23歳のシンガーソングライター/トラックメイカーのMom。海外のヒップホップシーンに影響を受けたサウンドでありながら、ところどころに散りばめられた、J-POP的な人懐こいメロディが、グッと心を惹きつける。このたび、サードアルバム『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』をもってメジャーデビューを果たした。SFチックな物語が描かれたこの作品は、決して現実離れした世界のことではなく、どこかで今の世の中そのものを映し出す。そこで〈血生臭いニュース バカのエクスキューズ エンタメじゃないよ現実〉(「カルトボーイ」)と、世間に対するアイロニーを叫ぶ彼は、人と人はわかりあえない、という諦念や、もの悲しさも漂わせている。それは一体なぜなのか。彼に話を聞くと、不器用ながらも人を思い、繋がろうとする真っ直ぐな姿勢が見えてきた。そして、それこそが、Momの音楽が生まれる根っこにあるものなのだ。
シンガーソングライター/トラックメイカーとしてひとりで活動を始めたのは、大学生になってからとお聞きしました。この形で音楽をやろうと思ったきっかけは何だったんですか?
「もともと中学の時ぐらいからギターが好きで弾いてて、バンドを組みたい欲求がめちゃめちゃあったんです。けど、音楽を一緒にやる仲間に巡り会えなくて。結果的にひとりでずっとやってる感じですね」
高校生の時、軽音部に入っていたこともあるんですよね。そこで一緒にバンドを組んだ人とは、考えなどが合わなかったんですか?
「合わないというか、温度感がちょっと違うんだなと思って。周りは〈音楽やっていくぞ〉って曲を作ったり、クリエイティヴな方向性でやっていこうとしていなかったんです。それに、僕は自分の手の内を周りに見せるのが恥ずかしくて。自分の書いた詞とか声もそうですけど、それを人に聴かせるっていう段階でビビっちゃうので、ほんとに僕も悪いんですけど」
いや、そんなことないと思います(笑)。だから、自分ひとりで完結できる方法として今の形を選んだんですね。
「ほんとにそのとおりです(笑)。宅録っていうスタイルでやっていくのが、音楽へのエネルギーの注ぎ方として一番効率がいいなと思ったんです。無駄なところに脳ミソを使わなくていいから」
本当に自分が作りたい音楽に対して、100%全力で気持ちを注げると。バンドだとメンバー間での意志の疎通とか、そういう問題があったりしますもんね。
「そうですね。逆にバンドって、それぞれ考えていることや、持ち合わせているアイディアを混ぜこぜにして生まれるものが面白いっていうことだと思うんですけど。僕はそれよりも、頭の中で自分が考えているものを形にする楽しさを求めてる部分があって。そこにノイズみたいなのが混じっちゃうとイヤなんです。自分の中で描いているものがけっこう明確にあるので、それをうまく形にできないとすごくストレスを感じてしまうんですね。アイディアみたいなもの、頭の中で〈こういうことをしたいな〉っていう欲求は常にあるから、そうやって作っていくことが楽しいんです」
浮かんだアイディアをひとつずつ形にすることに、喜びを見出しているというか。今回のアルバムも、SFチックな物語が描かれていて、まさに作り込まれた一枚だと思いました。これはどういう作品にしようと思っていましたか?
「今回のアルバムの前に『Detox』っていう作品を出したんですけど、そこでは自分の感情を素直に吐露していて。そういうものを発表したあと、次に何やろうかって考えた時、前作のように自分のエモーションを土台にして、ひとつの物語みたいなものを作りたいなと思っていたんです。ちょうど藤子不二雄さん、筒井康隆さん、星 新一さんとか、ちょっとアイロニーの効いたSFっぽいショートショートも好きだったので、音楽というもので想像力の膨らむ、胸躍る体験ができる物語を作れたらいいなって」
でも、今回のアルバムは、世間を皮肉るような視点の中に、Momさんの気持ちや本音も出ていると思うんですね。例えば「食卓」に〈繊細な感覚さ 分かり合えないや〉とあるように、人と人はわかりあえないよな、という諦念がにじんでいる気がしたんですけど。
「あの、たぶん僕は人がすごく好きなんですよ。人としゃべるのとか、一緒に出かけたりするのも好きだし。でもどこかで……わかりあえない領域というか、絶対に交じり合わない部分があって。とはいえ、人の気持ちとか思想を変えようっていう意識だったり、人にいろんなものを求めることはおこがましいなと思っちゃうんですよね」
自分の考えていることをわかってほしいと、相手に伝えることだったりが。
「うん。人のことが好きだからこそ、人と人はわかりあえないんだな、っていう冷徹な視点は持っていると思います」
おこがましいと思うのって、例えば自分の思想や意見によって、相手を傷つけてしまうのでは、みたいな恐れがあったりもするからですかね?
「それは考えたことないなぁ(笑)」
自分の話になってしまうんですけど、悩み事を友人に相談した時、その場ではアドバイスをしてくれたのに、後日連絡がつかなくなってしまったことがありまして。
「あらら」
なので、友人を傷つけてしまったのかなと思ったんです。だから人に自分の思いを伝えるのって難しいし、それこそおこがましいのかなとすら思えるというか。
「そもそも、僕は自分の頭の中で抱えてるもの、例えば、ちょっとショックな出来事や悩みとかを今まで人にあんまり言ったことがなくて。自分しか信じてないって言うとすごい大袈裟ですけど(笑)、基本的には自分の中でケリをつけてきたんです」