3ヵ月前の『音楽と人』本誌で古市コータロー(ギター)のインタビューを行ったが、今回はヴォーカル、加藤ひさしのインタビュー。「何で俺はウェブなんだよ!」と怒られましたが、お許しを(笑)。今年の11月22日で還暦を迎える彼は、口は悪いが心はセンシティヴ。とても真っ直ぐでデリケートなお方である。そんな彼がこのコロナ禍で何を思うのか、そしてコレクターズのこれからをどう考えているのか、聞いてみた。11月23日には大宮ソニックシティで、〈THE COLLECTORS, KATO HISASHI 60th BIRTHDAY LIVE SHOW “Happenings 60 Years Time Ago”〉と称した還暦ライヴが、ソーシャルディスタンスを保ち、1日2回公演という形で行われることも発表された。
未来に前向きになれるインタビューにしましょう!
「何を言ってんの……もうね、還暦記念でやろうと思ってたことが全部中止だよ!」
我々も、加藤ひさしがイギリスの名所を紹介しながら人生を語る還暦記念本を企画していたのですが、当然中断となってしまいました。
「お前のせいだな」
コロナのせいです(笑)。
「海外行けるようになったらやろう。でもすぐには無理かもな……俺が紹介しようとしてたスポット、このコロナ禍でコロナ後にどうなってるかわからないもんな」
還暦記念じゃなくて、古希記念にしますか。
「70歳まで待つのかよ(笑)。でもワクチンができて〈感染しても大丈夫!〉って空気にならないと厳しいだろうね」
まずこのような状況になって、どう考えましたか?
「意外に冷静だよ。もちろん予定が全部白紙になって参ったけど、人の一生が80年くらいだとして、こういうアクシデントは1回や2回あるんだなって、どこかで覚悟してた気がする。俺が子供の頃は、太平洋戦争終結から随分経つけど日本が戦争で負けた爪痕みたいものを感じてたし、この30年で大きな震災も2回あったじゃない? 原発だって爆発したし。だからそんなに驚きはしなかったね。そして人間はそれを乗り越えていく能力があるんだろうけど、昔から政治家は自分の都合でしか動かないし、それに任せてる一般市民が、自粛してんのにコロナに罹ったり、経済がまわらなくなって死んでいく。戦争に行かされた人たちと一緒で、昔から世の中の根本のシステムや考え方は変わらないんだなって」
確かにそうですね。
「結局、自分が当事者にならないと、戦争も放射能もコロナも、結局ずーっと他人事なんだなって思った。負けるか、汚染されるか、罹るか、そうなって酷い目にあわないとわからない。あと極論だけど、世界中の人たちが一体になって、コロナの検査に陽性になった人は隔離して、感染の進行をできるだけ食い止めようと、1ヵ月だけエゴを捨てて、争いもなくして、最低限の生活をみんなが送れるように予算を組んで、とにかく動かなければ2ヵ月後にはすごく回復してるはずなのに、それができないこの世界や社会は何なんだろうなって」
ツアーは5本中止になってしまいましたね。
「ここまでコロナが蔓延するとは思わなかったし、質の悪いインフルエンザぐらいで、夏頃には収束の兆しが見えてるのかな?って、ちょっと楽観視してたね。ところがその様子がまったく見えず、いざライヴハウスが止まってどうしようって思った時、正直な話、ライヴをやらないとお金がまったく入ってこないわけですよ。CD はなかなか売れなくなってて、配信はそれほど大きな利益にならない。どのバンドもそうだろうけど、稼ぐという側面からすれば、特にコレクターズみたいなバンドは、ライヴに重きを置いていたわけですよ。その生命線がプッツリ絶たれたわけだから、事務所やバンドをどう生き延びさせたらいいんだろうなってまず考えてた。それで思いついたのが〈LIVING ROOM LIVE SHOW〉っていう有料配信なんだけど……俺、自分でもYouTubeは重宝してるし、みんな無料で見てるけど、ある一定の再生数まで行かないと、全然利益が入ってこない。あのシステムがほんと悔しくて仕方なかったんだよ。だからこれを無料サービスじゃない、ちゃんとしたショウビジネスの一環としてやるべきだって、ずっと思ってた。でも生配信って、生だからいい部分もあるけど、音質はそこそこでしかないし、スマホで見てたらショボくて見てられない。だからちゃんとした映像作品のクオリティで、みんながライヴを楽しめる1時間にしたかった。時間がライヴより短いのは、スマホレベルで集中して見るには、そのぐらいしかもたないと思ったから」
なるほど。
「でも、それに耐えうる音を作って今から撮影するとなったら、撮影費だけでもものすごくかかるし、準備にも時間がかかって、有料配信するにしてもリスクが高い。どうしようかなと思ってたんだけど、一昨年に1年間、クアトロで毎月ライヴをやってて。その映像がいっぱい残ってたんだよね。2時間近いライヴが1年で24時間分。セットリストも違うし、作品化したのはそのうち4時間。これは今使うしかないと。すごくいい演奏だけどカットした映像がいっぱいあるから。仮にコロナが収束したとしても、これはやっていくべきだって」
新しいバンド様式として。
「うん。ビートルズの『Let It Be』じゃないけど、レコーディング・セッションを集めて、こうやって今回のアルバムができたんだっていうメイキングを有料配信するとか、昔のフィルムコンサートみたいに、無観客だけどいろんな演出で演奏してる映像を録って、それを見てもらうとかね」
今はとにかく配信やらなきゃ、って風潮ですよね。
「生でクオリティの高いものを見せられる自信があるんだったら、それがいいと思う。ただそれをやるとなるとテレビショーを作るのと一緒で、カメラ割から何から、かなり多くのスタッフが関わらないと、ちゃんとしたものにはならないんだよ。そのうち観てるほうも飽きがくると思うし、ライヴがこんなもんだって思われるのが、俺はどうにも耐えられない。だから〈LIVING ROOM LIVE SHOW〉という形で、音も映像も満足行くクオリティで魅せるのがいいんじゃないかと。
本来の予定は、ツアーが終わって、5月にコータローさんのソロツアーがあって、その間に加藤さんはロンドンで記念本のロケをして、帰ってきたら夏までレコーディングだったんですよね。
「そう。アルバムを11月の俺の誕生日に出して、その近辺にホールでライヴをやって、加藤ひさしは還暦になりました!って年にしようとしてた」
今その予定はどうなってるんですか?
「映画館みたいに1席ずつ空けて、ホールでキャパの半数に観てもらう形で考えている。どうなるかわからないけど、ライヴハウスでやるより開催しやすいだろうしね。いずれにしても、このままコロナが収束するのを待つのはバンドとしても腕が落ちるだろうから、例えばホールで3分の1しか客が入らなかったとしても、赤字にならないやり方があるなら、ライヴやるべきだと思ってる」
やっぱりそうなりますよね。
「秋にはどうにかなってるのか、それとも再来年になってしまうのか、人の距離を1メートル離して、フェイスシールドを配ればできるのかわかんないけど、それでもライヴを観たい人がいるならやるべきだし、いつもの3分の1くらいしかキャパがとれないなら、普通なら2時間のライヴを、1時間にして2回回しにするとか。そういうスタンスでやらないとバンドのほうも干上がっちゃうし、ロックがなきゃ生きていけないってやつもいると思うんだよね。そういうことも考えていかなきゃいけないとだめなんだろうね」