分を痛めつけて、自分なんて……と否定し続けていた彼自身が、今実感している思いでもある。そして披露された「LOVE ME」。去年はそこに、バンドでやれる喜びが、そして愛されている実感があった。そして今年は、こんな世界の状況も、最終的にはその思いでしか解決できないんだ、と唄っている。
「それでは行こう、未来へと!」
櫻井が告げたあと、ラストの「New World」へ。無限の闇を切り裂いていく。その先に見える光が希望だ。それを抱きしめて、僕たちは生きていく。メンバーが去った後のスクリーンに映し出す形で、2021年秋の全国ツアー、そしてこの日と同じ、12月29日の日本武道館公演が発表された。正直、感染状況もどうなるかわからないし、キャパの設定がどうなるのか、歓声を上げていいのか、そもそもライヴを開催して良い状況なのか、まだ未知数に違いない。しかしその約束が希望となり、僕たちは前を向いて生きていける。何より彼らと僕たちは、20年間、約束を守り続けてきたのだ。
そんな希望と愛に満ちたライヴだった。2021年、またここで会えることを、誰もが強く願っていた。
文=金光裕史
写真=田中聖太郎(★)・渡邊玲奈(▲)(田中聖太郎写真事務所)
【SET LIST】
SE
01 月の砂漠
02 ケセラセラ エレジー
03 獣たちの夜 YOW-ROW ver
04 SOPHIA DREAM
05 URAHARA-JUKU
06 凍える
07 舞夢マイム
08 Villain
09 堕天使 YOW-ROW ver.
10 ダンス天国
11 MOONLIGHT ESCAPE
12 ユリイカ
13 忘却
ENCORE
01 FUTURE SONG – 未来が通る –
02 Luna Park
03 世界は闇で満ちている
04 ROMANCE
05 LOVE ME
ENCORE 2
01 Alice in Wonder Underground
02 LOVE PARADE
03 New World
2020年12月29日 日本武道館
BUCK-TICK〈ABRACADABRA THE DAY IN QUESTION 2020〉
アーカイヴ配信情報
■FanStream
①一般視聴チケット:¥5,000(税込)
②FC会員/モバイル会員向けチケット:4,500円(税込)
視聴ページ: https://tixplus.jp/feature/bucktick_202012/
チケット販売期間 : 11月30日(月)20:00~2021年1月6日(水)20:00まで
※アーカイブ視聴: 2020/12/30(水)18:00~2021/1/6(水)23:59まで
■ニコニコ生放送
①通常価格:5,000ポイント(税込¥5,000)
②ニコニコプレミアム会員価格:4,400ポイント(税込¥4,400)
視聴ページ: https://live.nicovideo.jp/watch/lv329111828
チケット販売期間 : 11月30日(月)20:00~2021年1月4日(月)23:59まで
※タイムシフト(アーカイブ)視聴:2021年1月5日(火)23時59分まで
■ZAIKO
通常価格:¥5,000(税込)※チケット購入時、別途ZAIKO購入手数料がかかります
視聴ページ:https://buck-tick.zaiko.io/
チケット販売期間 : 11月30日(月)20:00~2021年1月5日(日)23:00まで
※アーカイブ視聴:2021年1月5日(火)23時59分まで
■PIA LIVE STREAM
通常価格:¥5,000(税込)
視聴ページ:https://w.pia.jp/t/bucktick-pls/
チケット販売期間:11月30日(月)20:00~2021年1月5日(火)21:00まで
※アーカイブ視聴: 2021年1月5日(火)23時59分まで
■WOWOWメンバーズオンデマンド(WOWOWにご加入中の方は無料〈アプリ内課金なし〉でご利用になれます。)
番組サイト:https://www.wowow.co.jp/bt/
WOWOWメンバーズオンデマンドの登録・視聴方法: https://www.wowow.co.jp/mod/
※アーカイブ視聴:2021年1月5日(火)23時59分まで
BUCK-TICK
NEW ALBUM『ABRACADABRA』
2020.09.21 RELEASE
■完全生産限定盤A(SHM-CD+Blu-ray)
■完全生産限定盤B(SHM-CD+DVD)
■通常盤(SHM-CD)
〈CD〉 ※全形態共通
01 PEACE[作曲:今井寿]
02 ケセラセラ エレジー[作詞:今井寿 / 作曲:今井寿]
03 URAHARA-JUKU[作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿]
04 SOPHIA DREAM[作詞:今井寿 / 作曲:今井寿]
05 月の砂漠[作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦]
06 Villain[作詞:櫻井敦司・今井寿 / 作曲:今井寿]
07 凍える Crystal CUBE ver.[作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦]
08 舞夢マイム[作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿]
09 ダンス天国[作詞:櫻井敦司 / 作曲:星野英彦]
10 獣たちの夜 YOW-ROW ver.[作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿]
11 堕天使 YOW-ROW ver.[作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿]
12 MOONLIGHT ESCAPE[作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿]
13 ユリイカ[作詞:櫻井敦司・今井寿 / 作曲:今井寿]
14 忘却[作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿]
〈Blu-ray / DVD収録内容〉 ※完全生産限定盤A・B共通
「獣たちの夜 YOW-ROW ver.」 MUSIC VIDEO
「MOONLIGHT ESCAPE」 MUSIC VIDEO [MULTI-ANGLE] ※マルチアングル仕様
「凍える」 MUSIC VIDEO
『ABRACADABRA』特設サイト https://www.jvcmusic.co.jp/linguasounda/abracadabra/
BUCK-TICK オフィシャルサイト https://buck-tick.com/