【LIVE REPORT】
MUCC〈~Fight against COVID-19 #3~『惡-THE BROKEN RESUSCITATION』〉
2020.09.20 at 東京ポートシティ竹芝 ポートホール(無観客有料配信ライヴ)
「今みんな欲しがっているのは、笑えること。だからそういうものを発信していくべきなんだけど、ただ面白いとか、笑えるとかじゃダメで」
先月発売の音楽と人増刊「PHY」の取材で、ミヤは現在バンドがやるべきことについてこう語っていたのだが、そんな彼の強い思いが画面越しからでも伝わってくるようなライヴだった。無観客有料配信ライヴ第二弾〈〜Fight against COVID-19 #3〜『惡-THE BROKEN RESUSCIATION』〉。コロナ禍によって失われた日常の中で、MUCCがあの日の配信ライヴを通じて伝えたかったことは何だったのかを、ここで振り返ってみたい。
6月21日にぴあアリーナMMで予定していたライヴ中止に伴い、その代替として決行した配信ライヴ〈〜Fight against COVID-19 #2〜『惡-THE BROKEN RESUSCIATION』〉は、急きょ決まった開催にもかかわらず、彼ら独自の演出やこだわりの詰まった内容だった。それはいつもと勝手が違う舞台に戸惑いや緊張を隠せずにいた4人のドキュメントでもあり、窮地に立たされることでバンドの本領を発揮するエンターテインメントでもあった。あれから彼らは、配信用に設えたスタジオ「オムステ」にてトーク主体の配信ライヴを行うことで新しいエンターテインメントの可能性を求め、いろんなスキルや知識を積み上げてきた。その上で今回のライヴには、冒頭のミヤの発言にあるような思いが真ん中にあるような気がした。
オムステでの配信映像
ちなみに公演前日には会場内に設置された固定カメラで舞台の設営やセッティングからメンバーのリハーサルまでの模様をニコニコ生放送で無料公開していた(音も完全にはカットせず、ある意味ネタバレ上等の配信だった)。映像にこれといった特徴はないが、マスク姿のメンバーたちのリハでの様子が生配信されるのはファン的には嬉しかっただろう。ニコ生のコメントはファンの井戸端会議と化し、いつもは開演の数時間も前から会場付近に集っては旧交を温めあう夢烏たちの光景とダブるものがあった。
そして当日。「惡-JUSTICE-」で幕を開けたライヴでまず衝撃を受けたのは、ドローンやステージ背後の映像といった視覚効果よりも、クオリティの高いサウンドだ。例えば「アイリス」ではホールの反響音をリアルに再現することで楽曲の奥行きを表現したり、「TIMER」ではドラムを超デッドなサウンドに振り切ることで緊迫感を増幅させたり、とにかく芸が細かい。それでいて各パートの音像の明瞭度が高く、ひとつひとつの音の粒が生々しく聴覚を刺激する。これは生のライヴでは味わうことのできない新しい体験と言ってもいいだろう。
さらに意外だったのは、オープニングを筆頭に「CRACK」「海月」「Friday the 13th」「アルファ」といった最新アルバムの楽曲に、晴れ渡るような清々しさや解放感があふれていたことだ。コロナと、それに翻弄される世間や人間に対する怒りや落胆や悲壮感。それが『惡』を初めて聴いた時の印象だったが、むしろそれとは対照的な思いが感じられたのだ。プレイに専念する4人の姿も、無観客ながらもライヴをやれることの喜びを味わっているのがわかる。音楽に負のエネルギーを叩きつけることで、それを正のエネルギーに変換させていく。それこそMUCCが20年以上ずっと変わらずにやってきた表現だが、まさにその偏移を見ているようだった。
前回の配信ライヴでは断髪式まで行い、正式メンバーとしての職務をまっとうした吉田トオルが今回はサポートメンバーとして参加。「月の夜」や「流星」といった昔の曲がジャジーなアレンジによって披露され、相変わらずの親和性を見せた。4人編成のバンドにただ鍵盤を投下するだけではなく、楽曲そのものを鍵盤主体のサウンドへとアップデートさせてしまう大胆な発想は、通常のライヴができない活動の中で見出した新しいアプローチだ。その流れで披露された「アルファ」は、傷つき痛んだ身体も心も癒してくれるような包容力があった。怒りや悲しみを乗り越えて、もう一度あの頃の無垢な笑顔を取り戻したいんだ――。そんな彼らの切なる思いが溢れているような素晴らしい演奏だった。
だから後半に投下された「My WORLD」で彼らが見せた笑顔にはホロリとさせられた。MUCCというヒリヒリとした関係の中で、彼らはお互いを傷つけ、傷つけられてきた。前に進むには痛みを伴うことが必然で、痛みと前進はいつも表裏一体だった。でも、その先にはこの4人でバンドをやることの喜びや楽しさが待っている。コロナによって傷つけられた世界が、また笑顔を取り戻すために必要なこと。それを今MUCCは音楽を通じて訴えかけているのではないか。彼らは12月27日、日本武道館にてワンマンライヴを行う。きっとそこには、たくさんの笑顔の花が咲き誇るのだろう。それまでは、彼らのように痛みを抱えながらでも一歩ずつ前に進んでいくだけ。そんなメッセージを突きつけられたようなライヴだった。
文=樋口靖幸
【SET LIST】
01 惡-JUSTICE-
02 CRACK
03 海月
04 アイリス
05 TIMER
06 Friday the 13th
07 カナリア
08 月の夜
09 月の砂丘
10 流星
11 アルファ
12 目眩 feat.葉月(lynch.)
13 World's End
14 My WORLD
15 蘭鋳 w/葉月(lynch.)
ENCORE
01 ハイデ
02 TONIGHT
Blu-ray/DVD『~Fight against COVID-19 #2~「惡-THE BROKEN RESUSCITATION」』
2020.10.07 RELEASE
■朱ゥノ吐VIP会員限定生産盤 ※受付は終了いたしました
■Blu-ray/初回限定盤
■Blu-ray/通常盤
■DVD/通常盤
〈収録曲〉※全形態共通
01 惡-JUSTICE-
02 CRACK
03 サイコ
04 海月
05 ヴァンパイア
06 taboo
07 積想
08 SANDMAN
09 スーパーヒーロー
10 自己嫌惡
11 アルファ
12 ニルヴァーナ
13 My WORLD
14 生と死と君
15 蘭鋳
BONUS TRACK ※朱ゥノ吐VIP会員限定盤/初回限定盤のみ収録
16 家路
17 ファズ
2020年12月27日(日)日本武道館公演、開催決定!
詳細は後日発表致します。続報はバンドのオフィシャルサイトをご確認ください。
MUCCオフィシャルサイト https://55-69.com/