ここに解決はないけど、グルグルしながらも自分も生きてるよってことが言えたら一番いいのかなと
今すごく前向きな状態なんですね。アルバムのコンセプトが〈いろいろな病気をテーマに制作〉というのを見て、ちょっと心配してたんですけど(笑)。
「ははははは。元気にやってます。このコンセプト自体は、けっこう同じことをやり続けている気がしてて。これまでも『EVER SICK』というか……人のどこか欠けた部分に焦点あてて書いてきたので、今回も自分たちのモードとは関係なく、やり続けてきたものを作ったという感じはありますね」
欠けてたり、足りてなかったり、周りと違う感覚だったり。そういう自分たちの歌の中心にあるものをしっかり出そうと。
「はい。独立してからできた曲を並べて聴いてみた時に、自分はそういうものを歌にしてきたんだなと感じて、じゃああらためて焦点あてて書いていったっていう」
コウスケさんは、どういう時に人や自分には欠けてるものがあるなって感じますか。
「そうですね……先々のことを考えすぎて、未来の未来まで考えてめちゃくちゃへこんだりとか。今、コロナの情勢があって部屋にこもってるんですけど、やっぱり人と会う日々より疲れないんですよね」
ああ、ひとりでいるほうが楽というか。
「はい。普段、人のすごく細かいところまで気になってしまうんで、めちゃくちゃ疲れてるというか、すごく消費してたんやなって感じたり。でもそういうのってひとつだけじゃないと思っていて。生きづらいなぁって、いろんな瞬間であるんです。はっきりとこの部分が欠けてるっていうよりも、いろんな部分でちょっとずつ欠けてて、自分なりに補ったりしてるんですけど、それが負担になってたりもする。言葉にできない、モヤっとした感じがいつもあって」
他の人が気になるっていうのは、自分と周りを比較してしまうからなんでしょうか。「クジラノナカ」では、大勢の中にいる自分がテーマになっていたりしますが。
「比較はしちゃいますね。それに……なんか聞こえちゃうんですよね。実際に言葉として聞こえるわけじゃないんですけど、言われてる気がするみたいな」
周りから、こういうことを言われてるんじゃないか、と。
「はい。すぐに人と比べて、自分の足りないところを探して、勝手に落ち込んだり。気にしなきゃいいんですけど、どうしても気になっちゃう。そういう自分がまたイヤで」
わかる気はします。そういう欠けた部分を抱えた人たちが、なんとか生きようとしてる姿がどの曲も描かれていて。
「あんまりここに答えがあるとか、こうやるのが正解だっていうのは示してなくて。ここに解決はないけど、グルグルしながらも自分も生きてるよってことが言えたら一番いいのかなと」
「ブルーカラー」では、〈現代には希望はない 夢なんてまやかし〉と言い切ったうえで、〈それでもなんとか 暮らしてゆくだけ〉と唄ってますよね。
「僕は、すごく落ち込んでる時に、ただ希望的なことを言われるとムムッとしちゃうというか。……希望が唄われてたり、希望を見せてくれる映画とか本とか、すごくすてきだなと思ってるんですけど、それを受け止められないメンタルの時もあると思ってて。『希望を抱けなくてもいいし、抱かなくてもいいし、今は息を吸って吐いてるだけでいいよ』って、自分が言ってもらいたいというか。大それた夢はなくても、呼吸して、飯食って、日々をなんとか暮らしていけるだけでいいんだよって言えたらなと思って」
自分に向けてる歌詞でもあるんですね。
「うん、そうですね」
生きてくうえで辛いこと、苦しいことってたくさんあって。それが今こういう世の中になって、より顕著になっている。だからこそ、今このアルバムを聴くと、いろいろ感じさせられる部分があるんです。
「ああ、なるほど。こういう状況になって世界がディストピアみたいに見えてると思うんですけど、自分の中ではもともとこういう世界で曲を書いてたんですよね」
生き辛さとか、悲しさや苦しさが強くある世界というか。
「はい。現実よりちょっと生きにくい世界を思い描いていたけど、予期せぬ形でフィットしちゃった。だから、さらに届く楽曲たちになったんじゃないかなと思うんですけどね」
そう思います。もうひとつ、この状況で人とあまり関わらなくなって楽になったと言ってましたけど、コウスケさんはどこかですごく人を求めてる部分もありますよね。
「そうですね。たぶん……人と話すと疲れはするんですけど、人のことはすごく好きで。誰かと常に一緒にいたいとかではなくて、たまに好きな人と一緒にいたいというか……ややこしいですね」
ふふふ。そのややこしさが一番出ているのが、最後の「アイクローン」で。〈求めれば逃げられて 求められると逃げたくなるよ〉って、こいつ面倒くさいなぁっていう(笑)。
「あはははは! ここも自分の欠けてる部分というか、変なんですよね。自分が好きやったのに、相手から好かれてると思うと、好きじゃなくなっちゃう。そんなに好かれるような人間なのかなって気持ちがあるから、受け入れてもらうと不安になるというか。でもどうしようもないですよね、この感じは」
そういう自分の性格は面倒くさいと思いますか?
「思います。十代の若者だったらこういう感情はどんどん変化していくと思うんですけど、これから変化していくとは思えないんで、こういう自分を理解して付き合っていくしかないのかなって、絶望してます(笑)」
でもそんなコウスケさんだから唄える歌があって、一緒に夢を見てくれるメンバーがいて、協力してくれる人もいる。そういう大切な人たちと、またここから物語を作っていく感じもします。
「そう言ってもらえると希望に感じられますね」
前にインタビューさせてもらってた頃は、いろんなものを背負わなきゃって感覚があった気がするんです。でも今は肩の荷が少し降りて、自分が進むべき道や、大切にしたい人がすごく明確になってるんじゃないかなと。
「そうですね。すべてのことがうまく行くはずないのに、うまく行かせようとしてて。できないことしようと頑張ってみたり。でも今は、好きな人たちと自分たちがいいと思うものを、欠けた部分も肯定しながら、いかに楽しくやっていけるかっていうことがテーマなのかなって」
結成10年を迎えて、独立もして、ここから大変なこともきっとあると思うんです。でもこういうアルバムを作れたことが、バンドの支えになる気がします。
「うん、そうですね。このアルバムの世界観は、決して希望的なものではないですけど、こういうアルバムを前向きに作れたことは、すごく自信になりますね。このメンバーに出会えてやれてることが本当に奇跡だと思うし、幸せなんですよ。だからもっと楽しくなるように頑張っていきたいですね」
文=竹内陽香
NEW ALBUM『EVER SICK』
NOW ON SALE
01 スターサイドシンドローム
02 エバーシック
03 アダハダエイリアン
04 イッツオーライ
05 ワイ・エム・ピー
06 クジラノナカ
07 オンリーヒーロー
08 シブヤメルトダウン
09 ブルーカラー
10 リープスル
11 ビューティフォーサンデー
12 シーユーネバーランド
13 ドライフラワー(dramatic ver.)
14 アイクローン
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