【LIVE REPORT】
go!go!vanillas〈STARTING OVER - Live at 東京タワー〉
2020.06.13(有料配信ライヴ)
汗の匂いが立ち上がるライヴハウスのフロアが好きだ。酸欠になりそうなくらいの熱気が好きだ。そんな自分が、家のパソコン(またはスマホ)の前で、ライヴを見て、どんな気持ちになるんだろう。楽しいと思えるのだろうか。心のどこかに疑念があった。しかし、信念を持った音楽がそこにあれば、どんな状況でも楽しむことはできる。go!go!vanillasの無観客ライヴ〈STARTING OVER - Live at 東京タワー〉は、そう教えてくれた。
日没とともに画面の中でライヴがスタート。ガラス張りの天井から東京タワーを望める、なんともロマンチックな会場におなじみのSEが流れ、4人が登場する。1曲目は4人のハモリから始まる「おはようカルチャー」。ジェットセイヤのカウントに合わせて照明がパッと灯ると、マイクを握り、カメラのほうへ身を乗り出しながら、「いえー! go!go!vanillasのライヴへようこそー! 今日は日頃のたまった鬱憤を叫ぼうぜー!」と声高らかに宣言する牧達弥。その言葉のとおり、「おはようカルチャー」は通常のライヴでメンバーだけでなく、会場にいるひとりひとりが声を重ね合わせる曲だ。いつもと同じように牧が「みんなの声聞かせて」と求める。それぞれが別の場所にいても、君は君の場所で声を出して楽しんでくれよ、と提示しているようにも感じたし、思いはひとつであることを実感させてくれるような始まりに、ぐっと安心感を覚えた。
会場に設置された数台のカメラは、メンバーの表情をしっかり捉え、彼らもカメラに目線を送り、その向こうにいる人たちを意識しながら演奏しているのが伝わってくる。しかし、意図的に何か普段と違うことをしようという感じではない。むしろその逆で、「チェンジユアワールド」「雑食」でハンドマイクになった牧はライヴスペースを縦横無尽に動き回るし、長谷川プリティ敬祐は全身を使いながらベースを鳴らし、セイヤも表情豊かにドラムを叩き、「カウンターアクション」でシンバルをドラムセットにぶつける様子もライヴではおなじみ。テンションが上がりすぎた柳沢進太郎は「ライクアマウンテン」でソーシャルディスタンスを忘れて牧に近づいてしまい注意される始末(笑)。それだけ、いつもどおりの彼らがそこにはいた。
バンドとして音を鳴らすのは約4ヵ月ぶり。そんな状況の中、純粋に4人でライヴをできる喜びを味わう感覚もあっただろう。本来であれば〈ROAD TO AMAZING BUDOKAN TOUR 2020〉と冠したツアーの初日を新木場スタジオコーストで迎えるはずだった。それは叶わなかったけれど、こうして音を鳴らして届けることはできる。しかも普段とはあえて異なる場所で。今この瞬間にしかできないことを全力で楽しんでやろう。そんな気概が画面越しでもヒシヒシと伝わってくる。
中盤、「僕らが音楽をしっかり止めずに、どんな形であろうがみんなに届けていけるように、その決意として久々にこの歌を唄います」という牧のMCに続いて披露された「オリエント」。大分から上京した牧が東京で音楽をやっていく思いを綴ったインディーズ時代の曲を、今、東京のシンボルの下で唄う。〈僕を駆り立てるここは東京〉〈これからも生きていくと決めた〉と唄う牧の声が熱っぽくなる。そこには覚悟のようなものが滲んでいた。
これまで通りの活動、ライヴを行えない、というバンドとして試されている現状で、いろんなことを学び、取り入れ、再出発する。〈STARTING OVER〉というライヴタイトルにはそういった思いが込められていた。悲観するのではなく、楽しくなる方法をどうやって見つけるか。一人一人が考えることを諦めない。そうすれば必ず道が開けていくと、今の彼らは確信しているのだろう。思えば、go!go!vanillasは、メンバーチェンジや、メンバーが生死を彷徨う事故にあっても、その足を止めることなく、バンドを続けてきた。彼らの背中を押してきたのは、音楽に対する憧れ、愛情、そしてロックバンドとしての自負だ。そうやって何があっても転がり続けたことが、彼ら自身を確実に強くしてきた。
バンドでライヴができる喜び、ここから戦っていく決意、メンバーに対する信頼、音楽に対する純粋な愛情。さまざまな思いが交差したうえで、自信と笑顔に満ち溢れた4人の表情があった。そこに特別なものはいらない。だから彼らはいつも通り、ライヴを楽しむことだけに振り切ったのだろう。ライヴでは定番の「カウンターアクション」「平成ペイン」が演奏される頃、汗だくで気持ちよさそうに演奏する4人に見入りながら、身体が自然と動いていることに気づく。そして、最初に感じていた疑念がいつの間にかすっかり消えていたことにも。
「みんなのためじゃなくて、自分たちのためにやっていきます。自分たちが楽しいと思えることが、結果として人に力を与えると信じてます」。この日のライヴはまさに有言実行だった。自分が信じたものに真っ直ぐ、人生のすべてを賭けて、やりたいことを貫いていくこと。周りを気にしたり、求められるものを意識するのではない。それは言い訳も甘えることも逃げ道を作ることもできない茨の道かもしれないけれど、その覚悟こそが、人の心を震わせる確かなものになるだろう。
ラストの「アメイジングレース」が終わり、東京タワーを見上げて、暗転した画面。ライヴ終わりのガヤガヤした余韻なく現実に戻る感覚は寂しさもあるけれど、心は充実感でいっぱいだった。go!go!vanillasは秋に日本武道館を含むツアーが予定されている。彼らにとっては念願であり、ワンマンとしては過去最大規模の会場だ。今の時点でどうなるかはわからないけれど、そこでどんな音楽を聴かせてくれるのか、今はただ楽しみにしたい。
文=竹内陽香
撮影=西槇太一
【SET LIST】
01 おはようカルチャー
02 チェンジユアワールド
03 サイシンサイコウ
04 ワットウィーラブ
05 NO NO NO
06 ナイトピクニック
07 雑食
08 オリエント
09 Hey My Bro.
10 ライクアマウンテン
11 No.999
12 カウンターアクション
13 平成ペイン
14 パラノーマルワンダーワールド
15 アメイジングレース
※音楽と人8月号(7/4発売)では、牧達弥のソロインタビュー&撮り下ろし写真を掲載! 自粛期間で感じたこと、弾き語り配信ライヴ、武道館へ向けた思い、などをたっぷり語ってくれています。
DIGITAL ALBUM「ドントストップザミュージック」
2020.06.12 RELEASE
01 ドントストップザミュージック (Stay Home version)
02 スタンドバイミー (Stay Home version)
03 Do You Wanna (Stay Home version)
04 マジック (Stay Home version)
05 アメイジングレース (Stay Home version)
Download/Streaming https://gogovanillas.lnk.to/dstm
ROAD TO AMAZING BUDOKAN TOUR 2020
11月7日(土)愛知県芸術劇場 大ホール 開場 17:00 / 開演 18:00
11月13日(金)福岡サンパレス ホテル&ホール 開場 18:00 / 開演 19:00
11月15日(日)神戸国際会館 こくさいホール 開場 17:00 / 開演 18:00
11月23日(月)日本武道館 開場 16:00 / 開演 17:00
go!go!vanillas オフィシャルサイト https://gogovanillas.com/