青春って言われる時期のひっかき傷。その傷が癒えないから、還暦になってもずっともがいてるんだよ
『別世界旅行』というタイトルは?
「これは、ここ近年、ライヴのミックスを毎回お願いしているケニー・ジョーンズが、イギリスでコロナが酷くなっていた時、メールをくれたんですよ。〈信じられない。SF映画に出てくる別の世界のような暮らしになってしまった〉って。それを読んで、別世界、ってキーワードが頭に残って。そこから古いサイレント映画で『月世界旅行』っていうのがあったのを思い出したの。擬人化した月にロケットが刺さるシーンがすごく印象的なんだけど、月みたいなウィルスに、ギターが刺さってたら面白いな、と思って。そのギターも、60年代にエコーっていうイタリアのブランドが作っていた、通称ロケットギターを買ってね」
今を感じる秀逸なタイトルですね。
「『地球の歩き方』を震災の時に出したじゃん? これから地球を歩く時はこんなふうに歩かなきゃいけないよ、って、あの有名な旅雑誌と重ね合わせたんだけど、そのタイトルを見て、ピチカート(・ファイヴ)の小西くん(小西康陽)が『ナイス』って言ったの」
はははははは。
「今度は小西くん、ベリーナイスって言っちゃうよ(笑)。このセンスがいいんだと思う。普通の人は、ダサいと思っちゃうかもしれない。このズレは認識してるつもりだけど、そのうち評価されると思うんだよ。これがコレクターズを長生きさせてるんだと思うよ」
ブレないですね。
「だって時代に合わせていこうとしたって、何も残らないよ。コロナになったことでわかるように、時代は変わっていくもんだから。じゃあまたこの状況に合わせて歌詞を書くのか? 曲を作るのか?ってことでさ、何をやるにしても、自分に輝きがあるはずだって信じてやっていくことが、人生でいちばん大切じゃん」
そう言い切れるところがいいですね。
「自分が信じたものを絶対にやる。誰が何を言っても。それだけをみんなに伝えたくて、いろんな歌を書いてるつもりだよ」
そこに確信が持てるのは何でなんでしょうね。ブレずに、還暦を迎えても情熱が醒めないままなのは。
「それは、10代から20代の青春って言われる時期のひっかき傷、その深さのせいだよ。俺たちにはSNSもインターネットも何もなかった。そんな中で出会ったロックンロールが、どんだけ素晴らしかったか、ってこと。ザ・フーやビートルズ。そういう連中の音楽が、どれだけ俺の胸に深い傷跡を残したか。それをただ追いかけるためだけに今もいるんだよ」
その傷の深さがあるから、なかなか消えないという。
「消えないし、その傷が癒えないから、彼らと同じ位置にまで行きたくてもがいてる。じゃなかったら年金貰って、趣味で音楽やるようなお爺ちゃんになってるよ」
ははははは。
「だから還暦になって、実際、身体もガタがくるし、還暦なりの視点とかも出てくるよ。だけどね、20歳の頃に触れたあの感動とか、ブリティッシュロックに初めて触れた時の衝動とか、そういうものがずっとあるんだよ。で、そこまでまだ自分がやりきれてないから、何も終わらない。ずっとそれをやり続けてるよ」
なるほどね。だから今回、そういう加藤さんがやりたいこと、やり残してたこと、みたいなものが楽曲に表れてる部分もあります。特に「ダ・ヴィンチ オペラ」は、ずっと話してきたロックオペラの要素が強くあります。
「もうちょっと時間の余裕があったら、たぶん俺は〈ダ・ヴィンチ オペラ〉を外して、違う曲を書いてアルバムを完成させて、〈ダ・ヴィンチ オペラ〉でロックオペラを作ってたと思う。でもあの曲を抜いちゃうと、アルバムがちょっと薄くなる。ここはやっぱり全力投球だなと思って入れたけど、ちょっと悩ましかったな。これ、ダヴィンチってニックネームの大学生の物語でさ。それでオペラ作ったら面白いなって思ったの。友達が3人くらいいて、その1人が哲学科にいて、ニーチェって呼ばれてる。そんな思春期のストーリーを作ったら超いいだろうなって」
完璧なストーリーじゃないですか。
「でも、アルバムに入れちゃったらもうできねぇだろ」
いやいや、これはこれでまた昇華させてロックオペラのストーリーを作りましょう。
「それ、プロデューサーの吉田仁さんがまったく同じこと言ってたよ(笑)。でも今回のアルバムは、本当に無我夢中だった。こういう状況だから、充実感も何もない。これからプロモーションとかやるけど、頭はもう次に行ってるね。来年も同じ11月、1年後にアルバム出すから」
全然余生じゃない(笑)。
「俺ね、もうシフトしたから。ビートルズの〈When I'm Sixty-Four〉って曲があるじゃん。だから俺も64歳で、またお祝いしようと思って(笑)」
そこまで自分の還暦はお預けだと(笑)。
「そうそう(笑)。それに俺が64歳になると、コータローが還暦を迎えるんだよ。ちょうどいいだろ。一緒に祝うのも悪くないと思ってさ」
文=金光裕史
撮影=中野敬久
NEW ALBUM『別世界旅行〜A Trip in Any Other World〜』
2020.11.18 RELEASE
■初回限定盤(CD+DVD)
■通常盤(CD)
〈CD〉 ※初回、通常共通
01 お願いマーシー
02 全部やれ!
03 ダ・ヴィンチ オペラ
04 人間は想い出で出来ている
05 さよならソーロング
06 夢見る回転木馬
07 オートバイ
08 香港の雨傘
09 旅立ちの讃歌
10 チェンジ
〈DVD〉
THE COLLECTORS TOUR 2019「超えて行こうぜ!限界ライン“YOUNG MAN ROCK”season2」@EX THEATER ROPPONGI
01 限界ライン
02 ニューヨーク気分
03 99匹目のサル
04 青と黄色のピエロ
05 …30…
06 ひとりぼっちのアイラブユー
07 希望の船
08 クライム サスペンス
09 ノビシロマックス
10 NICK! NICK! NICK!
11 5・4・3・2 ワンダフル
〈THE COLLECTORS. HISASHI KATO 60th BIRTHDAY LIVE SHOW“Happenings 60 Years Time Ago”〉
日程:2020年11月23日(月・祝)
場所:大宮ソニックシティ 大ホール
1回目:開場 15:30/開演 16:15
2回目:開場 18:15/開演 19:00(1ステージ約1時間のパフォーマンスを予定)
お問合せ: VINTAGE ROCK std.TEL: 03-3770-6900 (平日12:00~17:00) www.vintage-rock.com
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