【LIVE REPORT】
SKY-HI「Round A Ground 2020 -RESTART-」
2020.07.19 at KT Zepp Yokohama(無観客配信ライヴ)
前半、「Doppelganger」や「何様」などが矢継ぎ早に放たれる。フルコーラスではなく1〜2分に凝縮したアレンジで、ひどくシリアスで皮肉に満ちた、心の欺瞞を暴く曲たちが次々と。〈何が起こってる一体?〉と問いかけた「F-3」の直後、こんな世界とはオサラバすると言わんばかりの笑みを浮かべ、SKY-HIは飛んだ。文字通りステージから飛んだのだ。頭からフロアに落ちるような背面ダイヴ――。息を呑んだ。
実際のライヴなら大惨事、となるところだが、これは配信だからできた演出であろう。暗転していたカメラはアコースティックギターを爪弾くギタリストTak Tanakaを映し出しており、続く「Limo」からは一転してポップ&ダンサブルな曲がはじけていく。
ステージの空気を変える時、普通のライヴならしばらくの暗転を挟んだりMCを入れたりするが、配信ならここまでできる。「オンラインライヴの限界に挑戦したい」と事前にブログに綴っていたSKY-HIの言葉に嘘はなかった。広いフロアを贅沢に使いシルエットと光の演出だけで魅せたオープニングの「Sky ’s The Limit」から、一瞬たりとも目が離せない演出が、光景が、全曲全シーンにわたって存在していたのである。
ステージ上が熱い炎に包まれた「Persona」。いきなりPC画面に弾丸が打ち込まれた「Run Ya」。これらのAR演出は曲の世界観をさらに高める効果をもたらしていたし、キレよく踊るSKY-HIの身体を光のピラミッドがくるくると照らして回る、立体的なレーザー照明もほぼアートの域だった。照明、透明スクリーン上で同期するCG。すべての分野で最高のクリエイターが関わっていることは素人目にも明らかだ。
とはいえ、それでも主軸はSKY-HIとバンドSUPER FLYERS SQUADの生演奏なのだ。「Keep On Groovin’」の掛け声と共に、ドラム、ギター、DJ、それぞれに短いソロパートがあったり、生ドラムとフリースタイルの掛け合いだけで互いを煽っていくシーンがあったり。とくにバンド内の掛け合いが増えたのは「Chit-Chit-Chat」から「愛ブルーム」「スマイルドロップ」をノンストップで繋げた中盤で、一台のカメラは彼の周囲をぐるりと回ることでバンドメンバーの躍動するプレイを浮かび上がらせる。後半、ラップを続けながらみずからもドラム を叩きまくる。それを追うカメラも余裕たっぷりで、慌ただしいスイッチングもないまま、舌を出して笑う彼の表情を映し出していくのだ。
ちなみに、SKY-HIのドラムにセットされていたマイクの位置が少しズレていたのか、フェイスシールドをしたスタッフがそっと直しにくるシーンがある。何かトラブルが起きてローディーがステージに飛び出してくる、というのは生ライヴでよくある話で、袖で待機しているスタッフの姿が映り込むのも映像作品では日常茶飯事。マイクを直すスタッフが見えた瞬間、それまで、どんなスタッフの姿も、移動するカメラマンの姿さえも、一度も画面に映らなかったことに気づいて鳥肌が立った。徹底している。これは無観客だからできるカメラワークなのだ。何台ものカメラを回し続け、たまたま撮れたベストな表情を切り貼りして編集する。それがDVDなど映像作品でお馴染みのカメラワークだとすれば、この日のSKY-HIチームがやっていたのはまったく別の手法であった。
途中からはっきりした。ワンカメのシーンが通常以上に長い。通常とは、要するに今まで常識だった映像作品の編集という意味だが、偶然のいい表情を後日編集している余裕はない。今この瞬間にベストな画を撮るだけ。しかも無観客だからカメラを邪魔扱いする声も起こりようがない。「フリージア」でSKY-HIは積極的にレンズを追い顔を近づけてメッセージを叫び続け、そのレンズもまた執拗なまでに彼の目を追い続ける。チームの力があった。いま何を起こすべきかをわかっている首謀者がいて、ここから何が起きるか熟知しているスタッフがいて、予定の脚本の、少し上を行く表情やパフォーマンスで華を添えるポップスターがいる。いきなりアンコールのラストソング「Snatchaway」に話は飛ぶが、〈圧倒的ってのはこういうモン〉の歌詞どおり、見たことのない完成度のライヴ映像であった。
シリアスに攻める前半、ポップにはじける中盤、後半は亡くした友やここにいない誰かを思う「LUCE」や「そこにいた」でせつないエモーションを放出し、ラストは最大級の愛の歌「Marble」や、あらゆる弱さを肯定していく「New Verse」で締めていく。約2時間の流れも良かったが、やはり配信の可能性をとことん追求した演出とカメラワークが圧倒的だった。それをチーム全員が本気で楽しんでいることが伝わるのが何より良かった。「オンラインやりにくいって言うアーティストもいるけど……楽しくない? これ」とSKY-HIは笑っていたが、もう心の底から好きなのだろう。逆境を逆手に取ることが。あの手この手でアイディアを練り上げ、信頼できるチームとモノを創ることが。
SKY-HIによる〈Round A Ground 2020 -RESTART-〉。これは、中止になったライヴの暫定的再開などではない。今まで考えなくても良かったこと、見直さなくても良かったところまでを徹底的に考え直した、ファンとの交流のリスタート、と言えそうだ。
文=石井恵梨子
写真=ハタサトシ
【SET LIST】
00 Intro
01 Sky 's The Limit
02 Simplify Yourlife
03 Doppelgänger
04 Persona
05 Run Ya
06 何様
07 F-3
08 Limo
09 Tokyo Spotlight
10 Tumbler
11 Chit-Chit-Chat
12 愛ブルーム
13 スマイルドロップ
14 ナナイロホリデー
15 Name Tag
16 Walking on Water
17 SS
18 As A Sugar
19 フリージア
20 Young, Gifted and Yellow
21 LUCE
22 そこにいた
23 Over the Moon
24 アイリスライト
25 #Homesession
26 Marble
27 I Think, I Sing, I Say
28 New Verse
29 カミツレベルベット2020
30 リインカネーション
ENCORE
01 Blanket
02 Don't Worry Baby Be Happy
03 Seaside Bound
04 Double Down
05 Snatchaway
SKY-HI Round A Ground 2020 -RESTART-
8月2日(日) 23:59までアーカイブ配信中
視聴チケット購入はこちらから
https://thumva.com/events/cQGFkydbt02x9BR
https://ticket.deli-a.jp/reserve_detail.php?Tour_ID=1488&Tour_Code=aea6aa6c2cd1e5a17ef1ea1029174852
DIGITAL SINGLE「SKY's The Limit」
※ 9/23リリースのベストアルバム『SKY-HI’s THE BEST』から先行配信中
SKY-HI オフィシャルサイト https://avex.jp/skyhi/