うれしかったんですよ、僕を頼ってくれたっていうのが。自分が人のために何かをやれたことがないって気持ちがずっとあったから
実際このアルバムもそうですよね。自分の弱さとか心細さみたいなものをちゃんと言葉にしてる。
「そうですね。自分の恥ずかしいことってできるだけ歌にしたくなかったけど、今はそういう感情さえもなくなって素直に吐き出せてるのがこのアルバムだと思います」
例えば「Unforgive」は、今までの竜馬くんの歌では表現されてこなかった怒りの感情に溢れてて。
「表現してこなかったですね。それこそ怒ってる自分が恥ずかしいと思ってたし、怒ったあとの自分も恥ずかしいし。〈なんであんな言葉使ったんやろ〉とか〈なんであんな怒ってもうたんやろ〉ってめっちゃ恥ずかしくなるし」
怒りの感情は自己嫌悪とセットですからね。
「だからあんまりそういう感情を表に出したくないと思ってたんだけど、今回はそういうことじゃないような気がしたんです。心が病んでしまってる人を前に、恥ずかしいとか思ってる場合じゃないというか。〈なんでこの人はこんな目に遭わなきゃいけないんや?〉っていう感情を包み隠さず唄うべきなんじゃないかと」
〈後悔も贖罪も要らない/もう眠るまで許さない〉って、人に嫌われることを恐れていた人とは思えない攻撃的なフレーズで。
「〈Ugly〉っていう曲もそんな感じですね。その人を傷つけたり陥れた人に対する怒りでもあるし、ああいう大人になりたくないっていう自戒でもあるし、あとは僕らの音楽を好きでいてくれる人たちも同じような目に遭ってほしくないっていう願いもあって。だったら自分のこの負の感情をしっかり言葉にしておかないとって思ったんです。それは人に対してもそうやし、世の中に対してもそうでありたいって、今回のアルバムを作って決意したというか」
ゆえに全体的にシリアスで。「Tragicomedy」のMVも暗いし、あとは竜馬くんが芝居していることに驚いたんですけど。
「いろんな反応がありましたけど、やってみて難しかったですね。心の中の世界を表現したつもりなんですけど、シチュエーションとかパッと見ただけじゃわかりにくいだろうし」
明るくてキャッチーなイメージもあるバンドだから、それなのにここまで振り切ってしまう理由は何なんだろう?ってあれを観て思ってたんですよ。
「バンドのイメージとか意識してなかったし、最初はもっとアルバム全体が暗かったと思います。それこそ〈One〉とか〈Higher〉とかタイアップの書き下ろしが決まる前までは。でもアルバムを作り始める前からディレクターが『ほんまに竜馬が書きたい濃いぃ作品を出したい』って言ってくれたんで、どれだけ暗かろうが、どれだけパブリックイメージと違おうが、迷いも疑問も持たず躊躇なく出せたんだと思います」
それだけ竜馬くんの思いが強いアルバムというか。自分のためじゃなくて、苦しんでる人のために唄いたい。その気持ちがすべてなんでしょうね。
「そうですね。だから正直……これはファンに宛てて書いたものじゃないから、ファンのみんながこれを聴いて、どう受け取ってくれるのかは……不安ではありますけど」
でも竜馬くんの人に対する思いは伝わるんじゃない? この人は誰かのためにここまで自分を捧げるんだ、みたいな。
「あぁ、そうですね」
むしろ株を上げることになると思うけど(笑)。
「あははは。でも……そう言われるとそうかもしれないですね。今言われんかったら気づかんかったけど、ホンマに自分がどう思われるとか、これをファンの人が聴いてどう感じるとか、全然考えられなかったんですよ。とにかくその人の心の問題をどうにかしたい、それだけを思ってたから」
だって〈どんな絶望でも受け止めよう〉って唄ってますよね。
「〈One〉ですね」
〈どんな絶望でも〉だよ? 自分で書いたのを見て、どう思う?
「え、どう思うって(笑)。だから……どんな絶望でも受け止めようと思うんですよ、その人の」
違う声のかけ方だってあると思うんですよ。落ち込んでたり塞ぎ込んでる人がいたら、肩を叩いて励ましたり、楽しい話で笑わせたり。でも竜馬くんは絶望を受け止めるんだって。
「励ます前にまずその人の心の中にある絶望をちゃんと知りたかったんですよ。それをちゃんと知ったうえでじゃないと、軽率に励ますことなんてできないと思ったから。絶望をちゃんと受け止めたうえで、元気になる言葉をかけてあげたい。たぶんそう思ったんじゃないですかね」
……思っていた以上にいいヤツだな、キミは。
「はははははは!」
ここまで自分のことを誰かに捧げられる人だとは思ってなかったし、ここまで誰かの気持ちに寄り添う歌が唄える人だとも思ってなかったのが本音で。
「それはアルバムを聴いて自分でも思ったことで。自分で自分のことを優しいとか思ったことはないし、誰に対してもこのアルバムみたいな気持ちになるわけじゃないんだけど……でもきっと、身近で苦しんでる人がいて何かしたいって思ったら、こうなってしまうんやろなって」
だと思います。それがこのアルバムを聴いた人にも伝わることは、悪いことじゃないと思うし。
「そっか。たぶん僕、うれしかったんですよ。心の問題を他人に相談するのって難しいじゃないですか。親とか恋人とかにも知られたくないって思うのが普通やし、自分がもしそうなった時のことを考えると、人に言えないと思うんです。それでもその人が僕に話してくれた、僕を頼ってくれたっていうのがうれしかったのと、そもそも僕、自分が人のために何かをやれたことがないっていう気持ちがずっとあったから」
そうだったんだ。
「やっぱり自分が第一じゃないですか、みんな。僕もそうやし、自分のために動くことのほうがやっぱり多かった。作品だって今までもそうだったし。それがいいとか悪いって話じゃないんだけど、でも、やっぱり人のために何か役に立てたらいいなっていうのはずっとあって」
自分の音楽が?
「音楽もそうやし、自分自身が。だってファンの人たちから『SHE'Sの曲で救われました』って言われた時は、本当にうれしいんですよ。〈あ、人のために自分が役に立てたんだな〉って。だったら音楽だけじゃなくて、自分自身が誰かのために役に立つようなことがしたいと思って。今までは人と接して後悔することばっかだったから〈自分にはできない〉って思ってたけど、今回僕に頼ってくれる人がいたから、それに応えたいっていう気持ちがすごく大きくて。だからその気持ちを大事にしたいなって思います」
文=樋口靖幸
『音楽と人』2020年8月号では、メンバー全員が登場!
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2020.07.01 RELEASE
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〈CD〉※全形態共通
01 Lay Down(Prologue)
02 Unforgive
03 One
04 Masquerade
05 Ugly
06 Higher
07 Your Song
08 Be Here
09 Not Enough
10 Letter
11 Blowing in the Wind
12 Tragicomedy
13 Sleep Well(Epilogue)
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・『Sinfonia “Chronicle” #2』at 中野サンプラザ 2019.12.3
Over You / Masquerade / Your Song / Clock / Letter /
月は美しく / Sweet Sweet Magic / Dance With Me / Stand By Me
・MUSIC VIDEO(One / Ugly / Higher / Tragicomedy)
Streaming / Download https://umj.lnk.to/shes_traYD
特設サイト https://sp.universal-music.co.jp/she-s/tragicomedy/
SHE'S オフィシャルサイト http://she-s.info/