希望の言葉を虚しく感じてしまう人は必ず一定はいる。僕はそういう人たちの存在に気づいてるってことを音楽で言いたい
今日のライヴもそういう純度の高いものだったと思います。
「だからそれをしっかり届ければいいだけの話で。そこにコロナだから特別なことを言おうとしたりやろうとする必要はないって思ったんですよ」
ただ、誰だって今の状況が続けば、自分たちの将来とか生活に不安がつきまとうわけで。だから有料配信でライヴをやったり、ファンの人にドネーションを募ったりするバンドもいて。そこはどうなんですか?
「やっぱり生活は不安ですよね。それこそライヴを収入源にしている方々はみんな苦境に立たされてるわけで。ただ……また前に言ったことと同じことを言うけど、それは生活者としての話でしかなくて、音楽には関係ないことだから。そこはコロナだろうと何だろうと、僕らは一貫性を信頼に変えてきたバンドだと思ってるんで。むしろそうでないと『Tabula Rasa』で僕が唄っていることと矛盾してしまう」
矛盾というのは?
「矛盾というか、理屈が通らなくなるというか。作品というものを僕らがどう位置付けているかというのと関係していて説明しづらいんですけど。具体的なことに関していうと、僕らにしても普通に収入は必要だし、なんなら稼ぎたいと思っている訳ですけど、自分たちの不安や危機的状況を理由に応援してもらうようなことになると、音楽は音楽として聴いてくれという前提が機能しなくなるんですよ」
応援、っていう動機で音楽を聴いたりライヴを観てほしくないと。
「応援ということで言えば、ただでさえ日頃からすごく応援してもらってるわけで。そもそも今が危機的状況なのはお客さんにしたって同じわけだから、その辺はミュージシャンどうこうっていうよりも商売倫理の問題ですよ(笑)」
シビアに言えばそうかも(笑)。
「理屈の通らないサポートを受けることは、長期的にみてコストだという考え方です(笑)」
ちなみに今日の東京の感染者数は過去最高だったらしくて。そんな中、香川から東京に来て、いつも通りのライヴを平然とやるって、それはそれでマトモじゃないというか(笑)。
「ははははは。確かにそうかも」
波多野くんにも恐怖心ってものはあるだろうし。
「もちろん。ウイルスもそうですけど、県またいだら石投げられたり、感染したら家に貼り紙貼られたりとかっていう話も聞きますし(笑)。でも、そんな江戸時代みたいなことが起こっているのも間違いなく現実ですからね……」
香川でもそういう話になったよね。ダイバーシティとか言ってるけど現実は……っていう。
「コロナの前からこんな世界だったっていう。だから『Tabula Rasa』って現状認識のアルバムだったんでしょうね」
で、その見えてる世界っていうのが、コロナでより可視化されるようになった。
「と思うし、そんな世界で生きている自分としては、とにかく自分の平穏とその平穏を共有できる人たちと一緒にいたいのと、そういう人たちを大切にしたいですね。抽象的な話ですけど、たとえば世界に対して声を上げることもなく、SNSで発信することもなく、大勢の人がいる場所から黙って音も立てず去っていく人たちというのは、目には見えなくてもとても増えているように感じていて。で、そういう人たちにこそ僕は共感するし、そこに向けて音楽を届けたい気持ちはあります」
上っ面だけの希望を唄うんではなく。
「希望の言葉を虚しく感じてしまう人は必ず一定はいて、そういう人たちが足音も立てずに社会からいなくなって、それに大勢の人は気づけないというのが僕の視界から見える世の中なんですよね。だから僕はそういう人たちの存在に気づいてるってことを音楽で言いたい」
波多野くん自身がかつてそうでしたよね。学校とか世間から弾かれた存在だったっていう。
「そうですね。昔は〈なんでこんなに理解されないんだ!?〉って、本当に苦しんだ時期があって。だから僕と同じように、理解されなくて苦しんでる人のために音楽を届けてる感覚が以前はあって。今はそこから諸々を経て、〈他者による理解〉という前提にそもそも無理があり、ひとり強く生きるしかない、っていうモードに突入しているんですけどね(笑)。たぶんこれからもっと孤独になっていく人が増えていくと思うんですよ。加えて現状では連帯というのはどうしても表面的なものになってしまって機能しない。そうなるとまずは〈ひとりであること〉を強固にしていくしかないと思ってて。むしろそうすることで、誤解や曖昧さを含んだまま、逆説的に自分と同じような仲間と連なっていくことができるような気がする」
ピープルはそういう人たちのための音楽でありたいってことなんだね。
「震災の時に自分があそこまで混乱したことを振り返ると、今のコロナ禍で生きることが辛くなったり難しいと感じてる人がいるのは容易に想像できるんですよ。だから、取り乱したり、失敗したりすることは当たり前だと思うし、誰も責められるべきではないと思う。時には嘘であっても希望の言葉が効力を発揮する場面もあるかもしれない。ただ、僕らはそういうものを信じることができないような人にも音楽の矛先を向けたいということかもしれないです」
それだけ人に対する思いが強いってことでもあると思うし、今日のライヴもどこか博愛に近いものを感じたし。
「あ、それはすごく嬉しい」
コロナのこととか関係なく、無心に音楽を体感できた時間だったんですよ。それって大げさに言うと、生きるための希望を与えてもらった時間でもあって。
「良かった。今って音楽以外の振る舞いだったりメッセージのほうが顕在化し過ぎているような気がしてて。もちろんそれ自体は否定する気もないし、場合によっては支持することもあると思います。一方で、今のところ僕らに関しては特別な発信からは距離を置いているところはあると思います。そもそもどんな種類であれ、音楽ってそれ自体がものすごく希望に溢れたものなんですよね。そこの前提があるからこそ、別の意味をまとわせすぎて本来の良さに触れにくくなる状況をつくりたくないと今は思っているんです」
文=樋口靖幸
写真=後藤壮太郎
〈PITB acoustic 2020 〉
2020.08.01 at SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
【SET LIST(1部)】
01 あの頃
02 忘れる音楽
03 いきている
04 2121
05 町A
06 ミネルヴァ
07 塔
08 犬猫芝居
09 季節の子供
10 装置
11 きみは考えを変えた
12 動物になりたい
13 風景を一瞬で変える方法
14 まなざし
15 懐胎した犬のブルース
【SET LIST(2部)】
01 まなざし
02 忘れる音楽
03 いきている
04 2121
05 町A
06 ミネルヴァ
07 塔
08 レントゲン
09 季節の子供
10 装置
11 きみは考えを変えた
12 あのひとのいうことには
13 風景を一瞬で変える方法
14 懐胎した犬のブルース
15 かみさま
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