正しくなることよりやさしくなることのほうが難しいのだと、それができるようになることが大人になることなのだと、どこかで聞いたことがある。友人からの悩み相談にどうにか返答したあと、「それはわかる。だけど……」と返された時、いつもそれを思い出す。正論を振りかざして、相手を追い詰めてしまえば、「だけど……」の先にあったはずの言葉は飲み込まれ、内側に蓄積し、その人のことを孤独にさせる。だから、正しくなるんじゃなくて、やさしくなる。頭では理解しているつもりだが、はたして、そんな方法はあるのだろうか。
そうやって悶々としていたある日、この曲を聴いて、ああ、こういうことなのかもしれない、と感じた。先日配信されたaikoの新曲「ハニーメモリー」だ。10月21日にリリースされる40枚目のシングルの表題曲でもある。
歌詞を読んだ限り、男性目線の――もっと言うと、心移りしてしまった側の歌だ。〈違う花食べた〉ことを後悔し、〈君がいないと味がしないんだ〉〈最近はおとなしく家に帰ってるよ〉としている。この曲の〈僕〉のような人がもしも身近にいたら、私の場合、なんて勝手な人なのだろうと思ってしまうかもしれない。
しかしこの曲は、そんな主人公の綻びすらも受け止め、寄り添ってくれている。バラードではあるが、8分の6拍子でテンポは速め。心地よいリズム、常に風が流れているようなバンドのアンサンブルは、自然と前を向かせてくれる。歌を包み込むサウンドは、全体として温かみのある音色。この失恋を派手に笑い飛ばすでもなく、重々しいバラードにもせず、ナチュラルな音で鳴らすのが今のaikoのモードなのだろう。今回の「ハニーメモリー」は、ベストアルバム『aikoの詩。』、そして39thシングル「青空」を経ての新曲。楽しみながら自由に曲作りをする、彼女のいきいきとした姿が反映されていた「青空」に対し、「ハニーメモリー」からは、シャツだけをさらりと羽織ったような、ありのままのaikoの姿がイメージできる。
「ハニーメモリー」を聴いてあらためて実感したのは、aikoの曲は、誰のことも孤独にさせないということ。きっと私の友人も、この曲の前では、しまっておいた言葉を取り出すことができるのだろう。aikoもずっと唄っているように、人と人は別々の生き物同士で、完全にわかり合うことはできない。私という人間が必死に手を伸ばしても届かなかった領域、友人の心の奥の奥に、この歌がすっと入り込むことができたとしたら、それを〈音楽の力〉と呼ぶのだろうか。
一方、今、〈孤独にさせない〉という言葉を書いていた時に思い出したのは、ライヴでのaikoの姿だった。aikoは、観客と目と目を合わせ、そのうえで歌を届けることを何よりも大事にしている。時には花道を伸ばして、観客との物理的な距離をできるだけ埋めるし、ライヴハウスでのライヴでは、一緒に汗だくになれる関係性を求めている。そうしないと不安だから、と彼女は笑うが、そのライヴに救われた人は数えきれないほどいるはずだ。
そう考えると、この〈孤独にさせない〉というのは、本当に〈音楽の力〉なのだろうか、もしかしたらaikoという〈人間の力〉なのではないだろうか。……境目はもはやわからないが、それこそがaikoの魅力であることは確かだ。10月17日には、2度目のオンラインライヴ〈Love Like Rock 〜別枠ちゃんvol.2〜〉が開催される。同じ場所にいられなくても、彼女はきっと、一人ひとりの目を見てライヴしてくれるに違いない。たとえあなたがひとりぼっちでいても、隔てるものを軽やかに飛び越えて、aikoはやってくるのだ。
文=蜂須賀ちなみ
NEW SINGLE「ハニーメモリー」
2020.10.21 RELEASE
01 ハニーメモリー
02 58cm
03 心焼け
04 ハニーメモリー(instrumental)
オンラインライヴ
〈Love Like Rock 〜別枠ちゃんvol.2〜〉
配信日時:2020年10月17日(土)20:00スタート
アーカイヴ配信期間:10月24日(土)23:59まで
配信メディア:aiko official Fan Club Baby Peenats / LIVEWIRE / ローチケ LIVE STREAMING
※詳細はオフィシャルサイトをご確認ください
Love Like Rock 〜別枠ちゃんvol.2〜 特設サイト https://aiko.com/llr_betsu2/
aiko オフィシャルサイト https://aiko.com