あの時の自分がずっと俺の首根っこを掴んで離さない。それが自分の現在地を誤摩化さずに向き合おうと思ったきっかけ
それだけYOHくんにとって東北は馴染み深い場所になってるってことだと思うんですね。ただ、この曲にはむしろ東北との距離感を感じるんですよ。実際コロナで今は行けないし、イベントも中止になってしまった。だから手紙を書いて東北への思いを伝えているような曲というか。遠い場所から東北の地に思いを馳せるような感じ。
「それはもっとも意識して書いたところかも。コロナどうこう以前に、もともと自分は震災を経験した人間ではないっていう距離感というか」
どういう距離感?
「今までツアーで何回も行かせてもらってるし、幡再でも個人的に何度も足を運んできたけど、やっぱり震災を経験した当事者ではないっていう意識があって。そこはずっと変わらずに、自覚しながら忘れずにいたいとも思っていて。つまり震災ってものとの向き合い方なんですけど」
その事実から目を逸らさないように?
「自分が生きた時代に起こった大きな出来事として、着色せずに向き合っていたいというか。そこでどんなことがあったのか、どんな風景があって、どんな人がいるのか。それをちゃんと自分の目で確かめて、自分なりにできることを形にしていきたいっていうのが出発点なんで。つまり、自分のためにやってることっていうのを忘れたくない」
そういう意味での距離感だと。
「はい。イベント自体も全国からたくさん人が集まってくることに意味があるわけじゃないですか。いろんな場所から来た人たちが、東北の景色だったりそこにいる人たちと触れ合う。そこで見たものとか感じたものを持って帰るっていう。自分もそのスタンスでずっと復興に関わっているんで。そういう立ち位置で曲を書くと、おのずと手紙みたいな感じになるんじゃないかなって思います」
でも一方では当事者の気持ちを代弁するようなメッセージを発信することだってできる立場にいる人でもあって。ORANGE RANGEのメンバーっていう立場だからこそできることもある。そこはどう思います?
「それもわかってます。影響力があるし、人を引き寄せやすい。でもそれは自分の中で使いどころを間違えないようにしたいんです。なんていうか……〈あの時の経験を忘れるな〉っていつも自分自身に言ってくるもうひとりの自分というのがいて」
あの時の経験というのは?
「初めて被災地に行った日のこと、ですね。ORANGE RANGEのYOHとしてではなく、いち個人として被災地に行ったっていうことだったり、あそこで観た風景とか感じたこと。ひと言で言うと無力感なんですけど」
とりあえず行ってはみたものの、何もできなかったと。
「あの時そう感じた自分っていうのがずっと俺の首根っこを掴んで離さないというか。それが自分の現在地を誤摩化さずに向き合おうと思ったきっかけだったりするんです。この曲もそう。沖縄って場所にいる自分から逃げずに真っ正面から東北と向き合う。そんな感覚でした」
この曲が東北の人たちに向けて書かれた手紙だと思った理由がわかりました。
「東北には何回も行かせてもらってますけど、そこは自分の土台として常にある感じですね。この曲もそうで」
歌詞の中で〈支えてくれて/ありがとう〉ってあるけど、それぐらい東北との関わりはYOHくんにとってとても大きなものなんだなって。
「もちろんです。東北で過ごした時間がなかったら、自分が今どうなってたのかなって思うし」
行ってなかったら自分はどうなっていたと?
「東北に限らずだけど、最近いろんな場所で災害が起きてて、自分でも力になることがあれば復興の手伝いに行かせてもらってるんですけど……結局いつもそこで貰えるものが多くて。自分の背筋を真っ直ぐにしてくれるような気持ちだとか、人の優しさとか……そういうものを貰って帰ってくるんで、そこに対する〈ありがとう〉で。こういった経験がなかったら音楽を続けていくこと自体に行き詰まってたかもしれないし。継続して成長させてもらえたからこそ鳴らし続けられてきたんだろうなって」
あの、自分の話をさせてもらうと、前に福島県のいわき市でやってるマラソン大会に出たことがあって。〈ツール・ド・東北〉と同じで県外からランナーが参加して海沿いの道を走るんだけど、沿道の応援がずっと途切れないことで有名な大会で。
「いいっすね」
しかも「ありがとう」って声をたくさんかけられるんですよ。たぶん「来てくれてありがとう」ってことなんだろうけど、応援されてるこっちこそ「応援してくれてありがとう」って思いながらゴールするんですよ。で、この曲を聴いてその時のことを思い出して。
「その感覚と近いと思います。自分が東北から貰ってるものって」
だから〈ありがとう〉なんですね。
「うん。あとやっぱり、この曲にはコロナでどこにも行けなくて、ずっと家にこもって書いてるっていう自分っていうのがいて。本当に遠くから東北のことを思うしかなくて。毎日いろんなニュースが入ってきて、自分の気持ちが崩れそうになるのをこの曲と向き合うことで保つことができたというか。すごく自分にとって大事な曲になったと思います」
文=樋口靖幸
写真=Ryusei Nagano
「Imagine」ミュージックビデオ。9月18日 0:00よりYouTubeプレミア公開
DIGITAL SINGLE「KONOHOSHI」
2020.04.29 RELEASE
DIGITAL SINGLE「気分上々」
2020.08.26 RELEASE
DIGITAL SINGLE「Imagine」
2020.09.16 RELEASE
ORANGE RANGE オフィシャルサイト https://orangerange.com/