【LIVE REPORT】
リーガルリリーpresents「羽化する」
2019.12.10 at 恵比寿LIQUIDROOM
「目が合っていなくても合っているなと思いました。今日は皆さんに会えてとてもうれしいです」。本編最後の曲を演奏する前、たかはしは暗闇に包まれる客席へ向かって語りかけた。この感覚をたかはしはずっと求めていたのだろう。強い光がステージ上を照らし、真っ直ぐ前を見る3人の目線の先には、未来への道が開けていくようだった。
リーガルリリーの音楽は、たかはしほのかの自宅の部屋から始まっている。学生時代、家にこもりがちだったたかはしは、〈私はここにいる〉ということをローファイなサウンドに乗せて、時にささやくように、時に叫ぶように音楽に込めてきた。そこにあったのは、触れたら割れてしまいそうなシャボン玉のような、美しさと儚さ。このシャボン玉はいつか割れてしまうのだろうか、そんな気すら時々していた。
しかし、今年の春頃に彼女たちのライヴを観た時、何かうごめくものを感じた。内側へ深く潜るような感覚から、外の様子を伺い顔を出すようなイメージ。その要因のひとつは、今年初参加した世界最大の音楽フェスティバルSXSWでの経験で、たかはしはその時のことをインタビューでこのように話してくれた。
「〈SXSW〉で、言葉が通じなくても立ち止まって聴いてくれる人がたくさんいた時に、ちゃんと届くものがあるんだなって思えた。今までは試行錯誤の繰り返しだったから、どこか表には出たくないって気持ちもあって。〈リッケンバッカー〉って曲が話題になった時も、聴いてほしい気持ちはあったけど、自分のところから離れていく感じがすごく寂しかったんです。今は活動の仕方とか、3人の向き方とか、音楽性とか、いろんなことを意識できるようになって、やっと表舞台に出れるかもしれないって思えてます」
6年間の活動を経て、ようやく心の準備が整った。前置きが長くなったが、この日のライヴは、そういった過去の感覚をすべて破って、3人がついに外へ向かって飛び出したようなライヴだったのだ。
1曲目「ジョニー」から、たかはしが声を張り、海のベースとゆきやまのドラムがそれを押し上げる。今の自分たちが鳴らすすべてをステージの向こう側へ渡そうとする丁寧で力強い演奏。疾走感ある曲や陽の雰囲気をまとった曲が前半に置かれていたのは、最初から一気に景色を開いていこうとする彼女たちの意識だったのだろう。実際にフロアの熱量もじわじわと上昇を続け、7曲目に置かれた彼女たちの代表曲「リッケンバッカー」は、そのエネルギーをさらに増幅させる演奏だった。寂しさや迷いの一切ないバンドサウンドが強靭なグルーヴを生み出す。たかはしがこの曲で切り取った自身の芯の部分がより深く突き刺さり、自分だけのロックンロールだったこの曲が、ここにいるひとりひとりのロックンロールになっていた。
これまでにリリースしてきた『the Post』『the Radio』『the Telephone』という3枚のミニアルバム。タイトルのアイテムはどれも向こう側にいる相手と繋がるものだ。たかはしはずっと誰かに音楽を届けたかったし、そこにある自分の気持ちに気づいてほしかった。中盤に置かれた「ぶらんこ」「スターノイズ」では、歪んだサウンドの中で昔の彼女の心情が深淵から浮かび上がる。〈全部壊したいよ。〉と叫ぶ「魔女」からは、ヒリヒリとした衝動と脆さが滲む。しかし同時に、3人が鳴らすアンサンブルは、その痛みを包み込むような優しさも含んでいた。それは、たかはしが当時の自分の気持ちを受け入れ、ゆきやまと海もその感情を自身の中へ取り込み、バンドとして表現できている証だった。
「ハナヒカリ」以降は、ただ純粋に音楽に没頭する3人の姿があった。それは外の世界に飛び出して、自由に遊ぶ子供たちのようで、見ているこちらも自然と心が動かされた。力強いビートと伸びやかなたかはしの歌声がまばゆい光を放ち、この先の彼女たちへの期待を高めてくれたのは、来年2月にリリースされるアルバムからの新曲「GOLD TRAIN」。対照的に浮遊感あるサウンドとたかはしのポエトリーリーディングが印象的な「蛍狩り」は、より色濃く深い景色を描き出し眼の前の人たちをその世界へ引き込んでいく。光が当たれば、影も濃くなる。このコントラストがこれからの彼女たちの音楽と未来をより鮮やかにしていくだろう。
この日3人が鳴らした音楽は、小さな部屋の中で自分に向けたものではなく、リキッドルームに集まった人たちへ向けて鳴らされていた。だからこそ、たかはしが楽曲に込めた、音楽に対する純粋な気持ち、心の中に湧き上がる衝動的な感覚、譲れない大切なもの――そういったイノセントな感情をこれまで以上に感じ取ることできたし、たかはしも冒頭で触れた言葉のように、見えない目と目、心と心で通じ合えた感覚を持てたのだろう。割れてしまいそうだったシャボン玉を自ら破って、大きな空へ飛び出していったリーガルリリー。「この先もあと数十年はバンドをやっていきたいなと思っています」。ライヴ中にたかはしが言ったこの言葉は、儚さよりもたくましさを感じさせた。この先彼女たちはどんな景色を見せてくれるのだろう。これからもその姿を追っていきたい。
文=竹内陽香
写真=森 好弘
【SET LIST】
01 ジョニー
02 the tokyo tower
03 はしるこども
04 トランジスタラジオ
05 overture
06 僕のリリー
07 リッケンバッカー
08 好きでよかった。
09 ぶらんこ
10 スターノイズ
11 魔女
12 ハナヒカリ
13 こんにちは。
14 GOLD TRAIN
15 高速道路
16 うつくしいひと
17 蛍狩り
18 せかいのおわり
ENCORE
01 1997
02 教室のしかく
NEW ALBUM『bedtime story』
2020.02.05 Release
01 ベッドタウン
02 GOLD TRAIN
03 1997
04 林檎の花束
05 キツネの嫁入り
06 そらめカナ
07 ハナヒカリ
08 猫のギター
09 まわるよ
10 子守唄のセットリスト
11 ハンシー
12 bedtime story
リーガルリリー 2020年全国ツアー
リーガルリリーpresents「bedtime story」
3月1日(日)北海道 札幌BESSIE HALL
3月6日(金)石川県 金沢vanvan V4
3月7日(土)新潟県 新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE
3月14日(土)広島県 広島セカンド・クラッチ
3月15日(日)福岡県 福岡BEAT STATION
3月19日(木)宮城県 仙台enn 2nd
3月27日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
3月28日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
4月3日(金)香川県 高松DIME
4月8日(水)東京都 マイナビBLITZ赤坂
チケット:前売 ¥3,500(税込/Drink代別)
オフィシャル先行:12/10(火) 22:00〜12/25(水) 23:59
http://w.pia.jp/t/bedtimestory/
リーガルリリー オフィシャルHP http://www.office-augusta.com/regallily/