DON’T FORGET TODAY!――トリプルアンコールが終わり、メンバーがステージを去ったあと、ステージ両脇のヴィジョンに映し出されたこの文字は、バンドからのメッセージでもあり、この日会場に集った人たちの思いでもあった。2019年10月17日に、横浜アリーナで行なわれたthe pillowsの結成30周年記念ライヴ。その模様を完全収録したLive Blu-ray&DVD『the pillows 30th Anniversary THANK YOU, MY HIGHLIGHT “LOSTMAN GO TO YOKOHAMA ARENA 2019.10.17 at YOKOHAMA ARENA”』がリリースされるにあたり、奇しくもバンドの結成記念日である9月16日に行われた、フロントマン山中さわおへのインタビューを再掲載する。30年間ロックバンドを続けてきた彼らの集大成であるライヴに対する山中の思いを、改めてここにお届けする。
(これは『音楽と人』2019年11月号に掲載された記事です)
横浜アリーナ、チケット完売! 「今回は観れない人が居ては困るから、絶対にチケットが売り切れない場所を選んだ」と話していた山中さわお(ヴォーカル&ギター)だったが、このインタビューが終わった後、センタースタンディングおよびアリーナスタンド指定席、すべて売り切れ。これから2階立ち見エリアが販売される予定となっている。自分のことのように嬉しい人は、僕だけではないだろう。「今夜、僕は孤独じゃない!」とライヴで山中はよく口にするが、それと同じ気持ちだ。僕と、私と、同じような孤独を抱えた人たちが、こんなにいる。それだけで世界は、ちょっとマシに思える。the pillowsの30周年は、1億人を幸せにはしないかもしれないが、1万人の明日を、ちょっとだけ違ったものにしてくれる。それだけで素晴らしいと思う。新曲「Happy Go Ducky!」のリリースも控えているが、とにかく今は、10月17日が訪れる日を、楽しみに待っている。
本日は9月16日。ピロウズの結成記念日です。
「そうなんだよね」
なんの手土産もありませんが、おめでとうございます!
「ありがとうございます。さっき舞台挨拶にメンバーと行ってきたんだけど、映画のチームはめちゃめちゃ気を遣ってくれたけどね(笑)」
はははは、すみません。映画『王様になれ』が公開されて、舞台挨拶に飛び回ってますね。
「うん。そうだね。今日は結成記念日だから、メンバー3人だけで舞台挨拶だったんだけど、その前までは、主演の岡山天音くんや監督のオクイシュージさんと一緒で、ちゃんと司会の方も入っての舞台挨拶だったから、いつもと違って居心地はめちゃくちゃ悪いね(笑)」
ははははははは。
「違和感しかない(笑)。でも映画の動員がとてもいいらしくて、映画館の人が驚いてるよ」
いい映画になったと思いますよ、ほんとに。
「想像以上だね。でも自分の力じゃない。オクイさんとキャストの皆さんとスタッフ。99%はみんなのおかげかな。映画ってさ、すごくお金がかかるじゃない。周りにもそれで失敗して、痛い目見てる人がいたりするから、当初、大ケガしないような予算で、ゴールもすごく低いところに設定して作ろうと思ってたんだよね。一か八かの大勝負とは思ってなかった。でもだんだんイメージが固まって、撮影が具体的に進んでいくと、想定の4~5倍ぐらいの予算になっちゃった。その時はちょっと不安になったね(笑)」
映画は細かいところまで作り込みますからね。
「そうそう。極論言ったら、主人公の部屋は誰か友達の部屋借りて撮影できないかなとか、俺の家でウォークインクローゼットみたいになってる部屋があるから、そこの服や荷物どかしたらそこでできるんじゃないかなとか、あの通りにあるラーメン屋が雰囲気合うからお願いしてみようかとか、そういう素人っぽい考え方でいたんだけど、無理だったね(笑)。当たり前だけど、ちゃんとした映画にしようとしたら、そんな簡単にどこでも撮れるわけじゃないんだよ」
でも非常に動員も好調で、新宿の映画館では3日間で1200人近くがこれを観に来て、物販グッズが飛ぶように売れたと聞いてますが、何が売れたんですか?
「ラーメンどんぶり(笑)」
は? 映画館でラーメンどんぶり?
「主人公がバイトしてるのがラーメン屋だから、ラーメンどんぶりを作ったんだよ(笑)。最初、絶対売れねえよなって思ってたけど、映画館で400個売れたって(笑)」
とはいえ、よく売れましたよね。
「映画館でグッズが売れることって、あんまりないんだって。だから最初、映画館の人は消極的だったけど、飛ぶように売れてるからびっくりしてるらしい(笑)」
さすがです。そしていよいよ、10月17日の30周年記念ライヴ、横浜アリーナが近づいてきました。リハーサルもかなり進んできてますよね。
「やってるよ。でも今のところ、体力的にちょっとしんどいね。エネルギーが必要な曲が多いので、アニバーサリーでやるべき曲、久々にこれやろうかっていう曲に、すごくカロリーを使わなきゃいけない」
50歳を過ぎたみなさんは、体力を整えながら臨む、と。
「そうだね。シンイチロウ(ドラム)くんも、体力を整えてくれてるのかどうかわかんないけど、リハーサル中、酒を呑んでる様子もないしね(笑)」
ははははは。音楽的にいいものを見せるライヴになりそうですね。
「それしか考えてないかな。集大成だと思ってやるよ。『音楽と人』に話してるほどじゃないけど、うっすらそういう覚悟をあちこちでアナウンスしてるので、ファンもこっちのテンションをわかったうえで、横浜アリーナに集まってくれるんじゃないかな。先月号の真鍋(ベース)くんとシンイチロウくんのインタビュー読んだけど、2人とも珍しく真面目で素直なこと言ってたじゃない。それがよかった。いつも本音を言うことに照れたり、一生懸命やるなんて言いたくないから、よくある言葉に逃げるんだけど、そうじゃなかった」
うん。だからさっき集大成って言葉が出ましたけど、2人も今回のライヴについては、かなり腹を括ってるんだと思いますよ。
「うん。どんな意味を持つライヴなのか、意志の統一はできてるってことかな。以前の真鍋くんだと『まだまだ俺たちこんなもんじゃないんで』とか『もっと上のステージを目指して』とか言いそうなんだよね。でもそんなことはまったく考えられないし、そんな必要ない。ずっと成績が右肩上がりなんて限界が来るし、俺たちみたいなやり方のロックバンドがどんどん巨大化していくにも限度がある。これ以上売れたって、来なくていいバカが来るだけだもん」
はははは。セルアウトするとはそういうことですからね。
「そんなものは無理だってだいぶ前にわかってたし。あと50代ったって、真鍋くんなんてもう50代後半なんだから。そういう気持ちでいたって、もう身体がついていかなくなるんだよ。俺だってそうなりかけてるんだから。もう素直に行こうよっていうかさ。30年やってきたんだから、よく頑張った、お疲れ様って言ってもらいたいよ(笑)」
それは諦めとかではなく、当然ですからね。
「でしょ? 諦めたことを叱るのやめてほしいんだよな。叱るっていうか、咎めるヤツが多いんだよ。他のバンドだって、ほんとは諦めてるクセに、口で諦めてないって言ってるだけで、行動が伴ってないんだよ。口で言ってるだけじゃ意味がないんだから」
そうですね。
「30周年を迎える、メンバー全員50代のロックバンドとして、ただ正直なことをしゃべってるだけなの。30年間、芸能的な裏技を使うこともなくやってきたバンドが横浜アリーナで、動員も10年前の日本武道館より入ってる。それで十分満足してるよ。解散ライヴと謳ってるわけじゃないけど、それぐらいのつもりでやろうとしてる。真鍋くんもシンイチロウくんも、それくらいの認識は持ってると思うよ。まだバンドは続くし、解散はしないけど、このライヴが一区切りだからさ。それで自分の人生が終わったとしても、まったく恥ずべきことではないし」
余生……はちょっと言い過ぎかな?
「いや、その通りだね。ロックバンドの余生に入るんだよ。それでいいと思ってる。30年間、いい曲いっぱい書いたから、それを俺たちが余生で唄う。それでいいじゃないか」
でもそう思えるのは、この30年間、ピロウズを好きでいた人が、こんなにいたからでもありますよね。
「そうだね。ほら、今作ってる単行本でこの10年を振り返ったり、他でも30年間どうでしたかってインタビューで聞かれてさ、改めて思うよ。ロックバンドを30年間、いろいろあったけどまあ楽しくやってこれたのは、聴いてくれる人がいたからだよな、って」
そうですね。
「ややこしいのはさ、俺、地球上で人類最後の一人になっても、もしギターがあったら、曲を趣味で作っちゃうだろうし、無人島に行っても暇だから曲作りたくなっちゃうんだよ。単純に、曲を作ることが好きなんだよね。でも、それじゃ楽しくないっていうか」
聴いてくれる誰かがいるから、曲を作ることが楽しいことになる。
「そういうこと。その誰かがいなかったら、曲は作っちゃうだろうけど、楽しさ半減だろうな。ピロウズの音楽を聴きたいって言ってくれる人が、ずっとどの時代も、誰かしらいた。それは幸せだったなと思う。だってアルバイトをすることもなく、音楽だけに集中して生きてこれたんだから」
珍しく素直ですね(笑)。
「まあ、自分で初めて区切りをつけようとしてるから、そんな気持ちにもなるんだろうね」