いつ終わりになっても〈でもいいバンド人生だったな〉って思えるように、その都度やりきってなきゃいけないんだなって思ったよ
ただ今、ライヴに対する風当たりが強いですよね。
「野球とかサッカーに比べると、音楽とかコンサート、特にライヴハウスとなると、その活動を支持する人がどうしても少ないと思うのよ。なくてもどうにか生きていけるだろ、と思われてる感じがしてさ。それはすごくムカつくんだけど、そもそもロックなんてそういう存在だったよな、って気もする。はみ出し者の音楽だからさ。なんか複雑ではある」
コータローさんも同じようなことおっしゃってましたね。
「それくらいの市民権を得た、とも言えるんだけどね。でも今この状況で、ロックだからいいんだ!って普通にライヴやるバカはいないでしょ。だからガイドラインを守ったライヴをやる。フェイスシールドとマスクは必ず配るべきだと思うし。でもそれで感染した場合は、もう仕方がないよ」
だから本来、そういうガイドラインを制定する代表みたいな機関が必要なんでしょうけどね。
「この業界、そういうのがあるようでないからね。難しいよ。ライヴハウス、事務所、メンバー、それぞれの現場がそれぞれの判断をしないといけないから。でもやれない話ではないと思う。そんなの俺らが求めてたライヴじゃねえって思う人もいるだろうし、その気持ちもよーくわかるけど、やってかないと何も始まらないんだから。3年後くらいにこの頃のライヴの映像を見て、あの頃大変だったよなあ、って笑えるようにさ。そのためにやるんだよ」
1時間のライヴでアンコールなし。1日2回回しで、キャパは半分以下に減らして椅子席、と。
「そんなライヴをやる俺と、ベスパでウーバーイーツをやってる俺と、どっちを見たいか、って話だよ」
モッズスーツ着てウーバーイーツ、いいですね。
「馬鹿野郎(笑)。だからもう、どうやっていくかを探っていかないと、ライヴハウスもバンドもそれに関わるスタッフも、みんな凌げないし、お客さんもいつまでたっても観に来れない。生配信もやるけど、ちゃんと録っておいて、きっちり満足行くミックスをして、あとから完全版で配信もする。場合によっては盤でも出す。そうやって多角的にやらないとだめだと思うんだよね」
そして、レコーディングも再開したみたいですね。
「そうだよ。リズム録りは終わった。今年、自分の還暦に1枚アルバムを作って、来年は結成35周年だから企画もいろいろ考えるだろうけど、やっぱりニューアルバムが一番いいと思ってる」
こういうパンデミック的な出来事があって、自分の書く歌詞って変わると思います?
「それがまったくわかんない。想像もできない。怒りの矛先がどこにも向けられないから。例えば原発が爆発した時は、電気なんて太陽で作れよ!っていう簡単な答えが出るじゃない? でもこれに関しては、みんな動くんじゃないぞ、ってことでしょ(笑)。そんな詞を書いても響かない。だからどんなものが降ってくるか、自分でも楽しみなんだよね。こういう状況で、一体自分が何を書きたいのか。人生観が変わるような大事件が起きてる真っ最中だけど、さっき言ったように、大昔からまったく変わってない部分もある。だから何を書こうかなって、すごく悩んでるんだよね」
怒りになるのか、愛になるのか、絆になるのか。
「俺、こういう時に怒ってる歌を聴きたくないんだよ。〈頑張ろう〉とか〈みんなで乗り切ろう〉とか、そういう上辺だけの薄い歌も絶対聴きたくない。嘘くさくて嫌だ。震災の時とか、あえて明るい前向きな曲が多くなるじゃん。だから俺も含めてみんな、問われてるよね。半端な曲だと、何も響かないよ」
レコーディングを久々に再開して、どんな気持ちでしたか?
「やっぱりバンドはいいよね。こうやって活動が制限されて、無力さも感じるけど、やっぱりいいよ。今どきバンドなんて流行んないって言われたりもするし、自分が思ってることがなかなか伝わらない部分もあるけど、やっぱりバンドはいい。長くバンドやってると、長年連れ添った夫婦みたいになっちゃって、ぶつかり合うことも少なくなるんだけど、レコーディングだけはめちゃくちゃ真剣になって、喧嘩にも似た熱いやりとりをする。還暦になろうとしてる男が、そんな10代の頃のような気持ちでやれて、そしてそういうことをやりあえる相手がいるなんて、幸せだよ」
じゃあ、今年の11月はいい還暦祝いが……。
「できるのかなあ。でも人間っていうのは面白いもんでね。どんなに大変だったことも、それを乗り越えたらまた元に戻るんだよ」
そうですか?
「だって原発事故のあと、放射能が全然減ってないのに、今、そんな話誰もしてないでしょ? もうシレーッと忘れちゃうんだよ。人は忘れるのが上手」
じゃあコロナのことも忘れますかね?
「絶対忘れる! 終わったらね。みんなきれいに忘れるよ。逆に忘れるぐらい平和になってほしいけどね。だから今は、みんな大きなことが突然目の前に起こって混乱してるけど、50年生きてりゃこんなこと2回や3回あるんだぜって歌を唄うべきじゃないかな。いちいちビクってんじゃねえよって。みんな急に災難が降ってきたみたいにあたふたするけどさ」
しょせんはみ出し者だし、特別なものじゃないし。
「コータローが最高なのはさ、この状況において大型バイクの免許取りに行ってたからね」
はははははは!
「あいつはほんと何なのよ(笑)。でも、コロナにかかると自分の歳だと死ぬ確率が高いじゃない? そうするとやり残したくないんだよね。コータローくんは憧れのバイク、カワサキW650を乗るのが夢で、これを乗らずして俺は死ねねえんだよ!ってところから、教習所に通いはじめて。昨日も電話で話したけど、教習所の話しかしないんだよ。『大型は一本橋が難しい』とかさ。
はははははは。加藤さんも早くロックオペラを形にしないと。
「ほんとそうだね。俺が20歳とかだったら、コロナったって感染しても1週間寝てりゃ治るんでしょ?って絶対思ったと思うんだけど、さすがに還暦だと、死の恐怖すら感じる。だからロックオペラ、大型バイクの免許、自分の本、そういうやり残したことがいっぱいあるから、これはどうにか生き延びないと、って思う。だから家からも全然出なくなった。ちょうどヘルニアの手術した日にテレビつけたら〈今日、緊急事態宣言が発出しました〉ってニュースが出たんだけど、病院からタクシーで帰ってから、ほとんど外に出てない。電車には乗らないで、バイク移動。なんか改めて、自分の余命を逆算してからものづくりを始めないとダメだなって思った。出したかったイギリスのガイドブックも、表向きはそうだけど、読み物としては『THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~』と同じような自分の半生になるわけでさ。そういうものを少し整理していかないとな」
そうですね。
「だから俺たちは、いつ終わりになっても〈でもいいバンド人生だったな〉って思えるように、その都度やりきってなきゃいけないんだなって思ったよ。35年バンドをやってきて、まだまだやりたいけど、こうやって突然コロナがやってくるように、バンドが終わることも不思議ではないんだから。松本社長が事務所を閉めていつドロンするかもわかんないし(笑)」
ははははははは、給付金を持って(笑)。
社長「そのくらいで持ち逃げしないですよ(笑)」
「まあバンドあれば、また始められるからな。還暦からでもさ(笑)」
文=金光裕史
写真=後藤倫人(D-CORD)
THE COLLECTORS, HISASHI KATO 60th BIRTHDAY LIVE SHOW
“Happenings 60 Years Ago”
2020年11月23日(月・祝)
大宮ソニックシティ 大ホール
開場 15:30/開演 16:15
開場 18:15/開演 19:00
全席指定 ¥6,000(前売/税込)
THE COLLECTORSオフィシャルサイト https://thecollectors.jp/