ワンマンに地元の友達が来ると、すっげえ楽しそうにしてるんですよ、リーダー。俺もミヤと……そうなりたい
そういう場を経て、SATOちの脱退が決まったっていう知らせを聞いて、俺がどう思ったと思う?
「……SATOち、ぶっ飛ばしてやるみたいな?」
辞めるってことは連載も終わるし、まだ単行本作ってないし、今年はライヴだって観れてない。どういうことだよ?って思ったし、そもそもSATOちのいないMUCCってものが全然想像できなかった。だから混乱した。
「そうだよな……」
前だったら頭に血がのぼって「何でそこでオマエ頑張れなかったんだ」って怒るだろうし、あとはミヤくんに「ふざけんじゃねえ」って言いに行ってたと思う。でも、これだけ本人が苦しんでるのに、それでもMUCCのSATOちで居続ける人生って、不幸でしかないとも思った。
「うん……」
ミヤくんもずっとストレス抱えっぱなしだろうし、このままだと4人の関係にもバンドにとっても、間違いなく不幸でしかない。だから、すごく残念だけど、これが最良の選択なんだろうなって。
「……いつだっけな。やっぱりドラムで悩んでた時にインタビューがあって『ドラムつまんなさそうだな』みたいな話になったの。で、樋口さんが『オマエ辞めんなよ』って言ったあと『オマエが辞めたら俺も辞める』って…………」
……。
「その時、そう言われたことがずっと頭の中にあって。〈辞める〉って言葉は絶対に言っちゃいけないんだって……。あの言葉がずっと忘れられなくて、でも、ああ言われたことが俺の中でずっと防波堤になってたし、その防波堤が崩れる日が来るとは自分でも思ってなかったから……」
うん。
「YUKKEもそう。4月7日のミーティング終わってから、YUKKEに『呑みに行くぞ』って誘われたんだけど、俺、断ったんですよ。行ったらたぶん『いろいろ辛いこともあるけど、辞めちゃダメだ』ってアイツに言われそうだったから」
自分の決心が揺らがないように。
「うん。で、たぶんそれを根に持ってると思う、YUKKEは。あの時、話をしてれば、こうはならなかったんじゃないかって思ってるみたいだから」
最初と同じ質問するけど、辞めるってメンバーに言って、それを受け入れてもらった今、どんな心境?
「さっき落ち着いてるって言ったけど、それはやっぱり言えなかったことを言ってよかったなっていう気持ちだからだと思う。あと、もしかしたらこれでもうドラムのことで辛い思いをしなくていいっていう気持ちもあるのかな……」
MUCCのドラマーっていうプレッシャーから解放されることで得られる安堵感というか。
「それはまだわかんない。ただ、お客さんとかいろんな人に対する申し訳ない気持ちっていうのからは解放されるのかな。例えばお客さんからの手紙で〈あのライヴよかったです〉って書いてあって、〈いつもありがとう〉って思うけど、でもその時の俺って、ちゃんとお客さんと向き合ってライヴできたかな……とか考えちゃったから。昔は動員が増えれば増えるほど、お客さんにちゃんと届くようなドラム叩けてんのかな?って悩んだし。そういう申し訳ない気持ちからは解放されるというか」
脱退することが決まってからも、配信だけどライヴはやってきたし、うちの連載もそうだしいろんなことを今までどおりやってきたじゃないですか。今までどういう気持ちでやってた?
「どういう気持ち……ライヴはいつもどおりにやれてよかったです。それってたぶん、メンバーがいつもと変わらなく接してくれたからで。リーダーなんていつもどおり、すげえダメ出ししてくるし。LINEで『あそこのドラムはああしてこうしたほうがいい』とかガンガン送ってきて」
あの野郎。
「や、俺、それがよかったの。本当に救われた。まだ俺のことを見捨ててないっていうか。そうじゃないと……辞めるって言った人間にダメ出ししないでしょ?(笑)」
確かに(笑)。
「だから今もやれてるのかなって思う。たぶんそうじゃなかったらギクシャクしてるだろうから。何も言われなくなったら逆に〈これを言われなかったけど大丈夫かな〉とか〈今すげえミスしたけど何にも言われなかった〉とか気になっちゃう」
じゃあ今までどおりの関係で武道館をやって、来年に何らかの形でライヴを行い、それを最後にバンドを去る予定ですけど、どういう気持ちで臨もうと思ってます?
「それはまだ何とも……最後のライヴはまだ詳しいことも決まってないし」
武道館は?
「武道館は、もう精一杯……やります。だって俺が辞めるって決まってても、メンバーは今までと変わらず俺とやってくれてるんだから。俺も今までどおり、今までやってきたMUCCのライヴを精一杯やるだけ」
20年以上続けてきたバンドを自分は辞めるんだ、という実感は今ありますか?
「まだないです。もしかしたら……お客さんを入れたライヴをやらないと実感が湧かないのかもしれない」
ってことは武道館だね、実感が湧くのは。
「そうかもしんない。あの……アルバムの特典でリモート握手会ってやってたでしょ? 俺、あれがすごく辛かったの。『武道館のチケット当たりました。行きますね』『ありがとう』っていうやりとりがすごく……辛かった。だから、そういう人たちの前でライヴしたら、きっと実感が湧くんじゃないかな」
そうかもしれない。
「昔は俺、ファンからの手紙ってそんなに大事だと思ってなかったの。でも、20何年もやってると、それだけ長くMUCCを応援してくれてる人もいて、その人にとって運命的な曲がめちゃめちゃたくさんあって、そういう人たちからの手紙を読むと……本当にありがたいというか、ずっと支えてもらってたというか。だからライヴでもそういう人たちに一回一回、ちゃんと届けようって気持ちをすごく大事にしないとなって。それを武道館に立った時、たぶん思う気がする」
そういうファンの気持ちがなかったら、とっくに辞めてた?
「たぶんすぐに心折れてたと思う。だから、ちょっとしかやってないバンドの解散のニュースを見ると、自分と比べちゃうんですよ。もっと這いつくばってできたんじゃないか、とか。それぞれのバンドにいろんな事情があるんだろうけど、自分と重ねちゃう部分がめっちゃあって。極端なこと言ったら20年間やらないと辞めちゃダメだ、とか思ったり」
あと、脱退してからのことも聞くけど、もともとメンバーとは友達だったわけじゃん。
「そうっすね」
特にミヤくんとは「ストーカーになっていい?」って言ってMUCCやるために一緒に上京してきた仲で。今後バンドを離れてから、彼との関係ってどうなると思う?
「どうなんだろう……?」
想像してみて。MUCCではずっと父親みたいな存在だった彼と、どういう関係になるのか。
「どうなんだろう………………。そういえば、MUCCのワンマンに地元の友達とか来ると、すっげえ楽しそうにしてるんですよ、リーダー。その友達もミヤのほっぺにチューとかしたり、メンバーがミヤにやらないようなことをして。『オメエ最高のギターだったぜ! ブチュ!』『やめろよー!』ってなってるのを見ると……すごく微笑ましくて。俺も……リーダーとそうなりたいな」
そうなってほしいです。だって初めて会った頃のMUCCは、本当にそんなノリだったからな。
「あれでしょ? 俺らすげえ訛ってたんでしょ?」
茨城のヤンキーって感じだった。当時やってた雑誌のロケで、メンバー車に乗って移動してる時の4人の会話なんてマジでひどかったから(笑)。
「はははは」
あの頃の4人の空気を今でも俺は引きずってるし、いつかああいう感じでバンドやれたらいいなって思ってた。でも、辞めてからミヤとそういう関係になれるんだったら、SATOちのことを気持ちよく送り出そうって思う。
「あと俺、MUCCのライヴが観たいな……」
お客さんとして?
「そう。MUCCのライヴを生で観ることって、MUCCのメンバーには絶対無理なことだから。でもそれができるっていうのも、今はまだ変な感じだけど」
辞めたあと、ドラムはどうする?
「引退する。友達とかとやったりはするかもしれないけど、公の場には出ないと思う」
じゃあ次の仕事を探さないと。
「うん……俺、なんでもやる!」
ははは。あの、〈MUCCの親戚の叔父さん〉ってファンから呼ばれてる立場として、ひとつだけ言っていい?
「親戚の叔父さん(笑)」
バンドを去る代わりに、これからは自分に自信が持てるような生き方をしてほしい。
「うん……」
今はまだ申し訳なさみたいな気持ちもあるかもしれないけど、SATOちのこれからの人生に幸あれ、とみんな思ってくれるはずだから、そういう気持ちで武道館のステージにも立ってほしい。
「……わかった。まだ実感はないけど、どうなるんだろう?」
あと、「SATOち牛乳」(註:音楽と人でSATOちが行っているコラム連載)も出さないとな。
「単行本?」
バカバカしい一冊にしよう。
「そうだね。やっぱり表紙は……半裸で牛乳飲んでる写真がいいな」
はははは!
文=樋口靖幸
ヘアメイク=黒沢葵
〈惡-The brightness world〉
2020年12月27日(日)日本武道館
OPEN 16:00 / START 17:00
(問)SOGO TOKYO 03-3405-9999
【出演】
MUCC
ゲスト:吉田トオル/後藤泰観/琴羽しらす/葉月(lynch.)
【チケット料金】
全席指定 ¥9,600(税込)
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※未就学児入場不可
※営利目的の転売禁止
※当日券の販売はございません
3プラットフォームにて生配信&WOWOW生中継も決定!
詳細は 特設サイトをご確認ください。
MUCC オフィシャルサイト https://55-69.com/